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どうでもいい話(2023年 4月分)


母親は、アレ⑰

四月馬鹿。
エイプリルフール。

この日ばかりは“嘘を吐く”事が許される、嘘解禁の日。

こんな オイシイ イベントデー、私の母親が放っておくはずが無い。

ガラケー時代、毎年この日の日付けが変わった辺りで、母親からのメールが届く。

『大変!おばあちゃん亡くなったって!』

ええッ!? ど、どうしよう!?

帰省しなきゃ、祖母は忌引き休暇の範囲?? お通夜は いつ??礼服 買っといて良かった!!

もちろん、嘘である。

『大変! 家に車が突っ込んで来た!』

ええッ!? 大丈夫!?

怪我は無い?? 運転手さんや車に同乗してる方は無事?? 車から火は出てない??

もちろん、嘘である。

『大変!ガスコンロが爆発した!』

ええッ!? 一大事じゃない!?

生きてる?? 消化器は有る?? 揚げ物だったら消化器は利かないんだっけ!? 消防に連絡した!?

もちろん、嘘である。

流石に10年以上、毎年 嘘吐かれてると、エイプリルフールの直前は身構えるようになるもんで。

こ、今年は どんな嘘が…

だか、ここ直近 数年は嘘メールは届かない。

飽きちゃったのかな。
ネタ無くなったのかな。

平和な事は良い事だ。

少なくとも、信ぴょう性の有る嘘や、リアリティ満載な臨場感出した嘘は、止めて下さい。

一度は全部、信じてしまうので。

今年も冷や冷や、待ってます。どんと来い!

⑱に続く──

積年の親不知④

歯医者ダイエットに汗水流していた、2019年の秋口。

右下の親不知の歯茎が、もりもりしてきた。

あ゙ー…鈍い痛い。

横を向いていた親不知だが、先日撮ったレントゲン写真では、やや斜め上方向を向いていた。

だが、親不知の角が接するは、一番奥歯の丁度 中腹。

相談しなきゃ。
とは思うものの、歯医者に行くだけで疲れっちゃって、治療が終わったら即行タバコ吸いたいし、なかなか言い出さず 時だけが経過した。

そして──

とうとう右頬が ポッコポコに腫れてしまった。

うえーん、痛いよぉ(泣)!

放置し過ぎてタバコも吸ってたし、親不知の周囲が炎症を起こしてしまった。

「先生(泣)」

「あ、親不知だね」

もうね、顔診ただけで、申し出たい事が伝わった。

「これは…」

レントゲン写真を確認した歯医者さんは、かんばしくない声音だった。

「これね、この親不知の根元、白い線が二本、見えるかな」

ボールペンで指された画像には、うっすら白い線の影が二本見えた。

「この画像だと分かりにくいけど、この線、神経なのね。
ひょっとしたら、親不知の根元に くっついちゃってる かもしれない」

説明を聴いても、いまいちよく飲み込めない。

「うちでは出来ない。歯科○の口腔外科に紹介状 書くから、電話して予約取っといて」

歯科○!? なんか、大変な事なのでは!?

来週の診察の時に、仕上がった紹介状を渡す、という事で、抗生物質と痛み止めを三日分 処方して貰い、帰宅。
いつも夕方の診療だったので、その日は歯科○の受付時間が過ぎていたので、翌日電話する事にする。

もうね、顎下から金釘 打ち込まれてるみたいに、ガツンガツン痛いんだよ。ガツンガツン。

こ…これは、早いところ抜いてもらわないと、身が持たない(号泣)!

翌日、ほっぺた腫れて喋りにくいし、口を開くのも痛かったけど、涙ちょちょ切れながら歯科○に電話した。

『紹介状は、お手元にございますか?』

「あ、紹介状は先生が書いて下さるそうで、来週 仕上がったのを受け取る予定です」

『紹介状が無ければ、予約は お取り出来ません』

何だとッ!?

「いや、先生は書いて下さるって、話になってるんですよ。先に予約だけ取れませんか?」

『決まりですので。紹介状が お手元に在る状態で、再度ご連絡下さい』

結構しがみついたが、なしのつぶて。

大きい所は、こういう事が有る事も。

先に申しますが、親不知は早め早めに、痛くなる前に、対処して貰ってくださいね。

親不知、ナメちゃダメ。

病院のシステム上、そういう決まり事ならば、諦める以外に無い訳で。

──処方して貰った痛み止めは3日分、今日の分は飲んでしまったので、猶予は2日…明日にも抜いて欲しいのにいいぃ(泣)!

親不知が炎症起こしている間は 抜かない方が良い、とも聞くが、少なくとも診察受ければ追加の お薬が出る。

紹介状…ぐぬぅ…紹介状…!

半日考えたが、やっぱり即 予約を取って安心したいところ。

私は おやつの時間にスマホを開き、歯医者に電話した。

「すみません、ご迷惑と思いますけども…」

来週 受け取るはずだった紹介状を 早回しして、今日 発行して貰う事にした。

「郵送とか、出来ますか」

『紹介状の郵送は出来ません』

ぬ゙ぬ゙ぬ゙ぅ…

これも、仕方のないこと。

親不知が痛過ぎて一時間も歩きたくない。

だが、紹介状が無ければ話は進まない。

「では、17時頃 伺います…」

私はシルバーカー押し押し、紹介状を受け取りに歯医者まで歩ったんだな。

「どうも、ご無理 言いまして…」

「どうされたんですか?急に」

あー…コレは話しておかないと、他の重患さんが同じ目に遭っちゃうかもだな。

私は紹介状が無いと歯科○では予約が取れない旨を説明した。

「え!?そんな事あるんですか!?」

あったんです(泣)

いつもは厳しい受付嬢さんに心配されつつも、紹介状を受け取った。

時は既に17時半。
家に帰ってからでは、また受付時間が終わってしまう。

病院から出て直ぐの歩道にシルバーカーを停め、車の走行音が響く中、歯科○に電話した。

「予約取りたいんですが…」

『紹介状の宛名には、どういう記載がされていますか?』

なるほど、こういう感じで紹介状の確認を取る訳か。

宛名書きを読み上げるが、まあ、ほっぺたの腫れで余計に滑舌悪いわ、車の往来が結構 有るわ。

『すみませんが、もう一度』
『すみませんが、もう一度』

って、何度もなっちゃいましたよ。

『予約が取れるのは、一ヶ月先です』

またかよッ(泣)!!!

「かなり腫れちゃってて、一度診てもらうだけでも して欲しいんですが…」

『予約が取れるのは、一ヶ月先です』

そんにゃ殺生にゃ(号泣)!!!

大きい所では、こういう事は よくある。

「では、その日の そのお時間で…」

結局ね、歯科○の予約が取れたのは、一ヶ月先。

あ、そうだ、今 歯医者の前に居るじゃん。追加の痛み止めだけでも…

と 思ったが、時すでにお寿司。
予約の電話でモタモタしてた所為で、受付時間を過ぎてしまっていた。

…これ以上、他人と闘う元気 無い…

結局ね、諦め歩いて帰宅を選択しましたよ。二時間掛けて。

ひいいいぃん(号泣)!

無駄なウォーキングを3時間もしちゃったもんだから、親不知が脈動するほど、痛くなっちゃって。
つられて持病の痛いのも盛大に発生しちゃって。

踏んだり蹴ったり蹴飛ばされたり。

ほっぺたに湿布貼ったの、初めてだ。
家に在った痛み止め系を飲み飲み、耐え忍ぶ以外に無く。
一番困ったのは、物が食えない事だな。痛いのも困るっちゃ困るんだが。

“噛む” だなんて、もってのほか。
液体くらいしか口に入れられない。

コーンスープ飲んで やり過ごそうかと思うんだけど…

お腹空いたよお(泣)

胃腸は活性化してて、やたらと お腹が減るんだな。

出来る限り噛まない食べ物…

お粥か、パンか。

お粥もね、最初のうちは良いんだけど、レトルトパウチ1個じゃ腹が満たされなくて2個は食うし、すぐ飽きちゃう。

結局、耳が無く柔らかそうな、菓子パン類を買ってたな。3~6個。

これも歯痛 独特、と言うか、私だけかもしれないんだが…

甘いもの~!
ギブミーチョコレートォオ!

甘いもの、特にチョコレートなんかの、甘ったるいものを食べたくて仕方がない。

──痛ーッ(号泣)!!!

だからと言って、普通のチョコレートを口の中で溶かして食おうと反対側の ほっぺたに入れといても、どうしても唾液で親不知の炎症側にまで流れて行ってしまうんだな。

ホロホロするようなお菓子…

ソフトクッキーですら、もぐもぐ出来ない。

何かいいの無いかな…

なんて、スーパーの お菓子売り場を周回している時、出逢った。

あ、コレ美味いんだよな。

棚上に陳列されていたは、海外メーカーのキューブ型した、ウエハース。

これなら もろくてチョコもサンドされてて流れないし、いいかも。
うん。あれ、良かったよ。
口の片側で潰すのにも力が要らないし、何より親不知側に行っちゃう事も無い。

良い食べ物に出逢った✨
盛大に歯に詰まり易いのが難点なだけ。

そんな食生活を続けつつ、ひと月経過。
待ち望んだ歯科○の予約日が やってきた。

シルバーカーを畳み上げ、バスを乗り継ぐ。
階層建ての階下で受付して診察券とカルテ作成してもらって、エレベーターに乗る。

はあぁ…

口腔外科って馴染みが無いから 混雑してるイメージ無かったんだけど、結構 患者さんでエントランスの待合室はいっぱい。

これは予約 取れないはずだわ。

窓口で問診票と紹介状を出し、呼ばれるのを待つ。

中はパーテーションで区切られた、診察椅子がダァーッと数十並んでいて、医師も看護師も忙しそうに通路を早足。

はあぁ…

口腔外科って、結構人気(?)があるようだ。

「よろしくお願いします!」

担当になったのは、快活そうな女医さんだった。

おおお!歯医者さん(?)で女性の先生、初めてだ!

好みのタイプだったのは、言うまでもない。

問診してレントゲンを撮影しに階下に降り、また待ち合わなきゃならんのは骨が折れたな。
大きな病院は どこもそうだけど。

「やっぱりね、親不知の根っこに神経が二本、重なって写ってる」

診察台に腰掛けた状態で、再度レントゲン画像の説明を受ける。

「こうね、親不知って、ぐううッ!って捻れながら伸びて来てるんだけど」

女医さんが腕を捻り上げながら説明してくれて、分かり易かった。

完全に埋没したままの右下親不知は、奥歯に接して止まっているように見えるが、まだ伸びよう まだ伸びよう、と頑張っているらしい。

なんか、海老芋みたい…

奥歯って、歯のイラストとかだと根っこが二股に割れたイメージじゃない。

その二本の足が、捻り上がり よれて一本になっちゃってるんだ。

レントゲンでは平面しか分からないから、神経にや血管に接していないか把握する為、後日CTとMRI撮影の予約をした。

想像以上に おおごと だな、埋没 親不知。
炎症も治まりきっておらず、抗生物質と口腔洗浄液を処方してもらった。

画像系の撮影が済み、翌 診察日。

「やっぱり、親不知の根っこにベッタリ神経が貼り付いちゃってる。右下もだけど、左下も」

女医さんはワクワクした様子で、説明してくれた。

「歯茎を切開して、顎の骨を削って抜歯します」

骨削んの!!?

「手術中は、ぼんやり眠くなるような薬を使って、局所麻酔なので、日帰りで出来ます」

骨削って日帰りなの!!?

「親不知の根っこに貼り付いた神経は抜く際に引っ張られて、どうしても捻れたり伸びたりするので、舌のしびれ等が残る可能性が有ります。
発生しないようには注意しますが」

痺れかぁ…
既に持病の影響で舌先 痺れてるから、まあ、それは問題無いかな。

いやぁ…でも…骨削るって、麻酔切れた後、絶対 痛いよね!?
痛いに決まってるよね!?

「一応、線維筋痛症があるので、主治医の先生に お手紙書いて この治療が可能か聞くので、次の診察の時に渡してくたさい」

周到だな。

「その間に、こちらも医療会議に出して この方向で進めて良いか、他の先生方の意見も確認しますね(♪)」

この“腕が鳴る”と言わんばかりの表情、この女医さん、手術が好きなんだろうなぁ。

手術の腕は現状では判断出来んが、好きって事は、職人だ。
これは かなりな安心要素である。

骨は折れても数週間で治るのだし、一時 痛い期間を耐えれば、二度と親不知に苦しむ事は無い。

右下は それで良いとして、問題は左下だ。

「両側の親不知一緒に抜いちゃうって、出来ますか?」

「左下は疼いて無ければ、抜かなくても大丈夫だけど」

同じような目に遭って痛い思いして紹介状からなのは、御免だ。

「両側一緒に抜くとなると、一週間くらい入院が必要になっちゃう。ほら、ご飯 食べれないから」

入院!いいね!

頓服で痛み止めは出るだろうが、家で一人で そうそう医師に相談出来ない中 痛いのを我慢するよりか、ナースコールが手元に在る入院の方が 断然 良い。

「両側 一思いにお願いします!」

「ただね、ここの入院施設は無くなっちゃったから、別の所に行ってもらわないと いけなくなっちゃうけど…」

聞けば 家からでも電車で行ける範囲の総合病院だった。

「構いません!お願いします!」

てな具合で、半ば無理矢理 両側抜歯を お願いしたんだな。

だって二度痛いより一度がいいじゃん。

女医さんも そちらの病院に週一くらいで出向なさっていたから、担当医師も変わらなくて済む。

持病側の主治医の先生への手紙を受け取り、その日は終了。

私にも 一週間の入院となると、二つほど問題が有る。

一つは、タバコ。
これに関しては、禁煙する良い機会かな、と思った。

二つ目は、猫5匹。
一週間 留守にするとなると、どうしても世話人が必要になる。

最悪、ペットホテルかペットシッターを利用するとして…

とりあえず、母親に相談してみた。

『早めに時期が分かれば、一週間そっちに行くよ』

良かった~、これで安心して話 進められる。

主治医の先生から、手術許可の文書も頂いた。
歯科○は系列とは言え、転院扱いになる。
入院前に初診は受けなければならない。

紹介状とカルテと画像データの入ったディスクを頂戴しに、歯科○へ赴いた。

歯医者と歯科○と交互に通院して、既に数ヶ月経つ。

時は2019年、年末。

切り替わろうとしていた──激動の、2020年に。

⑤に続く──

蟲の縁④

姉さん、春です。
ヤツらの季節です。

ベランダの周囲を よく分かんない脚のプラーンとした、黒い羽虫が飛び交っていて、恐怖です。

虫の居ない平和な季節は終わりを告げました。

今年は、一体どんな虫と邂逅するのか…

今回は、蟲っちゃ、蟲?な、お話。

去年かな?一昨年かな?極最近。
夜、タバコを吸いにベランダへ出た。
いつも通り、百均の風呂椅子に腰を着け、ボケ~ッと夜空を眺めていた。

きょうも お月さん、きれいな~…

くゆる煙に、灰を落とすため灰皿に目を落とした時、何かが視界をかすめた。

──ッ!!!

視線を上げれば、我が家の壁に張り付く、真っ黒な影。

蛾!!!!?

真っ黒な蛾と言えば、いつか話したエメラルドグリーンの においだま を産む、ヤツしか思い浮かばない。

大きさも その位。

嫌ーッ!!!!!

我が家のベランダにも、エメラルドグリーンのニ○ッキ様が、隊列組んで四方八方 占拠する、そんなビジョンが脳裏をよぎる。

た…退治せねば…

どうやって?
場所は屋外。
殺虫剤はシンク下。

武器が、無い!!!

壁にとまったばかりの黒い影は、今なお くるくると回転して静止しない。

出入口の掃き出し窓を開閉すれば、飛びかかって来そうな気がして身動き取れない。

私は、ぎっ と黒い影を見上げたまま。
ぽとり と、タバコの灰が落ちる。

…あ、あれ?
なんか、毛が生えてない?

ぱちくり と、目が瞬いた。

目を細めれば 黒い羽の中央、胴体 当たりが毛に覆われている。

──あっ!!!蛾じゃない!!!!!

びっくりした。
コウモリ だ。

コウモリが 人の座るベランダの外壁で羽を休めたんだ。

へええ✨
こんな間近にとまるだなんて、有るんだ!

虫で無ければ怖くない。生き物 大好き人間。

小さな小さなコウモリ君は、その日以来、ベランダの周囲を飛び交うようになった。
まあ ただ、真っ黒だから、あの蛾にも見えるんだけど。

──なんか、どんどん数、増えてない?

夜になると、数匹のコウモリが飛ぶのを必ず見る日が続く。

私的には、コウモリは虫を食ってくれるから、有難いんだけど…

直近、害獣ハンターが屋根裏に巣食ったコウモリを撃退する番組を観たばかり。

屋根裏も屋内も、コウモリのフンで大変な事になってた…

嫌だな。

何でかって、動物のフンは虫を誘き寄せるものだから。

ううん…我が家に入り込んでたら、困るな。

そういえば夏頃、ハチが やたらと押し入れに向かって「ひゃん ひゃん!」言ってたのが、気に掛かる。

だが、何年も開けてない押し入れの天袋を開けて確認するのも、怖い。

おばあちゃん入ってたら、嫌だし。

あ、霊的な者ね。

なかなか天袋の確認が出来ないまま。

…巣は他所の お宅だ、きっと。

ニャンコらも騒いでないし、そう思うようになった。

「──うぎゃッ!!?」

タバコを吸いにベランダに出れば、顔面間近を滑空するコウモリ君。

な…なんか、距離が縮まって来てなぁい…?

度々、蛾!? かと驚かされる日々。
だって、突然 出くわしたら、虫だと思っちゃうじゃない。

そんなある日──
コンビニへ行こうと、玄関からシルバーカーを押し出した。

──蛾!!?

エレベーターを向いた瞬間、驚かされた。
真っ黒な塊が、共用廊下の腰窓の縁に、ぶら下がっていた。

え…コウモリ君!!?

最初は、ちみっこ のイタズラで おもちゃの人形が ぶら下がっているのかと思った。

点いてんのに、電気…
時間は夜。わざわざ明るいところで羽休めせんでも…
開いた腰窓から、どうして入ってきたんだろな。

まあ、急に飛ばれてもビビるので、私は そおっと玄関戸を閉めた。

カチャン…

そおっ…

振り向けば、まだとまったままのコウモリ君。

えー…

腰窓前を通らねば、エレベーターには辿り着けない。

──やっぱり勿体無い!こんな間近でコウモリ見るなんて無い!

私はカバンからスマホを取り出しつつ、来た廊下を引き返した。

パシャッ☆

コウモリ君、激写成功(ペタッ)

いや、二枚も撮ってたなんて覚えてなかったよ。
余裕有るな~、コウモリ君。
https://x.com/yukipochi_2022/status/1643492334636781568?s=20

私はコウモリ君の正面から近付いた訳だが、やっぱりね、動かない。

爪とか引っかかって取れないのかな?どっか怪我でもしてんのかな?

じいっくり、じいっくり、コウモリ君を間近から観察したが、そういう事でも無いっぽい。

ていうか──

コウモリ君の胴体は まんまる もこもこ 五百円玉くらい。
ジャンガリアンハムスターみたぁあい♡

もうね、背中に線の入ってないジャンガリアンハムスターだよ、あれ。

さ…触ってみたい…(ゴクリ)

私は そおっと腕を伸ばす。

触れるかな、触れるかな…wkwk

流石にね、触ろうとしたら飛んで逃げちゃうかな、なんて思ってたんだ。

人さし指で…ちょんっ!
ひゃぁああッ!触れたぁ~ッ✨♪!

ふわッてしてた、ふわッて。

背中をつつかれたコウモリ君は、むじゅっと震えて少し身じろいだ。

さ、これで逃げなきゃ、捕まえちゃうぞ~!

なんて阿呆なこと考えながら、コウモリ君が飛び立つのを待った。

──お行きなさいよ。

逃げも隠れもしないんだよね。

まあ…放っておくか。

私は当初の予定通り、コンビニに行こうとエレベーターを再度 呼んだ。

乗り込みかけて廊下を見れば、ぶら下がってるままのコウモリ君。

帰って来たら、もっかい触ろー♪
あ、ムービーも撮っちゃお♪

帰って来るまで待っててくれて良かったのにな、コウモリ君。

⑤に続く──

SOS発信③

─魔女の一撃☆二打目─

すっかり忘れて飛ばしていたが、虫歯治療と同時期かな。
引越し間もない、春先のこと。

床に敷いた座布団から立ち上がろうと片膝着いた、その時──

ビギーンッ★

うぎゃあッ!!?

腰椎部に打たれた電撃に、私は そのまま真横に倒れた。

痛ってえええ!!!

涙はにじむわ脂汗は染み出すわ。

そう、すっかり おなじみ “ぎっくり腰” である。

「ハッハッ…」

呼吸は短く浅く、起き上がろうとしても、痛いわ腰の骨が抜けそうだわで 身動き取れない。

や…ヤバい…

とりあえず頑張ってベッドに這い上がり、横臥して やや膝を折り、比較的 楽な姿勢をとった。
しばらく休んだら治るかもだし、ちょっと ピキッてイったくらいだ、きっと。

その間に近所に整形外科が無いかを検索したが、いやはや遠い。

2~3時間、考えたかなあ。

と、とりあえず トイレ…タバコも吸いたい…

試しにベッドから、べとーんと流れ落ちるように降りてみた。

た、立ち上がれない…

自重を支える事は かなわず、どうにか四つ這い ハイハイ して移動した。

「ふんぬッ!…ぬぐぐぐぅ!」

トイレのドアノブを掴み、立ち上がる。

ひぃいいん、痛いよおおぉ(泣)!

洋式トイレに座るも 腰を垂直になんか出来ず、浅く座りタンクに目一杯寄りかかり、どうにか用を足す。

ダメだこりゃ。

ハイハイして居間のベッドまで戻り、枕元のスマホを手にして、私は その場に横たわった。

ええと…1・1・9。

『火災ですか?救急ですか?』

「救急車、お願いします」

タクシー呼ぶより慣れた口調で、すらすら容態を説明し、救急車を呼んだんだな。

ああもう、猫毛が…

パジャマ代わりのジャージの膝には、床を拭き上げ出来た、ニャン毛の蓋。

もう、着替えなんか出来ない。
諦めるしか無いよ。

「お財布と、スイカと、スマホと、タバコと…」

救急隊が到着するまでに、提げ鞄に必要最低限の荷物を揃える。

しばらく、タバコ吸えないから…今のうちに。

乾いた風呂場の床に寝そべり、一服。

提げ鞄を床に引き摺りながら、這って玄関まで移動した。

鍵を、開けておかねばならんのだ。

ううん、どうしたものか…

手を伸ばしたところで、靴置き場の先の腰丈のドアノブになんか届かない。

思案している最中、ふと、靴置き場に折りたたんだシルバーカーが目に入った。

畳んであるので支えには不安定なんだが。

おおお、いい物が在る✨

シルバーカーのホルダーには、先日 姉に貰った お下がりの杖。

「うりゃああぁッ!」

私は杖の下部を握り、杖の柄の先を、ドアノブの鍵の横になったツマミに引っ掛けた。

ツルッ

「なんの!」

ツルッ

「これしき!」

…カチャン。

開いたああぁッ✨

ツルッツル滑って なかなか難儀したが、どうにか解錠。

うぅぅ…疲れたぁ…

鍵を開けるのって、物凄いカロリーを消費すると思う。うん。

杖も床に放って、自分も床に放って、後は待つだけ。

♫ピンポ~ン

「空いてまーす!!」

こうして無事、救急隊の方々と合流 出来たんだな。

「通路が狭いのでストレッチャーが入れないんですが、両脇 抱き抱えるので歩けますか?」

oh…

「どうかな…やってみます」

救急隊二方に両脇を引き上げて貰う。

ひぃいいんッ(泣)!

自重が掛かると、むっちゃ痛い。

楽な姿勢を模索。

結果、膝を軽く曲げれば、すり足で歩行出来た。
例えるならば、ヒゲダンス。

「お荷物はございますか?」

「あ、鞄と、その…アレ!」

床に転がった杖を拾って貰いたいんだが、こういう時に限って「杖」て単語が出てこないのよね(遠い目)

「アレ…アレ!」

指も差せないので、顎と視線で指し示す。

「──これですか?」

「そう!それ!」

ていう、アレな会話を展開した。

捕獲されたヒゲダンスのエイリアンは、救急車前に設置されていたストレッチャーまで辿り着いた。

ふうぅぅ…

乗り上げたままの横臥位は、左が下。
頭から救急車に運び入れてもらい、ハッとした。

──この向きじゃ、救急車の中が見れない!

患者置き場は右側面。
見上げてもモニターしか見えない。

失敗したあッ(泣)!

折角、意識はハッキリしていたのに、救急車の内装が見れないんだ。
救急隊の方は背後になるから、問診の受け答えも背を向けたまま、という、失礼的な配置。

開き直るしか、無い(涙)

酸素量を図るクリップを着ければ、ピッ…ピッ…と脈の波形。

「近くの病院が空いてなくて…」

世の中には救急車をタクシー代わりに使う軽傷な迷惑患者も存在する、と耳にした時も有るんだが…

いや、無理無理、あの病院は無理。

「○○病院は、ダメなんですか?」

私は 迷惑患者に成り下がろうと決心した。

打診したのは、持病で通っている国立病院。
あそこは確か整形外科もあった気がする。
家からならばバス一本。

何より既に私のカルテが存在するから、持病うんぬんで色々と説明し直す手間が無い。多分。

「あそこは整形の医師が不在なので、一泊入院になってしまうんですが…」

入院!いいね!

「○○病院で お願いします!」

ぶっちゃけ、この腰で即日帰宅せよ、てのも無理な話。
ていう経緯で、近場の病院に運んで貰うことになったんだな。

ふうぅ、一安心…

サイレンを鳴らし発車した救急車に揺られ、私はピッピと鳴る心電図を眺め続けた。

ブブブッ!

何事!?

突然、機材からアラート音が鳴り響いた。

「あ、もうちょっと深く呼吸してもらっていいですか?」

どうやら、血中酸素量が足りなかった模様。

深呼吸して、しばし──

ブブブッ!

鳴り響くアラート音。

「強く、呼吸して下さい」

「すみません、鼻が詰まっていて…」

季節柄、鼻はカッチカチな蓋がされている状態。思うように呼吸が出来ない。

「口で、呼吸して下さい」

あ、口呼吸って方法が有ったな!

すう〜はあ〜──

ブブブッ!

再三、鳴り響くアラート音。

「す…すみません…口が乾いてまして…」

ぶっ倒れてから数時間 水分を口にしていない。喉は砂漠状態。

「ダメだな、外しますね」

ていう経緯で、指先のクリップは外されてしまったんだな。
不明な病気でなく、明らか ぎっくり腰だし。

病院に到着したらば、搬入口に待機している看護師さんとストレッチャー。
救急車のストレッチャーから、病院のストレッチャーに移動せねばならない。

「自力で移動出来ますか?」

「どうかな…やってみます」

横付けされたストレッチャーに向かい、肘を着き上体を起こそうと試みる。

ひいぃ(泣)!

ダメだ…

パタリと、突っ伏した。

上半身に くっ付いた下半身は、腰骨から ひっこ抜けそうで全く言う事を聞かない。

ぬ…ぬぐぐ…

文字通り 二進も三進も行かないもんで、諦め手助けを頼もうかと思った時。

あ、回転、出来るかな?

思い付いたので、ころん と横向きに転がってみた。

おおお✨

横回転は出来たんだよ、横回転は。

「ありがとうございました!」

無事ストレッチャーを移動出来、救急隊の方と看護師さんの引継ぎを経て、救急診療に回された。

整形の医師は翌日出勤だが、担当医と主治医と連絡をとってくれていて、痛み止めを処方された。

「座薬です」

座薬!!?

座薬なんだよ
ぎっくり腰の痛み止めって。

座薬かぁ、ううん、座薬かぁ…

ぶっちゃけ、挿れるだけならば苦では無いんだが、遊び尽くしたケツを見られるのは、いかな看護師さんとは言え、嫌だ。

「ご自身で出来ますか?」

「ちょおっと、ちょおっと頑張って良いですか!?」

腰を反らせるのは無理だが、腕は動く。

手拭きのウエットシートを差し出され、画像撮影に回される。

ガラガラガラガラ…

ストレッチャーに乗ったまま運ばれる廊下は、やたらと長い。

レントゲンとCT撮影。
でっかいガラス張りのレントゲン撮影台に転がって移動。

「体勢、変えますね」

ぎゃああッ(泣)!

姿勢はレントゲン技師さんが変えてくれるんだけど、仰臥して膝折、膝下に三角クッションを置かれれば、重力の不可をモロに腰に食らう。

「体勢、変えますね」

ひいいッ(泣)!

横臥位に修正されれば、どうしても腰に捻れが生じる。

「はい、終わりましたよ」

「あ、ありがとうございます~(涙)」

レントゲン台は、鬼門だ。

整形外科の担当医の診断は翌日として、救急医の仮診断を受ける。

「ぎっくり腰でしょう」

ですよね。

「3日~1週間、入院してもらいます」

1週間!!?

瞬時に頭を過ぎったのは、愛猫5匹。
朝(昼)起きて餌やって、以来やっていない。
一晩くらいは平気だが、少なくとも三日も入院するのは、無理。

あぁ~うぅ~、どうしよぅ…

入院病棟に運んでもらい、すっかり慣れた横回転でベッドに移動した。

「入院の案内と、いくつか書いてもらいたい書類が有るので、持ってきますね」

6人部屋の間仕切りカーテンは閉められ、他に入院患者が居るのかは現時点では分からない。

私は、枕元に置いてくれた鞄からスマホを取り出した。

あ、違うわ。当時はシロ・トラ・ミケの、三匹だ。

ううん、誰にお願いしようか…

一回二回ならば近所の親友に お願いしたろうが、ご家庭も有るし、流石に一週間は気が引ける。

母親は、嫌だ。

私は当時まだギリギリ繋がっていたパートナーの、通話ボタンを押下した。

「あ、ごめんなんだけど、今日から一週間ぐらい、家来れないかな?」

事情を説明したら「明日になるけど行けるよ」と 言ってもらえたので、一安心。
売れないフリーランスの人間って、便利だな。
と 思ったのは、内緒だ。

看護師さんが入院のしおりと、バインダーに挟まった空の書類を持って来た。
中には、緊急連絡先を記入する用紙が在った。

「…これ、白紙じゃ、ダメですよね?」

「流石に どなたか、書いて頂かないと」

ですよね。

ううん、弱ったにゃぁ…

真っ先に浮かんだのは母親なんだが、母親に連絡されるのは、困る。
ていうか、嫌だ。

父親なんか連絡したところで、遠距離過ぎる。

ううん、姉ちゃん家の住所、スマホに入ってたかなぁ…?

一応、母姉三人の住所は、スマホのアドレス帳に入っていた。

──いつの情報だ、コレ。

ガラケー以来、アドレス帳いじった記憶無シ。

多分、母も姉2号も引越してるよなぁ…?

何十年も生きてると、いちいち他人の住所を留めなくなるよね。
姉1号だけは、長年 引越ししていなかった。
住所的にも、多分 合ってる。多分。

私は緊急連絡先に、姉1号を指名したんだな。

「明朝には、整形の先生から話が有りますからね。
トイレに行きたい時は、ナースコールを押して下さい」

「お世話になります…」

晩御飯には間に合わなかったんだっけな。

お、お腹空いたああぁ…お喉が乾いたよおおぉ…ていうか、一服したい(号泣)

何よりもタバコが吸えない事が一番辛かった。

病院の消灯時間は早く、20時頃には電気が落ちる。

普段飲んでいる分の薬は看護師さんが持ってきてくれたのだが、当時は睡眠薬は処方してもらっておらず、なかなか寝入れない。
荷物台に備え付けられたテレビも、テレビカードが無ければ観られない。

看護師さんが「呼んでもらえれば、テレビカード買って来ますよ」と言ってくれていたが、入院のしおりを開いてみれば…

せ、千円…

数時間分なのに、高いよ、テレビカード。

飲薬用に用意してくれた吸飲の水は、既に空っぽ。
自販機も代わりに行ってくれると言われたけれど、百円の お遣いの為にナースコールを押すのも気が引ける。

ていうか、おしっこしたい(泣)

流石に生理現象を堪えるのは無理なもの。

な、ナースコールするか…?

いやあ、でもなぁ…トイレに行くのに車椅子?それともベッド上なら、尿瓶的なもの…?
葛藤したのは、言うまでもない。

ベッドサイドには立てかけられた自分の杖。

ちょっとだけ、自力で頑張ってみよ…

完全に真横になった状態から起き上がるのは無理な気がしたが、ラッキーな事にベッドは電動リクライニング式だった。

ポチっとな。

試しに、リモコンの起きるボタンを押してみた。
ゆうっくりと起き上がるベッドの上半分。

あッあッ!ここまで、ここまで(汗)!

くの字の姿勢がキツいと、腰に自重が掛かって泣きそだったので、少し戻した。

ふうぅ…

杖を床に付け、深呼吸。

「ぐッ…」

ナマケモノか、て言うくらい ゆうっくうり ゆうっくり、足をベッドから出し床に着ける。

に゙ゃああああぁッ(泣)!

どうにか立ち上がってみはしたが、あんまり長時間 立ち上がっては居られない。

そ、そうだ、ヒゲダンス…

膝を やや折、杖に全体重を乗せ、すり足で一歩一歩進んでみる。
窓際から見える病室出入口は、めっちゃ遠い。

あー…無理かもしんない。

既に後悔真っ最中。
だがしかし、折角立ち上がったのだから、せめて自販機がどこに在るかだけでも確認したい。

教室程の奥行だけど、数分かけて出入口まで進んでみた。

お、こんな所に洗面台が✨

廊下に出る直前、備え付けられた共同の洗面台がある事を知った。
これは大きな収穫である。

閉まった引き戸をス~ッと。
廊下に頭を出してみたら、なんと、斜向かいにトイレが在った。

や、やったぁあ✨

廊下の奥行は数メートル、もうちょっと頑張れば行ける距離。

今折り返してベッドに戻るより、断然近い。

深夜の病院のトイレだとか独りで行くのは めっちゃ怖いが、怖いからって理由で看護師さんを呼ぶのもだよな…
私はゴクリと生唾呑んで、必要最小限まで点灯していない廊下に出た。

…デジャヴ。

遠い昔、似たような出来事が在った気がする(遠い目)

点灯していた 誰でもトイレに入り、後は何とかジャージを下げて用を足した。

後は立ち上がって、ベッドに戻るだけ。
給水タンクに背を付けたまま、瞑想した。

「──よしッ!」

気合いを入れて、再び立ち上がる。

ふにゃあああぁッ(泣)!

ダメだ!ここで泣いたら終わりだ!

かなり時間を掛けてベッドまで戻り、ふと思う。

折角 立ち上がってるんだから、吸飲に水入れに蛇口をもう一往復すべきじゃないか!!

もうね、よく分からん根性論で動いてたよね。

水分を確保して、ベッドに横になれば…

つ、疲れたぁッ!タバコ吸いたいッ(泣)!

もうね、頭の中が タバコでいっぱい。

ヘビースモーカーだった私の じぃじ ばぁば は、一週間入院したら禁煙出来たと聞いた。

いい加減、お財布に優しくないし、禁煙を考えていないこともない。

チャンスなのでは。
周りの禁煙経験者は「最初の3日は辛い」と言う。
この最低3日間の入院を耐えしのげば、タバコなんか吸いたく無くなるやもしれん。

3日…たった3日間の辛抱だ!

自分に言い聞かせながらも、タバコが吸いたくて吸いたくて堪らない。

我慢する時間は超絶永い。

時間を潰そうにも、スマホは使えない。
ほら、充電コード持って来てないし、通話もそこそこした後だし、最悪 一週間バッテリーを持たせねばならんかもじゃない。

誰が入院しているかも分からない病院の大部屋でスマホ使うのも罪悪感有るし。

スマホの電源、off。

真っ暗にしないと余計に寝付きにくいんだが、枕元の小さい照明は切れない。
だって怖いもん、深夜の病院。

──やること無い。

暇である。暇過ぎる。

眼鏡を外しテーブルに置き目をつぶり、妄想でもして時間潰す以外に、無い。

…………

タバコ!!!!!

脳内に浮かぶビジョンは、タバコのみ。

自分でもダメ人間と思うんだが、マジでシンドイんだよ、禁煙チャレンジ。
そんなこんなで眠れぬ夜を過ごし、疲労困憊も有り、流石に明け方 寝落ちてた。

──ハッ!

気付いた時には病室のカーテンは開けられ、陽の光が射し込んでいた。
間仕切りのカーテンも、いつの間にやら全開になっている。

病室内の相部屋患者を確認しようと、眼鏡に手を伸ばし振り返る。

…何事!!?

うすらぼんやりした眼下には、白衣を羽織った多分医師3~4人。
私のベッドサイドを取り囲むように立っていた。

いや起き抜けにアレって、改造手術でもされるのかと思ったよ、マジで。

何かご用かな??

思った辺りで、医師らは私の起床に気付き、無言で立ち去って行った。

何だったんですか?アレ。

「朝は かきあげ天そば ですよ~♪」

朝ご飯が配膳された。

うわぁ✨お腹空いたぁ✨

ベッド上部を少し起こし、寄せてもらったテーブルに乗せられたトレーには、温かな麺つゆ の薫り立ち上る かけそば一杯。

かきあげ天は別添え、という心配り。

病院食美味しくないって聞くけど、美味そうじゃん♪

早速かきあげ天を麺つゆに浸し、蕎麦をズルズルッ。

──あ~…こういうことか〜…

て 思ったのは、内緒だ。

私ほら、ジャンクな食生活してるから、口に合わなかったと言うか…

病院食ってさ、病院だから一日の塩分摂取量とかも計算されているじゃない。

正直言おう。
塩足らん。

半分ふやかした かきあげ天は、神がかった美味さだった。
アレはマジで本格的✨

出来れば、一般的な濃度の麺つゆ で いただきたかったな。

お~⤴昼は ちらし寿司かぁ✨

もらった献立表には美味そうなメニューが ずらり。晩御飯は忘れてしまったけど、食べたいやつ。

かきあげ天の事も有り、期待値は高まる一方。

「ごちそうさまでした~♪」

栄養補填の為に添えられていた牛乳は、水分摂取用に置いていってもらった。

牛乳、久々だな~。

チビチビ牛乳飲みながら、ひたすら献立表を握って見続けた。

だってさ、献立表 眺める以外に やること無いんだもん。
何かやってないと思考がタバコに占拠されちゃうし。

6人部屋の大部屋は空いていて、同室の方は正面に お一人だけ。

…あれ? て 思ったんだけど、その話は次に。

軽く挨拶すれば、同じく腰を痛めて入院されている方だった。
世間話したり、献立表見たり、もよおしたのでトイレに立ったり。

「おトイレ、看護師さん呼ばないんですか?」

心配された。

「やってみたら意外と行けたんで、いちいち呼ばなくても良っかなって、思って(笑)」

話を聴いた分では、相部屋の方よりか 私の方が随分と軽症であったし、何の気無しに答えた。
カタツムリより歩みは遅いけど。

「○○さん!!?」

用を足し、トイレから出た通路で、他患者の車椅子を押す看護師さんに
呼び止められた。

「トイレに行くなら、ナースコール押して く・だ・さ・い!!!」

「あ、すいませ~ん(汗)」

なかなかな剣幕で お叱りを受けた。

この時 私は気付いていなかったんだ、事の重大さに。

部屋に戻ると、相部屋の方が数人の看護師さんに囲まれていた。

「どうかなさったんですか?」

ベッドから半分身を乗り出した状態で、看護師さんに支えられている相部屋の方。

「あはは…トイレ一人で行けるかなって やってみたんですけど、ダメでした(照)」

あー…こういうことか~…(汗)

私みたいに看護師さんの意に反し、無意味な頑張りをしちゃう人間が居ると、真似をしちゃう患者さんが出てしまうのだよ(遠い目)

リハビリなんかのカリキュラムも しっかり組まれている中、止められているの勝手に運動されちゃうと、看護師さんに多大な ご迷惑を お掛けしてしまう訳で。

看護師さんの指示には、従いましょう。うん。

やっちまったなぁ(汗)

後悔後先たたず、苦笑うしか出来なかった。

待ちに待った、お昼だ。

ちらし寿司、ウマー♪

錦糸卵に桜でんぶ で彩られ、優しめの酢飯に、甘く煮られた れんこん やらの具だくさん。

…私に食レポを期待しては、ならぬ。

ベッドに訪問してくれた整形の担当医から、一週間の入院、と聞かされた。

一週間分の看護スケジュールの用紙を頂いた。

一週間、かぁ~…

タバコが吸いたい。吸いたくて堪らない。

看護スケジュール表と献立表を交互に眺めるが、まあだ おやつ の時間…

私はナースコールを押下した。

『どうなされました?』

「すみません、退院させて下さい(礼)!」

──私は、負けてしまった。

ニコチンの誘惑に。

④に続く──

─おまけ─急遽退院

しっかり組んで頂いた一週間分もの看護スケジュールは、本当に申し訳なかったのだが。

「すみません、やっぱり猫が心配で…」

一応、嘘では無い。
世話人が居るとは言え、当時はまだ一晩以上 家を空けた時は無く、ニャンコらの事も心配だったんだ。

言い訳です。スンマセン(汗)

表向きな事情に、看護師さんは整形の担当医師に退院許可を取りに行って下すった。

自力で活動出来ちゃっていた事も有り、その日のうちに退院許可が下りた。

ふうぅ~✨
シャバに出るまで、あと少しだ!

ナースステーションのカウンターで、必要書類や 既に処方されていた数日分の薬類を頂戴した。

「これが“退院しました”て証の用紙なので、会計窓口に提出して下さいね」

時間は16時くらい。会計窓口は17時に閉門、まだ時間的には余裕が有った。

「お世話になりました~!」

本当に、わがままばっかり言ったりしたりして、ごめんなさい(礼)!

病院の入院棟は階層だが、以外の施設は平屋仕立て。
ナースステーションから地味に離れたエレベーターを目指す。

ええと…

階下に降り、まず館内マップを探しルート確認。

…遠くない?

病院の敷地最果てに位置した入院棟、かたや大通りに面した病院の正門。
振り返り見た廊下は果てしない。

まあ、50m位だったと思うんだけど。ほら、牛歩だから。

「ぬぐぐッ…にゅぐぐッ…」

視線を上げれば、全く近付いて来ない、外来病院棟への曲がり角。

うにゃああああッ(泣)!!!

手すりに全体重を乗せ、すり進める歩幅は せいぜい30cm。
既に後悔真っ最中。

途中何度も挫折して、挨拶して すれ違う医者や看護師に助けを求めようかと思いましたよ(遠い目)

つ、疲れたぁ!喉乾いたぁ!

廊下の中腹には、中庭へと出るガラス戸が一枚。
ちょっと善からぬ考えが浮かんだので覗いてみた。

四畳ほどの敷地に設置された向かい合わせのベンチが二脚、もんの凄い憩い感。
戸にも柱にもベンチにも、いたる所に “禁煙” の張り紙。

昔は喫煙所だったんだろうなぁ…

知らない方、多いかな。
昔はね、病院にも喫煙所が在ったのだよ。昔はね。

時代を感じる…

流石に張り紙されてちゃね、悪いことは出来ません。
気を取り直して、会計窓口へ真っ直ぐ向かう事にした。

つ…着いたぁ!

ようやく、辿り着いた病院の正面入り口。
まだ会計待ちの他患者さんは居たが、受付側の窓口はシャッターが半分降りている。

ええーッ!? もうそんな時間!?

たった50mの道のりが、一時間掛かってたんだよ、一時間。びっくりだよね。

あ~、間に合って良かったぁ(汗)

受付窓口にカルテと退院証明を提出した。

呼ばれるのを待つ間、エントランスの自販機で お飲み物をゲット。
エネルギーチャージ的な炭酸飲料にしたっけな。

チビチビ喉を潤しつつ、一人二人と はけていく他患者さんを見守っているうち、会計窓口のシャッターも完全に降りてしまった。

うえッ!!? どゆこと!!?

周りを見れば、数人の会計待ち患者さんは残っている。
出入口に立つ警備員さんに声を掛けるにも若干、遠い。

どうしよ~、どうしよ~(汗)!

狼狽しまくった。

カチャン…

会計窓口の目立たない横の戸が開き、医療事務員さんが出てきて その場で他患者さんとのやり取りを始めたので、一安心。

長年病院通ってるけど 知らなかったんだよ、窓口が閉まる時間の直前後。

ショップと同じなんだな。

「○○さ~ん!」

「はあ~い!!!」

返事だけは、元気である。

手を上げれば、席まで歩み寄ってくれる医療事務さん。

「この退院証明、ナースステーションに届けて下さい」

──え゙え゙ッ!!?

そんな話、聴いてない。

「それ、持って行かなきゃダメなんですか!?」

「退院完了の証ですので」

「今日中ですか!?」

「今日中です」

えぇ~…ぇぇええ~(大汗)

今日中でなければ、次の持病の予約日に ついでに出来たものを…

そういうシステムならば、致し方あるまい。

私は再び、あの長ぁ~い廊下を、同じ時間を掛けて引き返したんだな。

エレベーターを上りエントランスに出れば、配膳待ちの晩御飯が乗った台車が数機。ヘルパーさんらが あくせくトレーを運んでいる。

──めっちゃ、いい匂い(泣)!!!

食欲そそる、美味しい薫りが通路一面に充満していた。

…こんな事なら、晩御飯 頂いてから、退院するって言えば…良かった…

夜間会計窓口は別に在るだろうしね。

後悔後先立たず。

再びナースステーションのカウンターに舞い戻った、私。

「すみませ~ん!」

「あれっ!? ○○さん、お忘れ物ですか?」

私は握り締め若干ヨレッとシワの寄った、会計済みの印の入った退院証明書を差し出した。

「コレ、届けてくださいって言われたもんで、届けに来ました!」

「え!? わざわざ!?」

んんん…???

「あ、これだけです。では~、今度こそ、お世話になりました~!」

「あ、はい。お大事になさってください…」

なんとな~く、看護師さんの応対が引っ掛かりはしたものの、ミッションをクリアし、残すは帰宅するのみ。

再再度目の長ぁ~い廊下の中腹で、どうにも 悪魔が耳打ち始める。

…ダメ!ルール違反、ダメ!

自分に言い聞かせながらも、日暮れ時の憩いのスペースを、指を くわえて 覗いてみたんだな。

──あ!駐車場が見える!

中庭の先には広い駐車場のアスファルト。

駐車場が在るってことは車の出入口が在る訳で…

病院の正門を思い浮かべば、入口の真横に遮断機が在る。
このまま院内のルートを辿ると、グルッと外来棟を回り込む。

──こっから出ちゃった方が、近くない?

私はガラス戸を開け、憩いのスペースを経て、下草の生えた中庭に足を踏み出した。

…ここ、通ってもいい所なのかな???

とは思ったんだが…ほら、“立ち入り禁止”て札 無かったし…スンマセン(汗)

車用の通路に出て左に向けば、案の定、即 正門の遮断機が見えた。

やったー✨♪!

ようやくだ。ようやく、シャバに出られる!

もうね、色々やりきった感が有って嬉しかったよね。うん。

流石に敷地内禁煙の病院付近でタバコを吸うのも気が引ける。
通院の時に よく使うスーパーに寄ることにした。

うにゃああああッ(泣)と、心の中で叫びながら坂道を登るが、数mの所で息が切れて立ち止まってしまった。

──もう、いいや。

「ぬうんッ!!!」

私は痛む腰に負担が掛からない角度を探しつつ、足を投げ出し縁石に腰掛けた。

カバンから取り出したはタバコとライター。

シュッ、ボッ…チリチリ…

「…ぷッ、はぁああ~ッ(喜)」

こんなに染みる一服ってのも、なかなか無い。
久々だから、回る回る。

あ、一応、路上喫煙禁止区域では無い、筈。

あ~もぉ~、猫毛 酷ぇなぁ…

履いていた紺色のジャージは猫毛まみれ。
おまけに妙な汗いっぱいかいてて全身 油っぽい。

これでバス乗るの、嫌だな…

思ったけど、腕を伸ばして膝を叩くなんて、無理。

…開き直るしかない。

直ぐに立ち上がれる気もしなかったんで、私は二本目に火を付けた。

あ、ちゃんと揉み消した吸殻はレシートにくるんで持ち帰りましたよ。

牛乳拭いた後の夏休み明けの雑巾な状態で、私はバス停のベンチでバスが来るのを待つ。
周りの人の視線が痛かったなぁ…多分だけど、病院 脱走して来た輩だと思われてたんじゃないかな(遠い目)

「ただいま~」

「あれ!? 一週間入院じゃなかった!?」

うん。一週間は、無理。

「客用布団 有るから、書斎使って。ベッド使わないで」

「え~…」

家の中で杖着いて生活したの、初めてだ。

ホラーハウス⑤

ハウスな話では無いんだが、ホラー繋がりで。

2度目の魔女に一撃 くらい 一晩、大きな病院に入院し 眠れずにいた、私。

まだホラー関連に強くなる直前である。

めちゃめちゃ怖い(震)!

こういう時に限って頭をよぎるはセカンドハイスクール時代、スクーリングで旧校舎の教室に独り宿泊を余儀なくされた想い出や、よく分からんテンションで戦慄迷宮に独り挑んだ時の事。

──こ、ここの病院、結構古いよな…

設備や内装やらは改装されていて綺麗なんだが、表側の建物は、少なくとも私が公立校生の頃から古びていた。

病院ってことは、病院ってことは…

怖い話には憑き物である。

霊安室が在るでしょ?
ベッドで お亡くなりになられた方も居るでしょ?
何でだが医者や看護師がゾンビ化するでしょ?

勝手に溢れる自分の妄想力に蓋をしたい。

私は6床の片隅 窓際のベッド。
受け入れも遅く、運ばれた時には他ベッドには間仕切りのカーテンが閉められていた。
相部屋方を知らない。

間仕切りがされていたって事は多分、他にも同室の方がいらっしゃる筈だし、独りじゃない、怖くない、怖くない…

トイレから戻り向いた方向は窓方面。
薄いカーテンの隙間から覗く窓のサッシでさえも、怖い。

何でこっち向いちゃったかな…

寝返りがうてる腰の状態でも無く 窓を背にするのも、怖い。

──諦めるしか、無い。

やや蒸し暑いけど、布団を頭まで被り、目を閉じた。

────

タバコッ!!!

タバコが吸いたい所為かな、段々と怖い妄想はタバコのビジョンに追いやられて行った。

──草木も眠る丑三つ時。

私は おぼろげに 誰かと お喋りをしていた。

いつの間にやら寝返ったのか、私は隣のベッドを向き、横向き寝していた。

間仕切りのカーテンを半分ほど開け、山吹色した柔らかい光が逆光になり、お喋りの相手の顔は よく見えない。

読書灯の光かな…

なんて、半分まどろんでいた私は思ったんだ。

お喋りしている方は長い髪を横で束ね、病院貸出患者用の寝間着を着ている。
ベッドの上部を上げ座位で、方にはカーディガンを掛け、膝上の布団には読みかけて開いたままの本。

入院、長いんだろうなぁ…

何の話をしていたのかは覚えていないんだが、優しい空間だったように思う。

楽しく お喋りしている間、私は まぶた が重くって重くって、懸命に睡魔と闘い会話を続けた。
──八ッ!

と 目醒めた時、私は再び窓側を向いていた。

あ~、いっけない、お喋り途中で寝落ち ちゃってた(汗)

思うも、自力で背後を振り向く事も出来ず、私は朝ご飯の時間まで横になり続けた。

配膳された朝ご飯にベッドを起こして、初めて真向かいの方と対面した。

「おはようございます♪」
「おはようございます~♪よろしくお願いします~♪」

そうだ、お隣さんにも ご挨拶して、昨夜寝落ちた詫びを入れねば。

思って、隣のベッドを見た。

…あれ?

隣のベッドは空っぽ、綺麗に敷かれたリネンのみ。

あれ~?早朝、退院なさったのかな??

目を瞬かせ、真向いの方と腰痛の話をした。

「入院してから ずうっと、この大部屋に独りだったから、淋しくって」

──ぇえッ!!?

いや、お隣さんは!? お隣さん!!居たよねッ!? 昨夜まで居たよねッ!!?

めちゃめちゃ内心、動揺しまくったのだが。

夢視てた…???

“夢”ですよね?アレ…
誰か“夢”だって言って下さい(震)!!!

⑥に続く──

積年の親不知⑤

転院について詳細を聞きに行った歯科○の診察台にて、いつもの女医さんが 他の先生を引き連れて来た。

「やっぱり『線維筋痛症の事も有るし、両側の埋没親不知を一度に抜くとなると、経験の有る医師の方が良いんじゃないかな』って、院長先生に言われちゃって(汗)」

え、あ、あ~…

紹介されたのは、線維筋痛症患者の親不知を抜いた経験のある、細身の男性医師。

「よろしくお願いしますね」

「どうも、よろしくお願いします…」

こちらの先生も、歯科○と入院施設の在る提携 総合病院と行き来されているらしい。

「説明されたようにね、全身麻酔使って顎の骨を削っての抜歯になるんだけれど、いいかしら」

「あ、はい。お願いします」

タイプだった女医さんから代わってしまうのは非常に残念だけれど、そんな理由で拒否れないもんさ。

「主治医は私に代わるけど、いいかしら」

「あ、構いません」

どことなく、新しい先生から私と同じ匂いを感じるんが、気のせいかしら。
この日は診療合間に挨拶のみ。
アナログ手帳で初診の日時を擦り合わせた。

「でね ○○さん、タバコ吸ってるでしょ」

あ、あぁ~(汗)

「タバコ吸ってるとね、麻酔を掛けてる間に 肺に水が溜まっちゃって大変な事になるから、手術日の一週間前までに止めてもらって いいかしら」

「い、一週間前!?」

「うん。一週間、前には」

い、一週間、前…!!!

私ね、打算だけれど、一週間の抜歯入院で禁煙できるかも、て 思ってたんだ。

誤算だった。

自力で禁煙となると、禁煙失敗に終わった前科も有り、かなり不安である。

「あ、あい…(汗)」

一応は返事したものの、頭が「無理無理!」て言ってる…

「入院中は痛みが増悪したら、ナースコール押してもらえば当直医師が駆け付けるから。
痛み止めの頓服で効かないようなら 麻酔を使ったりも出来るし、とにかく痛みが発生しないようにするから、安心してね」

めっちゃ助かる~✨

そうなんだ。入院の良いとこは“医療従事者が近くに居る”ところなんだ。
しかも一般人では手に入らない医薬品を使ってもらえるのは、かなりな安心要素である。

転院用の紹介状は女医さんが作成してくれる事になった。

待合室で座って待つ。

「○○さ~ん、先生が お呼びです!」

あ、仕上がったかな、なんて 診察台に移動した。

「ちょっとね、聞きたい事が有って(汗)」

女医さんはパソコンの紹介状作成画面を開き、片手には持病側の主治医が書いてくれた抜歯許可証を握り、机上には 私の お薬手帳が開かれていた。

「先生からのお手紙の お薬と、薬局で処方されてる お薬が違うんだけど(汗)」

え?…あ、あー!!

「それ、ジェネリックなんです(汗)」

「それでか~!」

そうなんだ。病院側で貰う処方箋に記載されている薬類に、成分が同じ後発医薬品(ジェネリック)が存在すると、調剤薬局の薬剤師さんが切り替えてくれるんだ。

もちろん、病院と薬局は別ものなので、代えましたよ~的な連絡は し合わない。

私も いちいち先生には言わない。そういうもんなんだ、多分。
こっからは許可証に記載された お薬と、処方されてる お薬との答え合わせ。

「コレは、どれ??」

ぶっちゃけ、新しい薬名なんぞ、覚えとらん。
最初に処方された名で覚えたままで、主治医や薬剤師にも その名で通っちゃうから、気にも留めて無い。

「え、えぇ~と…コレは、確か~…これかなぁ?」

薄らぼんやりとしたジェネリックに切り替わった時の薬剤師さんからの説明を思い返しつつ、服薬量と時間から推察するしかない。

ジェネリックは大抵、主成分の名称になる。

例えば、(先)リリカ → (後) プレバガリン、(先)サインバルタ → (後)デュロキセチン、等。

ね、舌噛みそうだよね(遠い目)

あ、スミマセン、誤報です。
あの時 私、お薬手帳持ってなかったんだ。
歯科○の初診に提示した時のカルテに写された薬情報と照らし合わされてたんでした。
今確認したらば、お薬手帳には ちゃんと処方箋の先発→後発の正式名称で記載されてました(礼)

病院行く時はお薬手帳も持って行くべきだな。
中には先発医薬品名どころも覚えてない お薬なんかも在って。

ほら、胃薬は“胃薬”としてしか認識してなかったりするじゃない。

思えば、かかりつけ調剤薬局さんに電話しちゃった方が早かったんだが、そんなの突発的に思い付かん。

「あ~、う~、ぅうん?…うん、多分…」

ハテナが盛大に飛んだが どうにか ジェネリックパズルを解き、紹介状とデータディスクを頂戴した。

「お世話になりました~(礼)」

多分 親不知が無くなってしまえば 当面、この歯科○に お世話になる事も無いんだろうな、なんて 思ったものだ。

──年始。

転院先の総合病院までは乗り換え2回に片道1時間半。
地味に遠い。
まあ 入院しちゃえば、後は一週間ゴロゴロするだけだし、問題無い。

総合受付で診察券とカルテを作成してもらい、館内図を広げながら口腔外科までの道のりを教えてもらった。

はあぁ~、総合病院 広いなぁ…

教えてもらって早速「エレベーターどこですか?」て、尋ねに戻りましたよ。これは、私事。

口腔外科の窓口で問診票を記入し、紹介状を渡して待つ。

はあぁ~…こっちの口腔外科も盛況してるな…

呼ばれ診察台に移動する。
軽く挨拶し合って、先生は開口一番。

「タバコ止めた?」

うぐッ!

「いえ、まだです…」

「炎症も治まりづらくなるから、タバコ止めてもらって、よろしいかしら」

「が…頑張ります…(声小)」

としか、言えません。

生憎と手術室が空いておらず直ぐに、とは行かなかったもんで、3月に予約出来たんだっけな。
それまでに、タバコを止めねばならん。

炎症自体は治まっていたが、手術日まで月イチ位で通院する事となった。

翌月。

「タバコ止めた?」

ぐぅ…!!

「ほ、本数は、減らす努力してます…」

「一週間前までには、止めてね」

「わ…分かりました~…(声小)」

本当に自分の意思が足りなさ過ぎて過ぎて…完全に自力でニコチン断つのは無理そうだ。

ううん、ここはアレのお世話になるか…

ガムの方が口寂しく無さそうだけど、流石に噛んでらんないな。
と言う訳で、ドラッグストアに寄って禁煙パッチを買ってみた。

た…高ぇ…

まあ でも、この先 消費するだろうタバコの箱数を考えれば、安いものだ。
早速、貼って夜まで過ごした。

──うえぇん!タバコ吸いたいよおおぉ!

もうね、口寂しいとかじゃ無いんだよ。
身に付いた悪習、と言いますか。

朝起きたら一服、1時間置きに一服、寝る前に一服…

定刻置きに どおうしても、タバコが吸いたくなっちゃうんだ。
パッチ貼ってるからニコチン自体は足りてると思うんだけども。

うわあああぁッ!!!きッつい!!!

もうね、3時間も耐えられない(遠い目)

それでも 一日辺りの本数は減って行った。

手術日の2週間ほど前、麻酔科で注意事項を受ける。
問診票に麻酔歴やアレルギーなどのレ点をし、麻酔の同意書に署名をして当日持って行く事となった。
入院する病棟の看護師長から入院計画の説明を受け、設備パンフレットを頂いた。

主治医の先生も、合間に挨拶に来てくれた。

「タバコ止めた?」

うに゙ゃッ!!!

「ま、まだなんです…」

「手術の一週間前には、必ず止めてね」

分かってます…頭では、分かってるんです。

「────あ゙い゙(声小)」

「よろしい」

言葉尻は丁寧だし悪いところなど一つも無いんだが、自責からか トゲ を感じてしまい、当時この先生が苦手だったのは、内緒だ。
なんやかんや、桜の季節まで後少し。

後ほんの少しの辛抱で、親不知と言う名の爆弾と永久に おさらば 出来る✨

入院期間中の猫ら5匹も、母親が世話をしに泊まりで来てくれる、と言う✨

後は、タバコを、止める、だ…け…

─左上の親不知─

ちょっと抜かしてしまってたので、妙な位置だが差込み。
以前として古い虫歯治療痕の修繕で歯医者にも並行して通っていた、私。

この頃は持病の方の病院もあって、毎週、何らかの病院に赴いては三日間寝込んでいたな(遠い目)

手術日の一ヶ月前の事。

治療直前に毎回 歯科衛生士さんの歯ブラシチェックの有るところで、磨き上がりの口内を診てもらってた。

「あ、奥歯に虫歯が出来てる」

──え゙。

歯科衛生士さんは歯医者さんに引き継ぎ。

左上の親不知 一個手前の奥歯に、新規の虫歯が出来てるそうな。

「ここ、器具入りますか?」

「あー…ううん…?ちょっと届かないなぁ…」

しばらく口内を観察していた歯医者さんは、私に向き直り、告げる。

「左上の親不知が邪魔で器具が入らないから、抜いて良い?」

──ぇ゙え゙ッ!?

下の親不知二本抜歯まで間もなく。
歯を抜くのは ひと月空けろと聞くし(未確認)、抜くなら今のギリギリ期間。

「…お願いします」

という経緯で、急遽 左上の親不知の抜歯を行う運びとなった。

すっかり生えきっているから、すんなり抜けるはず。
局所麻酔を打ってもらい、めいっぱい倒した診察台で、大口開けた。

「ぬッ…ぬッ…ぬぅッ!」

抜歯は一度経験しているし、大した事無い、と 思ってたのだが。

うぐッ…うぐッ…うぐッ…!

何が大変かって、筋力の落ち切った腕と背筋で、頭を支えねばならん事だ。
診察台の椅子座面に めいっぱい腕を突っ張っているんだが、どうしても頭が動いてしまう。

む…昔は、何とも思わなかったのに(泣)!

私からは見えないんだが、先生は大きく足を開き 姿勢を低く倒し、てこの原理で親不知に負荷を掛けているのが分かる。

ギッ…ギッ…スポーンッ!

ぬ、抜けたぁ✨✨✨

「ふぅ…」

ようやく抜歯から解放され、詰め物 噛んで 起こされた座面には、くっきり私の手の あぶら跡。

「ほら、立派な親不知だよ!」

あー…ほんとだー…

満身創痍で呆けて見れば、それはそれは立派な、絵に描いた様な 二本の根っこの親不知。

「持って帰る?」

「…いひゃ、要りまひぇん…」

疲れ切っちゃって もう、何にも考えられなかったよね。

流石に その日はタクシー拾って、速攻 調剤薬局に向かって処方された痛み止め出してもらった。

抜歯の話を口腔外科にも伝えた。

「え!?抜いちゃったの!?えぇ~…そういう事は事前に相談して!」

言っとかないと、ダメらしい。

⑥に続く──

SOS発信④

─魔女の一撃☆三打目─

姉さん、事件です。
仄暗く笑んだ魔女は箒に跨り周回したまま、私の元から飛び去っていませんでした。

二打目を受けて以降、時折 地味に腰が痛む事が頻発していたけれど、まあ、持病から来るものか 体重増えた所為か 寝っ転がり過ぎなんだろうな、と 思ってた。

両側親不知抜歯の手術日が迫り、寝巻きやら お風呂セットやら 歯ブラシやら、ちまちまと入院用品を袋に詰めていた頃合。

なんか、腰が痛いなぁ…

立ったり座ったり多いからかな。
腰痛ベルトを腰に巻き、腰を曲げずに 膝を使って立ったり座ったり、細心の注意を払って過ごしていた。

入院しちゃえば寝っ転がってるだけだし、まあ、問題無い。

時は2020年、春。
世界中がコ○ナの驚異に包まれ感染拡大、日本でも自粛ムードが高まりつつあった頃。

ちょおっと、こんな時に入院するのとか怖いんだけど、抜いてもらわねば困るし、致し方無い。

あれは、持病側の病院 予約日。
私は国立病院に赴いた。

そうだ、バスタオルが無いんだった。
帰りにニ○リ寄って買って帰らにゃあ…

ううん、地味に腰が痛くてウロウロしたくない。
最悪、くったくたに使い古してる今のバスタオルを持って行くか…

バス停からシルバーカーを押し押し、そんな事を考えていた。

着いた国立病院は想像以上に閑散としていて、いつもは埋まっている待合室もガッラガラ、他の患者は一人か二人。

ここまで病院離れが進んでいるんだぁ…これだけ空いてりゃ院内感染は、無いな。
なんて、物凄く他人事だった。

いつもは1~2時間 待たされる診察室にも、間髪入れずに招き入れられた。

こんだけ空いてりゃ、気兼ねしなくて良い。

「先生、一週間くらい前から、地味に腰が痛くって」

普段は混雑が気になっちゃって軽いものは言えず仕舞いだったりするんだが、この日はチャンスとばかりに言ってみた。

「なら、腰痛に効く注射しようか」

やったー✨

この時期は先生も手持ち無沙汰だったようで、腰椎の両側に2本 注射してくれた。

「しばらくしたら効いてくるから」

「ありがとうございます(礼)」

薬剤はなんだったかド忘れしてしまったんだが、病院を後にしてバス停まで歩いてる間に、ふと、気付いた。

──あ!痛くない!

痛くないだなんて ほぼ無いから、そりゃあ一気に解放感が高まった。

これならニ○リ寄れるじゃん♪

私は大型スーパー内のニ○リに寄り道する事にした。

あ、何コレ、何コレ!

てな具合で目当てのバスタオル以外にも、ニ○リを ぐるぐる。

全然、痛くな~い✨♪!

解放感からの相乗効果だろうか、朝は気だるかった体も軽く、疲れを知らない。

せっかくなんで、入院用品に不足が無いか日用品売り場もウロウロぐるぐる。

うひゃ~♪お買い物たぁのしい✨♪!

すっかりスーパーを満喫して、帰路に着いた頃には日も暮れて。

──あ!しまった、処方箋!

かかりつけ調剤薬局が閉店する時間を過ぎちゃったんだな。

仕方ない、明日 総合病院に向かう前に 処方箋だけ預けに行こ。
そんな経路にした。

手提げに処方箋を入れたまま、手荷物にバスタオルを突っ込んだ、夜。
まだ、全然疲れてないし、痛くもない。

そうだ、しばらく家空けるし、猫のトイレだけ掃除しちゃお♪

明日から母親が来るんだから任せてしまって良かったんだが、やる気に満ち溢れちゃってたんだな。

我が家の猫トイレは3機。
一機片付け二機片付け、最後の中サイズまで やっつけた。

はい☆お~しまいッ♪

外カバーのパッチン留めを下ろせば完了、腕を伸ばした時だった。

──ビギーンッ★!

うに゙ゃあッッ!!!!?

腰掛けから やや腰を浮かせた隙だらけな瞬間を、魔女は見逃しはしなかった。

腰椎部に放たれた電撃に私は床にゴロンッと倒れた。

「痛゙ッ…でぇええッ!!?」

すっかり お馴染み、ぎっくり腰である。

や…ヤベェ!こんな時に!!!

耳まで響く動悸に、にじみ出す脂汗。

掃除用具の片付けどころでも無く、一度ベッドに横になって休もう、と 思った。

…………

は、ハイハイも出来ない…だと!!?

完全に狂った腰は、四つ這いの姿勢にすら持って行けない。

助けを呼ぶにも、スマホはベッドの枕元。
どうにかして居間に戻らねばならない。

「…ぐうッ!!!」

私は渾身の力を込めて、上腕を床に押し付けた。

ほふく前進だ。

ズリリ…ズリリ…ズリリ…

痛えよぉお(号泣)

上半身に ぶら下がる下半身は引き摺られるのみ。
唯一の接点である腰にモロに自重が掛かり、めちゃめちゃ痛い。

「はぁ…はぁ…はぁ……ヨシッ!」

三腕進んでは二分休み、数十分掛かってベッドサイドまで辿り着いた。

──なんか、前回よりも酷くない??

ベッドに這い上がる事など出来ず、腕を伸ばしスマホを掴んだ。

今の時間なら救急で運んでもらって、座薬 貰って最悪一晩入院でも、まだ明日15時の手術予定には間に合うはず!

1・1・9!

『火災ですか?救急ですか?』

「救急車一台、お願いします!」

悩む間も無く、救急に連絡したんだな。

しかし如何せんコ○ナに追われ、救急車は どこも手一杯。

到着まで小一時間 要すると言う。

「構いません!お願いします(号泣)!」

もうさ、自力でどうにか出来る範ちゅうじゃないって、先の移動で思い知っていたからさ。

あー…今、ベッドに上がっても、下りねばだよなぁ…

私はベッドサイドの冷たぁい床に横になったまま、救急のサイレンが聞こえるのを待った。

…いや、まてよ?

数分そのまま死んでたんだが、じっとしていた事で思考が蘇った。

さっきの移動でかなり時間使ってるし、今 玄関に向かって移動始めていないと、鍵が開けられない!

どうせ冷たい床に寝転がってんだ、玄関の廊下に寝転がって救急隊の到着を待っても同じ事。
思い付いて良かった。
私は早速スマホを握りしめ、玄関に向かって ほふく前進を再開した。

道すがら財布や診察券が入ったままの手提げ鞄を右腕に掛け、カバンを引き摺り、自分も引き摺る。

どうにも痛いわ息は切れるは、数十分掛けて出発点の洗濯機の手前まて折り返して来た時だった。

♫ピーポーピーポーピーポー ピッ!

ヤッベェ!救急車、もう来ちゃった!

階下に救急車のサイレンが止まった。
玄関扉までは廊下をL字に曲がり、およそ5m。

「ぐううぅッ!」

渾身の力を込め体を進めるが、速度は所詮かたつむり。

♫ピンポ~ン

うあッ!もう上がって来ちゃった!

ガチャガチャッ!ドンドンッ!

『○○さ~ん!?』

「はあ~い!!」

廊下へ頭を出し、救急隊の方の呼び掛けに声だけは元気一杯、応じた。

こ、このL字のクランクを、どうやって曲がれば…

出入口の幅は1m、廊下の奥行も1m。
腰を中心に大きく回転するなど、足が邪魔で出来ない。

寝そべった体勢からでは どうしても、腰を曲げねば廊下に出られない。
私は右側を下に横を向き、両手で出入口左側の木枠を むんず!と掴んだ。

腕を引き寄せ体を進め、勢いそのまま、一気に腰を曲げて廊下に出た。

──ぎいいいいぃや゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ(号泣)!!!

めっちゃ痛いよ。

ドンドン!
『鍵掛かってます!開けられますか!?』

「は…はあ~い(泣)!」

休んでいる暇など無い。
私が鍵を開けねば、救急隊と合流出来ない。

玄関扉までは残り3m。

我が家のマンションには管理人が常駐していない。
管理会社も県をまたいで遠方に在る。

鍵が開けられなければ、最悪ドリルで壊されて、とんだけ修理費 掛かるものやら、気が気でない。

ここまで来たんだ!
たとえ この身 果てようとも、鍵だけは絶対、開けるんだ!鍵、だけは!

懸命に床を這いつくばって前進し、靴置き場前の敷居まで やって来て、ハッとした。

──つ、杖が…シルバーカーに刺さって、無い!!!

当時はシルバーカーは遠出の時しか使わず、コンビニくらいは杖で行っていたから、使い易い様
マグネット式のフックで、玄関扉に引っ掛けてあった。

一段下がったコンクリート打ちっぱなしの靴置き場は、奥行 1m。

「くッ…!」

腕を伸ばした所で、敷居の上からでは届かない。

こ…これは、靴置き場に下りるしか…

10cm程の凹地は、最後に いつ掃いたか覚えてない。
なんだか、砂利っぽい。

…ええい!今まで床という床を全身モップで磨いて来たんだ!今更、土間に下りようが同じ事!

ぶっちゃけ、服の汚れなど気に掛けている場合じゃない。

私は敷居に肘を引っ掛け ぐい、と 靴置き場に上半身を乗り出した。
ようやく掴んだ、杖の足元。

後は前回と同じ要領で、杖の柄で鍵を回すだけだ。

ガツッ!ツルッ!
ガツッ!ツルッ!
ガツッ!ツルッ!

くううぅ…(涙)!

なかなか上手いこと鍵の摘みに柄が引っ掛からない。

♫ピポピポピンポ~ン!

ぎゃああ!?催促されてる!!

あんまり怪音を響かせているのも、救急隊の方を不安にさせてしまうだろう。

「ち…ちょおッと、待ってて下さ~い!」

こうなったら…やるしかない!

私は杖を靴置き場の角地に突き立てた。

「う、おりゃあああああッッッ!!!」

斜めに立てた杖の柄を むんずと掴んで支えにし、上体を大きく持ち上げ 鍵を目指して腕を伸ばした。

──カチャンッ

あ…開いたぁッ(感涙)!

力尽き、そのまま靴置き場に倒れ伏した。

バタンッ!

「救急隊です!! …大丈夫ですか!!?」

大丈びません…

もうね、クリーニング前の柄から外した くたっとへたばる、ホコリだらけのモップ状態。

「通路が狭くてストレッチャーが入れないんですが、自力で立てますか!?」

「無理…です(涙)」

誰かに支えられても、恐らく立ち上がれない。

「棒の無い簡易な担架で運び出します。一度エレベーター内で直立姿勢になるんですが、行けますか?」

直立…くうぅ…直立…

「行け…ます…」

正直、無理な気がしたが、それをクリアしない事には階下に降りれない。

隊員さん三人がかりで、私の横に分厚い担架布が敷かれた。

「持ち上げますよ!」
「せぇーのっ!」

に゙ゃあ゙ッ(泣)!

オレンジ色した担架布に移され、体部分に蓋がされ固定、イメージするならオレンジ色したツタンカーメン。

「持ち物は有りますか?」

「あ、そこの手提げと…あと、シルバーカーも持って行って下さい。帰る時に使うんで」

前回は救急車内で邪魔になるかと考えちゃったけど、よくよく思えば、付添人一人乗れる空間があるんだから、畳んだシルバーカーくらいは積める筈。
退院時の長距離動、キツかったし、さ。

「移動しますよ、せぇーの!」

隊員さん三人が三角形に布陣して担架布の持ち柄(?)を持ち、私の体は空に浮いた。

鞄に提げてあった鍵で戸締り。

「くッ…」

支柱が無い分、担架布の腰の辺りが沈み込んで、地味に痛い。

短い廊下を移動して、到達したエレベーター。

「直立させますよ!」

「……あ゙い゙!」

奥歯を噛み締め覚悟を決める。

──ぎいいいいぃに゙ゃああああぁ(悲鳴)!!!

腰椎にモロに掛かる自重は、痛い、としか言えない。

隊員さんが二人して両側の持ち柄を持ち支えてくれはしたけれど、あんなに長く感じたエレベーターも無い。

「雨が降ってますから、ちょっと当たるかもしれません」

「あ、構いません…」

むしろ、猫毛まみれな私を包んだ担架布の清掃の方が大変なんじゃないかな、なんて思ったものだ。

階下に到着、エントランスに用意されていたストレッチャーに横向きに置かれた時にはホッとした。

ゴロゴロゴロ…
だばだばだば!

意外と雨強かった。

「乗り上げます!」

救急車の中に乗り込み、ハッとした。

わたし!まぁた!左が下になってる!!!

四度目にして再び救急車の内装が見られなかったのだよ。

「搬入先の病院ですが、○○病院が良いですか?」

あ、前回救急の記録なんかも見てくれてるんだ。

「いえ、直ぐに診てもらえる所なら、どこでも良いです…」

うっすら明日から入院の総合病院まで運んで貰えたら楽だな、なんて思ったけど、流石に、ねぇ。遠過ぎる…よねぇ。

という経緯で、行った時の無い総合病院に運ばれたんだな。

ストレッチャー間の移動も出来ないもんだから お願いした。

「お世話になりました(礼)!」

本当に、度々、スンマセン…

総合病院は夜だというのに混雑していて、あたりかしこに他患者さんが待機しているのを見た。

コ○ナで運ばれてる人、多いんだろうなぁ…

「飲んでる薬とか有りますか?」

「鞄の中に処方箋が入ってるので、それです」

持ってて良かった、処方箋。

画像系の撮影台への移動も何もかも やってもらって、診察室に回された。

「ぎっくり腰ですね」

ですよね。

「痛み止めの座薬を処方します」
「あい…」

看護師さんが持って来た、座薬。

「ご自身でやれますか?」
「やって下さい!」

即答した。
もうね、腕をケツの下に持って行くなんて出来る状態じゃ無かったんだ。

使い捨て手袋をパチンと嵌めた看護師さんに、ずるりんちょ!て、ズボンとパンツを一気に降ろされた。

流石に、そこはプロ。
あんまり患部を凝視はしないでくれてる。

背もたれに背を付け 浅く座り腰の角度は120度、比較的 負担の掛からない座り方をした。

──痛ってぇ(泣)

救急外来の出入口付近に設置された車椅子。
医者や看護師が慌ただしく往来する目立った場所に、座り続けた。

──痛っっってぇ(号泣)

ひたすらに自分と戦い続け小一時間、限界がやって来た。
自分では見えないんだがイメージ的に、脂汗が染み出し続ける顔面は土気色。

こ、これは…ヤバい…(号泣)

「あ…」

通りかかる看護師に声を掛けようにも速度が早く、言葉が発せないうちに通り過ぎてしまう。

「あ…」

何人かに声を掛けようと試みるも、失敗。
俯いた目に 足が見えてからでは遅い。
私は少し顔を上げ、出入口に向かってくる人間を探す事にした。

斜向かいの待合ソファーにはカップルさんだろうか、肩を抱き具合悪そうにしている お連れの方。

ちょっと、遠いな…

何より、目が合わない。

そんな時だった。

5m程の視界距離に、2人連れの白衣が入った。
引継ぎ中か、若干 低速だ。
隣を通り過ぎる時では遅い。
かなり離れているうちから、私は震える片手を僅かに上げた。

「あ…あの…」

「どうされました?」

や、やったー✨捕まえられたー✨

「…すみません。座って、られません…」

「あ!それは大変だ!ちょっと待ってて下さいね!」

かくして、ストレッチャーが用意され私は安堵の時を得たんだな。

ダメだこりゃ。

日帰りだなんて もってのほか、緊急入院になってしまったんだな。

「ベッドの準備が出来るまで、ちょっとストレッチャー動かしますね」

流石に通路に置かれたままでは邪魔なので、夜間は使われていない どこかの診察室に移動された。

ここ、何部屋…??

消灯されてた通路と違い 照明の光は眩しく、辺りは白い間仕切りやら見た時の無い機械やら。

全く人気を感じなくなった。

──ていうか、おしっこしたい(泣)!

ぶっ倒れてから既に数時間。
最後に用を足したのは何時だったかも分からない。

失敗した~、さっきトイレも行かせてもらえば良かった(泣)

看護師を呼ぼうにも、ナースコールも無いストレッチャー上。

だ…誰かが様子を見に来てくれるまで、耐えなきゃ(泣)

如何せん、慌ただしく急患が運び込まれる救急外来。
なかなか誰も様子を見に来ない。

ううぅ…

ひたすらに待ち続けること 更に小一時間。

突然、慌てた様子の看護師が入って来た。

「ちょっと寄せますね!」

壁際に私のストレッチャーを押し、手早くパーテーションが引かれた。

ガラガラガラッ!

駆け足で運び込まれる新たなストレッチャーに、医師と看護師数名。

「大丈夫ですか!? 声聞こえますか!?」

はぅあッ!!?

真隣で始まったのは、リアルER。
逼迫した音が聞こえる。

──おしっこ如きで、声掛けられない(泣)!

なるでしょ。

ハラハラしながら機材を繋いだりの処置の様子を、聞くしか出来ない。

そのうち新患さんと、ピッ…ピッ…と いう心電図の音だけ残し、医師も看護師も離席してしまった。

だ…大丈夫なんだろうか…

心電図繋がれてるとか、凄い心配になる。

ピッ…ピッ…規則正しく響く心音の、波形が乱れてアラート音が鳴ったり音が途絶えたりしないよう、祈るしか出来ない。

ついでに私の膀胱も破裂しないように祈るしか出来ない。

──数十分経過。

「ベッドの用意が出来ましたよ」

い…いやったああぁ✨✨✨

ようやく、ようやく…解放される(感涙)!

ご無事でありますように(祈)
同室の患者さんに念を送り、廊下を押されるストレッチャー。

多分 どこかで入院棟の看護師と入れ替わる筈だから、今しばらく我慢…

流石にね、忙しそうな救急担当の看護師さんには「おしっこしたい」だなんて言えない。

消灯時間をとうに過ぎ、6人部屋に運び込まれた。

─おまけ─入院生活

あ~…困った事になった…

元々 明日より一週間の抜歯入院でニャンコらの世話は母親にお願いしてあったから良いとして。

横臥し頭上の読書灯だけ点灯したベッド上で、お世話になる看護師さんと ご挨拶した。

「入院にあたり書いてもらいたい書類があるので、記入お願いします」

入院のパンフレットと、バインダーに挟まった用紙とボールペンを受け取った。

「夜の分の お薬は用意するので、後ほど持ってきますね」

「あ、あの…!」

一通りナースコール等 ベッド周りの設備の説明をし、去りかけた看護師さんを呼び止めた。

「何でしょう?」

「お…おトイレ、したいです…」

色々と困り事は有れど、今一番 困ってるのは、しっこもれそうな事。

「車椅子で おトイレ行けそうですか?」

「無理、です」

ついさっき車椅子で音を上げたばかり、便座に座るなど とても出来ない。

「準備して来ますから、もうちょっと我慢してて下さいね」

とうとう、この時が来てしまったか…

ベッドの上で用を足すって、どうすんだろ?
尿瓶的な物だと、こぼれちゃうよな…

もうね、知らない世界過ぎて想像も追い付かない。

「おまたせしました。先に少し説明しますね」

看護師さんが持ってきたのは、差込式便座。

は~、こんな物が有るのか~✨

小さな陶器の受け皿が付いた、おまる だ。

誤記
差込式便座 ✕ → 差込式便器 ○

「一瞬だけ、ブリッジ出来ますか?」

ブリッジ、だと!?

いや、無理無理!て 思ったけど、ズボンを脱ぐにも便器を差し込むにも、腰を上げねば先に進まん。

「が…頑張ります」

膝を折った仰臥位に向き直してもらった私は、両手を一杯ベッドに押し付けた。

うに゙ゃあああッ(号泣)!

結構ね、痛いよ。

サッとズボンが下ろされ、スッと便器が おしりの下に差し込まれた。

ふ、ふうぅ~…

おトイレするだけでも一苦労。

看護師さんはトイレットペーパーを くるくるっと巻き取り、片側を伸ばして私の股に、丸めた方を便座に置いた。

あったま良いな~!て思った。

ペーパーに お小水が伝わるから、上を向いていても便器から飛び出す心配は無い。

布団を掛け「終わったらナースコール押して下さいね」と、看護師さんは離席。

し…しょろろろ…

ふわあ~✨生き返るぅ✨

本当ね、我慢の限界だったのだよ、マジで。

それにしても不思議、差込式便器。
ベッドが少し沈むとは言え、便器が差さった おしりは上を向いているのに、背中に お小水が垂れ流れて来ないんだよ。

聞けば母ちゃんが子供の頃から同じ形だって言うし、あれ開発した人、凄いな✨

ナースコールで看護師さんを呼ぶと、たっぷり用の足された便器を外し床に置き、股の清拭をしてくれる。
便器は一度部屋外へ持ち出され、空になった便座を拭き拭き、ベッドサイドに一式置かれた。

「これ、置いておきますね」

「ありがとうございます!」

いやはや、たかが一回の おトイレで、物凄い作業量。
介護って3Kって聞くけど、大変な お仕事だと実感した。

スッキリしたとこで 用紙の記入開始。
食べ物のアレルギーやらなんやら レ点を入れていき、最後の項目でペンが止まった。

『入院するに辺り、気がかりな事は有りますか?』

──有る!!!

フリーに書き込める枠が付いていたんだが、何て書くべきか、もの凄く迷う。

ううん、関係無いっちゃ無いんだけど…

書かなくても良い気もした。
だが、気がかりな事に変わりも無い。

『明日から親不知抜歯で○○病院の口腔外科に入院予定な事』

たばかる必要も無いし、正直に書いた。

あ~あ、ぁあ…明日、どうやって移動しよう…

やはり、わがままを押し通し あっちの病院に運んでもらうべきだったろうか。

いや、でもなぁ…流石に、なぁ。
車で行っても小一時間は掛かる距離だもの、ねぇ。

こうなってしまった以上、意地でも明日の午前には退院して、あっちの病院で一週間 安静にしよ。

この時は まだ、そんな計画でいた。

明日、母親は直接 先の病院に顔を出してから、我が家へ向かうと言っていた。

入れ違いになったら、後々 面倒だ。
私は母親にラインした。

『腰やっちゃって、今○○総合病院に居る』

少しして、母親から返信が来た。

『どこ駅の病院!? 今から行くから詳しく教えて!』

──え。何 言ってんの、この人。

『面会時間もとっくに終わってるし、消灯時間も過ぎてて皆様ご就寝中だから、来なくていい』

明日 詳しく話せば良いだけの事。

それだけ打って、私は布団に潜った。

あ~…タバコ吸いたい…

日中は禁煙パッチを貼り タバコ吸わないでも居られるようになってたんだが、朝 起き抜けの一服と、夜 寝る前の一服は、どうしても止められていなかった。

X線系の撮影時に剥がされてしまった禁煙パッチが恋しい。

──草木も眠る丑三つ時。
いつも通り眠れずにいた私は、目を瞑りじっと布団に潜っていた。
自力で寝返りも出来やしない。

…ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ…

通路をキャスターが移動する音が響いてきた。

こんな夜中に、新患さん かな。

耳をそばだて聞いていたキャスター音が、どんどん近付き、
どうも私と同じ部屋に入ってきた様だった。

おお~、お仲間さんだ✨

なんて思っていた折、ジャッと、私のベッドの間仕切りカーテンが開かれた。

うえッ!? ベッド間違えてますよ!?

喉まで出かけた言葉を呑んだ。

「○○~!どうしちゃったの~!?」

ベッドの足元に立っていたのは、私の母親。

「母ちゃん!!? いや、ちょっとアンタ、何しに来たの!!?」

言ったよ。腹の底から、出ちゃったよ。

母親は「やっぱり心配だったから~」なんて言いつつ、ベッドサイドに腰掛けキャリーバックの持ち柄を引き寄せた。

ストレッチャーの音と思っていたキャスター音の、正体だ。

来んなって言ったのに!!!

怒鳴り散らしそうになる自分を、たしなめる。

「…消灯時間過ぎてんのに、よく入れてもらえたね」

「『子供が入院して』て説明したら、入れて貰えたよ」

嘘おっしゃい!
アンタの事だから無理難題 吹っかけて警備員さんを困らせたんでしょう!
ぁあ~、もう!勘弁してくれよ!人様に迷惑かけんな!

その節は、うちの母親の我儘を聴き入れて下すって、ありがとうございました(礼)

…つっぱねちゃって、全然 良かったんですよ。

だがしかし、来てしまったものは仕方がない。

「こっからだと、どうやってアンタの家に行くの?」

え?知りませんけど。

病院の名前は知っていたが、初めて来た病院。

「母ちゃん、どうやって来たの?」

「タクシーで来ちゃった」

「なら、帰りもタクシー使って。終電有るかも分かんないし、そんなに離れてないはずだから」

他に良いアドバイス有ったかな…?

「そっか。なら、母ちゃん帰るね」

ええッ!!? アンタ、マジで何しに来たの!!?

ビックリするでしょ。
大騒ぎした挙句、道だけ聞いて帰ろうとした母親を呼び止めた。

「ちょっと待って、喉乾いた。自販機で お茶とコーヒー買って来て」

“立ってる者は、親でも遣え”

母親に散々刷り込まれた、実家の家訓の一つである。
せっかくなので行使させてもらった。

…因みに、この家訓を最近母親に言ったらば、「アンタが言うな!」って、めっちゃ怒られましたけど、何か。

一晩分の水分をゲット、母親は明日の面会時間に再び来ると言う。
その時、一緒に退院しちゃいたいなぁ…

「あと、母ちゃん。その鞄、うっさい」

「あ、やっぱり(笑)?」

こうして遠ざかるゴロゴロ音が響き、病室は静けさに包まれた。

─二日目─

「おはようございま~す!」

起床時間になると看護師さんとヘルパーさん方総出で、病室のカーテンというカーテンが開放される。

顔を拭く用に使い捨て清拭タオルが配られる。
地味に妙な脂汗かいていたから有難い。

「今日は お風呂無い日なんですが、明日は お風呂入れますからね♪」

お風呂かぁ…入れるかなぁ…

朝には、自力でトイレに行けるぐらいには回復しているかと思ってたんだが、いやはや、寝返りすら自分で打てない。
困った。これはマジで困った。

「朝ごはんですよ~♪」

やったぁ♪お腹空いたぁ✨♪

私のベッドは またも窓際。
背後で配膳されるトレー音にわくわく。

「ベッド上げて座って食べますか?」

そういえば このベッド、リモコン無いんだけど、どうすんのかな?

「お願いします!」

看護師さんは配膳のトレーをベッドテーブルに置き、よしきた!と ばかりに足元に しゃがみ込んだ。

グルグルグルグル!

お・お・お…✨

ハンドルらしき物が ぐるんぐるん巻かれると、ベッドの背面が徐々に せり上ってきた。

ほおお~✨手動なんだ、このベッド✨

「聞きましたよ~、今日 親不知の抜歯予定だったんですってね!」

「あ、あはは…あ、あ!ちょっと戻して下さい!」

起こして貰えた角度は45度ほど。これ以上は腰がヤバい。

献立は忘れたが、美味かった。
だが如何せん、塩足らん。

「ベッド起こしたままにしておきますか?」

「あ、はい」

少しでも座位に慣れなければ、退院後の移動すら出来ない。

──この時の自分の判断は誤っていたのだと、直ぐに思い知る。

朝ごはん片付けられ数十分。

や…ヤバい…

ぎぃやあああッ!!! と、腰が絶叫を始めた。
背中はベッドに着いていると言うのに、脂汗が止まらない。
再び、顔面が土気色になっているのが鏡を見なくても分かる。

か…看護師さんが巡回に来たら、戻してもらおう…

そう思った。

──思ってたんだが。

来ないんですけど(号泣)!!!

体感では二時間くらいかな、頑張ったんだが…もう無理です。
私は、ナースコールを押下した。

「す、すみません…座ってられなくて…」

それは大変!と駆け付けた看護師さんに、ベッドを戻してもらった。

一床しか空いていない同室の方々に ご挨拶すら出来ぬまま、私は再び、窓側を向いて横になってしまった。

…あー…好い天気だなぁ…

青空しか見えない。

ヘルパーさんが2人連れで訪れてきた。

「おまた洗いますね♪」

──えッ!? どうやって!?

病院によると思うが、あっこは風呂無し日は寝たきりの患者の股洗浄が有った。

見えぬと思うんだが、窓のカーテンと間仕切りカーテンが閉められた。
膝を立て仰臥して 布団をたくると、ズボンが下ろされる。

うーあー…(恥)

未処理の密林をガン見されてるかと思うと、気が気でない。

布団が邪魔で何されてるんだが見えないんだが、おしりの下に何か敷かれたと思ったら、ノズル付きの入れ物に入った白湯を直接かけられた。

えッ!? えッ!? ベッド濡れちゃわないの!?

わしゃわしゃしっかり洗ってくれるんだ。

もの凄いサッパリした~✨

股洗浄、いいよ。

「替えのパンツが無いので、どうしましょう?古いパンツ履きますか?紙オムツも有ります」

「──オムツにして下さい」

せっかくキレイキレイして貰ったのに きちゃないパンツ履きたくないし、大人用紙オムツも初めて履いた。

勉強になるな、色々と。

「ありがとうございました♪」

布団を戻され横臥して、そっとベッドを触ってみたけど、全く湿っていなかった。

えー…マジでどう洗ったの???

感覚的にはペットシートの大判のやつを下に引かれて、ダバダバ白湯を掛け流してたんだけど…そんなもんで あの水量吸収出来るもんなのか?
不思議である。

あ~…この感じ、今日の退院は無理だな…

私は泣く泣くスマホを開き、入院予定だった口腔外科に抜歯キャンセルの電話をした。

手術時間まで間もなかったが快諾してくれて、落ち着いた頃に再予約の連絡をする事になった。

あ~あぁ…何で私いつも何かしようとすると別の由々しき事態が起きるんだろ…

こういう星回りの日に生まれてしまったんだから、仕方ない。諦めるしかない。

紙オムツ履いてるから、おトイレで いちいち看護師さんの お手を わずらわせなくて良くなった。

と、思いきや。

──出来ない…

ズボンを履いて布団に入った状態では、どおうしても、用が足せない。お小水が出ない。
結局、おトイレの度にナースコールを押下した。

紙オムツに用を足すって、マジで難しいよ。出来ない人が多いんだって。練習しといた方が良いよ。

母親に準備してあった入院セットを持って来て、とラインした。
昼ごはん過ぎ、午後の面会時間がやってきた。

「アンタこれ、男性物の下着じゃない!」

「百均に私のパンツのサイズ無かったから」

「止めなさいよ、アンタ!あ~も~、恥ずかしい!」

えー、いーじゃん別に。パンツなんて履ければ。

レースだとか ちょっと女性的なパンツ履いてても「いやらしい」とか言うくせに。

あの人、私が身に付ける物に逐一 難癖付けないと気が済まないらしい。
結構ずっとブチブチ言われましたよ(遠い目)

「母ちゃん、お願いが有るんだけど」

私は手提げから処方箋を差し出した。

「これ、お隣の薬局で貰ってくれないかな」

病院に居るんだから お願いしたら出してくれるかもだけど、院外処方箋であるし、一応 かかりつけ調剤薬局で出してもらう事にした。

「じゃ、また明日も来るから」

えー…ヤダ。来なくていい。

思ったけど、言いませんでしたよ。

─三日目─

待ちに待った、お風呂の日である。
ずっと左を下に寝ていたから、床ずれ そうにジクジク痛む。

ううん、寝返り打てるかな…

昨日までは うんともすんとも言わなかった腰だが、寝返れた。

おおお✨着実に回復している✨

試しに一人でトイレに行けないか、完全に横になった状態から起き上がれるか試してみた。

「──くッ」

腕の力だけでは、流石にまだ起き上がれなかった。

──ちょっと、大きい方したいんだが…我慢我慢…

や、だってほら、流石にさぁ、ね、ほら。ね。羞恥心が、ね。
ぶっちゃけ、紙オムツしてるんだから出そうと思えば人を呼ばずとも出来たはずなんだが、理性という名のストッパーが働いちゃって、思うようにはいかん。

ほら、赤子の量とは比にならないじゃん、大人ってさ。
だから、我慢し続けた。

「お風呂の時間ですよ~♪」

ヘルパーさんがストレッチャーを一人で押してきた。

え、どうやってストレッチャーに移るの??

なんて思っていたらば、ベッドと体の間にシートを敷かれた。

──するりーん!

おおおッ!?

下に敷かれたシートを引っ張っただけで、当時68kgは有っただろう私の満腹ボディが、簡単にストレッチャーに滑り込んだ。

何コレ、楽しい♪!

ちょっと、何度かやってみて欲しくなった。
楽しいよ、あれ。

持ち込みしてあった荷物にシャンプーやら洗顔やら入れ忘れていて、病院のを出してもらう事になった。
多分、有料。

棚からバスタオルと着替え一式をヘルパーさんに出してもらい、ストレッチャーを押されて浴場へ移動。

入浴介助である。

脱衣場に用意されていたプラスチックの専用ストレッチャーに移り、合流した他のヘルパーさんと二人がかりで猫毛まみれのスウェットを脱がされる。

「今日はシャワーだけですけど、寝たまま入れる浴槽もありますからね。次は お風呂に浸かれますよ♪」

何ソレ!? どういう感じなの!?

興味が尽きない。
浴室は結構広さのある空間で、もうっと湯気をはらんでいた。
患者の体を冷やさないための配慮である。

脱衣場も寒くなかったし、これヘルパーさん、暑っついんじゃないかなぁ…

酷な仕事であるが、担当のヘルパーさん二人は気さくな方で、汗を流しながら楽しそうにされていた。
ヘルパーの鏡だ。

体を洗う係と髪を洗う係と別れ、二人がかりでシャワーを掛け流しつつ、横向き寝から仰向き反対に向き、全身くまなく洗われた。

そりゃあもう、自分ではおざなりにしちゃってそうな所まで、これでもか!って。

「腕上げられますか?」

──う。

無法地帯だった脇の下を見られるのとかは、凄い嫌だ。
まあでもせっかくなんで、しっかりわしゃわしゃ洗ってもらいましたよ(遠い目)

介護脱毛、なんて言葉があるくらいだから、気になる人は、動けるうちにね。
突然 動けなくなるから、ね。

あ~、あれが お風呂か~。

浴室内側を向いた時、浴槽っぽい物が目に入った。

パッと見、普通の浴槽に見える。

どんな仕組みなんだろう?

なんて思って見てたら、ちょうど別の患者さんが他のヘルパーチームに車椅子を押されて入ってきた。

そして──

何と!車椅子のまま、浴槽に入ったんだ!

え!? え!? どうなってんの!!?

眼鏡が無くて よく見えないのが残念だ。非情に、残念だ。

多分、浴槽の片側が開閉する様に造られていると思われる。
車椅子のまま入庫して、湯が溜められて行く。

──ハッ!

いかん、他人の入浴シーンをガン見してしまっていた。
見えなくて めっちゃ睨みつけてただろう…スンマセン(礼)!

「何このバスタオル!すっごい吸収が良い!どこのタオル!?」

「あ、ニ○リのやつです」

買った時 赤字シールの貼られた お値打ち品だったので、まだ生産されているかは微妙なんだが。

「患者さんのバスタオル、全部コレにしてくんないかなぁ!」

なんて大好評でした、くしゅくしゅっとした ニ○リの吸水速乾バスタオル。

表面積の広い体を 洗われ拭き上げされ、洗車されてる車の気分。

うーあー✨サッパリしたぁ✨

何日 風呂に入ってないか分からない上に 妙な脂汗を大量にかいてベタつきまくっていたから、全身洗浄してもらえるのは めっちゃ有難い。

「ありがとうございます!」

新しいスウェットとパンツを着せてもらい、ベッドに帰りしな世間話。

「柔道の選手なんですか?」

え、何で??

「いや、柔道はやってないです」

柔道どころか格闘技どころか、運痴な私はスポーツからは逃げ続けて来た身。

「あらやだ、ごめんなさ~い。Tシャツに『おもてなし』って書いてあるから、何かの選手かな と思っちゃった」

あ~、コレな…

300円Tシャツには、滝○ク○ステル嬢の名台詞。
昔から知らない同級生や同僚に「バスケやってるでしょ!」とか「水泳やってるでしょ!」とか言われ続けてきた父親譲りのガッチリとした肩幅は、何かスポーツやってないとMOTTAINAI体躯らしい。

妙なTシャツも考えものだな…

思うんだが、そういうアイキャッチの強いの、どうしても買っちゃうんだな。

昼ごはん が済み、午後の面会時間 間近、とうとう、その時が やって来た。

猛烈な便意だ。

──し、失敗した!こんな事なら お風呂入る前にオムツに出しちゃえば良かった(号泣)!

三食きっちり食ってる上に、入浴で血行の良くなった お腹は、もう我慢 出来る状態では無かった。

ナースコール押下。

「す…すみません、小じゃなくて、大なんですけど…」

一応、先に断った。

「おしっこと同じ要領で、この中に出しちゃって大丈夫ですよ」

マジか。

間仕切りカーテンを閉め 差込式便器をセッティングしてもらい、看護師さんは退席。

う~う~うう~ん…

めっちゃ出そうなのに、全然出てこない。
理性という名のストッパーは恐ろしい。

放っといたら漏れちゃいそうな感じなのに、カーテン一枚 隔てた同室の方々やらベッド上の布団の中で、なんて状況下では、全く全然、出てこないんだよ。

大袈裟な話でなく、マジで。

…あッあッ、先に おしっこ出ちゃった…

すっかり慣れたお小水は勝手に出たものの、大は出せぬまま数十分 経過。

あ…あ~…やっと出るかも…

むいっと出かけた時だった。

「お見舞い来たよ~♪」
「わ~久しぶり~♪」

──ハッ!!!

いつの間にか面会時間が始まっていたらしく、お隣さんに面会人が訪れた。

しかも、結構な大所帯。

こ、こんな時に限って(号泣)!!!

「…あれ?」「何か…」なんて、談笑が途切れた。

うわあああん!!!

だがしかし、出始めたものを止める術もなく、む…むい…と 、ゆっくりするしか無いんだな。

──はぁ…

結構ね、大量に溜まっておったよ(遠い目)

重たくなった差込式便器を看護師さんに引き取ってもらい、カーテンも解放。

「ところで母ちゃん、毎日来なくても良いよ。いちいち移動大変でしょ」

「だってする事 無いんだもん」

まあ、普段生活しとらん他人の家で留守をする、というのは暇であろうな。

「掃除でもしてれば良いのに」

「そんなの初日に終わっちゃったよ!」

マジか。

暇を持て余してるんなら、本棚の漫画本、適当に呼んでてくれれば良いのに。

と 思ったのは、内緒だ。

あと、何か色々と百均で買った入院グッズを増やすのは、止めて欲しい。使わないから。

─4日目─

初回に心が へし折れて以降、ずっと横臥位のまま、テーブルを寄せてもらい ご飯を食べていた。
同様に朝食を済ませた、午前。

いけるかな…

自力で起き上がれるか、試してみた。

「くッ…」

角度によっては腰が引っこ抜けそうなんだが、ベッド横に畳んで置いてあったシルバーカーに腕を伸ばせた。

いけるか!?

シルバーカーを開き両手で掴み全体重を乗せ、足をベッドから降ろしてみる。

──おおおおッ✨!

立ち上がれた。
流石に自重に腰は耐えられんが、両腕でに全体重を掛け足は床をかく くらいで、歩行も出来た。

持ってて良かった、シルバーカー✨

あとは靴を探して、一人でトイレに行ければ、家での生活も どうにかなる、筈。

ベッド足元に隠されていた つっかけ を履き、ゆうっくり 、大部屋から廊下に出てみる。

もし、トイレで身動き取れなくなっても、病院のトイレは呼び出しブザーが有るから、怖くない。
だれでもトイレに入り、片腕で体重を支え、片手でスウェットを僅かに下ろし、浅い角度で便座に座った。

ふうぅ…

後は、自力で座位から立ち上がるだけ。

──出来たーッ✨✨✨!

数十分 掛かったが、自分のベッドまで戻って来れたんだな。

──独りでトイレ出来るなら、病院に用は無い。

ぶっちゃけ、暇なんだ。入院生活。

母ちゃんも適当に漫画本持って来てくれれば良いのに…

入院の差し入れ定番と言えば『ド○えもん』なのは、理にかなってると思う。

どおしよっかな~…

入院計画は一週間。
残りの3日間、病院で暇を持て余すか、家でテレビを見ながらゴロゴロするか。

天秤に掛ければ、一目瞭然。

私は、退院する事に決めた。

前回の退院時の右往左往が大変だったのも有り、母親が来た位で一緒に出よう。

お昼ご飯は しっかり頂戴してから、ナースコールを押下した。

「退院します!」

突然の申し出に驚かれたが、「朝一人でトイレに行けたので、大丈夫です!」と言い切ったら、担当医に許可を取ってくれて、退院出来る事となった。

母親が面会時間に訪れた。

「母ちゃん、退院する!」

「ええッ!? ちょっとアンタ、大丈夫なの!?」

「うん、大丈夫!」

寝転んだ状態で説得力無し。

まあ、なんやかんや言いくるめて、母親に広げられた荷物を纏めてもらって、ナースステーションまで歩いて行った。

「お世話になりました!」

本当に色々と勉強させてもらえて、ありがとうございます✨

「母ちゃん、待って~(汗)」

普段も母親の歩速に遅れをとるんだが、どんどん離れるカタツムリ。

会計窓口で精算。
ちゃんとね、紙オムツやらウエットティッシュやら、買い取った消耗品も目録付いてるんだよ。

テレビカードも残りの時間分は返金有るらしかったけど、まあ、前回同様 悩みに悩んで買わなかったし。

久方ぶりのシャバの空気は美味い。

タクシーに乗り、懐かしの我が家へ帰宅した。

「ただいまぁ~」

「ふにゃあん」

ちょっぴり忘れられちゃってるんじゃないか不安だったシロの お出迎えにホッとした。
他のヤツらは隠れちゃったけど。

「あはは、届かないよぉ~」

撫でたくとも出来んのが もどかしい。

杖に持ち替え、廊下台所居間を経て、真っ先に向かったベランダに出た。

ふあぁ~…コレコレ!滲みるうぅ~!

久々過ぎて回る回る。

…何って、速攻タバコに火を付けたんだな。

こうして ヤマの3日間越えはしたものの、結局一週間耐えられず禁煙出来ずに終わってしまった。

あの時、計画通り一週間入院してたら、タバコ止められたんだろうか…??
分かりませんね(遠い目)

翌月。
持病側の病院に赴いた。

「腰の注射、どうだった?」

「すっごい良かったです~♪全然、痛くなくなって…
ただ、あの直後に ぎっくり腰やっちゃって、あはは~(照)」

「あ~…それは仕方ないねぇ」

私、痛みという枷が無いと、やり過ぎちゃうっぽいよ。

SOS発信 -完-
…で、あって欲しい。

母親は、アレ⑱

─魔女の一撃☆三打目、後日談─

え~…もう帰ってくれて良いのに…

結局あの後、母親は予定通り残りの4日間、我が家に駐留した。

掃除も洗濯も何もかも、やる事無くて「暇だ暇だ」言ってた。

私は季節柄どうしても くしゃみ が出てしまって、その度。

「ハァックショイ!痛ぇ!」

「響くんだから、全力で くしゃみ しないの!こう、噛み殺しなさい!」

分かっちゃいるんだが、なかなかコツを掴めないでいるから、都度いちいち言わんで欲しい。
なんて、思って過ごした。

二度目の時は ひと月程で動き回れるようになったのに、今回は なかなか回復しきらず、み月程 経過した。

ぎっくり腰やる度、酷くなって行くな~…

なんて思いつつ、今だピキッてなる腰に恐怖を抱いていた。

ベッドフレームや持ち運び出来る簡易手すり に掴まり立ちして、腰を曲げずに膝の屈伸で上り下り。
なんやかんや姿勢を正した正座が一番、腰に負担がかからない姿勢であった。
足 痺れるんだけど。

その間も母親は月に一度、我が家に一泊していた訳なんやが。

──コレ、母親の所業にマジで驚いた話。

「アンタ、腰にヘルニアが有るんだってね」

「──は?」

何ソレ、私 知りませんけど。

「入院した時、整形の先生が言ってたよ。『小さいヘルニアが有る』って。レントゲンも見せてもらった」

私、あの時 撮影した画像系、一切、見せてもらってませんけど。

いや、ヘルニアって…

通りで長引く訳だ。
ただの ぎっくり腰じゃ無かったんだ。
背骨から ぴょこッと神経はみ出してんだから、そりゃあ なかなか治らないさ。

あのね、身動き取れない寝たきりの患者だと、身内に診断 伝えて終わり、てパターンが多いと思うのね。

少し 考えれば分かるよね。
お医者は身内に説明したら、身内が患者に また聞かせると、普通は思うよね。

少なくとも あんだけ一緒に生活したんだから、世間話の ひとつ にでもするよね。

ヘルニアだって知ってたら、整形外科にも通院したり、主治医に相談もしたのに…

ほうれんそう!

身内にだって、報・連・相!!!

てね、思った訳なんでございますよ。

自分の体調の事、自分で把握してないって、なかなかに恐怖でありますよ。

あれから2年くらい?

今では膝立てた体育座りが出来るまでに 回復しました✨
皆様には ご心配、お掛け致しました(礼)!

⑲に続く──

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