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12. 音を塞ぐ

崖下の親子をどう見ればいい?
愛する人の元へと一直線に駆けた
2人を何と言えばいい?

敵を殺し、味方を守れない戦場で
その人は私の部下だった

その人の戦死を伝えたとき
彼は私を責めもせず、ただ静かにうつむいた


怒りに何の意味がある?
悲しみは私を動けなくする

私は激情を動力にできない

立てなくなるわけにはいかなかった
そのためには音だって捨ててよかった

両の耳を塞いで、刀を咥えてでも
私は立っていなければならなかった

敵の断末魔
味方の悲鳴
肉に刃が突き刺さる音
血が地面に飛び散る音

慟哭

全てを塞がなければ立っていられなかった

君の家族が私の家に火をつけた
君がどこかで君を責めていないかと
それだけが気がかりだった

もうどんな音も聞こえない
けれど君の炎がどす黒い赤に変わっても
燃え続けているのだけが見えた

君の洗脳を杖として
私は、両足で立っている



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