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カムヤライド1〜5巻感想

 こんにちは、雪乃です。今日は漫画「カムヤライド」の感想です。

 一言でいうと、「古墳時代×仮面ライダー」。もしくは「古代日本のニチアサ」でしょうか。古代日本好きとして仮面ライダーを見始める前から気になっていたのですが、ようやく読めました。もともと@バンチという月刊誌で途中からですが久正人先生の「エリア51」を読んでいて、その時からシャープで陰影のコントラストがはっきりとしている絵柄が好きだったんですよ。だからいつかカムヤライドも読みたいなと思っていました。

 舞台は四世紀の日本。「神逐人(カムヤライド)」という超人に変身して国津神を封じている男・モンコが主人公です。1巻の表紙がカムヤライド。国津神の身体に鍵穴を出現させ、それに左足の鍵のパーツを入れることで国津神を封じるのですが、このギミックを使う手順を一つ一つ踏んでいく感じがすごく好き。
 そしてもう一人の主人公といえるのが、かの有名なヤマトタケル。本作におけるヤマトタケルは美少年として描かれています。最初はヒロインかと思いましたが、弓の腕に優れた立派な大和の皇子です。
 所謂「二号ライダー」的な存在が、なんとオトタチバナ。日本神話ではヤマトタケルの妃ですが、本作では腹筋バキバキで朝廷の精鋭部隊「黒盾隊」の隊長を務める女性として登場。彼女は魂を黒金の身体に移し替えることで戦います。

 「特撮の山」と検索すると出てくる岩船山が5巻に出てきたり、爆発シーンが日曜日に見たことがある気がする画角だったりなど、特撮ヒーローものの文法をきっちり押さえた上で描かれていますが、その一方で、変身アイテムが埴輪だったりと、変身ヒーローものらしいところは古代ナイズされていて、しかも違和感なく溶け込んでいるのがすごいです。

 モンコは土のあるところでしか変身できず、オトタチバナが変身中に負ったダメージが本人の生身の身体にまで及ぶなど、ヒーローたちに制約があるところも好きです。
 またヒーローや国津神の正体がそのまま作品世界全体の構造とも関わってきます。そのカギを握るのが「天孫降臨」。日本神話ではアマテラスの孫であるニニギが葦原中津国を治めるために高天原から地上に降り立ったという有名なエピソードですが、「カムヤライド」では天孫降臨が「ニ=ギと呼ばれる存在が宇宙から墜落してきた」こととして大胆に解釈されています。その痕跡は大きなクレーターとして残されていました。
 国津神はニ=ギの心が各地に散らばり、散らばった先の土地の土を仮の身体にすることで顕現したもの、だそう。今のニ=ギは巨大な骨格のみが残されています。ニ=ギの骨はチラっと映っているのみですが、人間のようで人間でない、かといって何の動物に近いかと言われたら答えられないような、独特な造形がもう堪りませんね。

 天孫降臨で墜落したのは、ニ=ギだけではありませんでした。それが本作における特撮ヒーロー要素のひとつ、怪人ポジションのキャラクターです。彼らは日本神話において天孫降臨の際にニニギと共に地上に降り立った神の名を持っています。ウズメ、イシコリドメ、タマノヤ、フトタマ、コヤネ。彼らの元ネタになった神々は、アマテラスが天岩戸に籠った際、彼女を連れ出すべく尽力した存在でもあります。
 モンコの変身アイテムが埴輪な一方で、天孫降臨サイドの変身アイテムは勾玉。しかも開くと鏡になっていて、これ割とマジで欲しいです。グッズ化してほしい。効果音が「きゅらん」だったりハートがあしらわれていたりと、魔法少女ものの変身アイテムに通ずる可愛らしさがあるのも初代プリキュア現役世代の元女児としては非常にツボ。その一方で、鏡で体を切り裂くという禍々しい変身方法を使っているのはちゃんと敵キャラしてて好きです。
 5巻までで変身済みなのが、イシコリドメとコヤネ。イシコリドメの変身後の名前が「アマツ・ミラール」なのは、日本神話におけるイシコリドメが三種の神器の一つである八咫の鏡の制作者であることから来ていると思われます。コヤネの変身後の名前は「アマツ・ノリット」ですが、日本神話だとアメノコヤネは祝詞の神だからかな。
 イシコリドメの名乗りは「疾く射抜く天の光!!アマツ・ミラール!!」。コヤネの名乗りは「果てなく轟く天の声!!アマツ・ノリット!!」。どうやら彼らの変身後の名前は「アマツ・〇〇」で統一されているようですし、名乗りもどことなくプリキュアっぽいような。キュアミラールって言ってもギリギリ違和感ないし。
 全身フルで変身してませんが、ウズメが台詞の中で「踊る」という言葉を用いているのは、元ネタのアメノウズメがアマテラスが天岩戸に籠った際に踊りによって神々を笑わせ気を引いた神話に由来するものと思われます。
 自分の身体を二人に分離させるフトタマも気になりますね。武器が鞭(?)なのは、元ネタのフトタマが太玉串を捧げ持った神であることに由来するのかな?
 5巻時点ではまだバトルしてませんが、タマノヤも推してしまいそうな予感。ウサ耳フードを自作するなど、モノづくりが好きなことが伺えますね。元ネタのタマノヤが三種の神器の一つである八尺瓊勾玉を作った神なので、一番元ネタに拠っているのはタマノヤかな。どんなバトルを展開してくれるのか楽しみ。

 超人や怪人だけでなく、他のキャラクターもめちゃくちゃ良いです。黒盾隊の副長を務めるワカタケ。外見は可愛らしい女の子ですが、オトタチバナの頭を撫でたり、かと思えば彼女の手を取ったヤマトタケルの手を咄嗟に叩き落したりするあたり、一筋縄ではない人物のようにも思えます。
追記:当初ワカタケを少年と表記していましたが、髪型がみずらではなく女性型埴輪に見られるような髷であるためおそらく女性と思われます。ゆえに訂正しました。すみません。
 古事記や日本書紀に登場するヤマトタケルの兄・オオウスもばっちり登場。ひたすらに顔が良いオオウスですが、父であるオシロワケ(景行天皇)を疑っているあたりにちゃんと宮廷で育ってきたものとしての気概と血筋を感じます。
 5巻で登場するのがモンコの師匠である薬師のノツチ。隻眼の麗しいマダムですが、助けた相手に必ず対価を要求します。記憶を失っていたモンコに「モンコ」と名前を付けた名付け親でもあったり。

 そんなノツチ師匠ですが、5巻の終盤で国津神に攫われてしまします。師匠を助けるべく、カムヤライドは新たなガジェットを手に入れました。それがなんとバイク。ここ古墳時代の日本ですよね?
 銃のガジェットが弓になる辺りまではまあ分かるとして、まさかバイクが出てくるとは思いませんでした。ですが、そんな違和感をビジュアルや演出面でのシンプルなカッコよさと特撮的様式美ですべて吹っ飛ばしてくれるのがすごいところ。
 カムヤライドが新しい特撮的ガジェットを出現させた原動力は誰かを助けたいという想い。ここでヒーローの原点的な感情に辿り着くのが激エモでした。

 モンコはもともと「ノミの宿禰」という人物であったことが示唆されています。日本神話上に登場する野見宿禰は力自慢の当麻蹶速という人物を戦って勝ち、また殉死の風習をやめさせるために埴輪を作った人物として描かれています。
 一方でカムヤライドに登場するノミの宿禰は、ハジ一族の棟梁だったものの、王のもとで「何か」を見てしまったことで改造を施されカムヤライドになった……らしいです。ケハヤと戦った際にはカムヤライドに変身する力を得ていましたが、顔は覆われておらず、かなり嵩張るデザイン。こっちが初期フォームだったんですね。

 ノミの宿禰はオシロワケによった処刑されたことになっているそうです。ノミの宿禰と比べてモンコは皿作りの腕も良くないようですが、処刑の際に切り落とされた指の指紋とモンコの指紋は同じ。真相はいかに。

 初期フォームの頃は暴走しがちだったカムヤライドですが、ノツチに拾われた後の国津神との戦いで「人間を助けたい」と思ったことから現在の制御可能なフォームを手に入れたようです。

 そもそもこのカムヤライドというネーミング、すごく好きなんですよね。仮面ライダーっぽい響きなのに、ちゃんと上代語に基づいているところ。
 神逐(かむやらい)という言葉は、スサノオが高天原から追放されるシーンで登場します。実はそのシーンはしっかり読んだわけではないのですが、時代別国語辞典の上代編に載っていたので知っていました。一応卒論万葉集で書いてたのよ、私。
 あとは「幸(さき)くませ」という台詞が登場しますが、「幸く」は万葉集でよく見る表現ですね。他にも、「唯々」という言葉が作中に出てきますが、この言葉は万葉集中の漢文で登場するワード。こういうところで上代文学的なネタを拾ってもらえるの、すごく嬉しいです。上代やってよかった。

 巻末に解説もついているので、元ネタを知らなくても楽しめますし、知っているとより楽しめます。

 特撮要素満載、ニチアサの概念の煮凝りみたいな感じの「カムヤライド」ですが、古代日本という舞台設定や巨大な怪獣と普通サイズの人間ヒーローというスケール感が実現できているのはやはり漫画ならでは。でもやっぱり映像化してほしいです。欲を言えば日曜の朝に放送してほしい。このままだとない主題歌の記憶が脳内で勝手に錬成されるので、早くリアルに主題歌を作ってほしい。

 神話好きとしては、どこまで古事記や日本書紀の原典に因るのかというところも非常に興味があります。古事記でヤマトタケルにだまし討ちされたイズモタケルを、「カムヤライド」の作中ではヤマトタケルは助けていますし。オトタチバナやオオウスも、神話通りにいかない可能性がありますね。というかそうであってほしい。オトタチバナは神話通りだとツラすぎるので。オオウスも、古事記だとかなり残酷な方法で退場してますからね。マジで顔が良いので退場しないで欲しい。

 ネーミングは神話通りなのに、ニニギだけそのまま使わずニ=ギなのも気になります。そもそも「ニ=ギ」とは何なのか。地球外生命体?
 ニ=ギも謎ですが、オシロワケの回想シーンに1ページだけ登場する「ヤマトオオクニタマ」と呼ばれる存在も何なんでしょうね。ニ=ギ陣営であるコヤネが照射した光を見て「あの光と同じ」と発言しているので、「ニ=ギ」が「ヤマトオオクニタマ」なのでしょうか。
 そもそも日本神話上のニニギは皇統の祖となった神です。そのニニギを元ネタとするニ=ギが作中の大王及びその血筋と完全に無関係とは考えにくいです。それが失われたニ=ギの肉体、そして朝廷によって作られたと思われるカムヤライドと関係しているのでしょうか。早く6巻読みたい~~!!!

 カムヤライド、まずバトルファンタジーとしてめちゃくちゃ面白いので全人類読んで欲しいです。そして映像化を是非(2回目)。

 両陣営に共感し、両陣営に相対的なヒーローがいる作品も良いですが、カムヤライドのような絶対的ヒーローも好きです。早くカムヤライドが日曜の朝に放送されている世界線が来て欲しい。

 さすがに長くなったので、この辺で切り上げます。本日もお付き合いいただきありがとうございました。

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