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鬼が島

「この島に攻め込んで来たのはお前が初めてではないのだ、桃太郎。」

鬼は言った。

「お前は何のためにこの島へ来た?正義の名のもとに俺達を殺す為か?それとも、俺達がテメェらの村から奪った金品を奪い返す為か?どっちだろうとやりたきゃ好きにすればいい。勿論返り討ちにしてやるが、万が一、お前がどちらかを成し遂げられたとしても、それは結局ただの徒労、無駄骨に終わる。」

うっすらと不適な笑みを浮かべる鬼に対し、桃太郎は黙って鬼を見据えていた。

「そもそも、なぜこんな岩肌のみの島に俺達が棲みついていると思う?」

黒い岩肌を背に鬼は立ち上がり、話し始めた。

「かつてここは緑豊かで実りの多い島だった。だが、あることがきっかけで、こんな何も生まれない岩石島になった・・テメェら人間が狩り尽くしたんだよ。」

鬼の眼光が一層鋭さを増す。

「俺達は元来、図体はデカいが心優しい種族だった。そんな俺達の先代が暮らしてた所に、テメェら『人間』がやってきた。潤沢だったこの島の資源と先代達の命を、人間は我が物顔で狩り尽くしていったんだ。かろうじて生き延びた者達は、復讐を誓って、人間の住む世界に侵攻した。しかし人間は、自分達の行為を棚に上げ、彼らを『侵略者』と呼び反撃しやがった。その結果、今や何も知らねぇバカ共がもっともらしい顔してこの島に上陸してくるようになった。人間は、己に都合が良ければ罪悪感もなく寧ろ正当化し、不都合なもんは全て悪だ何だと否定する。馴染みの有る奴の言葉にのみ耳を貸し、無ぇ奴の言葉はハナッから聞きゃしねぇ。

時が流れたから何だ?

何一つ変わっちゃいねぇ。俺達の歴史に刻み込まれた記憶は一切消えやしねぇし、テメェら人間も何も変わりゃしねぇ。俺達にだって心はある、感情がある、人生がある。
 俺達はこれからも、何も残ってねぇ、二度と何も産み出せねぇこの島に棲み続ける。そして、ここで生きる為に、人間たちの棲み処を襲う。人間が奪って行ったモンを返してもらうのさ。この島がまた実り豊かになるまで、俺達が人間を狩り尽くすんだ。
 だから桃太郎、テメェが何を成そうともまた俺達の仲間が、子孫が復讐する。何の解決にもなりゃしねぇ。生まれちまった業は永久に巡り続けるんだ!」


「知ってるよ、何もかも。」

ずっと黙っていた桃太郎がようやく口を開いた。

「村を出る前に全部じいちゃんとばあちゃんから聞いてきた。それこそじいちゃんは、この島に攻め込んだ兵士の一人だった。その時に見たここの景色が忘れられず、正義がわからなくなり、刀を捨てた。じいちゃんもばあちゃんも俺がここに来る事を反対したが、だからこそ俺はここに来なきゃならなかった。大好きな二人の為に俺の正義はあるから。
 俺は最初の人間に成りに来たんじゃない、最後の人間に成りに来たんだ。俺が業をすべて背負ってやる。
 だから、全部ぶつけてこいよ、鬼。」

見つめ合う二人。どちらも自分の武器を地に放ると何も言わず、一気にぶつかり合った。  
打ち合う拳と拳・・・そして――。
膝から崩れ落ちる鬼。それを見下ろす桃太郎。

「今日はこんなもんだろ。また来るよ。テメェらの怒りはこんなもんじゃねぇだろ?とことん付き合ってやる。とりあえず、『鬼退治』の手打ちはこの大八車でいい。これに乗る分だけ財宝を明け渡してくれ。今度からは車は無しで来る。」

約束の証に脇差しを置いていくと、一台の車を引きながら、桃太郎は村へと帰っていくのでした。

                               (終)

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