シェイクスピア『マクベス』の魔女に学ぶ説得法の極意
◇ シェイクスピアでビジネスのノウハウを得る
「シェイクスピア」というと、「何百年も前に作られた、かび臭い物語」と思っている人が多いでしょう。
しかし、いまだに書店に並んでいることから分かるように、設定を変えれば、現代社会で立派に通用するのです。というより、人間関係や人間心理の微妙さを理解するには、いま刊行されているどんな本よりも、役に立ちます。
彼の作品は、「読む価値があるか?」というテストに、400年以上もの間、合格し続けているのです。
「ノウハウを得られる」という実用的な意味においてすらそうです。今日出版され、翌週には消えてしまうビジネス書を読むより、遙かに有用なノウハウを得られることは、間違いありません。
『マクベス』では、説得術が学べます。
◇ 「社長を殺せ」と説得できたようなもの
『マクベス』のあらすじは、つぎのとおりです。
スコットランド王ダンカンの忠臣マクベスは、友人のバンコーと荒野で魔女たちに出会い、「いずれ王になる方」と予言されます。
それを信じたマクベスは、ダンカン王を殺害して、スコットランド王になりました。
しかし、殺害をそそのかした彼の妻は、精神錯乱に陥ります。
そして、ダンカンの長子マルコムが、イングランドの助力をえて、マクベスの居城を攻撃し、これを破ります。
マクベスは、魔女たちにそそのかされて、ダンカン王殺害を企て、実行してしまったのです。
つまり、魔女たちは、マクベスを「説得した」ことになります。
「説得」とは、相手の決定を変えさせること、あるいは、ある行動をとるよう決心させることです。
では、あなたは、見知らぬ通りすがりの人を呼び止めて、「あなたの会社の社長を殺してごらん」と言えるでしょうか?
こんなことを説得したところで、成功することなど、ありえないでしょう。
まず、誰も振り向いてくれないでしょう。
仮に振り向いたとしても、「社長を殺せ」などという大それた話に耳を傾ける人はいないでしょう。その場で警察に通報されてしまうかもしれません。
ところが、シェイクスピアの『マクベス』に登場する魔女は、この困難極まる説得を成し遂げたのです。どんなフィクサーも、これほど見事な人間操縦はできません。
こんな難しい説得が成功するのであれば、どんな説得もできるでしょう。
ですから、彼女たちの方法を研究する価値があります。
◇ いまの日本にもいくらでもある「マクベス的状況」
『マクベス』に似た状況は、現代の日本にも、いくらでもあります。
例えば、社長が息子に会社を継がせたいと思っているのだが、それに対抗して、実力派専務を中心に結束したグループが社内クーデタを企てる、といったことです。
専務としては、社長から受けた恩義もあり、なかなか企みに乗れません。しかし、専務がぐずぐずしていると社運は傾き、社員の生活は危うくなります。
こんな場合に、グループのメンバーが専務を説得するには、魔女の方法が大いに参考になるでしょう。
そうした場合以外にも、社内抗争を操縦してフィクサーになるための貴重な参考書になります。
社内抗争だけでなく、もっとポジティブで前向きの説得をする場合にも役に立つでしょう。
◇ 魔女の言葉は説得法の見本
では、魔女たちは、どのようにしてマクベスを説得したのでしょうか?
冒頭の場面、荒野で3人の魔女がマクベスに会ったとき、魔女は、つぎのように呼びかけました。
「グラーミスの領主マクベス万歳!」「コードアの領主マクベス万歳!」「汝はいずれ王になる」
(All hail, Macbeth! hail to thee, Thane of Glamis! All hail, Macbeth! hail to thee, Thane of Cawdor! All hail, Macbeth! that shalt be king hereafter! )
この場面は、普通は、魔女がマクベスの運命を「予言した」のだとされています。
しかし、「ダンカン王殺害をそそのかした」と解釈することもできます。つまり、魔女はマクベスを「説得した」、あるいは「操縦した」のです。
この説得によって、それまでの忠臣マクベスは、逆臣に変身します。そして、運命の坂を転げ落ちていくのです。
以下で述べるように、魔女の言葉は、実に巧みです。説得法の見本のようなもので、説得法の極意がここに凝縮されています。
私が読み取った「魔女の極意」を、以下に説明することにしましょう。
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