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「好き・行動・発信する」の価値

好奇心を押し込めた10~20代

私は10代のころ、女優になるのが夢だった。「芸能界は華やかで綺麗だから」そんな理由だったと思う。学歴主義の両親が受け入れるはずもなく、私は密かに専門書を買い、女優になるための勉強をしていた(いま思うと笑えるけれど、当時は真剣)。

学びを活かす場もなく20歳になり、普通の企業へ就職した。ただ、女優さんへの憧れは消えず、小さなモデル事務所でアルバイトをしたこともあった。華やかな世界に憧れていた私にとって、楽しく眩しいお仕事。ただ、周囲と自分を比べて落ち込み、「私なんて無理だ」と早々に辞めてしまった。

結婚して子供ができ、生活環境がガラッと変わった。漠然と先々の生活が不安になって、何か手に職をつけておけばよかったと心から後悔し、資格の雑誌を読んでみた。「看護師の資格を取りたい」そう思ったが、看護学校へ通うには何百万円もの資金が必要だ。勉強もしなければならない。当時の私にはその生活が想像もつかず、実行には至らなかった。

上記はほんの一例で、私はいつも何かをひらめくのだが、「きっとできない」「金銭的に無理だ」と諦めてしまう。やらなかったことを後悔してはいないが、満足もしていなかった。

川内イオさんの著書に出会って

そんななか先日、「常識を超えて『おいしい』を生み出す10人 1キロ100万円の塩をつくる」という本に出会った。著者の川内イオさんは、「稀人(まれびと)ハンター」として「規格外の稀な人」を取材し、多くの媒体で記事を書かれている方だ。

本に登場するのは、「食」に関するあるジャンルを極めた10名。皆、最初は無名だったが、今はそれぞれの分野で名立たる存在なのだそうだ。この本には、彼らのストーリーが短編小説のように描かれている。

どんな方々が登場するのか、目次から抜粋してご紹介する。

・通販専門で3年待ち。全国から食材が集まり、小さな経済圏を築くパン職人 ヒヨリブロート 塚本久美さん
・300年の茶園を継いだ元サラリーマンの『フィールド・オブ・ドリームス』 仙霊茶 野村俊介さん
・元デザイナーが生み出した創作おはぎ。1日に3000個売れる理由 森のおはぎ 森百合子さん
・元OLと泡盛界のレジェンドが生んだ、世界唯一のラム酒 グレイス・ラム 金城祐子さん
・新開発の瓶入りコーラに予約2万本。たったひとりで始めたコーラ革命 伊良コーラ 小林隆英さん
・ヒマラヤの麓でつくるピーナッツバターの滋味 SANCHAI 仲琴舞貴さん
・「神様」を唸らせた醸造家。世界のVIPをもてなすワイン誕生の舞台裏 キスヴィン・ワイナリー 斎藤まゆさん
・月イチ営業で研究開発。前代未聞のオリジナルチーズが開く未知の扉 チーズ工房【千】sen 柴田千代さん
・キャリア3年で日本一に。全国展開も見据える鳴子発の野菜ジェラート なるこりん 大澤英里子さん
・最高価格1キロ100万円。常識を覆す塩づくりで挑む世界への道 田野屋塩二郎 佐藤京二郎さん

パン、お茶、おはぎ、ラム酒、コーラ‥‥‥。この異なるジャンルの、一つひとつのストーリーが、また面白いのだ。

たとえば、グレイス・ラムの金城(きんじょう)祐子さん。起業時は普通のOLさんだったそうで、昔の自分と境遇が近く、興味深く読み進めた。

金城さんは、地元・沖縄のバーでお酒を飲んでいるとき、ラム酒の原料にサトウキビが使われていることを知る。「どうして沖縄のお酒は、タイ米を使った泡盛が中心なんだろう?サトウキビを原料にラム酒をつくったほうが、よっぽど地酒っぽいのに」そうひらめいた金城さんは、その案を当時勤めていた会社の社内ベンチャー制度に応募した。するとどんどん選考を通過し、起業することに。コンサルタントをつけて、無添加・無着色のラム酒をつくるために奮闘した。

途中で心が折れそうになるが、上司の褒め言葉をきっかけに立ち直り、「やるだけやってだめだったら、元のOLに戻ろう」と決意。その勢いで、泡盛界のレジェンド・玉那覇力(たまなはつとむ)さんの協力を得ることに成功した。金城さんと玉那覇さんが二人三脚でつくった国産ラム酒は、今や注文が鳴りやまない名品となった。

バイタリティの秘密は?

本を読み終えたとき、私は、「すごい‥‥‥。ただ、どうして皆さん、そこまでのバイタリティを持ち続けられたのだろう?」と感じた。

たとえば、伊良(いよし)コーラの小林さんは、インターネット上でたまたまコカ・コーラの秘伝レシピを発見し(真偽は定かではない)自宅で作ってみたことがきっかけで、コーラの味を追及し、300万円の貯金をつぎ込んで販売を始める。私なら、レシピ再現の時点で味に満足できなかったら、きっとそこで諦めてしまう。「ああ、嘘のレシピだったんだな」で終わりそうだ。なぜ小林さんを含む10人の方々は、「私(僕)にはできる」と思えたのだろう?

もちろん、育った環境も関係しているかもしれない。ところが、私はある共通点を見つけた。ひとつは、心から好きで興味があるということ。そして「どのようにしたら実現できるのか」という、実現ありきの発想で考えていることだ。好きだから、きっと努力も辛くない。失敗への怖さも感じない。「フロー状態」という言葉が浮かんだ。

もうひとつは、ほぼ全員に、応援者がいるということだ。彼らの多くは、挑戦する過程でずっと成功し続けたわけではなく、むしろ失敗をたくさんしている。そんななか「もうダメかもしれない」と折れそうになったときや、つまづいたとき、誰かから後押しを受けているのだ。そこには、金銭面での援助も含まれる。「誰か」は人によってそれぞれで、恩師だったり近所の知人だったり家族だったり‥‥‥、それぞれの大切な人から、背中を押されていた。

心から好きなこと。応援者がいること。2つとも、簡単なようで難しい。好きなことはなんとか見つけられても、心から応援してくれる人はすぐには現れない。

では、自分が応援したくなる人とはどんな人だろう?

・ひたむきに頑張っている人
・失敗している人
・できなくても努力している人

ぱっと、このような人物像が浮かんだ。いまの自分はどうだろう。誰かが「応援したい」と思ってくれるような行動ができているだろうか。

発信することの大切さ

もうひとつ、印象に残ったストーリーがある。キスヴィン・ワイナリーの斎藤まゆさんは、学生時代にワインについて学んでいたとき、履歴書代わりにブログを書いていたそうだ。恋愛などの日常生活を交えて綴っていたが、そのブログが、あるキーパーソンの目に留まり、その人との繋がりを経て、斎藤さんは世界的に有名なワインの醸造家になった。

発信すること。たとえそれがお金にならなかったとしても、発信自体が自分の財産になる。実際にまわりのライターさんでも、noteをきっかけにメディアから連絡をもらったという方は多い。どんなに頑張っていても、発信しなければ気付いてもらえない。斎藤さんのように、学ぶ過程を発信するのもよいかもしれない。

お金では買えないものの価値

素敵な本だった。なにより、川内イオさんの織りなすストーリーに圧倒された。川内さんの文章のなかでは、人やモノが輝いている。そして不思議なことに、そのお店の商品をすぐにでも食べたくなるのだ。読みながら、何度も「美味しそう!」とよだれが出そうになった。

ありがたいのは、各ストーリーの末尾にサイトURLへ飛ぶバーコードが記載されていること。一つのストーリー(20~30P)を読み終えて「食べたい!」と思ったら、すぐにサイトを見られるようになっている。私のような読者は、きっとたくさんいると思う。

私はいま、女優さんでも看護師さんでもない、インタビューライターというお仕事に夢中になっている。落ち込むことも多いが、著書に登場する方々に勇気をもらった。

好きなことを + ひたすら行動に移し + 発信する

上記の方程式を、これからも意識しようと思う。

この本に出会い、「すぐに結果が出ないしお金にもならないけれど、未来に必ず生きてくるもの」への価値を、再認識した。



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