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産業革命の200年前に発明された蒸気機関はケバブを回すためだけのものだった‐歴史の小話

皆さんは産業革命といえば何を思い浮かべるでしょうか。

工場、石炭、繊維、機関車、ロンドン市街など様々あるでしょうが、その原動力となったのは蒸気機関の発明で間違いないでしょう。

ですが、あくまでも蒸気機関が産業革命期に初めて発明されたわけではありません。実はもっと昔から存在していました。

例えばこちらをご覧ください。

「トルコ人が産業革命の200年前に蒸気機関を発明したんだけど、ドネル(ケバブを回す部分)を回すのにしか使わなかったらしい」
という投稿です。(出典不明)

この投稿の内容は概ね正しいです。
この実物はイスタンブールにあるイスラム科学技術歴史博物館が所蔵しています。
この機械は1546年に出版された本に紹介されたのを再現したものらしいので、残念なことにこれが500年前に現役だったケバブマシンではなさそうです。

ですが、1585年には別の本で「2種類の機械が使われていた」と紹介されているので、時代考証と実在性は間違いないでしょう。

ただ、間違っているのは「蒸気機関を発明した」という点です。
(謎のケバブおじさん「でもそんな事実は些細なことです。本当に気にするべきなのはケバブを回せるかどうか、なのです。」)

実は蒸気機関は2000年前の古代ローマで開発されていました。これが確認できる世界最古の蒸気機関の復元図です。

実際に駆動している様子はこちら

「アイオロスの球」と呼ばれるこの機械は、アレキサンドリアのヘロンが紀元1世紀に記録に残したものです。

ちなみにこのヘロン、あのヘロンの公式を発見した例のヘロンです。やかましい。

紀元1世紀と言えば高度な土木技術で緻密な上下水道や街道ネットワークを整備した古代ローマが栄華を極めていた時期です。産業革命期から現代まで200年ちょっとしかないと考えると、技術進歩が起きていれば西ローマ崩壊までの300年余りがもったいないと感じてしまいますよね。

しかし、あまりにも複雑で致命的な事情から、古代ローマでは蒸気機関は注目されることはありませんでした。

ローマ人「奴隷使った方が早くて安いから要らんわ!」

思った以上に単純明快でしたね。失礼。

ですが真面目な話、奴隷の有無に関係なく、産業革命の実現は限りなく低かったでしょう。
実際、人々が「明日は今日よりいい日になる」と考えるようになったのはつい最近のことです。昔の人々は社会は進歩するなど考えていませんでした。むしろ、中世ヨーロッパでも日本でも、時が経つにつれて世界は悪化していくと考えれれていました。

ということでこれからは人々の考え方の変化に注目して、如何にして産業革命までに至ったのかを見ていきましょう。
個人的にはここからが一番面白い話なのですが、つまらないと感じた方は最後まで飛ばして構いません。

産業革命までの道筋

テクノロジーのイノベーションは産業革命までは漸進的なものでした。
縄文土器の誕生から弥生土器の登場と、土器の進歩だけで数千年を要したと言えばイメージしやすいでしょうか。

←縄文土器   弥生土器→

人類が狩猟・採取から農耕に移行して複雑な社会システムを築いてからは技術進歩のスピードは一気に加速しましたが、それでも現在と比較すると取るに足らないものでした。
技術進歩の最優先対象であった軍事面でさえ、弓矢の発明から銃の登場による肉弾戦の衰退までに数千年かかっているのです。

方や新発明が次々と短期間で誕生した産業革命期。何がこんなに大きな差を生み出したのでしょうか。

その答えのひとつに「人々の意識」があります。

ずっとこのような生活が永遠に続いていく


先述の通り、「進歩」とは今日とは違い全員が共有していたビジョンではありませんでした。むしろたくさんの人々は悪化すると考えていたのです。
日本を含む仏教国では末法思想が代表的な例です。

ブッダ様が入滅された今、もう現世には救いなどない。
ブッダ様の時代から遠のくにつれて、現世も悪化するだろう。

「羅生門」もその世相を反映した作品となっています。
現代の価値観と照らし合わせるとあまりにも食い違いますが、実に合理的でわかりやすい世界観ですね。

西ローマ帝国も一時は栄華を誇っていましたが、476年に滅亡してから経済も学問も停滞し、西欧は「暗黒の時代」とも揶揄される中世に突入していきました。つまり、西欧も「後退」を経験していたのです。

パイの大きさは変わらない

中世の人々のお金の使い方も理由の一つです。
中世の人々、とりわけ王族や貴族はどのような散財をしていたのでしょうか。

代表として挙げられるのは戦費、娯楽、貧者への寄付です。
戦費以外は現代の富豪と大して変わらないかもしれませんが、ある決定的な違いがあります。

それが「投資」の欠如です。
投資とは、自分の富の一部を手放すことで未来にそれ以上のリターンを求める行為です。

これに対し中世の敬虔なキリスト教徒ならこう思ったでしょう。
守銭奴が。地獄へ堕ちろ。

守銭奴は大体悪役

なぜ金持ちはこんなに忌み嫌われたのでしょう?これは単なる僻みや妬み(だけ)ではありません。

彼らのロジックでは、「全体のパイは拡大しない」のです。
社会全体の富、あるいは食料をパイに例えると、自分の取り分を増やすには他人から分捕るしかありません。
だから当時の金持ちは寄付することで反感をなるべく買わないようにしていたのです。

中世での「進歩」の概念も「全体のパイ」の考え方も、古臭い馬鹿げた考え方だと感じた方もいるんじゃないでしょうか。

ここであえて断言しましょう。
馬鹿げてるのは貴方の方です。

時間による進歩もパイの拡大も、本当に最近登場した概念でしかありません。300年前を最近と捉えられるかにもよるけどね。

構造的には、我々はスマホを使えない老人をあざ笑うZ世代と同じなのです。
明治時代の人でさえ、不思議な石版で新聞を読んだり、ラヂヲを聞いたり買い物を済ませることが出来るなんて夢にも思わなかったでしょう。

歴史を勉強することで自分の固定観念が浮き彫りになる、とはこういうことなのです。

他方、モーセは紀元前にタブレットを使用してクラウド(物理)と通信し、データを受信していました。

三大宗教よりも成功した資本主義

中世から現代社会への転換における、主要な精神的支柱の一つが「資本主義」です。
利潤の一部を投資に回すことで更なる利潤を追求する。みんなが消費すればするほど社会全体が幸せになる。

そんな宗教じみた考えは、長い年月をかけながらも着実に社会の隅々にまで浸透しました。
この背景には大航海時代や科学革命があるのですが、本題のケバブマシンからはだいぶ逸れるので泣く泣くカットです。何を今更。

昔に同じことを思い描いた人は、「そんな事は夢物語だ」と笑われたかもしれません。
しかし、ほぼ全員が同じビジョンを共有したことによって、そんな夢物語は具現化してしまったのです。

2023年現在、世界総人口80億人ほどに対し、三大宗教は半数の約40億人を占めます。他方、共産主義者や貨幣経済圏外の人口はほんのひと握り程度しかいません(諸説あり。)
つまり、資本主義は普遍的であるはずの世界宗教よりも普遍的で「魅力的な宗教」であるのです。

それでは資本主義という宗教における幸せとは何なのでしょうか?
それはもちろん、立派な家に住み、高級な車を持ち、ハイブランドで着飾ることで間違いないですよね?

この資本主義の犬がよ!!

閑話休題、資本主義の布教は他の宗教の布教よりはシンプルでした。
だって採用した方が明らかに有利なんですもん。なんなら採用しないと国を滅ぼされるんですもん。

日本でキリスト教が普及しなかった理由の一つに先祖崇拝があります。キリスト教的世界観では改宗してもご先祖様は煉獄へ落ちてしまいます。よもやよもやだ!
ご先祖様が煉獄で苦しむのと極楽浄土で幸せに暮らす世界線、これは間違いなく仏教が選ばれますよね。

煉獄の業火で罪を浄化してから天国へ行きます

他方で、資本主義者は天国についても地獄についても、ご先祖様についても何も言ってきませんでした。最新鋭の技術で武装した彼らは金儲けのことしか考えていなかったのです。そして圧倒的な経済力と技術力で不平等条約を結び、日本を搾取しまくりました。

かくして半ば暴力的に日本も資本主義的な近代化を受け入れ、帝国主義で以て西洋列強と共に布教していったのです。

ちなみに、厳密には資本主義は宗教ではありません。宗教の根幹にあるのは超自然的な存在への信仰です。
ひとまずは見えざる手を信仰するとしましょうか。でも私は経済学のテスト中にボコボコにされたので遠慮しておきます😅

以上が、「おまけが本編」と化してしまった産業革命までの道筋です。
なお、ソースは「サピエンス全史」単一ですが、学術的に大幅に間違っていることはない(と信じたい)です。

サピエンス全史は上記の流れに加え人類の誕生、農耕の開始、貨幣経済やルネッサンスなど、人類史の全てを、本記事よりも詳しく、正しく、わかりやすく、学問横断的に説明しているので理系の方や素人でも読みやすいです。
私個人にとっても、間違いなく自分の人生に最も影響を与えた一冊です。そんなサピエンス全史は上下巻合計たったの4000円ほどで購入できます。
ね、お買い得でしょう?

最後に

今回はケバブマシンを切り口に、産業革命について語ってみました。

初めて画像を見た時は興奮したのですが、現実は非情でしたね。
だとしても、産業革命以前に蒸気機関が使われていたのはやはりロマンがありますよね。蒸気機関ケバブも食べてみたいものです。

ここで、同じ事を思ったそんなあなたに朗報です!

なんと、以下のリンクから蒸気の力を用いたケバブを日本でも楽しむことができます!


改めて、最後まで読んでいただきありがとうございます!
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ではまた(。・ω・)ノ゙


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