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金融政策は、方向性を失って漂流を始めた

 日本銀行は7月31日の金融政策決定会合で、金利上昇を容認するとの決定を行なった。

 今回の決定を一言で言えば、「金融政策は、方向性を失って漂流を始めた」ということだ。

 「日銀は金融緩和から密かに脱出中」で述べたように、国債購入については、すでに緩和路線から脱却している。今回の決定では、それを「弾力的に行なう」と表現したに過ぎない。
 また、物価目標については、今年1月に達成時期を明記しないことにしたので、事実上目的から外されていた。今回、物価上昇率見通しを引き下げたが、これによって明らかになったのは、少なくとも2020年までは目標が達成できないだろうということだ。物価目標は事実上放棄されたと言ってよいだろう。

 残っていたのは、2016年に導入した長期金利を0%程度にするという金利抑制策である。これまではマイナス0.1%~プラス0.1%とされていたものを、変動幅を広げ、プラス0.2%までを容認する

 長期金利目標を弾力化せざるをえなくなったのは、明確な政策効果が現れない一方で、金融機関の収益性低下という明白な問題が深刻化したからだ。
 とくに地方銀行は、存立の基本が疑われるほどの事態になっている。この背後にオーバーバンキングという問題があることは間違いないが、金利抑制政策がそれに拍車をかけている。
 現在は金融機関が日銀に預ける当座預金のうち約10兆円にマイナス0.1%の金利を掛けているが、この範囲を5兆円程度にする。
 しかし、この程度で金融機関の収益が回復するとは思えない。

 「リバーサルレート」という議論がある(「緩和継続の日銀はリバーサルレート理論に反論が必要だ」参照)。 
 これは、緩和を長く続けていると、次第に効き目が薄れ、かえって経済活動を抑圧するようになるという議論だ。現在の日本は、そうした状態になっている。つまり、弊害の方が目立つということである。

 問題は、金融機関の収益低下だけではない。すでに国債市場は機能不全状態に陥っているし、株式市場も日銀によるETF(上場投資信託)の購入で動かされる不自然な市場になっている。

 こうした現状を直視すれば、今後金利を引き上げる方向に政策を転換すべきことは明白だ。
 アメリカ連邦準備制度は、2013年ごろからそのための周到な準備を開始していた。

 ところが、日本銀行は、長期金利の上限を0.2%程度まで容認する考えを表明したものの、今後も長期金利の抑制を続けるとしている(そのために「フォワードガイダンス」と呼ばれる手法を導入した)。

 仮に長期金利の上昇を本格的に認めると言えば、「日銀が金融緩和を停止できない理由」 や「金融緩和からの出口で、40兆円程度の損失が発生する」 で述べたように、金利が暴騰して金融市場が混乱する惧れがあるからだ。
 逆に言えば、「緩和継続」と言い続けないかぎり、日本の金融市場はもたないような状態になってしまっているのだ。


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