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何で「インバウンド」なのか:ヘンな外来語

 外国人旅行客のことを、最近は「インバウンド」という。
 inboundとは、「本国行きの」という意味だ。例えば、日本航空の飛行機にアメリカから乗って日本に帰る便が、インバウンド・フライトだ。私は、この言葉を聞くと、「やっと日本に帰れる」と言う安堵を感じていた。だから、良い感情を持っていた。
 ところが、どういう訳か、数年前からインバウンドは来日外国人旅行客を意味する言葉になってしまった。「外国人旅行客」と言えば良いものを、なぜ「インバウンド」と言うのだろう?聞くたびに、私が好きな言葉を誤用されていると、嫌な気持ちになる。

 念のため、Webster's Third New International Dictionaryを引いてみた(辞書を引くなど、何年ぶりのことだろう!)。結果は、下の写真のとおりで「外国人旅行客」などという意味はない。
 したがって、中国人旅行客が日本に来るのは、彼らにとっては、「インバウンド」でなく、「アウトバウンド」である。彼らにとってのインバウンドは、中国への帰国便だ。
 成田空港での「インバウンド」は、日本に帰国する日本人のことである

 私は、日本語で済むのに外国語を用いるということに反対しているわけではない。私は外国語の使用については、かなり寛容である。
 先日ある週刊誌から取材があって、「高輪ゲートウェイ」をどう思うか?と質問された。「高齢者だから外国語の使用に反感を持っているだろう」との思い込みに基づく質問であったが、私は、「ゲートでなくゲイトだ」とは言いたいが、外国語の使用自体に反対はしない。

 外国語が本来の意味や発音でなく、奇妙にねじ曲げられて使われていることに反対したいのだ。例えば、PCのことを「パソコン」と言うのはまあ仕方がないとして、スマートフォンのことを「スマホ」というのは、どうしても耐えられない。インタビューが文字起こしされたとき、必ずチェックしなければならない表現だ。最近では、「スクリーンショット」のことを「スクショ」と言う人もいる。一体どうなっているのだろう。

 気になる表現は、外国語の日本語音訳にかなり多い。
 例えば、コンピュータの「ストーレッヂ」(記憶装置:storage)を「ストレージ」と言う。語尾が伸びて、だらしない感じになる。これでは、データが流出してしまうのではないかと心配になる。
 ところが、この表現はコンピューターの公式説明にも使われてしまっているので、いまさらどうにもならない。
 実は、....ageがつく言葉をこのように音訳するのは、この例に限らない。例えば「モーゲッジ」(担保:morgage)は、「モーゲージ」と音訳される(ただ全ての場合にそうであるわけではない。「レバレッジ」(leverage:てこ)は、正しく「レバレッジ」と言っている)。

 専門的な用語の音訳には、気になるものが他にも沢山ある。例えば仮想通貨の「エセリウム」 (ethereum)は、日本では「イーサリアム」になっている。本当のアクセントは第2音節なのだが、第1音節に変ってしまっている。これも、間違いが広がってしまったので、いまさらどうしようもないが、いつも気になって仕方がない。

 こんなことを言っていても、本当に無意味だと思わざるを得ない。いらいらするだけで、精神衛生上よくない
 それに、「それなら君は、ラジオと言わずにレイディオと言っているのか?」と言われれれば、反論のしようがないのも事実だ。

小言幸兵衛の日記(目次)





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