図書館ー2

『指輪物語』(The Lord of the Rings)(その1)

◇10回読んだのまでは、数えた
 『指輪物語』』(The Lord of the Rings)は、J.R.R.トールキンによる長編ファンタジー。 熱狂的なファンが山ほどいます。
「10回読んだのまでは数えたが、あとは分からなくなった」などと言う人がいます。それほどではありませんが、私もかなり読みました。
 トールキンは、オックスフォード大学の英文学教授。彼が第二次大戦中に書いたファンタジーが、1960年代のアメリカの学生の間で、突如として大ベストセラーになったのです。
 私は、当時留学生としてアメリカにいたので、よく覚えています。大学近くにある書店に、この本がうづ高く積まれていました。

 これは、当時のアメリカで、大学院生までもベトナム戦争に徴兵されるようになり、『指輪物語』が現実逃避願望の対象になったためです。

 大学生を中心とした反戦運動が、大きな社会的潮流となりました。ヒッピー文化が大学を覆い、ミュージカル『ヘア』が大ヒットしました。
 現実の政治家に絶望した学生たちは、「ガンダルフを大統領に」と真剣に叫んだのです。
 1972の大統領選挙でベトナム戦争からの一方的撤退を主張したマクガバンでさえ、学生たちの希望をつなぎとめることはできなかったのです。


◇地理が重要
 『指輪物語』は実に周到にできています。歴史もあります。言葉もあります。地図もあります。
 実に沢山の人名や地名が出てきます。
 しかも、地名(人名もそうですが)は、同じところを別の言語で言っている場合があります。それに加え、日本語訳はまた別なので、混乱します。
 それらを正確に覚えていないと、物語はまったく面白くありません。とくに、地理を知らないと、この物語は理解できません。

 逆に言えば、この物語ほど「勉強するほど面白くなる」ものはありません。それらに熟知した読者は、熱狂的なファンとなります。

 この物語の舞台であるミドルアースは、西ヨーロッパと同じくらいの広さです。
 ここには、人間の他、妖精エルフやゴブリンなどが住んでいます。

 妖精エルフは、人間族に追われてミドルアースを西に逃げる。そしてついには、大洋はるか彼方の大陸に渡ります。
 これは、アングロサクソンに追われて大ブリテン島の北や西端に、そしてアイルランドに追い詰められ、さらに大西洋を渡って新大陸に逃げていったケルトを想像させます。実際、彼らの言葉であるエルダール語は、ケルトのゲーリックを基としてトールキンが創作した言語です。


◇第1部「旅の仲間」
 物語は3部からなります。第1部「旅の仲間」の最初で、ホビット荘という平和な村に指輪が発見されました。
 そこに住んでいたホビット(小人)の一人であるフロドが、魔法使いガンダルフに導かれ、仲間たちとともに、指輪を棄却し破壊するための旅に出ます。

 途中で彼らは闇の冥王サウロンの手下である指輪の幽鬼、黒の乗手ナズグルに追われ、フロドは瀕死の危機に陥ります。そして、リベンデル(裂け谷)のエルロンドの館に逃げこみます。

 第1部では、ホビット荘からリベンデルまで約800キロ(東京から広島くらい)。フロドたちの日程では、約1月。
 そこからミスティ山脈を南に向かって約500キロで、地下の宮殿モリアに達します。
 そして地下を抜けて、エルフの森ロスロリアンに入ります。日程では、ロスロリアンまで約1月。
 そこから大河アンドウインを舟で下って、第一部の最後の場面までは、さらに約500キロで、日程では約10日。

 日程がなぜこんなに正確に分かるかというと、Karen Wynn Fonstad,The Atlas of Middle-earth (Houghton Mifflin,1981)というきわめて詳細なガイドブックに説明があるからです。
 私が最初に原作を読んだ頃は、ガイドとしてはこれしかありませんでした。いまではウェブにたくさん地図が出ているので、それを手がかりに出来ます。ただしFonstadほどよくできてはいません。

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目次(その1)総論、歴史読み物

目次(その2)小説・随筆・詩集

目次(その3)SF・ミステリー、科学読み物、画集

メタ・ナビゲーション(総目次)


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