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人生で大切なことのほとんどはアニエス b.が教えてくれた

銀座の松屋のメインディスプレイが、アニエスb .になっていました。
路面店の数が減り、デパートの店舗も少なくなってしまったけれど、これまでいちばん熱心に好きだったブランドといえば80年代後半のアニエスb.。

初めてパリとロンドンに行ったとき、ロンドンでは寄りたい店のリストが数ページにわたっていたけれど(ジョン・スメドレー、バブアー、ファイロファクス、ヒルディッチ&キー、チャーチ、リバティ、スマイソン・・・)、パリでは唯一アニエスb.の一号店だけだったくらい。
アニエスb.の歴史は有名で、当時は雑多で食材などを売っている店が多く集まるエリアだったレアールの肉屋を改装したとか。そこでレザージャケットとボーダーシャツを買うために、トラベラーズチェックを握りしめて行きました。これまで買ったいちばん高い服かも。

今では当たり前に思えることも、アニエスb.から学んだことは多いです。
例えば映画は着こなしの手本にできて、「太陽がいっぱい」「北北西に進路をとれ」「冒険者たち」といった映画はサスペンスとしても魅力的だけれど、登場人物たちのファッションを見る楽しみもあることを、アニエスb.のディスプレイから教えてもらいました。

コントラストの高いモノクロ写真を大きく引き伸ばして壁に貼ると、インテリアになってアート気分が味わえるとか、デニムに革靴を合わせてアイロンの効いたシャツを着ればパーティでも映えるとか、黒と白のボーダーはどんなカラフルな組み合わせよりも美しく見えるとか、おしゃれな音楽といえばジャズかボサノバという時代に、ロックとファッションと映画と写真は親密な関係にあることを教えてくれました。

アートをファッションブランドが支援することは、今では当たり前になっているけれど、ショップと併設したギャラリーを作ったり、常にアートに近いところにあったのも好きでした。とくにマレの奥にあるアニエスのギャラリーは、写真のセレクトが抜群だと思います。
カール・ラガーフェルド、エディ・スリマンといった、メインヴィジュアルを自分で撮るデザイナーがいても、アニエスb.の功績が色褪せるわけではないです。

そういえば僕が初めて買ったブレッソンの写真集は、古本屋で見つけたもので、アッジェとブレッソンの薄い本がハードケースに収められた洒落た装丁で、アニエスb.が企画して出版したものでした。
ブレッソンの写真を見たとき、「これが自分の撮りたい写真だ!」と衝撃を受けたのを覚えています。アッジェの良さはすぐにはわからなかったけれど、散文のような美しい推薦文が添えてあって、理解の手助けになりました。
その僕が写真家になっているんだから、アニエスb.に大切なことを教わったと言っても、言い過ぎじゃないはず。

プレッピーの流行のあと、次はフレンチカジュアルが来るという声があって、実際にはそれより遅れて去年から今年にかけてフレンチ・アイビーを巻き込んでの流行になったようだけれど、またアニエスb.人気がやってくるとしたらすごく嬉しいです。黒と白のボーダーを買うとしたら、太い方かな、それとも細い方かな、と考えただけで胸が躍ります。

さてクイズです。
アニエスb.が、人気の定番であるボタンカーディガン(プレッションという名前だったはず)をテーマに、数十名の写真家に依頼して写真を撮ってもらって、それをまとめた写真集があります。
ここに日本人が選ばれているんですが、誰でしょう?

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