【小説】ひもとく

※下にリンクを貼った2作と世界観や設定が一応繋がっていますが、この話単体でも読めます。

 わたくしたちの遠いご先祖様は、もともと、ここではない世界で暮らしていました。そこは限りなく夜が続く世界だったそうです。
 あるとき、その夜の世界とこちら側の世界の境界線が乱れました。きっかけは、誰もわかりません。ただの偶然だったのでしょう。
 境界線の乱れは、なおも続きました。至る所で世界が乱れ、自分の意思とは無関係に、こちら側の世界へ迷い込んでしまうような方が、たくさん現れたそうです。
 世界の境界線を越えたものの、帰ることのできなくなった方もいました。そうして、わたくしたちのご先祖様は、山や森の中といった、人目につきにくい場所に住み始めたのです。
 しかしあるとき、人間に、ご先祖様は見つかってしまいました。人間は恐れ、ご先祖様を排除しようとしました。小さな恐怖の火種は徐々に大きくなり、やがて争いは広がります。ご先祖様はいつしか争いに疲れ、山を去りました。そうして、ある秘術により人の姿になるすべを身につけ、人間社会に溶け込んだのです。
 それから、どれほど時が経ったでしょう。わたくしたちは、こうして人間のふりをしながら、人間の世界で暮らしています。
 わたくしたちは、人の世界に適応しました。人と同じ言葉を話し、人と同じものを食べ、人と同じ学校に通い、人と同じ場所で働いています。
 しかし悲しいかな、この世界にやってきてしまったのは、わたくしたちだけではありませんでした。わたくしたちとは別種の、しかしあの夜の世界に住んでいた多くの生き物たちもまた、境界線を望まずして越えてしまったのです。
 彼らは、人になる秘術を使うことはできませんでした。ゆえに人の社会に、わたくしたちのように溶け込むことは叶いませんでした。
 わたくしたちの種族は、もう一度、あの永遠の夜が続く世界に帰ることもできました。境界線の乱れが再び発生し、世界の境目を越えることが容易になったからです。
 しかし、いくつかの氏族は、帰ることを選びませんでした。かわりに、こちらの世界に迷い込んでしまった「彼ら」を、人の姿をとることができない種族を、帰すことを選んだのです。
 人間に見つかるより前に、彼らを見つけ、もとの世界へと帰す。それが、わたくしの家系の使命となりました。
 わたくしの嫁いだ榊家も同じように、帰すことを使命としてきた一族です。
 今日は旦那様は、家にいらっしゃいません。ある山に現れた同胞を帰すためにお出かけになりました。旦那様がお帰りになるまで待っていなくてはなりません。
 わたくしには、かねてから見たかったものがあります。それは、この家の蔵。今までの榊家の「帰す者」としての軌跡や、帰してきた種族の情報。そういったものが詰め込まれている蔵。榊家の親戚筋から集めた情報はきっと膨大なことでしょう。今まで集めた資料で省かれてしまったところも、きっと残っているはずです。
 わたくしは膨大な本の中から、一冊また一冊と読んでいきます。ここで、わたくしのなすべきことを見つけるためにも。



 ただいま一次創作の設定固め中ゆえ、こういう終わっているのか終わっていないのかわからない文ばかり生産しています。