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#099 「4つの品質」を意識して、上流で品質を作り込む

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品質を上げるために何か施策を打とうとする場合、上の絵のような工場の製造工程ばかりに目が行きがちですが、そこだけに注目していても、なかなか成果が出ないことがあります。


4つの品質

ここでは、「品質」を、以下の4つに分けて考えてみたいと思います。
こうすることで、自分たちの仕事のどこに本当の問題がありそうかを把握しやすくなります。

(1) 企画品質
(2) 設計品質
(3) 製造品質
(4) 使用品質

(1) 企画品質

「企画品質」とは、製品やサービスの企画書の品質のことです。

・本当に、その製品やサービスが顧客価値(=対価)につながるかどうか
・本当に、その製品やサービスが、企画書で想定した販売台数やユーザー数に届くかどうか
・損益計画は適切か

などが品質を計る指標になります。

この段階で起きそうな「品質不正(品質を悪化させてしまう担当者の行動)」の例としては、

・恣意的なユーザーインタビュー
    → 自分の考えた企画に都合のよいデータだけを集めてしまう
・自社の強みの過大評価
    → よく調べれば同じような技術は他社にもあるのに、それに気がつかずに自社の強みだと誤認してしまう
・過小なコスト見積り
    → この時点では、開発にかかる費用が30万円〜100万円くらいの幅があるのに、いちばん小さい30万円で損益を計算してしまう

などがあります。

この段階で企画に間違いがあると、その間違いを無理やり後工程で処理することになり、売れない商品を延々開発してしまったり、無理なコスト削減で不良品を作ってしまったりすることになります。

(2) 設計品質

「設計品質」とは、(1) で作られた企画書を実現するための設計書の品質のことです。「ねらいの品質」とも呼ばれます。

・企画書に書かれた顧客価値を実現できるかどうか
・機能要件で毛でなく、非機能要件(性能)が要求を満たしているかどうか
・計画通りのコストで実現できているかどうか

などが品質を計る指標になります。

この段階で起きそうな「品質不正」の例としては、

・使ったことのない新技術を未検証で使う
    → こうした新技術は、製造工程でいくら調整しても思った通りの性能が出なかったりすることがよくあります。
・性能の評価が甘い
    → ここで性能の評価が甘いと、お客様のところで期待通りの性能が出ないことになります。
・コストを過小に計上する
    → 生産に必要な部品の価格や、生産工程での人件費などを過小に計上すると、後工程で苦労することになります。

(3) 製造品質

「製造品質」とは、(2)で作られた設計書の内容を実際のサービスや製品に実現したときの品質のことです。

・企画書に書かれた顧客価値を実現できているかどうか
・安定した動作・サービスができているかどうか
・計画通りのコストでできているかどうか

などが品質を計る指標になります。
一般的に、「品質管理」という言葉を使う場合、この工程における品質を取り扱うことが多いように思います。

この段階で起きそうな「品質不正」の例としては、

・テストな性能評価が不十分な状態で出荷する
    → 基準の性能を満たしていない不良品が流出してしまいます。
・性能評価の結果を恣意的に改ざんする
    → 自動車業界などでたまにニュースなどになってしまうことがありますね。
・顧客に危害・危険を与えるリスクを残したまま出荷する
    → 例えば、衝撃を与えると電池が破裂する、といった不具合は、この工程できちんと試験をして検証しておかないといけないのですが、コストや時間に制約があると不正(工程を省く)ことになりがちです。

(4) 使用品質

「使用品質」とは、製品やサービスを顧客に届けて、実際に使用したときに実現する品質のことです。

・セールストークや広告と、実際の製品・サービスが一致しているかどうか
・商品の価値を偽ることなく、顧客へのメッセージを正しく伝えているか
・サポートは適切か

などが品質を計る指標になります。
ちょっとピンと来ない概念かもしれませんが、近年はこの使用品質に着目する会社が増えてきました。

この段階で起きそうな「品質不正」の例としては、

・広告が過大
    → 実際の製品では実現できていない性能を広告に書いてしまい、その広告に釣られて製品を購入したお客様ががっかりしてしまうパターンです。
・販売時の他社との比較が適切でない
    → 自社に有利なように、性能などの数字を恣意的に選んだりすると、ただしい価値が伝わりません。
・期待通りのサポートを行っていない
    → 商品に何か不具合があった場合、きちんと対応できることも重要です。

前工程で出た品質不良は、後工程では回収できない

一般的に、製品やサービスの開発は、
(1) 企画 → (2) 設計 → (3) 製造 → (4) 販売・サポート
という順番に進みます。

これと合わせて、各工程でチェックすべき品質も、
(1) 企画品質 → (2) 設計品質 → (3) 製造品質 → (4) 使用品質
というふうに移り変わっていきます。

ここでポイントになるのは、前工程で発生した品質不良は、それよりも後の工程で回収(修正)するのは不可能であると言うことです。
(もしくはすごく大きなコストがかかる)

例えば、企画時点で損益計画に問題がある場合、後工程の設計や製造でコストダウンを計画するのは極めて困難です。
また、設計時点で、どうやっても期待の性能を満たせないような設計になっていると、製造工程でどんなに作り方を工夫しても期待通りの性能を出すことはできません。

実際の品質改善の現場においても、製造現場で不良品が頻発してなかなか歩留まりが上がらないような場合、原因をきちんと辿っていくと、1つ上流の設計工程における設計が良くなかったりすることがあります。
そして、その原因を更に深掘りしていくと、企画段階で実は必要ではない機能が登載されてしまっている、といったこともあります。

工場での製造品質だけを見るのでは無く、上流の品質(特に企画品質)にも目を向けてみると良いと思います。

まとめ。

(1) 製品やサービスの品質を改善したい場合、品質を「企画品質」「設計品質」「製造品質」「使用品質」の4つに分けて考えてみると、見通しが良くなることが多いです。

(2) これら4つの品質は、「企画」「設計」「製造」「販売・サポート」という業務の流れに対応しています。各工程の出口においてこれらの品質を確実にチェックし、次の工程に問題を先送りしないことで、全体の品質を上げることができます。

(3) 一般に、品質というと「製造品質」に注目されることが多いですが、実は上流工程に問題があることも多いです。より上流の品質、特に企画品質にも目を向けてみると良いと思います。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)

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