2023年に読んで良かった10冊
今年はだいたい70冊ちょっとの本を読んだ。今年も「ベスト本」を書きます。4年目。
書籍編集の仕事をするうえで、だんだん「読んだ」の定義が曖昧になってきた。仕事で読んだものも含め「通読した」と言って差し支えない本がだいたい70冊。
今年は漫画(2タイトル)や映画(7本)、Amazon Primeの番組(1シリーズ)、Podcast、歌舞伎など普段の年よりコンテンツに触れた年だった。
純粋なエンタメとして触れたものもあれば、仕事でなければ触れなかったであろうもの、入りは仕事だが異様にハマったものもある。そこにコンサート出演や旅行も含めると、かなり「遊んだ」年だと言える。
だけどわたしの生活のベースは本だと自認しています。
なので書きます、2023年のベスト10はこちら。
今年出た本もあれば、100年前に書かれた本もあれば、千年前に書かれた本もある。それぞれ、コメントを残しておきたい。
2023年のベスト本10冊
1. 充たされざる者 (カズオ・イシグロ)
文庫本で900ページ超え。充たされざる者を読みとおして充たされた気持ちになった人がいたら是非会ってみたい。
カズオ・イシグロが作中でとる技法で有名な「信頼できない語り手」。この権化といってもよい作品なのではないでしょうか。一人称の主人公が、自分の語る世界をほとんど正確に認知していない。
「充たされざる」のは、誰なのか。たぶん読者です。
2. 降伏論
「こうふくろんよかったー」と言うと、ずいぶん高尚な話をしていると思われる。ヘルマン・ヘッセの『幸福論』ではない。
「え? あ、"あっちの" 『降伏論』ね!」
という会話が今年何回繰り返されただろうか。
この本で言っていることは、今やっている方法でうまくいっていないなら、まずは自己流を諦めろ。周りの言うことを聞け。この方法でやってみろ。ということです。
著者は元プロ野球選手。12年で6回?だかしかヒットを打てず戦力外通告を受けて引退。とにかく自己流を「あきらめて」ビジネスコーチとして経営者のふるまいを学び、企業の経営改革でメキメキと結果が出たという経歴の持ち主です。
「ザ・ビジネス書」なのだけど、あまり今までにない切り口の本で、変なプライドや自己流の考えが成長の邪魔をしがち(だと思う)自分にも刺さるところの多い本でした。
3. 罪と罰 (ドストエフスキー)
150年前以上前、1866年の著作。とにかく暗い。汚い。病的。
(それぞれのファンには怒られそうだが、「暗くて古い東欧」のイメージでカフカと若干かぶるのだけど、ドフトエフスキーのほうが少し前の人だ)
人を支えるものは「愛」であり、「意味を感じられること」であり、「他人」である家族や恋人はその両方に値することが多いのだなと思った。
最近、結婚って人間の本能に反しているずいぶん微妙な制度だと思っていたけど、一周回って、つまりは「知性」を必要とする人間的な制度なのだと思い始めた。
4. 新源氏物語(上・中・下)(田辺聖子)
昨年、瀬戸内寂聴さんの解説書『私の源氏物語』を読んでから、「大筋が頭に入った状態で通しで読んでみたい」と思っていたのをようやく達成できた。
500ページ超×3部作という長編だが、それでも源氏の老後の衰退期は含まれておらずいいところで終わっていた気がするので、これでも抜粋されているはずだ。完読できるのは何歳になるだろう…。
源氏物語の田辺聖子さん訳をおすすめしてくれた女性は、六本木で「源氏物語に登場する姫4人をピックアップし彼女らのイメージに合わせたワインを飲む」というおしゃれすぎる会を主催していた通な方なので、信用してもらっていいと思う。
5. デュアルキャリア・カップル (ジェニファー・ペトリリエリ)
夫と妻、育休、ワーキングカップル、フェミニズム、親になること、母になること、関連の本を読み漁った中でいちばん良かった。
「夫婦の人生」にコミットすると決めた人に向けているという前提で、世界のカップルの傾向を調査し、「3つの転換期」(2人の人生でなくなるとき・どちらかがキャリアチェンジをするとき・仕事を辞めるとき)を、どう乗り越えていくべきかが書かれている。
6. みみずくは黄昏に飛び立つ(川上未映子 訊く/村上春樹 語る)
いやーーー、これは素敵なインタビューです。
村上春樹(語る)はだいたい自分が何を書いたか忘れていて、川上未映子(訊く)に教えてもらっている。川上未映子さんの村上春樹さんへの愛と、村上春樹さんの川上未映子さんへの信頼が伝わってきます。
印象的なのは、村上春樹は、地下2階に深く入り込んでいって物語を書いているという話。家の1階は、みんなが団らんしているところ。2階は自分の好きなものが集まっているところ。地下1階は周りに見せたくない暗い部分。明治・昭和の私小説はこのへんを書いていると言えるらしい。
地下2階は、個人の思考や感情のずっとずっと奥。そこに潜り込んでいってじっと座り、何かをつかんでそれを地上に放出していく。
「だから村上作品は世界中の様々な心の状態の人にすっと入っていくのだ」というようなことを、別の村上対談で心理学者の河合隼雄さんが言っていた。「(心理学者の)僕の本じゃなくて、村上春樹の作品に救われました、という人が多い」と。平たくいえば「集合意識」のような話だと思う。
7. 躁鬱大学(坂口恭平)
ぶっ飛んでいた。こういう語り口でいいのか、こういう生き方でいいのか、と元気になる本。
ぶっきらぼうだけど、愛に溢れている。本人も双極性障害(躁うつ病)に悩んでいて大変なんだと思うけど、見知らぬ他人への愛に溢れている。
このタイトルで面白そうと思う人だけが読んでみたらいいのではないかと思う本です。
8. ゼロ秒思考(赤羽 雄二)
テクニックとして今年実際に生活に取り入れた本。
裏紙に1分で頭に浮かんでいることを書き出すという思考術。裏紙ということが重要で、ケチらず広々すばやく使って書き殴れる。
かれこれ5年は、お高いRolllbanのノートにジャーナリングをしていたけど、裏紙のほうが思考が捗ることに気づきました。とにかく速い。
9. 怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか(黒川 伊保子)
音の響きだけでイメージを強烈に決めてしまう理由を、人工知能・自然言語の専門家である筆者は「音のサブリミナル効果」と呼んで提唱している。
K音の硬い印象、N音の丸い印象、などは発音するときの喉の形が影響しており、「ののちゃん」より「マキコちゃん」のほうが気が強そうで、実際にそういう性格になるという話。「学術書として読んではいけない」とレビューにあるが、なるほど世界の見方としては面白い。
私の名前も「ユキ」じゃなくて「ユリ」だともう少し聡明で、「ユミ」だともう少しやわらかめの女の子になってたのかもしれない。笑
この本を参考にして実際に3人兄妹に「モテる」名前をつけたというおじさんに会って教えてもらった。(「たいがくん」しか思い出せない)
10. 口コミ伝染病(神田昌典)
ミリオンセラー編集者の柿内芳文さんにおすすめいただいた書籍。引用と意訳が混ざっているとおもうが、コンテンツをつくる人が覚えておくべき「口コミの作り方」がぎゅぎゅっとつまっている。
口調が軽くて読みやすいうえに面白くて実用的なので、私はまんまと『口コミ伝染病』の口コミをnote別記事にまとめたのでした。
まとめ
小説、ノンフィクション、ビジネス書、いろいろと読んだ。
編集者として、自分も1冊本を世に送り出した。
2024年は、課題図書を設定して通読よりも「研究」的な読み方をしてみたいなと思っている。
2023年
2022年
2021年
2020年
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