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ソフトバンクの法人税納税額がゼロであったことについて

 ソフトバンクの2018年の法人税納税額がゼロであったと報道された

 状況は、次のようなことだ。
 ソフトバンクは、2016年にイギリスの半導体設計大手、アーム・ホールディングスの株式を3.3兆円で買収した。その一部を、ソフトバンク・グループ内の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」(SVF)に現物出資で移管していた。
 会計上はこれに伴う損失は計上されていないのだが、税務上は、1.4兆円に上る損失が計上されていた。
 この損失額が2018年のソフトバンクを超えたために、ソフトバンクの同年の法人税の納税がゼロになったのである。

◇譲渡価格は適正であったか?
 これに対して、国税は、欠損金の一部は18年3月期の段階では確定していなかったので同期に計上はできないとし、ソフトバンク側も修正申告に応じた。
 しかし、それ以外の損失は認めたため、追徴課税が発生しなかったのだ。

 日本の法人税法では損失は10年間にわたって繰延ができるため、これをすべて使い切るまで、ソフトバンクの今後の納税額は減ることになる。
 この問題について私の考えを述べたい。

 第1に、取引で損失が発生した場合に事業の利益が相殺されてなくなるということ自体は、別に何の問題でもない。問題は、株式の評価である。これが極めて低いために損失が発生されたわけだ。今回の評価額が適当と言えるか?
 ここには、問題が2つある。

 仮に対象が上場株であるならば、客観的に価格付けされているものだから、問題はない。しかし、アーム・ホールディングスの場合には、上場廃止されていたので、客観的な価格は分からない。
 非上場株式の「時価」の算定には、純資産を根拠とするなど複数の方法があり、明確な決まりはない。取得価格より譲渡価格が低ければ低いほど、多額の欠損金が発生することになる。したがって、国税としては、ソフトバンクの申告が適正なものであるか否かを慎重に検討する必要があるわけだ。

 第二の問題は、この取引は外部との取引ではなく、グループ内の取引であることだ。
 仮に外部に売却したのであれば、余りに安く売却するようなことはないだろう。
 しかし、グループ内の取引であれば、グループ全体としては、損失は発生していないわけだから、節税のために意図的に低く設定することもありうる。
 こうしたことになっていないかどうかについても、国税は判断する必要がある。
 
 以上をまとめると、この取引は節税を目的として行われた疑いが強い。違法ではないが、適切なものかどうかについて、大いに問題がある。

 問われるべき第1の問題は、上の評価額に関する国税の判断だ。報道によると、ソフトバンクの申告通りに認めたようだ。国税のこの判断は、適切であったと言えるだろうか?

◇ソフトバンクは、利用者の反応を考慮しないのか?
 第2は、ソフトバンクの経営者の自覚だ。

 ソフトバンクは、インターネットの利用者に直接にサービスを提供している。このような事業で最も重要なのは、利用者の信頼を獲得することだ。
 そのためには、納税義務を果たしていることが重要な判断要因になる。

 巨額の利益をあげつつ法人税を払っていないことを、国民がどのように受け止めるか、利用者がどう受け止めるかを、ソフトバンクは考慮にいれていないのだろうか?
 巨額の費用を払って広告を行うより、こうした問題を真摯に考えるほうがずっと重要だと思う。





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