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これまでの「AI」ブームと昨今の「DX」の流れから考える、2021年デジタル化のポイント

自分はここ4年半近くの時間を機械学習という技術を軸にしたビジネス活動に従事してきました。4年半前と比べると顧客からの引き合いの数や売上高などは非常に伸びている一方で、その方向性が変わってきていることも感じています。

「AIブームは終わった」などの言説もみかけるようになったり、DXという言葉が出てきて、結局何が大事なのかが分からなくなったりしている気がします。そこで今回は今までの流れを振り返って、来年どのような動きが重要になってくるかについて、自分の考えを記したいと思います。また今回書く内容は個人の意見であり、所属する組織のものではありません。

AIブームの最大の成果は「企業のデジタル化促進」

AIブームの始まりは、2012年のILSVRC(画像認識のコンテスト)でHinton教授がDeep Learningを使い勝利した、あたりだと勝手になんとなく思っている。2015年のResNetで「認識精度が人を超えた」と言われたあたりもターニングポイントだろう。日本でも2014年あたりから「AI, IoT」というワードが飛び交うようになっていたはず。時代はAIブームへと突入していく。

自分がDeep Learningや機械学習にビジネスとして携わり出したのは2016年からであり、AIブームの真っ只中であった。その時によく言われていたことは「AIと言われているが、本当に中身はAIか?」ということだった。「if文でゴリゴリに書いているただのルールの塊だからAIとは呼べないですよね?」とかそんなことをよく聞いたものだった。しかし、そんな議論には意味がなかった。自分の技術に対する理解度を示すための言説としては有効だったかもしれないが、ビジネスに対するリターンには間接的な効果しかなかった。

そして、多くのAIスタートアップが立ち上がる中、上手くビジネス化できたところとできなかったところに分かれた。ビジネス化するためには「リターンがある課題」を業務から発見・設定し解決する必要がある。しかし、リターンがある課題を特にはAIが不向きなことも多く、技術とビジネスの間で立ち往生してしまった会社をいくつも眺めた。

一方、導入する側には一定の混乱と学習をもらたしたと思っている。「これからはAIだ!」という大方針の元、先ほどの「何がAIか議論」で困惑する中、なかなか導入が進まないという混乱。しかし、それ以上のメリットもあったと思っている。自分の知り合いでも営業畑で「キーボードでタイピングをする時は右手と左手の人差し指です!」という方が、ITに関して興味を持ち学習をし始めるようになった。「APIってなんだろう?」「クラウドって何?オンプレミスは?」「機械学習とルールベースって何が違うのか?」など色んなことを質問されるようになった。これまでIT周りは人にお任せという人たちが、「誰もがAIを使うような時代になる」という言葉に触発され、自らの知識を深めようとした。

さらに導入する側は「AI」というマジックワードのおかげで業務課題について向き合う機会にも繋がったと思う。機械学習などの知識をある人たちからしたらまるでおかしいような問題提起も「AIを使えば、これって効率化できない?」と言えば、社内やAIベンダーにある程度相談ができるようになったのである。自分自身も多くのそういった相談と向き合ってきた。特に2016年〜17年くらいは非常にその数が多かった。2020年でも多かった。これにより「今までは目を向けることすらしなかったけど、もしかしたらAIとやらで解決できるかもしれないなら、検討してみよう」というレベルの問題が顕在化したと考えている。

AIブーム自体は、AIエンジニアをはじめとしたソフトウェアエンジニアの地位や待遇向上やプログラミング言語の人気ランキング、などその他の方面でも大きな影響を及ぼしているが、自分が思うビジネス的な観点での成果は「これまで検討すらされなかった問題が浮き彫りになり、ITを用いた解決策を思考するようになる人口が増えた」ことだと思っている。

この数年で便利になったものに意外とAIは使われていない?

暮らしていて、働いていて、便利になったと感じるのはどんな時だろうか。モバイル交通系IC、バーコード決済、電子契約、経費労務手続きの電子化、WEB会議ツールなどが個人的には便利と感じているサービスである。思ったよりAIが使われていなさそう、なのである。もちろん一部機能で実装されているものもたくさんあるだろうが、サービスを支えるコア技術になっているものは少ないように思える。

AIを機械学習とすると、Google社の検索エンジンやGoogleマップの経路案内、Amazon社のECサイトのリコメンドなどは分かりやすい事例であろう。その他には自動運転車や工場自動化(Factory Automation)などにも一部使われているケースがある。しかし、やはり身近で感じられるところにはまだまだ少ない感覚だ。もう少し正確な表現をすると「AIブームと騒がれていたその期待値よりは下回っている印象」という感じだろう。

2017〜2020年あたりで東証マザーズに上場した銘柄を見ても、意外とAI銘柄は少ない。そして(自分が)期待していたより株価は伸びていない。一方、上場し時価総額を伸ばしている企業で多いのは「今までアナログでやっていたことをデジタル化しました or クラウド化しました」という系統だと見ている。これで十分に便利になったのである。財布を出さなくてもスマホ1つで買い物ができたり、年末調整の書類が少なくなったり、契約書の製本をする必要がなくなって受注が早まったり、とか。

少し一言挟んでおきたいのが、こういった企業は当たり前に凄いということである。AIブームの中ピッチイベントなどに出ると、比較的難易度が高めっぽい技術を扱っている人たちが「WEBの知見があればできる」などと皮肉を混ぜながら言っていたことを思い出すが、顧客に継続的に使ってもらうためのシステム設計やその実装・UIの作り込みなどを、組織で製品レベルまで仕上げて収益を上げることを軽視しすぎだろうと強く思う。(余談でした。すみません)

コロナ禍でDXという言葉が躍進

そんな中、今年地球は新型コロナウイルスにより大きな変化のタイミングを迎えた。ソーシャルディスタンスや新しい生活様式というワードが飛び交うようになり、今までの暮らし方や働き方を見直さざるを得ない状況になった。

暮らし方においては、非接触が求められるようになる中、バーコード決済をはじめとしたキャッシュレスはますます進むようになったり、飲食店などの小売店舗には検温機器などが設置されるようになった。またマスク着用やこまめなアルコール消毒が習慣になった。

働き方においては、リモートワークの導入が進み、それに伴い電子上で様々な手続き(契約や労務など)ができるようなツールも多く導入されるようになった。政府においても河野大臣のはんこ全廃や、来年できるデジタル庁などの方向性が示され、国レベルで変革が起こる兆しを感じることができる。

そんな中、今年は「AI」ではなく「DX」という言葉をよく聞くようになった。前からあった言葉ではあるが、聞く機会が激増した。”DX推進部”的な部署も増えたのではないかと思う。さすがにWEB会議システムの導入をAI導入とは言えない。また、業務のデジタル化を進めるには技術だけでなく、組織変革の視点も非常に重要である。そういった多様な側面から「DX」というワードが使われるようになったのだろう、と思っている。

これからも肝はデータである

DXが台頭する中で、どの企業も当たり前にあらゆる業務をデジタル化するようになるはずである。馬車が自動車に変わって行ったように、ガソリン車が電気や水素自動車などに変わって行くように、徐々に徐々に色んな業界で導入が進んでいくだろう。その時、他社と差別化し競争優位の源泉になるのが、データである

ここで少しAIブームの話に戻る。AI(機械学習)を導入して製品価値を上げたりコスト削減を狙おうとするが、失敗するケースもかなりある。多くの場合は上述したような「解決すべき業務課題とAIという手法が結びつかない」「そもそも何を解決すべきかが定まらない」という事態が当てはまる。次に多いのが「データがない」である。

導入しようと思っている側は「データがある」と思っているのだが、とても学習できる状態じゃないことがほとんどなのだ。分析できるような状態にデータを整備しておくことが重要なのである。むしろ分析ツールはGUIも付属していて使いやすいものが多く出ている。しかしそのツールに入れるデータは自分で用意しておく必要がある、ということである。

これからDXが進んでいく中、企業でそれぞれデータが蓄積されていく。それを分析し、新たな意思決定やアクションにつなげて行くことができる業務プロセスや組織が出来上がっていることがこれから非常に重要になってくるだろう。

個人的に非常に参考になったのはワークマンのデータ活用。下の記事や書籍はぜひ読んでいただきたい。

2021年、大事になってくること

ワクチン提供の見込みが立ってきたが、まだまだコロナ禍の状況は続くと思われる。DXやAI活用の流れはこれからますます加速していくと思っているし、日本においてはスピード感を持って進めないと世界で取り残されていってしまうと少し危惧している。成果を残すためにも自分自身含めて下記の3つのことを強く念頭において進めたいと思う。

1. 顧客/業務課題から始める
2. 技術に迎合しすぎない
3. 組織変革も並行で行う

1つ目の「顧客/業務課題から始める」というのはビジネス的な価値を見定めた上でDXやAIに取り組むべきということである。インターネットが普及しWEB上に様々な情報が跋扈するようになった。DXやAIの波に乗っかってやろうというような人たちもたくさんいる。そういう情報に右往左往させられることなく、顧客の課題や自分たちの組織の課題に向き合った上で、手段であるDXやAIを考えていただきたい。

2つ目の「技術に迎合しすぎない」というのは、選ぶ手法に変なこだわりを持たない方が良い、ということである。技術や技術者を軽視すると上手く行かないのでそれは論外として、しかし迎合しすぎてもダメだということである。よくあるのは、ソリューションに無理やりDeep Learningを適用しようする、などがある。自分は画像解析周りの仕事が多いのだが、CNNを用いなくてもこれまでのComputer Visionのアプローチで十分に解決できる課題をAIっぽくやりたいという理由やそれしかやり方を知らないという理由でDeep Learning(CNN)を適用して上手く成果をコントロールできない、みたいなことを散見する。AIだけでなく、DXに必要なITに関する知識を幅広く身に付けておくのが良いと考える。例えば下記のような試験など。

3つ目の「組織変革も並行で行う」については、下の記事が上手く説明できていると思う。

導入を最も阻んでいるのは文化、組織、業務プロセスにまつわる問題だと答えた企業は95%にも上る。技術そのものを問題として挙げたのは、わずか5%なのだ。

新しい営業フローや採用プロセス、人事制度、マーケティングプロセスなど色んなものに共通して言えることであるが、設計と運用は同等に重要である。多くのケースでは設計に力を入れすぎてしまう。そしていざ運用という時に「担当営業がCRMに入力しない」「人事制度の背景を理解していない管理職がいて評価がおかしくなる」ということが起きるのである。運用し続けられるだけの組織体制構築や人材育成、風土・文化醸成も並行して進めることがデジタル化にとっても非常に大事だと考えている。特に上層部がIT導入やDXを実施する時に起こるメリットだけでなくデメリット(一時的な事業や組織の歪みなど)を理解しておくことが重要だと思う。

おしまい

さて、色々思ったことを書いてしまったのですが、自分自身もこの企業のデジタル化の波に貢献できるようにしたいと強く思っています。機械学習という技術だけを扱っているとなかなか本質的な課題解決にリーチできないケースもあって悔しい思いをすることもあるのですが、勉強や経験を重ねてより大きな価値発揮ができるように成長したいなと思っています。

特に、2020年は内に留まってしまったなぁという感覚を持っていて、2019年以前に社外の人とも積極的に勉強会などを実施していたように、2021年はより色んな方々とビジネス的、技術的なコラボレーションをしていきたいと思っていますので、お気軽にお声かけしてもらえると嬉しいです!まずはWEB会議などで色々ディスカッションさせてもらえると嬉しいです。

「AIブームが終わって、DXが始まった」のではなく、「提供価値向上に向けて、ITという手段が様々な形でビジネスに入ってきている」という感覚で、自分の中では一貫している流れだと感じています。自分は技術者でもなく、記者でもなく、ブロガーでもなく、ビジネスマンなので、皆さんに見てもらえるようなビジネス成果を来年以降創出していきたいと思います。

最後までありがとうございました。

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