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はじめての日本人街

ホーチミンには、一風堂がある。
 
昨日はそこで定番のラーメン「赤丸」と焼餃子を食べた。これがあれば、全然日本に帰らなくても大丈夫だと思った。値段も日本と変わらない。
 
私の日本への執着の8割くらいは、ラーメンと餃子だったのかもしれない。
 
日本人はみな飛行機でドイツに行って、一杯2000円越えのラーメンを食べに行っていたアンカラでの暮らしからしたら、夢のような環境だ。

この街には、日本人街というものがある。一風堂があるのもその通りだ。通り沿いには、ファミリーマートとセブンイレブン、ミニストップ、すきやが、少し歩けばユニクロと無印良品、牛繋もある。
 
 
日本企業が建てた、日本人ばかりが住んでいるマンションもある。定番のおすすめということで内覧に行ったら、玄関の雰囲気も間取りも典型的な日本のマンションで、一瞬で日本に帰ったような不思議な気分になった。
 
お風呂も洗い場と湯船が分かれた日本の実家風で、これはたしかに安心感がある。湯船好きには、ポイントが高い。
 
 
日本人街の小道には、日本式の居酒屋やガールズバー、マッサージ店がある。路上では普通のものより若干シルエットがセクシーな白いアオザイを着たきれいなお姉さんたちが、客を待ち構えている。
 
 
いわゆる「日本のおじさん」の欲望が、ぎゅっと詰まったみたいな場所だ。ファミリーが住むマンションやお馴染みのレストランと、欲望の小道が至近距離にあるのに、はじめはぎょっとした。
 
 
でも、おじさん以外の日本人にとっても、この場所はとても便利なので、よしとされているのだろう。多くの人にとって、母国に帰りたくなる一番の理由である、食の恋しさを解消してくれる場所なのだ。
 
 
先日参加した日本人の集まりでは、「日本には、別に帰らなくていいかなぁ」という人も多かった。その理由の一つに、この場所の存在があるのかもしれない。
 
 
各地に中華街がある中国の人は、こんな感覚なのだろうか。
 
すきやや一風堂、牛繋があるというのは、世界中にマックやKFC、スタバがあるアメリカの人の感覚に近いのかもしれない。日本食チェーンには、日本人だけではなく、現地のお客さんも多い。
 
 
今までそれを羨ましく思ったことはある気がするのに、いざ想像以上に近い日本を目の前にして、私は戸惑っている。無印に行って、ラーメンに安心する自分がいるけれど、これでいいんだっけ?と思う。
 
 
「せっかく海外に行くのだから、部屋にこもっていないで、それを満喫してくれば」と社長に言ってもらって、仕事を一旦辞めた。
 
ここには生活ではなく、旅をしにきたことを思い出す。
 
 
この街は、普通になんとなく暮らしていたら、旅はできないのかもしれない。
 
迷っていた物件は日本人街から少し離れたところに決めて、そろそろホーチミン以外の街の旅をはじめることに決めた。

こちらの記事は、毎週末、配信しているニュースレター「日曜の窓辺から」のアーカイブです。

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