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【記憶の街へ#10】彼女の写真

(927文字)
先日、実家に帰った時に近所を少し散歩した。古い住宅街の中を歩いていると、カタカナのコの字に入って行く道があった。
そしてその道には見覚えがあった。

小学6年生の時、好きな女の子がいた。
彼女は確か、5年生の時に引っ越して来たはずだ。同じクラスになったことはなかったが、どういう訳か、廊下で会うと彼女が追いかけて来てボクが逃げるという関係になっていた。何がきっかけでそうなったのか、全く記憶がない。
色白で、赤い唇が印象的な子だった。

あの頃、ボクたち小学生男子は、学校から帰ってきた後に自転車で集まり、そのまま当て所なくのんびりと、くだらない話をしながら町を走ったりしていた。
そんな時に偶然、彼女の家の前を通ったのだ。
比較的大きな和風の家の前で、彼女は数人の友達と遊んでいた。
そしてボクたちを見つけると、いつもの如く何か言いながら追いかけてきた。そしてボクは逃げたが、彼女の家を知れたことが嬉しかった覚えがある。

そして先日、散歩している時にその家の前を通った。そういえばここだったなと思いながら表札を見てみると、彼女の苗字ではなくなっていた。
少し考えを巡らせたが、彼女はもちろん、彼女の家族も今はここに住んでいないと考えるのが妥当だろう。

あの頃、仲の良かった友達に、実は彼女のことが好きだと打ち明けた。
するとそのちょっとお調子者の友達は、
「俺、5年の時、あいつと同じクラスだったんだけど、遠足の時の写真にあいつが写ってるのあるからあげるよ」
と言った。持つべきものは友だ。
そして翌日、お調子者がニヤニヤしながらボクに封筒を渡してきた。
さすがに学校では誰かに見られると嫌なので開かず、家に帰ってから開けて写真を見ると、5人くらいの楽しそうな笑顔の中に彼女がいた。
それだけなら良かった。
しかし、そのお調子者は良かれと思って、分かりやすいように彼女の顔を、赤いマジックで丸く囲んでいた。

心霊写真かよ。

その後、中学になるといつの間にか彼女への気持ちは消えていた。廊下ですれ違ってもちょっと挨拶を交わす程度。
今になって考えてみると、彼女もあの頃、満更ではなかった気がする。追いかけてくる顔が楽しそうだった。
今となってははっきり顔が思い出せないけど、そういうことにしておこう。

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