見出し画像

5歳の私が見た志村けん

「コレ、志村のいっちょめ、いっちょめ、わーお と同じだね」

5歳の頃、ピアノ教室にいた私は、先生にそう言うと、
ギロっと睨みつけられた。

我が家では「8時だョ!全員集合」を自由に観せてもらえたが、
ピアノの先生は「ドリフの番組は教育上良くない」と考えていたので、
自分の子どもに観せていなかった。

先生は「由緒正しきクラシック音楽とドリフターズのコントを一緒にするな!」と思ったのだろう。
ピアノのレッスン後、ウチの母に電話をかけて、こう言ってきた。

「おたく、ドリフを観せているんですか?」

当時、こういう親は少なからずいた。
「ドリフは観せません」というご家庭である。
でもまあ、子どもに何を見せるかは
各家庭の判断で、知ったこっちゃない。
何しろこっちは、志村のコントで音楽を理解したのだから。

むしろ志村にお礼を言いたいぐらいで
藪から棒に怒られるなんて筋違いである。
とはいえ、ピアノの先生は近所で有名な
「怒りん坊のカミナリ先生」
だったので、

「先生の前で、志村の話は今後しないようにしよう」

とだけ思った。


当時、私はバイエルよりも面白い楽曲が並ぶ
トンプソンの「現代ピアノ教本1」を練習していた。

その中に「スペインのフィエスタ(A Spanish Fiesta)」という曲がある。


右手のメロディが、シンコペーションのリズムだけで成り立っている楽曲だ。

この タタータ という変拍子
2拍目が強いシンコペーションのリズム
上手く取れなかったのだ。

曲を1回聴くと、メロディを忘れない
聴音の得意な子どもだったのに、
「スペインのフィエスタ」だけは、
いつまで経っても先生がOKしてくれない。

2週経っても3週経っても、

「リズムが違う!」

「2つめの音符をもっと強く!」

とずっと怒られていた。

正直、ピアノをやめようかな……ぐらいに思っていたのだ。


そんな時だ。毎週観ている「8時だョ!全員集合」の「少年少女合唱団」で
「東村山音頭」が流行りだしたのは。

いっちょめ、いっちょめ の後の

うわあぁお!

これこそがつまづいていた 

シンコペーションのリズム タタータ と同じなんだと気づいた。

結果的に私は、
志村のおかげでピアノをやめずに済んだ。

リズムには音が詰まったようなものなど、
いろいろあって。
音楽は音符がいろんなリズムを刻んで
遊んでいるんだ
ということを
本能的に理解したのだと思う。

たとえ5歳だとしても。
志村の音楽はファンクやブラックミュージックを
下敷きにしたといった知識がなくても。

ホントに感謝しかない。
巷にヒントとなるリズムを流したのだから。


小学校に上がると「早口言葉」が流行った。

デレッデレ デレッデレ デレッデデレデレ デッデーッ の ラストの デッデーッ 

これも シンコペーションで2拍目が強い タタータ と同じだと思い、

7歳の頃の私は 

「志村はまた変拍子だ!! また音楽で来た!」

と思った。

子どもなので、難しいことはわからないけど、

「志村はリズムの人」「志村は音楽の人」

という印象は、さらに植え付けられた。


その後「ヒゲダンス」しかり、

「ドリフのわんダー・ドッグ」しかり。

私だけじゃなく、日本中の子どもたちが

志村の音楽に乗せられて、踊らされたまま大きくなった。


ところで、私は子どもの頃から

いっちょめ、いっちょめ、わーお! の 

わーお! は、

ずっとブルース・リーの雄叫びが元ネタだと思っていた。


ブルース・リーは、当時「燃えよドラゴン」が公開されていて、テレビなどでもモノマネをされていた。

「志村はすごいな。音楽から香港映画まで網羅かよ!」 

って思っていたんだから。


ちゃんと「燃えよドラゴン」のテーマソングを聴くと

ブルース・リーの雄叫びは、

アチョー! じゃなくて、 ぅわあああぁぉ! じゃない?

誰だよ、アチョー!って最初に言ったヤツ。耳が悪いんじゃないの? 

って。

志村が絶対マネしていると思ったんだけどなあ……。違ったか……。

5歳の頃の私に教えてあげたい。

「志村の わーお! は、ジェームス・ブラウンの雄叫びが元ネタだってさ。

ブルース・リーじゃないんだってさ!」



この記事が参加している募集

私のイチオシ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?