『低温物理実験技法』§12. SQUID

 SQUID(superconducting quantum interferometric device、 超伝導量子干渉計)は、ジョセフソン接合を利用した測定素子であり、高感度な磁化測定に用いられる。5 aT(5 x 10^-18 T)もの小さい磁場を計測可能と言われている。近年、SERFと呼ばれる手法が寒剤なしにSQUIDを超える感度を有するという報告があったが、零磁場付近でしか利用できないなどの問題がある。SQUIDは世界最高感度の磁場センサーとして現在広く普及している。

 SQUIDを用いた磁場センサーには、DC SQUIDとRF SQUIDの2種がある。RF SQUIDにおいてはジョセフソン接合が1つだけなので、安価であるが感度は劣る。しかし、RF SQUIDは DC SQUIDに比べ外乱に強く、また比較的作りやすいこともあり、早期に実用化された。 ジョセフソン接合が1個のため、安くでき少量生産するのも比較的容易である。RF SQUIDの方が普及しており、単にSQUIDというとRF SQUIDを指す場合が多い[2]。

§12-1.DC SQUID
 DC SQUIDは、ジョセフソン接合の並列回路からなる超伝導リングである。すなわちジョセフソン接合が2つあるリング状素子である。リングを一周したときに超伝導の巨視的波動関数の位相が2πの整数倍になるという要請から、臨界電流の(SQUID内部を貫く)磁束依存性は磁束量子の整数倍をとる。このような巨視的波動関数の干渉効果を利用することで、磁束量子を尺度とした磁気センサーが得られる[5]。

 DC SQUID素子に臨界電流を少し超えるDCバイアス電流を流す。このとき、電流は超伝導電流と常伝導電流の和で表され、常伝導電流の成分は電圧降下を引き起こす。 DC SQUID素子を流れる電流のうち超伝導電流の成分は、リングを貫く磁束に対し周期的に増減する。これは逆に、電位差を生み出す常伝導成分も周期的に変動することを意味する。この電圧降下はジョセフソン接合内の超伝導の弱接点から磁束の侵入が起きることを考えれば理解しやすい。以上の機構により、内部を貫く磁束の変化を、リングにかかるDC電圧の変化として検出できる。量子化磁束を単位として磁束の本数を計測できるわけであり、典型的な値として、SQUIDリングの穴の面積を2mm^2にとれば、約1 nTの磁束密度が検出できる計算となる[5]。実際には、以下のような回路技術を用いることで更に感度をあげることができる。

 実用的なSQUID素子の駆動回路には、磁束ロック方式と呼ばれる方式が用いられる[5]。 SQUID素子の応答は磁場に対して周期的であり、その磁場に対する応答も線形ではない。そのためSQUID素子に対して制御された磁場をかけ、最も感度の高く応答が線形な領域に固定し、そこからのわずかな差分として信号磁束を測定する方が測定上有利である。そこでフィードバックコイルを用い、あらかじめある程度の磁場をかけてSQUID素子が感度よく常に同じ応答を返す領域に持って行っておく。信号磁束が生じても、それをちょうど打ち消してまたSQUID素子をゼロ点に戻すような磁場をフィードバックコイルで作ってやることで、素子の最適条件を維持しつつ、その時の信号磁束の大きさはフィードバックコイルに流れている電流で測定できるわけである。こういった制御系を磁束ロック方式と呼ぶ。

 具体的には、直流バイアス電流に加えて、変調用コイルにkHz帯の交流電流を印加することで、DC SQUIDに振幅の小さい交流磁束を加えておく[5]。交流磁束の周波数で観測される交流応答電圧が、DC SQUIDを貫く磁束に依存することから、位相検波することで信号磁束の影響を起電力信号として計測できる。この出力をフィードバック電流としてコイルに戻し、交流起電力が打ち消されるようにする(ロックする)。磁束ロック状態では、フィードバック電流の変化は信号磁束の変化に比例しているので、フィードバック電流が流れる回路に抵抗をかませて起電力として測定すれば、出力を線形化することができる。この線形出力の方法により、磁束信号を量子化磁束の値よりも細かく分解して高感度計測することが可能になる。

§12-2.RF SQUID
 ジョセフソン接合を1つしか含まない超伝導リングをRF SQUIDと呼ぶ。ジョセフソン接合を1つしか含まないので、RF SQUID単体では、DC SQUIDのような巨視的波動関数の干渉効果は期待できない。

 RF SQUIDのそばにコイルを配置し、相互インダクタンスを介して交流磁束を印加することを考える。コイルを含む回路はコンデンサーを並列に組み合わせてLC回路(タンク回路)とし、共振周波数(数十MHz)の交流電流を印加する。交流磁束の印加によりRF SQUID素子には遮蔽電流が流れる。この遮蔽電流は、SQUID内部を貫く磁束に依存する。交流磁束の大きさを調整することで、コイルと電磁的に結合したRF SQUID素子との間でエネルギーのやりとりが生じ、RF SQUID素子の状態変化(磁束量子の数がn=0と1との間で繰り返し変化)が生じる共鳴状態を作れる。このときに磁化を持ったサンプルを近づけるなどでリングを貫く(直流の)磁束が変化すると、RF SQUID素子に流れる遮蔽電流も変化し、LC回路との共鳴条件が変化する。逆に考えれば、回路に生じるRF電圧にはRF SQUID素子を貫く磁束の影響がみられることになる。  

 RF SQUIDの場合にも、磁束ロック法を用いることができ、線形出力により測定感度を上げることができる[5]。DC SQUIDの場合もRF SQUID回路の場合も、磁束ロック回路とSQUIDがセットになったものが商品化されており、容易に手に入るようである[5]。

§12-3.磁化の測定

 磁化(磁化率)の測定はSQUIDの応用の典型例であり、カンタムデザイン社のMPMSが最も有名であり普及している。 MPMSにはRF SQUIDが採用されたものがかなり多く存在するようだが、DC SQUIDを採用しているものもあるようである。SQUIDにおいては原理的に、位置を固定して行う測定では原点がわからないため、磁化の大きさは一義的には決まらない。従って試料を動かす必要がある。その意味では、少し手を加えればVSMにも変形できる。VSMは測定速度が速いことを一つの特長にする磁気測定法である。実際にSQUIDとVSMを組み合わせた装置も市販されている。

  SQUID素子は非常に磁場に敏感なため,外部磁場等の影響を出来るだけ排除する必要がある。そこで、SQUID素子そのものは超伝導体などによる磁気シールドの中に入れ、外部に通常の超伝導線によるピックアップコイルを出しサンプル位置まで引き出すような構造になっている。ピックアップコイル末端位置でサンプルを動かすとその磁場変動を打ち消すために遮蔽電流が流れ、それがシールドされたSQUID素子直上に伝わりその場所での磁場変動を引き起こす。磁気信号を伝える回路は超伝導磁束トランスと呼ばれ、超伝導閉回路内の磁束が保存される現象を使って信号磁束をSQUIDに伝える。

 超伝導磁束トランスとしては、グラディオメーター(磁場勾配測定システム)と呼ばれる構造のものも用いられる。グラディオメーターとは、右巻きと左巻きのコイルをペアにしたようなもので、一様な磁界による起電力は打ち消されて磁場勾配のみが検出できるようになっている。一次のグラディオメーターは一様な磁場勾配を検出でき、2つのコイル対(右巻き-左巻き-左巻き-右巻き)をもつ二次のグラディオメーターは一様な磁場勾配も伝えない。二階微分に相当する磁場勾配のみが伝えられる。このように近くの信号源からくる磁気信号だけを選択的にピックアップできるので、雑音対策に便利である。

 実際に、 MPMSなどには二次のグラディオメーターに相当するピックアップコイルがセットされており,ピックアップコイルのごく近くにあるサンプルの作る磁場を選択的に抜き出せる設計となっている。外部からの漏れ磁場などの変動ノイズは,ピックアップコイルのごく近傍にあるサンプルを動かした際の磁場変動に比べると,遙かに遠い位置での変動になり、空間的な均一性はより高くなるため、検出されない。  

 試料移動型のシステムでは、試料の温度を制御するのは容易ではない[5]。試料の温度はヘリウムガスを流して制御し、ガスの温度はヒーターとポンプにより2 Kから室温まで変化させる。試料が移動する領域の上下でヘリウムガスの温度を測って、試料の温度を決める。オプションで、より高温(1000 K)まで温度を上げることができる装置もある。

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