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ビジネス短編小説「とある国の最悪な総理」

〜〜閣僚会議〜〜

大臣A 「総理、このような見せかけの減税政策では国民は納得しません。これでは支持率も危険水域に・・・」

某K総理「・・・これでいいんだ。」

大臣B 「このままでは選挙にも影響が出てます!」

官房副長官「党の総裁選にも影響し、このままでは総理の立場も危うくなりますよ。」

某K総理「かまわない。全ては国民のためだ。」

大臣C「失礼ながら、侮辱的なあだ名をつけたりなど、国民は納得していません。もっと国民が喜ぶような政策を・・・」

某K総理「だから、すべては国民のためだと言っているだろう!」

閣僚「・・・・」

某K総理「これまで、この国は幸運なことに、欠点はありつつも政治は安定して運営されてきた。だからこそ国民は政治に興味をなくし、わからない、めんどくさい、投票しても変わらないと、国民が政治に参加しない国となってしまった。」

大臣A「それと、今回の政策にはどんな関係が・・・」

某K総理「そうした安定は、国民一人一人に与えられた権利、投票権という政治の監視のもとに機能していることを多くの国民は忘れてしまった。安定した政治や生活は、何もせずに当たり前に与えられるものと勘違いしている。しかしそれは違う。このまま放置していけば、きっとどこかでこの国は破綻するだろう。 だからこそ、国民は自らの権利を手放したとき、恐ろしい不利益があることを身をもって知る必要がある。」

官房副長官 「まさか・・・総理」

某K総理「そうだ。だから我が政権こそが悪となり、あえて国民を苦しめることで、国民に政治に参加する大切さや意義を伝えたい。それが国民のためになると考えている。」

官房副長官 「それでは・・・総理どころか、J党が崩壊する可能性も」

某K総理「この国は既得権益に蝕まれてきた。もう手がつけらえない末期のガンみたいなものだよ。生半可なことをしても治らない。内部をすべて変えるしかない。私がJ党が壊すつもりだ。」

大臣A「そんなことをしたら、あなたの政治家生命が終わりますよ!」

某K総理「私は、J党を崩壊させた史上最悪の総理として歴史に名を残すだろうな・・・・」

〜〜半年後〜〜

某K総理は解散を宣言した。大方の予想通り、国民の憎悪の的となったJ党は歴史的大敗。与党の座も奪われる。 某K総理も選挙区で敗戦、総裁の地位も追われた。

某K総理は、「J党を崩壊させた最悪の総理」として記録されることなった。 今回の選挙は、歴史的に投票率が低い選挙でもあった。

秘書「総理〜!先に行かないでください。」 もう何十年も見せていないであろう全力疾走で秘書が向かってきた。

某K総理「もう私は総理でもないし、議員でもないですよ。さあ、地元に帰りましょう。」

比例で当選した某K総理だったが、責任を取り議員も辞職。

国会議事堂を後にする某K総理の眼鏡には、雲一つない青空が映り込んでいた。


〜〜35年後〜〜

「とある国の最悪な総理」という本が発売された。 35年前の総理大臣にまつわる秘書の回想録である。

その秘書の30代の孫が、祖父からの話をまとめて出版したのだ。

この時、はじめて国民は某K総理の真意を知る。

35年後もこの国は劇的には変わっていない。国民はあいかわらず政治に不満を持っている。

しかし、35年前から変化したこともある。

若い世代は政治に問題を意識するようになり、政治に参加することが増えた。

立候補する若者が増え、国会議員の平均年齢は35年前の55歳比べて、大幅に下がり45歳となった。

投票率も大幅に改善され、大きな政党が安定して与党に居座ることが難しくなった。

各政党はSNSを活用して、常に国民の意見を必死に反映させようと奮闘している。

新秘書「総理!総理!時間になりましたよ!」

新総理大臣「よせよ。総理なんて気恥ずかしい。」

秘書「史上最年少の総理になったんですから、自信を持ってください。」

新しく任命された総理大臣は、纏め上げた回想録にしおりをはさみ、静かに机に置いた。


新総理大臣「すべては国民のために。最高の総理になる。さあ、行こう。」

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