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どうでもいい話(2023年 1月分)


父親も、アレ⑤

魚屋を卒業し、学校が始まるまでの休暇で、ふと思い立った。

姉らは独立してしまったし、私も学校始まって卒業したら即働き出すだろうし、こんなに まとめて取る休暇は最後かもしれない。

そうだ、父ちゃん家に行こう。

ぶっちゃけ、お財布が潤っていたから、というのも有る。
当時、金沢に住んでいた父親。

んんー、乗り換え複雑だな…

遊びに行く時は いっつも姉らにくっついて行ってたから、イマイチ検索した電車の乗り換えが分からない。

調べていくうちに、小松空港から父親宅へのルートが簡単だったので、飛行機を使うことにした。

初めて独りで計画した単身旅行だ。
4泊5日だったかな?

とりあえず、行き方だけ決めて、他の予定は作らなかった。

父親は急遽の平日と言う事もあり、仕事で休みが一日位しか無かったが、行ったら行ったで独りでブラブラするかもだし。

こういう計画、いつも行き当たりばったりなんだな。

最寄空港のロビーで、初めてチケットを買う。
パタパタ回転する、飛行機の時刻表。

カッケェ!

カウンターの列に並んで、ずっと眺めていた。

気がするんだけど、コレ空港の記憶か…??
間違ってたらスンマセン。
多分、空港。

今では電光掲示板に代わり見る時無い。回転する主軸に付いた黒い板に文字が書かれていて、パタパタ音のする、アレだ。

飛行機代、ヤベぇ高ぇ(泣)!

ビックリするよね、万券数枚出すとか、ゲーム機の本体買った時だけだ。

小松空港に着けば、父親と従業員の方が迎えに来てくれていた。

「おー!○○ー!」

「わー!父ちゃーん♪」

人目なんか はばかりません ハグっ♪

「○○、おっきくなったなぁ!」

会う度にね、父ちゃんが小ちゃいんですよ。て、思ってた。
縦に短く、横に広い。

父親は車の免許証を持っていないから、従業員のお姉さん(?)が会社のレンタカーの運転手も担っていたみたい。

それにしても…珍しくお年が行った落ち着いた方を雇ったな…

いっつも、若いピチピチギャルなイメージだったもんで。
父親と ほぼ同年代だろうか。

怪しい。

後にね、父親が再婚するかも、みたいな話が上がった時が有ってね。

私、この方だったんじゃないかなぁって、睨んでんだよね。
ひょっとして、私に紹介を兼ねてたんじゃないかなぁって。

まあ、分からんけど。

当時一軒家を事務所 兼 自宅にしていた父親宅。

いや、こうして思い出してみると…

なあんもしてねぇな、私。
何しに行ったんだろう?私…

んんー、せいぜい父親と料理したり、事務用品で騒然とした仕事場がカッコイイ!と思って写真撮りまくったり…

何故か、トイレの写真まで撮ってた、私。
ただの民家だったんだがなぁ…謎過ぎですね(遠い目)

金沢観光のガイドブックも買って持って行ったはずなんやけど、どうにも私 出不精で、お家に居ると根っこがはえちゃうもんで。

時たま父親の煙草くすねちゃあ、台所の換気扇の下で吹かしてた記憶しか…

あっ!過去記事類から逆算しちゃダメっスよ!
ヤンチャ、そう ただの、ヤンチャ(焦) 若気の至り!

父親の部屋のやたらとドデカいベッドに、やたらとドデカいテレビで、ス○ーウォーズのDVDひたすら観てたっけなぁ。

そんなこんなで、特に何するでもなく、あっという間に最終日。

父親は作業が押して午前中仕事になってしまったけれど、私が帰る直前の午後には「どっか行こう!」と、誘ってくれた。
連れていってくれたのは、湯涌江戸村!

やったー✨♪!

めっちゃテンション上がったよ。だって好きなんだもの、時代劇。

ただね、ドライバー代わりの お姉さん(?)も同行する、という不思議なメンツ。

作業着の父親・若造の私・制服の お姉さん(?)のパッと見 親子なんだか何だか分からない一行。
入口のチケット売り場に着いた頃には閉園まで2時間位だったかな。

直前でチケット買ってたご夫婦がね、フリーパスでなくて 回数券みたいのを買っていてね。

それを聞きつけた、父親。

チケットカウンターに やや苦しい くの字に肘を着いて、格好つけた。

また売り子さんが可愛らしい女の子でさぁ。

「さっきのさぁ、ご夫婦が買われてたやん。『安いの』って、何なん?」

いや、何故に関西弁…
いや、私も使ってますけども。

説明を聞くに当時は、フリーパスより半額位で入場出来て、体験したい所だけチケットを渡す式らしい。

父親は、ようようと言ったんだ。

「じゃあさ、俺っちも、それ♪」
「──はい?」

売り子さん、聞き慣れない「俺っち」という古風な言い方、聞き取れなかったみたい。

「あ。僕らも、それで」

いや、父ちゃん…格好悪過ぎる。

て 思いましたよ、当然。

しかも言い直し「僕」にしちゃうしね。
一緒に居る 私たちの方が、恥ずかしくて他人のフリしたかったですよ。

金沢と言えば、金箔けんらん、加賀百万石。

…てね、思いついた単語を上げてみたけれど、時代劇は好きでも社会科が大の苦手な わたくし。

もれなく日本史にも明るくない。

かがひゃくまんごく、て何だろう…
なんか、内助の功的な話で大成した武家のようだけど…

戦国時代なのか?江戸時代なのか?
武将どころか、時代すらピンと来ない始末。

所々置かれている看板類に筆文字で説明が書かれていたような気がするんだけど…

歴史は分からないけど、お城・神社・仏閣・武家屋敷。
古い建物は好きだもんで、じっくりじっくり見歩きたい。

なんだが…てくてくてくてく…

父ちゃん、歩くの超速い(泣)

どんどん先に行っちゃうし、ついて行くのに必死。

「あれ見たい」「これ入りたい」言う余裕なんか、ございません。

歩み遅れる お姉さん(?)が気になって振り返り、前を向けば父親の背中は離れていく。

ああん、ラチがあかん!

結局ね、お姉さん(?)側について、父親をゆっくり追うことにした。
お姉さん(?)と並んで歩くも、全然話が弾まず、ほぼ無言。

物静かな方なのか話しかけてこないし、私は私で父親との関係性が気になっちゃって以外の話題が浮かんで来ない。

──デジャブ。

なんか昔、似たような状況に陥った記憶が思い起こされる…

先~の方の建物に向かい、父親が足を止めていた。

「○○!ここ、入ろう!」

何だろう?

ワクワクした少年のような父親に駆け足で近づけば、建物に指をさす。

──お化け屋敷、嫌ぁ!!!

てね、心の中で絶叫しましたよ…

だけど、私に拒否権は無い。
いや、別に無くはないんだけど。

お化け苦手だって、どう説明すれば良いのか悩んでいる間に、
父親はチケットを箱に入れ、中に入ってしまった。

うえぇん、置いていかないでぇ(泣)!

もうね、中がどうなってたかなんて覚えてない。
薄暗い通路の中、懸命に父親の背中を追ってた。

あの建物は、本当にお化け屋敷だったのか…?

もうね、父親の背中しか記憶に残ってない。
お化け屋敷だ…よね?

そんなこんなで、自分が行きたい見たいだし物も 特に見れぬまま、閉園の時間が来てしまった。

何しに来たんだろう…

お侍さん、忍者さん、演者さん達に見送られつつ、出入口付近まで下ってきた時だった。

──や、奴が居る✨✨✨

明らか誰か入ってるのが分かる、白くて ふんわりした薄手のボディ。
♫ニャ○まげ に 飛びつこう♪
にゃんにゃん♪

一度聞いたら頭から離れない、CMソング。

殿ちょんまげ がチャームポイントの、猫なんだか何なんだか よく分からん キモカワイイ(?)江戸村マスコット。

ニャ○まげ、である。

日光じゃなくても居るんだぁ✨!

当時の湯涌側にはニャ○まげ感 皆無。
居るだなんて思いもしてなかった。

──と、飛びつきたい…

もれなく、私も飛びつきたい。

だが 突然 飛びつこうものなら、ニャ○まげを驚かせはしまいか?
そもそも 本当に いい年こいて、飛びついても良いものなのか?

飛びつくか否か、思考が葛藤に占拠された。

力み加減が、全く分からない。

つぶらな丸長い目(?)が合うと、ニャ○まげ は私に向かって両手を広げた。

こ、これは!ハグサイン!?

「○○!写真撮ってもらえ!」

父親がニャ○まげ をファインダーに納める。

写真撮ってもらいたい…飛びついた瞬間の写真撮ってもらいたい…!

本当に飛びついて良いのかどうか、葛藤は続く。

頭が思考に囚われると、体はフリーズしてしまう、私。

なかなか近付かずに、じいっとニャ○まげを見据えたまま、静止た時が流れる。

「…何だ○○、怖いんか?」

「う?…うん」

別に怖くはないんだけど。
いや、意外と背が高い人で、若干 怖いか?

怖いって事にしておこう。

並んだ写真だけ、
撮ってもらおう。

ニャ○まげに、ジリジリと間を詰行く。
なかなか私が近付かず、父親との会話が聞こえていたのか、ニャ○まげは目(?)に握った両手を押し当てた。

「ほら、怖がってるからニャ○まげ泣いちゃったじゃん!」

はわわ!? ごめんなさい!ごめんなさい!

とは思うんだけど、飛びつけず。
物凄~く時間を掛けてニャ○まげに並んだ、その時だった。

ガッ!

ニャ○まげの手が私の肩を抱き寄せ、横向きにハグされた。

おおお✨…oh。

結構ね、ガッチリした方が入っていてね。
薄手の表皮を通り越した温もりが生々しい。

ちょっぴり、変○者に抱きつかれた感。
率直な感想、ごめんなさい。

お土産コーナーで ニャ○まげの耳かき だけ、買ってもらった。

…えへへ♪

ちょうど実家の耳かき買い替えたかった時期だったもんで。

父親には「そんなもんで良いの?」的な顔をされたけど、めっちゃ嬉しかったですよ♪

意外と掻き心地良くてね、今のは日光で買った二代目かな?
まだ使ってます✨
出入口の門を出れば、チケット売り場の前にも鎧武者。

「写真良いですか!?」

この方にはね、私から抱きついたよ。

鎧って、結構 硬いんだな。

こうして、ハグ祭りな父親宅への単身旅行は、幕を閉じた訳だ。

帰りも飛行機に乗った。

うん。高い旅費払って、ハグしかしとらんな(笑)

⑥に続く──

夢のマイホーム①

二度目の痴漢に遭遇した二十代半ば。

う~ん、やっぱ駅近に住みたいなぁ…

てな思いを抱きましてね。
引越し先を探してたんだ。

ちょうど更新時期だったし。

ローン計算すると賃貸で借りるのとほぼ変わらない月額で買えちゃうし、当時 頭金無しなんてのも増えてきていた頃かな。
社員に昇格して1年未満。
まだちょっと家を買うには早いかなぁ…なんて思いつつ。

将来的にローン完済しちゃえば生涯 賃貸家賃払うよりお得じゃね?てな感覚で、分譲・賃貸 問わず探していた。

ペット可で、駅近である事が最優先条件。

なかなかね、ペット可の物件で良いとこ見つからなくてね。

ううん、駅から離れるか、築年数が古くなるか…

検索範囲も結構広げた。

最寄り駅も住み慣れちゃってるから同じとこが良かったけど、下ってみたり路線変えてみたり。

賃貸は無かったけど、分譲は結構ヒットした。

ううん…家は欲しいんだけど、ううん…

転勤になってしまう可能性も無くはない。
なかなか踏ん切り付かないまま、良いなって思う中古物件が2つ在った。

そこ見に行こうかな~なんて思いつつ、なかなか踏ん切り着かない。

何故なら──

めっちゃ気になる新築マンションが建設中だったんだ。

駅徒歩一分。
家から降りたら、もう駅だよ。素敵過ぎる。

他のところは近くて徒歩十分。
あそこ、いつ建つんだろう?

最寄り駅も同じ駅。
ずっとね、建設してるのが気になってたんだ。

やっぱ、お高いんだろうな…

高嶺の花過ぎて見上げて指くわえてた訳なんだけど。

ぶっちゃけ、前回の引越し費用に家具家電一式、ついでにカブを新調したばかり。

貯金なんて、ほぼスッカラカンよ。

普段は通らない道を、カブを飛ばして仕事帰り。

──んん?こんな所に一軒家が…

よくよく見ると、家では無かった。

入口に建つ“モデルルーム”の看板。

え?ひょっとして、あのマンションじゃない?

そうなんだ。本当に偶然、前を通りかかったんだ。

うわー、めっちゃ見たい!
見るだけ見たい!

早速、次の休みで行ってみた。
冷やかし気分で覗くだけ…の、予定であった。

はわわ✨

新築の建物の香り立ち込める、オシャレなモデルルーム。

お上りさん状態で見回してれば、まあ、販売員さんに捕まるよね。

私も接客術の勉強だと思ったから、特に断らずにアレやらコレやらいっぱい話を聞いた。
コレだけで分かる人には分かっちゃうんだけど…

「フローリングの板間が広い!」
「扉の年輪が横向いてる!」
「廊下が広い!」

うん、あっこだよ。

とにかく、見れば見るほど聞けば聞くほど良いなって思っちゃう、魔法の空間であった。

もう、モデルルームの状態で良いから、ここに住みたい✨!
販売員さんの話を机に着いて、きちんと聞くことにした。

「最上階のこのタイプのお部屋が~」

oh…

べらぼうでしたよ(遠い目)

「そんなには出せない、ていうか、貯金もこれくらいしか無いんで、一番安いとこの話を教えてください」

現実問題を提示した。

「一番安いところは埋まってるんですが」
部屋番の一覧表で印の入っていない、下層階の2LDKが一つだけ、空いていた。

おおお、マジか✨

「こちらでお値段が~」

oh…

ご予算から軽く一千万オーバー。
販売員さんに計算して貰って、30年から35年ローンに長引かせて、ボーナス払い無しで…

ううん…ギリ、なんとか独りでも生活出来るな。

間違えた、2年目だ。まあ、大して変わらんか。

手取り的には やって行けても、ローンを申し込むには不足している。

ううん…

やって行けるって気付いちゃうとね、自分的には住む気満々な訳で。

「この お部屋、ちょっと確保しておいてもらえませんか?」

「本当は、取り置き出来ないんですが…」

本当は申し込みまで済まさないとダメらしいんだけど、担当の販売員さんがモデルルームの所長さんだたかな、確保してくれると仰ってくれた。

その日は冊子の資料を頂いただけで、帰宅した。

しばらく頭を捻り、思い付いた作戦が“共有財産”。

一人でローンが組めずとも、二人居れば、組めるんじゃね?

「ちょっと、良い話が有るんスけど」

白羽の矢を立てたのが、当時まだフリーで家庭事情が複雑で住居に難有り な、汚部屋の先輩だ。

行く末は資産になるし、駅近で価値も落ちないだろうし。

振り返ると、詐欺臭がするよね(遠い目)

先輩は気乗りしてなかったけど、一緒にモデルルームを見に行った。

もうね、家屋部分は勿論のこと、バルコニーだとか大はしゃぎで歩き回って、先輩も魔法に掛かっちゃった訳だ。

事前に調べたところによれば、バイトでも住宅ローンは組めるらしい。

先輩はまだバイトのままだったけど 勤続年数10年超えてるし手取りは私より少し上だし。

共有名義で申込書を書いた。
ローンの審査に必要な添付書類も、源泉徴収票に加えて毎月の給与明細も過去一年分 用意した。

「これなら大丈夫でしょう」と、所長さんに太鼓判頂いて、提携していた民間の一番金利の お安い住宅ローンの審査を受けた。

結果──

落ちた。

なんだってーッ!!?

審査通ると思い込んでたんだけどね。

困った困った、慌てましたよ。

一回落ちちゃうと、他の銀行の住宅ローンだって行方が怪しい…ていうか、金利が高い。

ううう~ん…

何度 申込んでも、落ちる気しかしない。

ならば、いっそ。

さらに審査厳しいイメージなんだけど、生涯 金利一律で安定した、住宅金融公庫に申込んでみようかな…

添付書類を更に厚く 給与明細も過去三年に渡り用意して、ダメ元でフラット35に申し訳んでみた。

これで落ちたら、ここまでだな。

ローン通らねば この家は諦めて、次を探そう。と決めたんだ。

結果──

通過した。

なんで?????

何で通ったんだか 理由は不明。審査基準が分からなすぎる。

あの頃も休日返上、休みの度に 役所行ったり モデルルームに独りで通っていたっけ。
独りで。

家を買うって、結構 大変なんだな。

過去に聞いたフレーズが頭をよぎる。

「人生最大の衝動買い」

まさに、それ。

しかも、私が悪いことに、先輩を巻き添えにしたからね(遠い目)

②に続く──

軒昂(けんこう)じいちゃん①

よく道端やら喫煙所やらで、お年を召した殿方に話しかけられる、私。

中でも対応に ちょっぴり困った…いや、かなり困った おじいちゃま が お二方。

何が楽しくて私なんぞに 貴重な 時間と お金を割くのか、皆目 見当つかんのだが。

世の中には物好きが居るものだな。

販売をやっていると視えてくるリピーターの傾向。

ざっくり大きく二つに分けると、“商品”に付くリピーター様、“販売員”に付くリピーター様。

中でも販売員に付くリピーター様は店舗異動になっても、お店を追っかけてまで付いて下さる、有難い存在だ。

自分にファンが付くのは願ってもない貴重な事。

「ファンを付けろ」て良く上司に言われたもんだっけな~。

特に私は いつまで経ってもパンツルックだったもんで「スカート履け」履け言われたもんだっけ。

「○○店の店長みたいに、可愛い格好すればファンが付くから」

なんて言われれば まんざらでもなく、可愛いスカート買ってみたりしたものだ。
初めてスカート履いた初勤務の日の呑み会帰り、痴漢に押し倒されたから、二度と お店にはスカート履いて出勤しなかったけど。

実際、脚立昇降に什器下のストック出すのに伏せたり、パンツ見えないように気を使わねばいかんから動きにくいし。

おっと、早速 脱線しとるな。

現役後半は、異動異動で めまぐるしく ファンが付く余裕など無かったが、最初の お店はバイトからで約三年半。

私の中では一番、勤務期間が長かった。

仮に、一人目の おじいちゃまをA氏としよう。
名前 覚えとらんし。

初めてA氏と出会ったのは、二年目を過ぎた辺りだったかな。

お買い物か何かで、お店に立ち寄られた。

「いらっしゃいませー!」

何か買われたっけかな?
多分、ウインドーショッピングで何も買われなかったかと思う。

A氏には商品説明を一言二言、後は「お取りしますので、お申し付け下さーい」と鉄板文句お掛けして、作業しながら傍観した。

最初はね、そんなに話した記憶は無い。

その翌日から、連日、ご来店されるようになった。

何でだ。

よく分からんが、何か買われるのかなって、特に何も買われない。

毎回、3時間くらい世間話を展開するんだ。

他に来客があればA氏はそっと離れて、通路から じいっと こちらを見て待っている。

客足が遠のくと、お喋り再開。

これが、毎回なんよ。

A氏が来店するようになってから、半年後。

ちょっと出勤するのも嫌になりかけていた、年明け過ぎ。

A氏から可愛らしい厚みのある封筒を渡された。

お客様から物を貰うだなんて…

頭が堅かった時期だから「頂けません!」て、かなり お断りしたんだけど。

「大した物じゃないから」

言われど私は断固として受け取らなかった。

他の お客様に呼ばれ、接客しているうちに、A氏は いつの間にか姿を消していた。

良かった、諦めたんだ。

と思い、お客様がお買い上げの商品を抱えてレジに入れば。

oh…

ポツンとレジカウンターに置かれた封筒。

えー、どうしよう…

とりあえず、中身 確認しよ。

バックヤードで こっそり開封。
中から出てきたのは…

L○OKチョコレート。

あ、本当に大した物じゃないや。

て 思っちゃったのは、内緒だ。

今日、バレンタインデーか…

家族や友達以外の、他人から頂戴した人生初チョコレートが、L○OKに なってしまったのだよ(しみじみ)

勿体無いから食べた。

悪い人では、ないんだけどなぁ。

お店に来られて仕事中に長時間滞在されるのが迷惑なだけで、話は弾むし、別に嫌いではない。

お店以外で お喋りすれば良いんじゃないか?

てな訳で、どうにか お店の外で会う方法を思案した。

ただ、自分から お客様を お茶に誘うのは、私の職務上の自念に反する。

A氏は 何も買われないから、“お客様”とするのも微妙なラインではあるが。

いつも身綺麗に小洒落た服装をなさっているし、趣味もダンスと仰られていた。

この お年の方のダンスって、社交ダンスかな。

ちょっぴり、社交ダンスは興味が有る。

社交ダンス習って、そこでA氏と会えば良いんじゃないか?

ワルツとか、ヒラヒラの綺麗な衣装着てみたい。
男役で格好良い衣装着るのも捨てがたい。

適当に近隣の社交ダンス教室を覗いてみようか、て ガチで思ってた。

だけど通勤中、電車の窓から見える教室の看板は いくつか在る。

見学に行ってみてA氏の所属している教室で無かったら、本末転倒だしな…
そもそも、社交ダンスのジャンルが分からない。
運痴な私では、チャチャチャなステップは きっと踏めない。

「ダンスって、社交ダンスみたいなやつですか?」

A氏に聞いてみる事にした。

「僕が踊るのは、バロックダンス」

…何ソレ???

全く聞いた時無い。
ハテナが盛大に飛びましたよ(遠い目)

「バロックダンスって、何ですか?」

「綺麗な衣装を着てね、発表会とかで踊るんだ」

それは、全ての社交ダンスに通じるものなのでは。

そんな話をした、翌日。

A氏に再び封筒を頂いた。
今度は薄いから中身は紙だと思うんだけど。

バックヤードで こっそり開封してみれば、中には一枚の写真。
oh…

その写真には、綺麗な衣装に身を包んだA氏の姿が写っていた。

バッハの様なパーマの白カツラ、ルイ13世の様な靴下にズボンの裾を納めた 華美な衣装。

“バロック”て、こういうことか…

この衣装で一体どんなダンスを踊るんだ。
もうね、想像も出来なかった。

運痴な私の手には負えないやつ。

ダンス作戦は、諦めよう…

その日からは なるべく、A氏と顔を合わせないようにに、スタッフや店長にお願いした。

「A氏いらしたら、私は休みだと伝えて下さい」

遠目にA氏の姿を視認すれば、レジカウンター下に しゃがんでみたり、バックヤードに引っ込んだり。

とにかく 逃げ回っていた、ある日。
一人で お店番をしている時間帯に、A氏と ばったり顔を合わせてしまった。

「今度、ダンスサークルが開かれるんだ。良かったら、来て」

oh…

A氏に再び渡された、封筒。

開くのも怖くって捨てられもしないし、家に持ち帰って独り ひっそりと確認した。

中にはサークルの日程など詳細が印字された
用紙に、綺麗な便箋。

A氏からの熱烈なラブレターだった。

あー…こういうことかぁ…

ここで ようやく、A氏からの好意に気付いた、恋愛音痴な私。

正直、困った。

「私は辞めた、と 伝えて下さい」

A氏と出会ってから約一年後。
異動を機に、店長スタッフ全員にお願いしましたよ。

②に続く──

夢のマイホーム②

当時所属していた会社では、転居をともなう地方転勤になると、引越し費用に家賃を支給してくれるとの事が分かった。

あ、なら家 買っちゃっても全く問題無いな。

むしろ地方に転勤になった方が良いかも、とすら思っていた。

理由は単純だ。

先輩とルームシェアが始まるからだ。
まあ、気心知れた仲ではあるし、生活リズムもズレてるし、別に一緒に生活しても問題無いとも思ってた。

色々と手続きが進み、十代の頃作った実印や印鑑証明を提出したり、銀行の本店に行ったりと、随分と話が纏まってきた。

初期費用に引越し代を差し引いてみれば、僅かばかりの貯金は ほぼ尽きる。

加えて駐輪場の問題が浮上した。

駐車場は一戸一台 完備されていたが、駅近なのも有りバイクの駐輪場が極少数しかない。

一台分づつ確保 出来たも、車は私の愛車の一台であるが、原付は二人で二台。

どちらかの原付は手放す事になるかもしれない。

え~…ヤダ。

ぶっちゃけ、私のカブは新車半年。
全然乗ってないし、乗り出し30近く飛んでんのに、売りたくない。

私のカブは先輩に使ってもらって、先輩のボロ原付 処分した方が。

ただ、困った事に私のカブは125cc。先輩は二輪免許は持ってない。

ううん…

迷うよね。

悩みに悩んだ結果、先輩に中免を取りに行かせる事にした。
一発は無理と言う。
まあ、分からんでもない。

だからと言って 先輩には相変わらず貯金など無く、私の言い出した事であるし、教習所費用全額 私が持つ事にした。

マンション自体は建設も終わり年明けには入居が始まるし、期間ギリギリ、今の賃貸アパートの更新前に引っ越せる、そんな状況であった。

そんな一月。
契約等の擦り合わせで先輩と顔を合わせた、ある日の事。
おもむろに先輩が口を開いた。

「入籍する?」

──えっ!?

話を聞けば、当面一緒に暮らすのだし、共有名義で家も持つし、ゾロ目の良き日に入籍してはどうか、と言うんだ。

「あ、あぁ…じゃあ」

こんな簡単にね、結婚決めちゃったんだよ。

いや、今までのアレやコレや何だったんだろう…

とも思いはしたが、結婚だとか家持つだとか、家庭持つのは当時まだ夢見ていたから、寝耳にボタ餅と思ってしまったんだよ(遠い目)

夫婦でも世帯主には各々なれるし。

勿論、挙式なんか出来る余力残って無かったから、入籍だけ。

夫婦別姓にしたかったが、当時は廃止された後だったので、私は先輩の苗字に変わる。

入籍届 提出に行けば、私も先輩も家庭事情が混みあっていたから、受理されるのに半日掛かり。

たったの紙切れ一枚なのになぁ…なんて、思っちゃった。

会社やら親友やらに報告して、保険証に電気ガス・カード類の名義変更に奔走した。
親友らや会社絡みで祝いの席を設けて貰ったりで忙しくしていた。

ここだけの話、母親にも店長にも猛烈に反対されましたよ。

私は私で頑固だから言うこと聞かなかった訳なんだが…
いや、人生の先輩方の有難い教示は、肝に銘じるべきである(達観)

おっと、お喋りが過ぎたな。

不動産屋さんにも、苗字が変わったって伝えたえないと。

「えッ!? ご結婚なさっちゃったんですか!?」

ええ、開口一番 驚きの言葉が出ましたよ…
確かにね、世間話で「結婚とかする仲じゃ無い」て、言っちゃってたしね。

「おめでとうございます…あー、えー…どうしよう」

契約関係は ほぼほぼ完了していた時である。
折角 記入した書類類、全部 書き直し・押印し直し するハメに。

申込が済んでいる銀行系から不動産登記の依頼書、駐車場の申込書なんかも。

うえぇ~…超 面倒臭い(汗)

合わせて住民票やら印鑑証明 等の添付書類も、新しい苗字記載のものを集め直し。

特に印鑑証明が、勿体無かったたっけ(遠い目)

世の中の仕組みを知らなかった十代末に作った、結構した実印。

苗字をね、入れてしまっていたのだよ。

一応 役所の窓口で尋ねれば、旧姓はダメって話になりまして。

一応、千円くらいの新姓 苗字のみ判子と、何か知らんが 昔 母親が作ってくれた“名前のみ”の印鑑を持って行った。

聞いた話だと、実印登録は姓名の名の部分、“名前”の判子で出来るはず。

窓口で尋ねれば「出来ますよ」との事だったので、名前の判子で用紙を記入した。

これがまたね、漢字なのか分からん流麗な書体の文字の判子でね…

「え…この漢字、何て読むんですか?」

知りません。

名前を告げれば、首を傾げる役所の方。

「ええ~…この漢字、合ってるのかなぁ…?」

分かりません。

せめて何の書体なのかくらい分かってれば、早く済んだのかもしれない。

役所の方は使える漢字の一覧を見たり、辞書を開いてみたり。

なんか、大事になってきた(焦)

終いには電話で方方に尋ねて回って下すって…

今更、苗字でいいとか言い出しにくい空気。

え~…漢字 間違ってたのかなぁ…

なんて事すら頂き物だもんで、自分では見当つかない。

「あ、大丈夫です!使えるって!」

上司に過去の担当から有識者にまで聞き回り、ようやく合っている事が確認出来た。

貴重な お時間浪費させてしまいまして…ありがとうございます(礼)

もしもね、新規で実印作成を考えている方がいらしたら、苗字は入れないで 名前だけで作った方が良い。
一生物にするんなら、女性に限らず男性も、今の世の中 何が起こるか分かりませんからね(遠い目)

こうして入籍による “名義変更” という不足の事態が発生した事で、入居時期が延びてしまったんだ。

そうです、退去予定が延びたんです。アパートの更新時期が、過ぎちゃったんですよ(泣)

数日くらいなら何とかなったかもだけど、数週間。
結局ね、更新費用も支払う羽目になりました(号泣)

ヤバイ…財布がヤバイ!

退去によって返還される敷金も、いつ戻るのか 戻るかすらも分からくてアテにならん。

新居に引っ越して ものの数日、直面した生活費不足。
もうね「新しい家だー✨」だとか喜ぶ気持ちの余裕なんか、ございません。

こんな時、もの凄く助かったのが、親族・親友・会社関連 お知り合いの方々が包んでくれた“御祝儀”たち。

軽く月給位 有る。

くうぅ…コレは残しておきたかったんだけど…
数万だけ、使わせてもらお…

折角の結婚だし、式は無理でも記念の写真ぐらいは撮りたいから、その費用に当てたかったんだ。

祝儀袋を開いて、難を逃れたかと思った、翌日。

「負けたー!」

何だとッ!!?

先輩がパチスロで大負けやがった。

「お小遣い、ちょうだい!」

何してくれんだ、テメェ!

一度 小遣いやってしまえば、「無くなれば貰えるもんだ」と過信するのが心情らしく…

数日経たずに同じ会話。

こんなことが度重なって、怒りながらもやってしまう私が悪いんだけど…

私が貰った、御祝儀なのに(涙)

スンマセン、御祝儀ほぼ全部、旦那のパチスロに消えました(土下座)

③に続く──

─おまけ─裏書き

免許証の裏面、備考欄。
そうそう埋まらないじゃない。

昔の事だから臓器提供意思欄も無くて、行数多かったんだけど…

転居に転居で欄が埋まってしまっていた。

この状態で 追記が起きたらどうなるんだろう?

ワクワクと警察署に、本籍・氏名変更・転居の知らせをしに行った。
裏書するのに窓口で渡して、戻ってきた免許証。

「内容間違ってないですか?」

裏側にペロッと一枚、備考欄の紙が貼られていたんだ。
下側だけ接着してあって、以前の備考欄も覗ける仕様。

おおお✨凄ーい!

感動した。
なかなか なる状態じゃ無いよな。

二枚目の備考欄も、ほとんど いっぱい。

うん、住所も 本籍も 新しい苗字も、全部合ってる。

「大丈夫でー…」

す。と言いかけて、ふと思い出した。

私の名前って、良く間違って書かれるんだよな~。
まさかね。データ引っ張ってるんだろうし、無いでしょ。

──oh…

間違ってた。
要らん へん が、付いちゃってた。

「名前の漢字が…
あ、苗字は合ってるんですけど、下の名前の漢字が違います」

「えっ!?ごめんなさい!」

てな訳で、名前を二重線で消してもらって、追加で直してもらった免許証。

裏書欄が足りなくて、二枚目が貼られてた。

おおお~✨

面白いので、方方で見せびらかしましたよ。

コピーするのは、面倒だったな。

夢のマイホーム③

“結婚は人生の墓場である”
よく耳にするが、言い得て妙だと痛感している。

旦那は毎月10万円、家賃と生活費で入れてくれてたけど、間髪入れない「お小遣いちょうだい!」攻撃に負け、ほぼほぼ返還している始末。

──昔より酷くなってるな。

このままでは、自身の財政が危うい。
長年見知った仲であるし、愛は無くとも、情は有る。

私には「家を護る」という、確固たる信念が有った。

母親の背中しか知らないんだから、自分が そうなっちゃったのも 仕方のない話。

加えて、30歳迄に綺麗なドレス着て写真撮りたい、なんて夢が出来ていた。

──貯金が出来ん。

どころか赤字。
財布が別で各々管理しているのが、一番の要因だと結論着いた。

これって お小遣い制にして、お財布一本化 出来ないかな。

仮にも夫婦であるんだし、そのくらい言っても良いのでは。

という訳で、正座して対面に旦那を座らせ、切り出してみた。

旦那も旦那で自覚は有ったらしく、通帳を渡してきた。

毎月四万円+呑み会がある時は追加、その中から渡す事で同意を得た。

はあぁ…ようやく安心出来るかも…

なんて、ぐっすり眠れると思ったら大間違いだった。

「お小遣い、ちょうだい!」

──は?

お小遣いを渡した翌日である。

アイツ、ひと月分の お小遣い 一日で使って来ちゃうんだよ(遠い目)
度重なれば数ヶ月、追加追加で どんどん酷くなる一方。

ええい、ラチがあかん!

お小遣いを纏めて月初に渡すからいけないんだ。
面倒だけど、日割りにするしか。

昼飯とタバコ代で一日千円、月初に一万円。
トータルで四万円コースを打診した。

毎朝テーブルに必ず置く、と約束し 渋々同意を得た。
毎日千円札用意するとか、めちゃんこ面倒臭い。

結婚した事で、金銭感覚崩壊している人間を教育し直す、要らん苦労を背負ってしまったのだよ。

「呑み会代ちょうだい!」

月初の一万円はどこに消えてたんでしょうね。

家具・家電類は私の持ち込みだけど、良いとこ越したんだし、色味とか揃えたい。
少しづつ少しづつ、二万弱の普段なら買わない価格の家具を買えるようになってきた。
エアコンなんかも分割ボーナス払いで。

…あれ?変だな。

旦那から預かった通帳、思ってるほど増えないんだ。

ええ、お気付きですね。

アイツ、私の財布からキャッシュカード抜いて、こっそり下ろしてたんだよ。

私が持ってる意味無いじゃん(怒)

という経緯で旦那の給料日に全額下ろして、生活費用に作った口座に移すようになった。

絶対、私の暗証番号 アイツに明かすもんか。

そんな決意をしましたよね。

各々の携帯代も電気ガス水道も住宅ローンも、引落 私の口座だし。

ふぅ、これで安心…な訳なかろう。

コンビニで税金類の支払いしようと財布を開けば…

「あッ!スイマセン!ちょっと足りなかった!」

なんて事が度重なりまして。

最初のうちは、計算間違いかな~?て、思ってたけど…

まさかと思い、財布の中の金額チェックしてから眠るようにしてみた。

朝。

減ってる!やっぱり!
小学生かよ!!!

財布に入れてる現金が減っていくんだよ。

あ゙あ゙も゙ぅ!!!

財布に現金入れてられなくなりましたよね(遠い目)

助かることに電子マネーが広がりつつあったから、脱現金主義し易かったけど。ポイントも貯まるし。

そのうち私も体調を崩しがちになって、折角の台所に立つことも ままならなくなり。
晩飯の材料買出しだけはして、あとは適当に冷蔵庫の中身使って下さい状態に陥った。

消耗品の買い忘れやら何やらあって、そういう時は旦那に電子マネーのカードを渡して、代わりに お使い行って貰うんだけど…

これがさ、イ○ンのWA○N付き口座だったのよね(遠い目)

勿論、暗証番号は知られてない。
毎月三万くらい、晩飯と私の小遣い用でチャージしてたんだけど…

アイツ周到でさ、WA○N残額チェックして限界いっぱい要らん買い物してくるんだ。

何度 怒ったか分からんよ(遠い目)

高額チャージしないで、お使い頼まなければ良いだけの話と、思うじゃない。

そんな甘くない。

残高不足で、引落し出来ない月が何度か有って。

何でだ???

と、入出金画面開けば…

3000円のオートチャージの文字。
それも、同じ日にMAXの3回とか。

私そんなに使ってないし!

アイツ、残高が減ると電子マネーがオートチャージされるって気付いちゃってね。

私の財布から勝手にWA○N抜いて、買い物してたんだ。

うえぇん、面倒臭い(泣)!!!

速攻、便利なはずのオートチャージ設定、offにしましたよ。

「魔法チャージされなかったんだけど!?」

お使い頼んで慌てて帰って来た旦那。
残高不足で色々とレジでキャンセルして、恥ずかしい思いをしたらしい。

ははん、ざまぁみろ。

「このカードは、魔法ではない」

口座から自動でチャージされて、その分 残高は減るのだよ。

て、誰でも分かるような常識を、説説と説き聞かせた。

私も私で一度緩んだ財布の紐は締まらんし。

こんな状態で、数年経過。
気付いたら目安だった30歳乗ってた。

ウェディングドレスですか?
もちろん、着てませんよ。

④に続く──

母親は、アレ⑬

愛情は時に狂気に変わる。

こと実家に居た頃、ほぼほぼ相手にされていなかった分、私の母親は放任主義なんだと勝手に思っていた、10代末。

緊急性の無いメールの返信を30分遅れただけで 矢の催促、追加メールや着信で埋まる履歴欄に恐怖していた20代。

変貌ぶりに ついていけない。

道端の草、道路標識etc…

別段 面白い内容でも無く、返信する文面を考えるのにも一苦労。

自分も体調が傾いていた頃、そんなん いちいち返信する余力なんか無い。

埋まるメール履歴欄に辟易とし、イライラは募る一方だった20代末。

──付き合ってらんない。

メールを着拒した。
限界だったんだ。

母親も再婚していたし、私も家庭を持った事だし、お互い それぞれの家事に集中すればいい。

そんな思いだった。

流石に電話は身内等に緊急事態が起きた時、無いと困るので生かしておいた。

メール着拒して一年位かな。

どうでもいいメールが届かないって素晴らしい✨

安寧の日々だった、もの凄く。

『なんかメールエラーで戻って来ちゃうんだけど』

機械に疎い母親、とうとう気付いてしまった。

──ショートメールめ(泣)!

そうなんだ、ショートメールが届くように なってしまったんだよ(遠い目)

まあ、文字数制限50だし、当時は画像添付 出来なかったから前よりはマシだけど…

メールエラーの件は のらりくらりと、着拒してるだなんて口が裂けても言えません。

それでも返信しないで、着信も無視し続けてたんだけど…

お分かりいただけるかな…難しいかな。

母親からの何でもない内容のメールは、私にとって恐怖の対象。

履歴欄に『○○(母親の新姓)』表示された日にゃ、ひいぃえぇ(号泣)
もの凄く嫌なんだ、もの凄~く(現在進行形)

その内、メールまめ だった以前の私は どこへやら。

履歴欄見たくないが為に、友人知人のメールにすら、即 返信しない癖が付いた。

時系列は前後するが、離婚後間もなく寂しさから母親のメールに返信してしまった30代半ば の話。

独り暮らしに体調悪化、
ほぼほぼ寝ずっぱりで、ボケ~ッとゴロゴロ生きていただけの時代。

何も出来ない私を心配するのは、母性だと思いたい。

住所はバレているから、逃げ場は無い。

オートロックのマンションだから、来られたところで、ピンポン無視ってれば家には来れない。

母親からの来訪を告げるメールに返信せず。
階下で鳴る呼出チャイム音にメールに着信の応酬。
布団を頭まで被り、母親が諦めて帰るまで やり過ごそうとしていた。

私は留守です、私は留守です、私は留守です…

しばらく鳴り止まなかったチャイム音が途切れた。

ああ、やっとこ諦めたか。

安堵の息を吐いたのも、つかの間。

──♫ピンポ~ン

ハッとした。

この音、玄関前のヤツだ!

階下と音色が違う、玄関前の呼鈴。

ぃぃぃ嫌あああああッ(号泣)!!!

誰かに便乗して、オートロックの自動ドアをクリアされたんだ。

♫ピンポンピンポンピンポ~ン

うるせぇッ!

イタズラの如く連打される呼鈴に、我慢の限界に達した私。

ガチャリッ!

「あ、○○生きてたー!良かったあぁ!」

「いや、生きてるよ。母ちゃんこそ…何してんの?」

玄関ドアを開けば、半泣きでスマホを耳に当てている母親の姿。

「アンタ死んでんじゃないかと思って、鍵屋さん呼ぼうとしてて…」

何だとッ!!?

「あ、娘 生きてたんで大丈夫です」

通話を切る、母親。

危ねぇッ!

あの家の鍵、ディンプルキーだよ。
下手したらドリルで壊されてた。
少なくとも 鍵屋さんに開けられちゃったら、鍵変えなきゃだった。

いや、鍵屋さん呼ぶ前に管理会社だとか警察だとか、有事の際に連絡すべき所は有るだろうに…

色々ツッコミどころ満載過ぎ「やめて」としか言えない。

母親の強行を未遂だが目の当たりにした事で、訪問回避に居留守が使えなくなってしまった。

なるべく穏便に、穏便に…

いちいちピンポンに出るのも面倒臭いが、家の合鍵渡すのも嫌。

合鍵、作れなくはないんだけど…
三千円位するんよね。

「ディンプルキーだから、作れない」て、頑なに答えてた。

分ける程の話でもないし、このまま一気に 30代半ば5畳半 の恐怖体験を語ってしまうかな。

─ロッカー納骨堂─

母親からのショートメールで、ロッカー納骨堂を契約したと聞いた。

ご主人側の お墓が在るのに、何故に…?

聞けば「前妻と同じ墓に入りたくない」てな理由だった。

分からなくもない。

訪問して来た母親がベッドに腰掛け、おもむろにカバンから紙を差し出して来た。

「アンタにも書いてもらおうと思って」

oh…

姉二人の署名・押印がされた、ロッカー納骨堂の同意書だった。

この用紙に署名してしまうと、私も ゆくゆくは同じ墓に入れるのだと言う。

えー…ヤダ。

死んでまで母親と一緒に居たくない。
死んだら自由になりたいじゃんか。
何か、適当に理由付けて回避せねば。

私は対面に正座して、片手を垂直に開き、用紙の受け取りを拒んだ。

「暗い墓に入る気は無いから」

「暗くないよ、明るくて綺麗な所だよ」

そうでしょうけども。

「狭い空間に押し込めれたくない」

「永代供養で、誰かが墓参りに来たら出て来れるんだよ」

母親が契約したロッカー納骨堂のシステムは不明だが、立体駐車場みたいな感じかな。

「私の骨は、海に撒いてくれ」

この台詞、何度 繰り返した事か。

終いに母親は泣いてしまったけれど、私も私で意志を貫き通した。

だって嫌なんだもん。

─郵便─

月に一度の来訪に加え、月一の手紙・月に二度 食品が入った小包が送られてきていた。

いやさ、わざわざ送って来ること無くね?来てんだしさ。

小包に貼られている送料は一件700円オーバー。
もの凄く、勿体無い。

しかも中身は冷蔵しなくて良い粉末スープがギッシリ。
もの凄く、困った。
電気ケトルが在れば少しは消化したかもしれないが、生憎と元旦那にくれてやったし。

いちいちガスコンロで湯を沸かすのも面倒だ。

時々入っている少量の菓子類は食べたけど、乾燥スープは箱のまま積まれていく一方。

「送料が勿体無いから、食品送らないで」

「送りたいもの、沢山有るんだよ?」

いや、訪問の時にスーパーで買えば良いじゃん。

「乾燥スープ、面倒臭くて食べないから要らない」

「お湯くらい沸かしなさい!」

そうなんだけれど。
月一箱に減らす事で、渋々 了承は得た。

断れど断れど入っているのは乾燥スープ…
もう少し、腹の足しになるもん入れてくれんかな。

ある時、レトルトカレーとパックご飯が三食くらい入っていた。

おおお✨こういうの、こういうの!

「カレーめっちゃ美味かった!送る食品、全部レトルトカレーにして!」

こうして半年後、脱・乾燥スープに漕ぎ着けた訳だ。

え、食べなかった乾燥スープ類ですか?
当時のパートナーが持って行きましたよ。

─郵便・続─

便箋数枚に癖のある文字、必ず同封されているのが、付箋が貼られた新聞の健康系切り抜き記事…

母親からの手紙、読むのも嫌(現在進行形)。

郵便受けにはチラシに督促状etc…
もうね、満タンにならんよう持って上がるだけ。

「後で見よう」だなんて部屋の隅に積んで、雪崩が起きてた。
チラシぐらいは捨ててたけど、封筒・ハガキ系は開かず届いたまんまの状態。

結構ね、長期間そのまんま開封しないという悪癖がついていた。

こんなんだから電気ガス水道、支払い忘れで止められちゃう事も よくあったんだけど。

それは置いといて。

ある時、部屋のゴミを纏めていて、ふと気付いた。

──あれ?なんか、少なくない?

山になっていた筈の郵便物、半分くらいに減ってんだ。

既に母親が来訪時、ついでに掃除してくれていた頃。

えー、捨てられちゃったのかなぁ(汗)

一応ね、中身は自分で確認してから破棄しようと思っていた封筒類。

何か大事な内容の封筒が紛れてたら、どうしよう…

捨てられてしまったものは、放置していた自分が悪いのだし、仕方がない。

一応「郵便物、勝手に捨てないで」と、忠告だけはした。

翌月──

やはり目減りしている郵便物の山。

も~!捨てないでって言ったのに(怒)!

確か身内であれど、宛名人以外の人間が郵便物処分するのは、犯罪だったような。
「親展」記載の封筒も在ったし。
これは、ちゃんと言っておかねばいかんな。

決意していた、次の母親の来訪日の事。

「はい、コレ」

母親から、A4サイズの黒い百均のジップポーチを渡された。

何コレ。

ジーッとジップを開いて中を覗いて、全身総毛立った。

ひいぃぃいッ!!?

中から出てきたのは、クリップ留めの用紙類に、カレンダーの裏紙…

捨てられたと思っていた封書類が、カテゴリ毎に仕分けされ、お世辞にも見易いとは言えない 手書きの一覧表 付き、で 戻って来たのだよ。

怖いッ(号泣)!!!

他人には見られたくない負債系も、バッチリ計算されていたりね(遠い目)

恐怖、でしかないよね。

「…母ちゃん。いくら身内とは言え、許可無く他人の郵便物を開封するのは、犯罪だからね」

「アンタが放っぽっとくのが悪い」

いやまあ、そうなんだけどさ。
不愉快この上無いのも、また事実。

「とにかく、もう二度とやらないで」

言ったところで、母親が一度で理解出来ない事は、熟知している。
かと言って、一度染み付いた悪習が治るかと言ったら、別問題で。

──とりあえず、郵便物 持っていかれていないかの確認だけしとこ。

母親の来訪の度、山になった封筒の高さを測るくらいしかチェック出来なかった。

数ヶ月後。

必要な文書が、探しても見つからない。

もおお!だから言ったのに!

加入していた生命保険保険関係の、ハガキサイズの小さな通知。

届いた期間的には、母親に郵便物を纏められた頃合。
ポーチの中身を全部あらためたが、入ってなかった。

ひょっとして…このポーチ、持っていかれた全部が入っている訳じゃない!?

よくよく確認すれば、DM系 優待封筒類は入っていない。
捨てられてしまったか…と、諦め再発行を依頼しようとスマホを開いた。

んだが。

──半年以上経過しているし、ゴミと思ったら普通は捨てるよね。

普通ならね、普通なら。

「まっさか~」と思い、先に母親に電話してみた。

「いつか母ちゃんが纏めた郵便、他のって残ってないよね?」

『在るよ』

怖ッ!!!

自分宛の郵便物が長期間母親宅に在るという事実。
私的には、もの凄く恐怖だったんだけど…お分かりいただけるかな。

「…その中に生命保険の通知無かった?ペロッて開けるハガキくらいのやつ」

かくして、母親宅で大切(?)に保管されていた大事な通知は再送依頼し、取り戻す事に成功した。

─合鍵─

都会の五畳半から、田舎に引っ越す事に決めた。

だって家賃とか ほぼ半額なのに2DKだよ。
築半世紀近いけど、鉄筋でペット可だよ。

田舎、素晴らしい。

──母ちゃんに新居の住所、教えたくないなあ。

なんて思うが、引越しの荷物纏めも1~2日で出来る体力なんて無いから、気取られる。
引越しの件は こちらから切り出し、新住所も先に伝えた。
自ら抜刀したんだ。

だって、また個人情報抜かれたら、怖いじゃん。

「新しい所の合鍵、ちょうだいよ」

えー…ヤダ。

母親からの申し出に嫌と思うも、新居の鍵は普通の鍵。

今までみたく「ディンプルキーだから」作れない作戦は使えない。

引越してから3ヶ月くらい。

度々の催促に重い腰を上げ、近くのショッピングモールへと足を運んだ。
真っ直ぐ向かったのは鍵屋さん。

「合鍵6本、作って下さい」

「6本、ですか?」

やや不審がられたが、合鍵を作成してもらった。

何で こんなに大量に作ったかって…

母親だけに渡したく、ない。
いっそ、姉に親友らにも配布しよ。

範囲を広げれば、合鍵作るのも渡すのも嫌じゃない。

親友らにも「思うところが有るから」て各々 渡したら、理由も深く問わずに快く受け取って貰えた。

姉らの記憶は無いんだが、顔を合わせた時にでもペロッて渡したかな。

たかが合鍵一本が為に、巻き込み過ぎ。

─資源ゴミ─

調剤薬局で処方される お薬類。

お薬手帳のシールとは別に、A4サイズに画像付きでプリントされた薬の詳細情報の書かれた用紙も貰える。

新規の薬が処方されたり、ジェネリックに切り替わったりすると目を通すが、以外は内容同じだし、そう毎回見るものでもない。

うっちゃっちゃう。
一番新しいの一枚残し、溜まってきたら他の資源ゴミと一緒に古紙回収に出す訳だ。

古紙回収用の箱も用意してるんだけど、どうしても その辺に置いてしまうのは、私の悪い癖。

ある時、母親の訪問時。

今程 気持ちに余裕も無くて、喋る気なんか起きず。
うたた寝している間に、母親が掃除を始めた。
そう長時間眠れもしないんで、ふっと目覚めた私はベッドに寝転んだまま。

目前では母親がテーブルに向かって、辺りのゴミを纏めていた。

会話回避で狸寝入り。
静かに ぼんやりと、母親が雑紙を片付ける様子を眺めていた。

とある一枚に、母親の手が止まる。
掲げられたのは、お薬詳細情報の用紙。

──うわ、嫌だな。

舐めるように じっくりじっくり熟読している。
もの凄~く、嫌。もの凄~く。

嫌だけど、狸寝入り中なので止められもせん。
そもそも どう言えば、言い合いにならずに済むだろか。

なんて打開策を考えているうちに、パッと母親が背筋を伸ばし私に向いた。

あっ!私は寝てます!

次の瞬間、母親の挙動に目を見張った。

母親は私が寝ている事を確認し、他に誰も居ないのに辺りをキョロキョロ見回すと、サッと自前の鞄を引き寄せ グッと用紙をねじ込んだ。

めちゃめちゃ怖かった。

一言くれれば、あげるのに…

私 あの人の事、ストーカーだと思ってますが、何か。

⑭に続く──

高校ひとコマ②

昨日、笑○観てて思い出したので。

なんか前に書いた気もするんだがパッと見無かった件、既出だったらスマソ。

大○利のお題で「ダメダメな遅刻の言い訳とは」というのをやってた。

そう、遅刻…遅刻と言えば、私。
何を隠そう、大の遅刻魔である。

理由なんて、ひとつしか無い。

"寝坊"である。

公立高校時代、遅刻すると授業中の教室に直で入れず、"入室許可証"なるものを提出せねばならんかった。

入室許可証を発行してもらうため、下駄箱で上履き履いたら 向かうのは"生徒指導室"。

入口付近のバインダー用紙に、年組氏名・遅刻の理由を記入する。

もの凄く、面倒臭い。

一行書いただけでペロッて貰えちゃう紙だから、遠回りせねばならん分、本当に面倒臭い。

いやね、遅刻すんなって話なんだけども。

ある日、一時限位だったかな、遅刻した。

もちろん全速力でチャリンコ漕いで、遠回りな電車バスのルートをショートカットした上で。

多分、自転車の方が早い。多分。

だが、間に合わなかったものは致し方ない。

いつも通り、生徒指導室に寄って、バインダーの前に竹刀を片手に座る強面の男性教師に申し出た。

「入室許可証ください」

「ん、これに記入して」

毎度思うがこの先生、何科の先生なんだろう…

恐らく生徒指導顧問ではあるんだが、職員室で見た時無い。
いつも通り必要事項を記入した。
バインダー上にボールペンを置いた。

「"寝坊"は遅刻の言い訳には、ならないッ!!!」

えーッッ!!?

突然、怒鳴られた。

えー…?いつも"寝坊"で発行してくれるじゃーん(泣)

直前の生徒の理由を見れば"寝坊"。
その前も、その前も、一枚フルで"寝坊"が理由。
たて続く“寝坊”の理由に、堪忍袋の緒が切れちゃったんだろうな(遠い目)

なんて間の悪い…

「理由を書き直せ!」

えぇー…???

今思い返せば「何で寝坊したのかの“原因”」を書け、て意味合いなんだけど。

──“寝坊”の理由なんて“寝坊”したからしか無いじゃん。

てな安直思考しか出来ん、馬鹿。
首を捻り考えるも、思い浮かぶのは“寝坊”のみ。

バインダーの理由に二重線を引き、しばらくボールペン構えたままフリーズしてた。

考えに考えた末──

『寝過ごした為』

て 書いた。

いや、再び怒鳴られるのを覚悟したよ。
自分でも分かってたんだよ、馬鹿な事。

恐る恐る男性教師に目をやった。

「はい、入室許可証。急いで教室行って」

え、えぇ~…(汗)

凄くすんなり貰えちゃったのだよ、入室許可証。

──何で怒鳴られたんだろう、私。

そして、“寝坊”と全く同義の“寝過ごし”で、何故に許可が下りたのか。
謎は深まるが多分コレ、本教師に聞いちゃダメなやつ。
結局ね、分からずじまい。

てな事がありましてね。

今日の書き込みが遅れたのは、寝坊では無い。

絵描いてたら夜が明けちゃってて、眠いから眼を瞑ったんだけど全然眠れなくて。

ちまちま無駄毛抜いてたら、この話を思い出したので、認め始めた次第。

というのが、遅刻の理由。

お後が よろしいようで。
よろしかないか(笑)

夢のマイホーム④

結婚生活において外せないのが、互いの親族との交流。

私以上に複雑極まる家庭事情の旦那にも、父親が存在した。

つまり、義父である。

年の離れた異母兄弟もおったようだが、私は会った時無いので端折る。

旦那には うとまれていた義父は、愚痴を聞いたりするくらいだった。
どこの家族も似たようなものだな。ていうか、家より酷いな。
なんて他人事だったんだけど。

「親父がさ『紹介しろ』って言ってきたんだけど…」

oh。

まさか向こう側から申し出が有るなど、夢にも思わんかった。
失恋した時くらいしか旦那に連絡しないような男親だし、いとこなんかの話も聞かない。

嫌だな。会いたくないな。

て 思ったのは、内緒だ。

「…うちも母ちゃんが『会わせろ』って、言って来てるんだよね…」

という経緯で、私と旦那と お向こうの父親と私の母親 の四人で、簡単な、お世話では無いもの凄く簡単な、居酒屋での初会合を開催する運びとなった。

当日。

畳の座席に着差、
席順は勿論、上座に義父・隣に旦那・義父の対面に母親・私は下座である。

あー…このポジション、面倒臭いんだよなぁ…

仕事や親友との呑み会では、自ら進んで着席する定位置ではあるんだが。

いつもの私は、店員さんを呼ぶ係なだけ。
末席に座っているだけで、お酌や料理の配膳などは他人任せ。

頼んでくれなきゃ良いけど、瓶物。

思いはせど、最初の乾杯くらいは瓶ビールが注文された。

──やるしか。

そうなんだ。
こういう時に率先して動かねばならん訳なんだ、“嫁”とは。
多分ね。

軽く挨拶しあった後、運ばれて座卓の下座に置かれた瓶ビールを持ち、義父・母親・旦那に お酌して回る。
自分の定位置に戻り、手酌してコップを持つ。

「じゃあ、乾杯!」

義父の音頭でコップを掲げ、義父と母親が楽しくお喋りしている中、黙々と料理を小皿に人数分仕分ける。

旦那はずっと正座したまま、自分からは喋らない。

──コレ、何の合コンだろう。

て 思っちゃったのは、嫁の心情である。

「それはですね、お父さん」

父親に対して終始、背筋を伸ばしハキハキと敬語の姿勢を崩さない旦那の姿が、余計に私の緊張感を増幅させるんだけど。

歳近い義父と母親で ほぼほぼ会話が完結するのを 右から左に聞き流しつつ、目前の料理の配膳に集中する事にした。

私、大皿と闘うので手一杯。の体。
母ちゃん、余計な事は言わんでくれよ。

念を飛ばせど 意に反し、余計な事を喋るのが 私の母親。

ぶっちゃけ、気が気じゃなかった。

そんな感じだったから 旦那も私に話掛けないし、特に私は喋った記憶も無く 会話の内容も覚えちゃおらん。

数時間経過──

お酒好きな義父の解散号令を待ちに待つ。

「じゃあ、今日はこの辺で」

ふいぃ、ようやく解放される✨

安堵の息を心の中で吐いた頃には、お仕事スイッチをMAXで入れ続けていた営業スマイルが、痙攣していた。

「○○ちゃん!」

ひぇッ(驚)!?

気を抜きかけた時、ちゃん付けで義父に話し掛けられた。

「父親、と思ってくれて良いからね!」

「えッ!? あッ…あー…」

返す言葉に もの凄く困ったのを覚えている。

母親が私の身の上を勝手に喋った結果である。
旦那が萎縮しまくっている父親を、どうしたら「お義父さん」と呼べるだろうか。

結局、口ごもったまま「じゃあ…」しか言えんかった。

そもそも 私、父ちゃん居るし。生きてるし。
なんだか盛大な勘違いを されている気が、せんでもないんだが。

まぁ、突っ込んで問うのも無粋だし。

結構ガッツリ呑んだんだけど、全く酔えなかった。
初会合は縁もたけなわに、終了。

後日──

毎週末、旦那が義父に呼び出され、泥酔して明るくなってから帰ってくる、謎の習慣が出来てしまった。
酔っ払いの相手も面倒だが、何故に連絡など ほぼ皆無であった義父が…

まぁ、親と仲良くなるのは悪くない。

問題は…

「親父が○○も連れて来いって」

えー…ヤダ。

なんて直球に言える仲でも無く、私も毎回ではないが、月イチ位で強制参加させられるようになってしまった。

お酌、面倒臭い…

なんかね、もうね、義父は私を 呑み屋のお姉ちゃん だと思ってるんだろうな。
てな感じで。

日を追う毎に旦那が義父に対してフランクな物言いを出来るようになったのは、良いことなんだろうな。

数回目の招集日のこと。

「あのさ、変な お願いしても良いかな…?」

凄く困り顔の旦那が切り出した。

「親父が彼女を連れてきたいらしいんだけど『○○ちゃんには、お前の母親ってことにして』て…」

──は?

旦那の込み入った事情は聞いているし、なにより私は旦那の実母の存在を知っている。

旦那を置いて、義父から逃げたっぽい、実母。

婚姻届 出す時に、戸籍洗うのに役所の方が めちゃめちゃ方々に辿って探し当てて下さったのを、私は同席していたから見たり聞いたりしちゃってる訳で。

義父はいつも不動産絡みの自慢とギャンブルの話しか しないし。

私の本能が、義父を真っ黒だと ジャッジしてしまっていた。

「だから、俺の母親だと思い込んでもらえないかな…」

「はぁ…分かった」

私、役者じゃないんだけど…

ただでさえ、気を遣いまくって話を弾ませているというのに…演技しろ、との司令が下った訳だ。

うん、義父とは なるべく喋らないようにしよ。

下手に喋るとボロが出かねない。

「コレね、コイツの母親」

紹介された彼女さんはお綺麗で、物静かに微笑まれていらした。
いい感じの方だな。

なんで、基本 彼女さんを「お義母さん」と呼びながら、当たり障りのない お喋りをして過ごした。

──こんな良い人、泣かないと良いんだけど。

後日。

毎度の招集日に、事件は起きた。

起きたっていうか、私が起こしちゃったんだけど(遠い目)

激連勤中の週末、疲労度はMAX。
傾く体調に、体が言うことを聞かない。

──呑まねぇで やってられっか、コンチキショウ!

てな思いでね、ちょっとばかし(?)呑み過ぎてしまったんだよね…

基本的に 私 ゲラだから 呑むと陽気になるし、笑い話とか出来る様になるかなって思ってたんだけど。

彼女さんと会うのは二度目だったかな。
何か知らんが、義父が彼女さんを なじり始めた。
お金目当てだどうのって、難癖つけてて。

笑ってらしたから、冗談だと思いはせど。

こんな良い人を…胸糞悪い。

酔いも回りイライラし始めた、私。

義父は旦那が お小遣い制になった愚痴されてたんだろう。

「どうせ、コイツの金目当てなんだろ」

──はぁ!!?

矛先が私に向いたんだ。

確かにね、家買うために旦那を巻き添えにはしたけど。

お金って…お金目当てなら こんな金食い虫のバイターと、結婚なんてしないよね!

どたま に キちゃった。

「お金の為の結婚じゃ、無い!!!」

伝説の「お金の為の結婚じゃ無い」台詞が生まれた、瞬間だ。

しいん、と 静まり返るテーブル。

場をとりなす言葉も無い。
「またまた~」みたいに茶化す者もおらず 三人とも、私が突然ブチ切れた事に 言葉を失ってた。

「帰る」

これ以上、ここに居たくない。

私は上着と鞄を拾い上げ 席を立ち、出入口に向かった。

誰も声を掛けないし、誰も追って来ない。
独り居酒屋を後にして、独り電車に揺られて自宅に帰った。

その後 明け方お開きになるまで残っていた旦那が、どんな話をされたのか、とりなしをしたのか、私は知らない。

義父の呑み会に、私が呼ばれる事は無くなった。二度と。

やっちまった感は強烈だが…清々したのも、また事実。

⑤に続く──

線維筋痛症と母親

(線維筋痛症と私【外伝】)

先日、姉に

「元気になって欲しくなかった」

と 言われました。

別に元気になった訳じゃ無いんだけど、私。

どういう想いで、どういう意図で、そんな事を言われたのか真意は分かりません。

まあ何となく、分からんでもない。

深くは問いただせず。

病気に対する“家族の理解を得る”というのは、根気の要るものです。

現時点で患い十余年。

未だに理解が得られているとも思いません。

最近の私は事ある毎に「分からないだろうけど」と、付け足す事にしています。

大抵「うん、分からない」と、返ってきます。

私だって分かってないですからね(笑)

特に私の母親は「病気とは、治るもの」だと信じています。

私だって、治るものなら健康体になりたいよ。

時として、母親の想いは重たい圧力にしかなりません。

母親の想いは分からんでもないんだけど。

健全な道を歩む我が子を、夢に見ているのでしょう(遠い目)

おちおち死ねないよって。多分ね。

どうにも語りにくいので、先に “病気が治る” の定義について、個人的な解釈を述べます。

私は 治療の必要が無い、不具合の起きない状態が “病気が治る” だと、とっています。

現状の私、確かに寝ずっぱりの頃よりかは、起き上がっている時間も長いし、傍目から見れば 活動的になったとは 思います。
ですが、それは表面上 現れている状態に過ぎません。

元来の私は、もっと行動的で野心家で、口より先に手が出るような、考え無しに とりあえず “動く” 人間です。

今 そんな動き方したら、大変な目に遭うのが分かります。

体にかかる反動や 周囲からの評価が恐ろしく、行動出来ない状態に陥ります。
精神的な部分が、まだまだ弱気なまま。

片掌いっぱいの お薬を飲み、ようやく症状が差程出ないレベルの体の動かし方を理解し始めた、状態なんです。

薬が無ければ動けません。
薬を飲んでも やりきれません。

こんな状態が、はたして「元気である」「快方に向かっている」と、言えますでしょうか。
お薬の量 特に、痛み止めであるプレガバリン(600mg)と、線維筋痛症の治療薬とされるデュロキセチン(60mg)は、ここ数年 変動していません。

現状 お薬を飲んで “症状が出ないよう緩和している” だけであり、“治る”とは別ものです。

私は、これでも構いません。

痛みが出ない、だけで気分は上々です。
病気との“付き合い方”が、ここに来て漸く分かってきた ところです。

他者には、私が以前より活動しているように見えるので「快方に向かっている」と、とられます。

私の体は 精神は、何一つ改善されちゃおらん。

何がトリガーで痛みが増悪するか知れない恐怖心は、依然として拭い去れていません。
私と同じく、線維筋痛症について体験談を発信している個人の方は多くいらっしゃいます。

そういう方々の多くは、“治った”というより“緩和している”ように私は思います。

検索すると“治った”“完治した”等の表題も見受けられますが、多くは医療機関が患者の声を纏めたもの。
こちらは第三者目線です。
こと病院なんて具合が悪い時には行けませんから。

言い方悪いですが、一時的に元気があるように見える状態や、患者のプラスな発言を拾っただけの、上辺の記事が検索上位を占めています。

それらを読んだ以外の人間には、まるで誰しも“治る病気”のように映るでしょう。

例外なく私も治ると思っていた一人です。

ネット上の情報にばかり左右されず、真偽は精査しなければなりません。

一概には言えませんが、古いSE思考の人間から言わせてもらえば、

「ネットは疑ってかかれ」

ネットとは、何が正しく 何が誤っているのか、個人の解釈に大きく左右される世界です。

一つで判断してはいけません。
二つ三つ読んで、どれも同じような記事だから、正しいのでは。

これも違います。

情報社会だからこその弊害、多くはコピペだからです。

信ぴょう性の有る患者個人の記事に辿り着くためには、数多の記事を読み下げるか、検索方法を熟知せねばなりません。

そんなの やってられっか、て話ですよね。

話は戻ります。

私の母親は、特にカルチャー記事にミーハーな部分が有りますから、こと情報に右往左往します。

機械に うといので、それこそ上辺しか見ません。

ミーハーが故、メディアが発信した一つの情報を、全て“善し”と捉えています。

そう、全てを(遠い目)

いやもうね、大変なんですよ。

「N○Kで“痛み”の特集やってた!雑誌も買ってきたから、読みなさい!」

これ、線維筋痛症 関係無い 記事だよね。

自分でも この痛みが何から来るのか、筋肉なのか 神経なのか 脳なのかetcよく分かんないのに、部位が個別の“痛みが無くなる”的な記事を読まされましても。

こんな事がね、日常茶飯事。

せめて持って来る情報が“線維筋痛症”単体のものなら興味を示すのに…

未だかつて“線維筋痛症”の記事だった ためしが無い、という始末。

「やってみなさい!」

えー…ヤダ。面倒臭い。

はい、出た。私の鉄板「面倒臭い」
いや出るよ。毎回だよ?全部やれる訳無い。

「これ、やったらよくなるの?」

「知らない」

ほらー

「母ちゃん、やってみた?」

「やってない」

ほらぁー…

せめて自分で試して感想を持った上で、他人に勧めて欲しい訳ですよ。

「とにかく、やりなさい!」

たった一日3セット5分!
こんなね、売り文句が付いていて確かにトータル15分なんだろうけども。

この十年足らずで持ってこられたヘルス関係の動作を全て行ったら、一日24時間全部使っても足りないよね。

「自分に合うのだけ残せばいい。母ちゃんなんか、寝起きに コレとコレとコレと…」

「ちょっと待って。昔一つだけだったよね?」

「うん、増えちゃった。毎朝 布団の上で一時間 掛かってる」

えー…ヤダ。

ほらね、ちょっと良いのに当たっても、一つでは良くならないから、こうなっちゃうんですよ。

起き抜けに そんな労力 使いたくない。
目覚めたらシュパッと動き出したいんだよ、私は。

体力は温存して、他の やりたい事に使いたいんだ。
ただでさえ体力値 低いんだから、余計な消耗したくないのだよ。

「お姉ちゃんが言ってたよ!針が良いんだって!」

あ、鍼灸治療は私も気になってた。

「通えないだろうからって近くの治療院探してくれたよ!行きなさい!」

あ、あー…いまはちょっと。

「アンタ早く病院代えなさいよ!一向に治らないじゃない!」

私は聞きたい。

病院代えたら、治るんですか?

病院変えろって簡単に言うけど、私がどんだけ この病気で方方の医者に掛かったと思ってるんですか。

今の おじいちゃん先生は内科にも精通してるから、お腹の調子とか頭痛いとか風邪相談も し易いのに。

他の専門医では、こうはいかん。

「アンタが具合悪いの、薬飲み過ぎな所為なんじゃないの!?」

それは、言い掛かりです。
薬のお陰様で、いまこれだけ動けるようになったんです。

「“病は気から”って言うじゃない!痛くないと思えば、痛くない!」

そんな根性論など、とうの昔に捨てましたよ。
痛いもんは痛いんだ。

ざっくりよくある会話でございますけども。

「今日寝れてないんだ、眠いー」

「晩御飯には起こすから、一時間でも眠りなさい!」

だからね、それが出来ないんだって…

「眠いんだったら、眠れる!眠らなきゃって思ってるから眠れないんだ!」

確かに、それはあるかもだけど、違うんだよ。
マジで眠れないんだよ。

「目を瞑っているだけでも疲れは取れる!」

取れません。
そんなんで取れる疲れなら、起き抜けからフルタイム勤務明けのような疲労感は、抱かないから。

「とにかく、ちょっと寝なさい!スッキリするじゃない!」

いや、寝れればね。

こうして目を瞑ってじっと横になろうと、私は眠れない。
眠くても眠れないんだよ。

母親は布団入ると秒で寝息立つ の○太だから、眠れない人間の苦しみすら、想像出来んのだよ(遠い目)

とまあ、ここまでも茶飯事なんですけども。

ここからは線維筋痛症 関係無いかもしれませんが…
直近、新たな議論が、私を苦しめています。

それは「ピルを飲め!」問題。

私がね、あんまり生理シンドいシンドい言うもんで、ここ数ヶ月
「生理止めてもらえば楽じゃない!」

て、言われるんですよ。

そりゃあね、私だって止めたいよ。
止めたい気は有るどころか、子宮からポコッと外しちゃいたい人間ですから。

でもね、処方してもらう為には、まず婦人科に行かねばならんよね。

CMで観るやつとか、私みたいなのは相談外と思うんだ。
その辺、ちゃんと調べとらんで分からんけど。

「母ちゃんね、ピルって体に悪いと思ってたんだけど、そうでもないんだってね」

私、別に悪いイメージ持ってませんが。十代の頃から既に。

ていうか、薬止めろ止めろいってた口で「薬飲め!」と言う、掌返した母親の方が怖い。

一体、何系の記事に感化させられたのでしょう(遠い目)

とりあえず、次の血液検査で また貧血出たら考えます。
現状、耐えられない程では無いからさ。

それよりも、私は不眠の方を本腰入れて治したいと思っています。

という、堂々巡りの面倒臭がりな人間の言い分でした~(汗)
結局のところ、いつものアレです。

母親は、アレ⑭

あー…これね、本当ね「どうしてくれようかな」て、思ってる事。

年末だったかな。
ちょうど母親に、カミングアウトしてから一年。

何の流れか忘れたけど“性転換”の話になったんよ。

「え?アンタ、性転換すんの?」

──ええーッ!!?

『どうでもいい話』冒頭にまで巻き戻る勢い。

♫驚き桃の木山椒の木、ブリキにタヌキにセンタッキ、私の母親、大魔神~

安堵、返して。

「性転換までは、しなくていいんじゃない?」

確かにね、色々と不確定要素が多すぎて先の事など分からんが。

「あー…まあ、その時の先立つものとパートナーと体調次第の話だけど…」

としか、言えない。

いやー、もう少し理解深まってくれてるもんだと思ったんだがなぁ。

世のマイノリティの親御さんと同じく、体裁とか気になっちゃうみたいだよ。

淡い希望など抱いた私が、愚かであった。

ここで意地になって母親を説得するのに尽力しても、多分十年後には忘れられているかと思うと戦う気すら起きん。
かと言って何も言わずにおいて、もし、その時 決行したとしても…

いずれにせよ「言った」「聞いてない」の、毎度の やりとりは避けられん。

…いっか。放置で。
未来の自分に託すやつ。

十年もすれば、世の中の理解も仕組みも進んでるだろうし。

前置きは そこそこ、このままハゲの話しちゃお。
2021年8月末、テレビを観ながら昼飯を食っていた時、母親に指摘された。

「アンタ、十円ハゲ出来てるよ」

「えッ!?」

指を刺された右側頭部に手をやれば、ツルッと無毛の頭皮の十円玉エリア。

「ええ~!!? やだぁ~(汗)!!!」

狼狽もしたが、ハゲが嫌というより面白さの方が勝り、大爆笑したけど。
鏡で確認すれば、それはそれは見事な十円玉ハゲ。

ほおぉ✨漫画みた~い!

円形脱毛症になるキッカケを思い浮かべれば、前月にクロが心臓病発症して死にかけたり、直前 原因不明の40度越えの発熱したりしたんだけど。

あ、コ○ナでは無かったんだよ、ただの発熱。

上記 2要因は、追追 語るとして。

※重い話※
時は2021年春、私の心のゆとりなんか全く無かった頃。

母親が勝手に私の家の中の物 いじくったり片付けたり掃除したりするのが、嫌で嫌で堪らなかった。

まるで、私が何もやらない事への あてつけのようにさえ感じていた。

敢えて“やらない”事にして仕事残しておいて、母親との会話する
時間を最長まで減らす、浅はかな思惑なんだけど。
て いうのは、まあ、言い訳。

毎月 都会の山奥から遠路遥々 出てくる母親は、一泊して家事片付けて 昼過ぎには帰宅するのが いつもの流れ。

「じゃ、母ちゃん帰るからね。アンタも掃除機くらい毎日 掛けなさいよ」

横になる私に、片手を差し出す。
握手を求められるんだ。

──嫌だな。

思いながらも、片手を布団から出し、軽く握られる。

パタン、と 玄関の戸が閉まる音に聞き耳立て、必ず飛び起きウェットティッシュをバシバシ出してゴシゴシ手を拭くんだ。

母親に触られるのが、気持ち悪い。

テレビを観ていれば良いのに、ご飯食べてる私を見ている母親の微笑みが、気持ち悪いくて堪らない。

母親に勝手された我が家が気に入らなくて、違う場所に置かれた物や買い足された物品を投げつけ癇癪起こす始末。

疲れるし痛いのに、何で わざわざ ひと暴れしなければ気が済まないんだろう。

何で母親が こんなにも気持ち悪いと感じるんだろう。

私、変なんだ。
きっとコレ、病気だ。

時節柄 月に一度、我が家に集まっていた親友らとも馬鹿騒ぎする機会が全く無く、排出されないストレスはピークに達していた。

初夏 母親の来訪二日目、いつも通り荷物を持ち「じゃ、帰るよ」と 差し出された片手。

──これだけ耐えれば、開放されるんだから…

ほんの数十秒の事と思うが、何の気まぐれか、あの時の握手は長かった。

離してくんないかな…

粘りこく まとわりつくような握り方。
不快で不快で堪らない。

「──うわあああぁッ!!!」

私は叫び声を上げ 母親の手を振り解き、布団をはだくと飛び起きて、ウエットティッシュでゴシゴシ手を拭いた。

あ。

背後に母親の視線を感じたけど、振り返れなかった。
手を拭くのも止められなかった。

母親は無言で、家から出て行った。

──やっちまった。

耐えられなかったんだ。

母親に触られるのが、嫌。
母親の何もかもが、気持ち悪い。

何が、なのかは分からないんだけど。

こんなの普通じゃない。

自分の行動が理解出来なくて、直ぐに布団に戻ってスマホで検索してみたけど、出てくるのは酷い親の話や相談ばかり。

──ここまでじゃあ、ないんだよな…

そうなんだ。
追求すれば、自分自身には暴力だとか暴言だとか、何かされた訳では無いもんで。

何が原因なのか、“コレ”と断定は出来なかった。
そのうち自分が取り返しのつかない事を仕出かすんじゃないのか。

それだけは、分かる。
それだけは、避けなければ。

精神科、行ってみようかな…

思いはせど、上手く説明出来る気がしない。

自分の経歴や経験を整理しようと思いノートを一冊買ったけど、一文字も書けない。

自分を振り返れない。

怖いんだ。
今迄を思い出すのが。
お医者に聞かれて話すのも、多分出来ない。

…ダメだ。
思い出そうとしても、ダメだ。
また、壊れる。

前を見るしか、自分には出来ない。

とりあえず、直接的に不快と感じる母親の行動から逃げるようにしてみた。

母親に裸を見せない、触らせない、その二つだけ。

あ、何で突然“裸”かってね。

我が家、脱衣場無くて台所から直なんだけど、お風呂入ろうとすると、ペローンッ☆て お尻とか おっぱい 触ってくんだよね。

「止めてーッ!」

て言ってはいたんだけどね。
女子校みたいなもんだからさ、実家の頃の一家。

隙を見せたら、触られちゃうじゃん。
だから。

背中とか腰とか痛いって言うと「湿布貼ろうか?」て 聞かれるから「後で自分でやる」て 言ってみたり。

帰宅時の握手も、布団から手を出さないでみたり。

新しくした い草の敷物の上ではしゃいだ時も、背中に手を当てられたんだけど、ゴロッと転がって避けてみたり。

流石の母親も何かしら勘づいたようで、私に触ろうとはしなくなった。

だけど、こんなの普通の母子じゃない。

母親以外には触られるのも見られるのも平気なんだ。
姉に「背中に薬塗って」て 実験してみたけど、全然 何とも思わなかった。

このままで良いとは思えない。

やっぱ精神科行こう。

去年の春、予約したけど当日寝坊。

電話してみたけど、コ○ナ関連で電話応対していなくてね…

連絡しようが無いし、予約キャンセル度重なると診療拒否する的な注意文があってね、寝坊が怖くて再予約出来ずにいる、こんにちも(遠い目)

少しばかり自分語り出来るようになってきたし、不眠治したいし、そろそろ行くかな、とも思うんだが…

ぶっちゃけ、自分の説明するのが超面倒い。

最悪「コレ読んで下さい!」て、Twitter見せれば良っかな、とも考えたんだが…

いやさ、読まされるお医者の笑顔が引きつるのが視えるよね、この物量。

まだまだ増えるのに。

嫌だよ私も、この量。断わるよ。
本当、どうしてくれようかね。

⑮に続く──

蟲の縁③

ひいいいいぃッ!!!

あ、スンマセン。
思い出しただけで さぶいぼ立っちゃった(汗)

そもそも何で虫が こんなにダメかって、思い起こせば幼少期。

昆虫図鑑の背表紙が割れる程、熟読していたくらい虫大好きだった。

虫のフォルムってさ、鎧みたいでカッケェじゃん。

日がな一日眺めてた。
花にとまるモンシロチョウやシジミチョウを摘んで捕まえられた。

誰かに「チョウは手で摘むと、鱗粉とれて飛べなくなっちゃうから」て 教わるまで、見かけちゃあ捕まえてた。

ふおぉ、蝶の羽って透明なんだ✨

勿論、その程度じゃ へこたれん。

開発中だった実家付近で群発した虫達、いってみよ~!

─外壁─

小さい時に引っ越して来た実家。

秋口にはシオカラトンボが大発生して 植え込みの葉が見えない程、覆い尽くさんばかりであった。

数年でトンボは見かけなくなったんだけど…

代わりにやって来たのが、蛾。

玄関出れば、白く塗装された良く在る外壁。
必ず とまっているのが、生白い蛾。
名前は知らん。

とにかく見ない日は無かった。
何より困るのが…

階段の手すり付近に とまっていること。

タンタンタンッ!
軽快に階段降りて、エントランス曲がって──危ねぇッ!

よくね、うっかり触りそうになったのよ。
ホラ、壁と同化しちゃってるからさ。

もっと上の方に居ればいいのに。

─植込─

文化祭の準備か何かだったかな。
遅くにバスロータリーを歩いていた。

街灯は点いているが、暗がりは多い。
植込の上にパッと光る二つの光…

ネコちゃん!

ニャンコと目が合うも、逃げもしない。

「にゃあ~ん」

にゃんと、呼びかけて来よったではありませぬか!

さ、触れるかなwkwk

そおっと近づき、そおっと そおっと。
手を伸ばしたら、ニャンコの方から近づいて来た。

おおお✨…

私は瞬時に伸ばした片手をギュッと、拳固に握りしめた。

だってさ、ニャンコの首元に…

それはそれは立派な、8cmはあろうかという、ナメクジがベッタリ張り付いていたんだ。

ちょっと、無理。

何で そんな所にナメクジが。雨上がりだからかな…

ぎゃあッ!!?

パッと植込に目をやって総毛立った。

ブロック造りの植込には、びっしり びっしり、所狭しと蠢くナメクジ。

懐こいコで「にゃあ~ん」と撫で催促されたけど…

ジリジリと後退り、踵を返して実家に走った。

ゴメン、あれは無理。

─中庭─

わんぱく盛りの小学五年生。

今は無き小学校の中庭で、昼休みにクラスの女子と遊んでいた。

「コオロギ捕まえて遊ぼ!」

なんか知らんが、やたらとコオロギが大量発生していた。

腕歩かせて、ぴょんッと跳ねたら、こそばゆくて面白いじゃない。

いや、今は無理。

「捕まえた事、無い」

小五にもなって、虫の一匹 捕まえた時無い、だと!?

他人が知らない事を教えたがるのは昔から、私の悪い癖。
クラスの女子に得意になってレクチャー開始。

「簡単だよ、ホラ!」

パッと一匹 捕まえてみせた。

何かコツとか何とかウンチク垂れたけど、忘れてしまったな、虫の捕まえ方など…(遠い目)

─桜─

小中の登下校道には、校庭を囲うように植えられた見事な桜並木が在った。

満開の桜、潤う葉桜、色付く木の葉、乾き落ちる葉を踏む感触、四季折々の楽しみをくれた。

私、知らなかったんだ。

桜は毛虫が憑くもんだと。

それもそのはず、防護服に身を包み白い薬剤を散布する大人を毎年見た。
ある年、農薬が撒かれなかった。
多分、登下校道に農薬散布するなんて、的な問題が勃発したんだ。

まだまだ無農薬なんて少ない時代。

嫌あああぁッ!

初夏の茂った緑の道は、毛虫が這い回ってね…
五歩も歩けばポトッと、落下して来やがる。

上も下も気が抜けない。
一年間、気が気じゃなかった。

─おまけ─

これは母親から聞いた話。

快晴に心地好い昼休憩、勤め先から出て 公園で一人ランチする事にしたんだそう。

コンビニで おにぎりを買い、広場のベンチに陣取った、母親。

「ん?毛糸かな」

フワッと首元に何か感じ、パッと摘んで手を広げ見た。

──コンニチハ。

「嫌ーッッ!!!」

毛糸かと思われた それは、毛虫。

目視して速攻、ぶん投げたんだそうな。

嫌ーッ(泣)!!!

話を聞いただけの私も、震え上がりましたよ。

色々と問題かもしれないけれど、個人的には、無農薬も程々にすべきと思う。

超、個人的にね(遠い目)

いい具合に間って、取れないもんかな。

④に続く──

夢のマイホーム⑤

前に迷子の話で触ったけれど、新居に越して数年後。

3.11東日本大震災が発生した。

まだ現役時代の仕事方面 語ってないから、先に前月くらいの概要おば。

当時、私は副店長。同じ二つの店舗を上司の店長と二人で兼務し見て、そろそろ半年。

食パンの店長じゃない お方なんだが…
いかん、名前が思い出せん。
とりあえず、X店長とする。カッケェな。

私も そろそろ“勉強”と称された懲罰明け、新年度の新店舗 立ち上げを控えていた。

とは言え、営業担当から話を聞いてより全く、詳細が降りてこないという、気が気でない時間を過ごしていた時期なんだが…これは別の話、いずれに。
ニャンコの話でもあるな。
ううん、色々 混ざってて至極 語りにくい…とりあえず、続けてみるか。

経年等は未確認故、多少 前後するかもしれない。

また、津波の映像は無いが、東日本大震災がトラウマ化している方も数日読み飛ばしてもらいたい。

当時の飼ニャンコは、若いシロ・トラ・ミケの三匹。

2011年3月11日
私のシフトは休み。
旦那は本社研修で朝早く出発していた。

独り のんびり刑事ドラマの再放送を観るのが、休日の楽しみ。

ぼけ~っと居間の座卓前に座ってテレビを観ていた。

確か『お○やさん』を見ていたんだっけな。
事件も解決、あと少しで幕引きという時間帯。

地鳴りがした。
床を突き上げるような震動。

──地震か?

咄嗟に膝立った瞬間、我が家の方方に散らばっていたニャンコらが ダダダッと、居間に走り込んで来た。

何事ッ!!?

ニャンコ三匹が座卓の下に身を寄せ入ったんだ。

驚きに息吐く間も無く、グラングランッと横揺れが始まった。

ヤベェ、デカイやつだ!!!

地震の時って、どうすんだっけ!!?

教室の机の下に入り 防災頭巾を被り 机の脚を握った、小学校の防災訓練が頭を過ぎる。

あ、頭を守らなきゃ!

…どうやって!!!

目前の座卓は三匹のニャンコで満員。

入るところ、無いんですけど(泣)!

居間の家具は全て目線以下。
もし背後のラックが倒れて来ても背中には当たるが、頭には届かない。

確か「机とか無かったら、四方が壁に囲われたトイレに逃げ込め」て、教わったけど…

もうね、立ち上がれない程の揺れに進行してしまっていてね。

逃げも隠れも出来ん。

為す術なく、座卓が横滑らないように掴んで押さえるのが精一杯。

何か倒れませんように!

念じるしか出来ん。

──今、倒壊でもして掘り出されたら、身を呈してニャンコを護った構図で発見されるのか…悪くない。

なんて、なかなか収まらん揺れに阿呆なこと考えてた、私(遠い目)

数分後。

まだ微揺れはせど、動けるくらいには収まってきた地震。

真っ先に思う。

お店、大丈夫かなぁ…?

片側の店舗には店長と常勤スタッフ、片側の店舗には主婦スタッフ二人と入ったばかりの新人。

携帯を持ち、しばし考える。

──これだけの揺れだ、営業担当やら課長やら、本社から店舗に電話が掛かるに違いない。

心配ではあるが私が一番に電話を掛け、大事な電話が受けられない事態は避けなければ。

先ずは現状把握だ。

テレビ画面の『お○やさん』のエンドロールを注視して、地震速報を待つ。

次々と表示される見た事の泣いマグニチュードの桁に、遠方の地域。

…ヤベェな。

はやる心をを押し殺す。

…てか、我が家、無事かなぁ?

携帯持ち、各部屋を見回りに立った。

特に何も倒れていない。

──アレか、ニャンコ対策が効いたか。

背の高い家具は天井突っ張りタイプ、本棚は腰の高さ。

ニャンコが高い所に登って見えなくならないよう考えた末のチョイス。

引き出しも開けられてしまうから、軽めの引き出しには全て赤ちゃん用のストッパー付。

テレビも倒されんよう耐震マットで圧着済み。

ニャンコ飼ってて良かった、と思った。

私の後ろをゾロゾロついて回ったニャンコらを引き連れ、居間に戻るとテレビは緊急ニュースに変わっていた。

時間もそこそこ経ったし、掛けてみるか…

パカッと開いた携帯を耳に当てる。

──うんともすんとも鳴らないんだけど。

回線は既にパンクしていた。

ううん、失敗したな~…

気なんか遣わず、いの一番で掛けるべきだったろうか。
なんて考えても、時すでに お寿司。

数度試したが、どちらの店舗にも電話は繋がらなかった。

メールでは気付かれないかもしれないし…
仕方ない、様子見に行こう。

ラッキーな事に片側の店舗は、我が家から徒歩圏内。
こういう時って、あんましウロウロするもんじゃないよな~…とは思いつつ。

マンションの状態も確認したいし。
若干、野次馬 入ってた。

急遽 避難な事態に備え、大っきい方のネコキャリーを納戸から居間に出しておき、私は玄関扉を開き外廊下を覗いた。

──あれッ!?

外廊下には知らない白壁。
防火扉が閉まっていた。
パッと見、廊下は壁で完全に隔離されている。

ええ~ッ!? どうやって下に降りるの!?

パタン。

一度、玄関扉を閉め、扉に寄りかかり考える。

ええと…防火扉には避難用の小さいドアが付いているはず…

多分 私は視力が低いから、防火扉の継ぎ目が見えなかったに違いない。

どうしよう、出ない方が良いのかな…

独りじゃ判断出来ん。

…いっか、行こう。

意を決し、外廊下に出て防火扉に近付いた。

おおお✨ちゃんとドア付いてる!

いや、当たり前の話なんだけども。

小さなドアを開き、エレベーターホールに抜けられた。

──あ、エレベーター止まっちゃってるよな。

隣に設置された鉄のドアに手を掛けた。

おおお✨非常階段、初めて降りる!

緊張感より、冒険心の方が勝っていた。

キョロキョロ見回しながら降りる非常階段。
所々のパッキンに亀裂が入り 破片がボロボロッと落ちているが、思った程 酷くは無い。

流石、某ブランド新築マンション✨耐震構造だな!

階下に降りるまで誰一人すれ違わなかったが、一階出口のエントランスには、他の住人が数組 降りて待機していた。

「こんにちわ~」

不安そうな顔の住人らに軽く会釈。

外に出て建物を見上げてみたが、パッと見、火事や倒壊等 何事も起きていなさそうだ。

一安心して、街の様子を見つつ店舗に急ぐ。

ここからは我が家あんまり出てこんのだが、キリも悪いので あの日の行動を書ききってしまおうと思う。

フラッと入った駅ビル。まっすぐ向かうは お店。
まだ避難されてなく、お客人も多く残る。

「お疲れ様です~」

「あ!○○ちゃん!」

店長は電話応対中だったかな、常勤スタッフから話を聞く。

「お店 大丈夫だった?怪我とか無い?」

「うん。ディスプレイが落ちたり、平台什器が滑ったけど、そのくらい」

あー…やっぱ落ちるよね。
この店は壁面棚も滑車付きの什器も木製だから割れたりは無さそうだけど…
となると、ほぼガラス造りの あっちの店舗が心配だな。

「○○店は連絡有った?」

「多分、今 店長が電話してる…んだと思う」

「そっか。本社とか館(デベロッパー)からは何か指示有った?閉館するとか営業どうするかとか」

「まだ」

ううん、現場は混乱していそうだな。

片側の店舗も気になるので、店長の電話が終わるの待とう。

その間に向いの店の店長さんから話を聞いたり、電車が止まっているのを覗いてきた。

その辺見て戻って来たけど、電話は終わってなかった。

「もし、館の営業終了して電車動いてなかったら、家に おいで」

「分かった」

一度 家に帰ろうかと思った時だった。

グラグラッ

余震だ!結構デカイ!

他のお客人と一緒に、近くの出入口から外に出た。
どよめきの中、高架線を見上げれば、ビヨンビヨンと左右に大きく振れる、電柱に電線。

「うわ、凄ぇな」

コンクリート製の電柱が しなるって、どんだけ。

揺れが収まり、店内の落下物が無いか確認し、私は家に向かう。

──電車止まっちゃってるか…

こうなると心配なのが、主婦スタッフの方々。
そろそろ保育園の お迎え時間だし、お子さんと離れたままでは お母さんも不安だろう。

私はマンションをぐるっと回り、裏から入って駐輪場へ。

メット被ってカブに跨り、一路国道を目指した。

表側から向かったから、道路上は大して混乱も無く、渋滞も まだ無かった。

館の搬入口にカブを停める。

どうしよ、シャッター閉まってる…

一足遅く無駄足かと思ったけど、一応、正面口に回ってみた。

シャッターが半分降りていたけど、覗き込めば残る従業員の姿が見える。

ネーム持ってくれば良かったな~…

「お疲れ様で~す」

シャッター前に立つ警備員さんに一声掛け、ごく自然に館に侵入した。

「あ!○○さん!」

パソコン開いて三人固まっていたスタッフの方々。

「大丈夫でした?」

なんか、バーッと三人で報告始められたから内容は覚えとらんのだが、とりあえず店内は無事なようだ。

「本社には連絡着きました?」

「メールで『館の指示に従うように』て。今、閉店報告メール打ってる」

「電車動いてないし バスも混んでるかと思うけど、帰りどうします?足 有ります?」

三人のうち二方は、時間かかってもバスで回れば帰れるそうで、一安心。

失敗した、車で来れば良かった~…と 思った。

「○○さんは 私の後ろに乗って下さい。保育園の近くまで一緒しましょ」

「わあ!助かる!」

四人で手分けして閉店作業し、スタッフ二人と別れた。

「実はね…」

125ccなので二人乗り可なんだが…

お察しされたかと思われまするが、緊急事態故、ご容赦下さい(土下座)

上着のフードを深く被り、後輪の足置きを出した。

「さ、しっかり掴まって。もっとしっかり」

「キュンとしちゃった(笑)」

腕をお腹に回してもらい「昔デートでね」なんて甘酸っぱい想い出話を聞かせてもらいながら、保育園方面に走る。

ピタッと密着した背中が、温かかったっけ。

あ、別に下心有った訳では無いのだよ。

ニケツする時って、後ろの人が遠慮して自分から離れちゃってると、バランスが取りにくいもんで。ね。

ママさんスタッフを送り別れ、そのまま駅ビルに向かった。

──しまった!

バスロータリーを回り込み、館の様子を見れば、しっかり閉まっているシャッター。

「家に おいで」なんて言っといて 私、家に居なかったんだけど(泣)!

路肩に横付けして、携帯を耳に当てるも、全く繋がらない。

焦った。

まだ明るく日暮れ時、体感的には小一時間くらいしか経ってないと思う。

だが、連絡の仕様がない と言うのは、結構 やきもき するもんだな。

届くかも分からんが、一応メールを打ち 家に戻った。

休みの今日で買い出しに行く予定だったんだが、スーパーも閉まっちゃったかな。

食材ストックを確認。

…米が無い。

かき集めても1合ほど。

ううん、買いに行きたいけど…

常勤スタッフが来るかもしれんし、これ以上 ウロウロ出来ん。

ガス台のツマミを回してみるが、火花は飛ぶものの 点火しない。

ガス止まっちゃってるや。

火が無いなら料理も出来ん。

ぼけ~っと居間でニュースを観て過ごす。

♫ピンポ~ン

あ、良かった!来てくれた!

階下のインターホンが鳴らされ、モニターに映るは常勤スタッフ。

「多分エレベーター動いてないから、迎えに下りるね」

『その前に、ちょっと お願いが有るんだけど…』

聞けば、X店長も帰宅出来なく、我が家に来たいと言う。

「良いよ良いよ、構わん」

困った時は、お互い様だ。

階下で常勤スタッフと合流したが、肝心のX店長の姿は無かった。

確認取れるまで、どこかで時間を潰しているらしい。

「家、食べ物 無いんだよね。コンビニ、開いてるかな」

家に戻る前に足を伸ばして、二人でコンビニに向かう。

助かることに、コンビニは営業していた。
時間帯も早く、弁当類も まだ残っている。
人数分の弁当5つに、翌日用のパンを買い、家に帰った。

「メールってさ、届いてる?私のとこ、全然 来ないんだけど」

「送受信 押すと、メール飛んだり来たりするよ」

あ、そうなんだ。良い事教えてもらった。

試しに送受信すれば、次々届くメールの嵐。

『以内みたいだから、少し時間潰してくる』

「うん、今読んだ。帰ってるよ」

だなんて、事後報告を対面リアルタイムでしたりしながら、メールのチェックを進める。

──母ちゃん。

中でも母親からの連続メールが、一番多かったっけ(遠い目)

身内の安否確認など、私の頭には ございませんでした。
届くか不明だが、母姉に一筆、仕事関係のメールに返信しておいた。

そのうち X店長も来訪し、三人でコンビニ弁当を食べたり喋ったり。

ちょっとした お泊まり会 気分だったのは、内緒だ。

つけっぱなしのニュースでは、方方での大事が報道され、帰宅に歩む大行進が中継されていた。

講堂の天井崩落ニュースが流れ、ふと思う。

旦那、無事かな…

場所的には近い、ような気がする。
どこで研修やってるだなんて聞いてなかったから、連絡が一切無い事に不安が募る。

ここで『方向音痴・極─マイカー時代─』が挟まるんだな。

寝室と旦那の布団はX店長に使ってもらい、旦那は私の部屋に押し込めた。
座布団を枕に、常勤スタッフと居間で雑魚寝。

とはいえ、翌朝のお店の営業状況も分からんし、寝付けずに ずっと テレビ画面を眺めていた。

♫ピロリンッ
♫ムイッムイッムイッ

点滅するニュースに、絶え間ない緊急地震速報…

うるさい。

ごめんなさい、携帯の設定オフにしちゃいましたよ(遠い目)
深夜に内陸でも大きな地震があったっぽいニュースが流れた。

そういえば 母ちゃん、旦那さんと信州に旅行中だと聞いたけど…

メールを入れるも、いつも即レスなのに返事無く、流石に心配した。

明け方『寝てて気付かなかった』て返信があって、安心したのを覚えている。

普段はね、アレだけどね。

残りは仕事方面の話だから、この辺にしておくかな。

──後日、課長と世間話。

「アレでしょ?地震で おかしくなっちゃったマンションでしょ?」

「あ~…はい」

としか。

あの後、亀裂の入ったパッキンとかの修繕も ちゃんと有ったけど。

かなり深い亀裂に見えたんだけど、どう直したんだろう。
だってさ、重たいコンクリートの間に挟まってるんだよ。
あれ直すとか、職人さん凄くない!?

最後に、震災を知らぬ若者たちへ、気分が上がる この言葉を授けよう。

♫ぽぽぽ ぽーん!

ね。なんだか、元気出て来ない?
地味に好きなんだ、このフレーズ。

言いたかっただけ、の前置き。

⑥に続く──

─おまけ─

忘れてた。

ガス、ずっと止まっちゃってるな~…そろそろ風呂入りたい。

だなんて思ってた、3日目かな。

そういえば、引越しでガス栓開けてもらう時って、作業員さんに来てもらうよな。
こういう時も立ち会い 要るのかな?

一応、番号とか控えておこうと、メーターボックスを開いた。

パカッ

…ううん?

ガスメーターに赤字の札が巻いてあった。

読めば、有事にガスが止まった際の開栓手順…

あ!コレって自分で開けるんだー!!!

うん。常識知らなかったんだ、私。
知ってたら、もっと早くに お風呂入れたんだけどね。

も少し、周知した方が…

いやはや、勉強になりましたよ。

そうだ、米が無かったんよ、あの日。

翌日スーパーに足を運べば、食品だけ営業していたから、米コーナーに行ったんだけど…

米が無い。

米どころか、他の棚もスッカスカ。

買い物行かれた方なら、ご存知であろう。
アレよ、あの時よ(遠い目)

ええ~、どうしよう(汗)

主食が無いって、マジ困る。

どうにか買い置きに残ってたパスタなんかでやり過ごし、毎日スーパー覗きに行ったんだけど、全く入荷しなかった。

いや、少しは入荷したのだろうが、どうにもタイミングが合わなくてね。

数日後には備蓄も底を尽き、食べ物が一番 困ったな。

…もう、小麦粉しか無い。

すいとん、初めて作った。
レシピも知らんくて、適当に水で練って うでて、出汁に浮かべただけなんだけど、地味に美味かった。

そんな時、親友の一人から連絡が有った。

『困ってる事ない?』

「米が無いんだ、我が家(泣)」

『それは大変!送ろうか?』

なんと!被災地に送る農産物の中から、米を分けてくれると言うんだ!
ネ申✨!親友、マジ ネ申✨!

こうして、被災地の方々には申し訳ない思いを抱きつつ、宅配便で届いたダンボール。

──ふおぉ✨

生米がね、輝いて見えた。

しかも10kg位、入っててね。
ありがとう、ありがとう(泣)!

やっぱし、持つべきものは遠くの親族より、竹馬の親友だな✨
有難味 ひとしお✨

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