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【備忘録】NHK「ノーナレ」『“悪魔の医師”か“赤ひげ”か』

NHK「ノーナレ」の「“悪魔の医師”か“赤ひげ”か」を観る。
録画を消してしまったけど、もう一回観たい。

何故そう思うのかというと、
「報道って何でしょうね?」
「人が善意で行った行為をどうしてそこまで他者が、“悪だ”“善だ”と言い切れるのか?」
というメッセージをナレーションがない分、
視聴者に徹底して考えさせるものだったからだ。

2006年、身に覚えのない臓器(腎臓)売買の嫌疑をかけられ、
その容疑は晴れても、
がん患者からがんを取り除いた修復腎を4件移植していたことで、
悪魔の医者とセンセーショナルに報道されていた
宇和島徳洲会病院の泌尿器科の医師・万波誠。

修復腎の生体腎移植は海外では活発に行われているのに
日本ではよしとされていない医療だった。
いくらガンの部分を取り除いた腎臓だとしても、
その後、移植した人の体で、がんになることもあるからだ。
しかし修復腎については、
特に法律で規制されていないことから、
万波医師も「あまり良くないこと」と認識しながらも
「のちにがんになったとしても、修復腎でも移植してください」と願う
患者さんには4件移植した。

捨てるしかなかった腎臓を
それでも欲しいと懇願する患者さんにとってみれば、
費用面から考えても画期的だと思っていたと
万波医師は言う。
目の前で透析生活に苦しむ患者さんが大勢いるにも関わらず、
レシピエント(提供者)があまりにも少なすぎる。
「修復腎をどうして手術してはいけないのか?」という
純粋な気持ちで手術をしたとのこと。
事件当時、「それでも万波医師に修復腎移植をして欲しい」との署名が
腎臓病を患う患者や家族を中心に6万名を超えた。
6万以上って、すごい……。
それだけ困っている人、万波医師に助けられた人がいる。

この事件により、日本では正式に修復腎を手術してはいけないということになった。
日本は世界の先進医療から大きく立ち遅れるが、
万波医師の活動継続を患者たちが熱心に支え、
2017年、ついに国に修復腎移植が保険適用されない先進医療として、
条件付きで認められるにまで至った。

当時、一人の医者に対して、大手新聞社もこぞって「悪魔の医者」呼ばわりした。
徹底的に「悪のヒーロー」に仕立て上げた。
その様子は「修復腎移植推進・万波誠医師を支援します。」のブログによく描かれている。

結局、万波医師は逮捕も起訴もされなかった。
77歳の今も週1回のペースで生体腎移植の手術をする。
(万波医師の生体腎移植例はついに1200例を超えた)
カメラはその手術の一部始終を追う。

番組は万波医師と、
当時万波医師を「人体実験」などと痛烈に批判した
日本移植学会元幹部(現:国立長寿医療研究センター名誉総長)の大島伸一先生と
第一報を出した週刊誌の記者、
さらに万波医師に腎移植手術を受け、今も元気な方、
また11年前に夫の生体腎移植を受けたが合わなくなってしまい、
透析生活に戻り、万波医師に修復腎臓でもいいので移植して欲しいと願う50代女性や
「(万波先生は)医師というより、もはや職人の域」と話す同僚の医師にも直撃する。

事件当時のことを万波医師に聞くも
彼は多くを語らず、「忘れた」と笑っては、誰も責めなかった。
「自分を責めた大島先生に言いたいことは?」と聞かれ、
「大島先生は今は事務的なことしかやっていらっしゃらないと聞いて、
ぜひ(移植の)第一線に戻って手術をして欲しい」と笑顔で語る。

一方、万波医師を当時、痛烈に批判した大島先生に
「万波先生に言いたいことはありませんか?」と聞くと、
自身が当時、日本移植学会の意見として
「現時点では(万波医師の手術方法は)医学的妥当性がない」としたものの、
結局10年以上経って、国は万波医師の手術の妥当性を認めた
(親族からの生体腎移植と修復腎移植の10年後の生着率がほぼ同じだった)のだから、
なんともバツが悪かったのだろう。
のらりくらりと弁明を避けるように
自身が「無脳児をドナーとした生体腎移植」をした時に
世間から非難された話をしだした。
自分も非難されたのだから、万波医師も非難されてしかるべき……という話でもなく、
オチもなく、とにかく歯切れが悪い。
「万波先生、ごめんなさい」とも言えない。
1人の医者を国を挙げて吊し上げにし、医師として抹殺しよう(※後に詳しく記す)としたのだから、プライドがある。

番組担当者が「結局2017年に国は修復腎の生体移植を先進医療の条件付きで認めた。この10数年は、大島先生にとってどんな年月でしたか?」と問うと、
大島先生は「この10数年、なんだったんだろう……」とコメントした。

(なお、第一報を出した週刊誌の記者は、
万波医師を「無頼派のような出で立ちで、患者にも好かれ、
常に素足に便サン(便所サンダル)をつっかけて履いている面白い人。
こんな人が臓器売買するなんて!」という好奇心にかられて、取材したようだった。
はじめから、罪ありきの取材だったのではないか)

NHKの池座雅之番組ディレクターも番組HPに
「私たちがこの取材を続けている半年ほどの間にも、テレビや新聞では、あまたの“悪者”と“ヒーロー”が生み出され、世間を賑わせていました。そうした伝え方は、私たちの社会を本当に豊かにしているのか?そんなことを考えながら見ていただければ幸いです」
と書いている。

はじめから、悪者ありきの取材や報道は、今も昔も続いている。
あと新聞やテレビは、科学や医学関係にめっぽう弱い。
学会が発表すれば、その見解に妥当性があるかないかを一切確かめずに、
「そのとおり(学会の言う通り)だ」と書いてしまう。

本来は同じような立場だったはずの大島先生と万波先生。

一方は権威の階段を上がったことで現場から離れ、
一方は現場主義で未だに毎週移植手術を続けている。
大島先生は「万波先生が(一応やらないのが前提だよね?とされる)ルールを
逸脱したことを批判」し、
おそらく意見した時は、患者に目が全く向いていなかったのではないか。
万波先生は「よくないことではありながらも、実際に生体腎の提供が足りないのだから、
条件付きで認めるべきでは」と思っていたはずだ。
でも私が大島先生なら、
「じゃあ、ルールを変えよう!改めて検討しよう」と言えただろうか。
「前例にないのだから、やめよう」と尻込みしてしまったのではないか。

上阪塾のライターの先輩が旦那さんから
生体腎移植を受けたという話を聞いただけに、
このノーナレは、本当に考えさせられた。

しかし、「人体実験だ」とまで言って、
一人の医師を全国ネットのテレビで糾弾した人物が
この「ノーナレ」の取材に応じたことがすごい……。
万波医師を貶めたことを、今さら謝ることもできない。
ならばテレビに身を晒すことが、大島先生の唯一の謝罪だったのではないか。
唯一コメントできた
「この10数年、何だったんだろう?」が、
大島先生のすべてを物語っている。


ちなみに万波先生バンザイ!のように思われてもアレなので、
万波医師が市立宇和島病院に勤務していた際、
膀胱がんの手術ミスで、亡くなっている方もいて、
万波先生にも賠償命令も出ていた例も紹介する。
こちらが愛媛新聞の記事「市・万波氏に賠償命令 市立宇和島病院がん男性死亡 手術ミス認める 大阪地裁」
万波先生は泌尿器科の先生なので、
当然だけれども生体腎移植だけでなく、
腎がん、膀胱がん、前立腺がん、精巣がんの
手術もたくさん行っている。

この手術ミスで死亡に至ったケースに関しては朝日新聞の「万波医師と宇和島市に賠償命令 膀胱手術で腸に穴」の記事によると、
遺族は「有名な万波医師を頼って遠方から出向いたのに、いい加減な手術をされて許せない」と話しているという。

ちなみに朝日の記事では、「万波医師は04年、市立宇和島病院から宇和島徳洲会病院へ移った。06年、両病院で病気腎移植を手がけていたことが判明。厚生労働省は、病気腎移植で診療報酬を不正に請求したとして保険医登録を近く取り消す」と書いてある。
一人の健全な医師として、仕事ができなくなるようにする「保険医登録剥奪」。ブラックジャックにでもなれ、と言っているようだ。しかし実際には保険医登録抹消寸前までいっても、剥奪されなかった。先生によって救われた家族や当事者が必死に支えたからだ。

#nhk #ノーナレ #万波誠 #宇和島臓器売買事件 #大島伸一 #生体腎移植 #修復腎移植

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