マガジン

  • 『物性物理学1』

  • 『凝縮系物理学(磁性の基礎)』

  • 『力学』

    講義の補助資料。

  • 『低温物理実験技法』

    物性物理学の実験研究の現場で必要な低温実験技術をまとめたものです。ここで低温とは、液体ヘリウムや液体窒素を用いて到達する(日常で使う低温より)非常に低い温度で、物理学の研究活動では頻繁に用いられています。文献やインターネットの情報を私なりに整理したもので、個人的な勉強のついでにアップロードしました。内容をご参考にされる場合は間違いがある可能性を念頭におき、自分できちんと文献をあたるなどして、内容の正確性をよく確認してください。何が起きても私は責任をとれませんので、よろしくお願いします。

最近の記事

教科書を翻訳した話

最近、「スピントロニクスの基礎と応用」という本を翻訳した。その経緯をまとめておく。 翻訳のきっかけは、コロナの最初の緊急事態宣言で在宅勤務となったことだった。授業はオンラインでできるが(私の場合は対面よりオンラインのほうが評判がむしろよかった)、私は実験家のため在宅だとなかなか研究はできない。そこで勉強のために自分の専門とするスピントロニクス分野の教科書を読もうと考えた。若いうちに専門分野の全体像を把握しておくのは悪くないと思ったからだ。普段はなかなかゆっくり勉強する暇がな

    • 『物性物理学1』§4:格子振動(フォノン)

      (1)結合振動子モデルと周期性 結晶中において原子は周期的に並んでおり、原子は平衡位置周りに熱振動する。周期性より、ブロッホの定理を満たす(ブロッホ電子との類似性)。 ①古典論 簡単な格子のモデルとして、同じ原子が一次元的に並んだ系を考える。それぞれの原子は、ばね定数kののばねでつながっている。原子間の間隔はaである。 n番目の原子の運動 が、ばねとして振動が伝わっていく。以下で運動方程式を導く。 全ポテンシャルは、 と書けるので、n番目の原子にはたらく力は、x

      • 『物性物理学1』§3:周期ポテンシャル中の「波」としての電子

        (1)分子から固体へ 2原子分子(水素分子H2^+)を考える。つまり、以下の通り、1個の電子をAとBが共有している(共有結合)。 この系のハミルトニアンは、 である。Hψ=Eψの解(つまりエネルギー固有値)を求めたいが、厳密には解けない。 それぞれの1s軌道の線形結合 を波動関数として仮定する。ここで、電子の電荷分布はAとBで対称なので、 よって なので、取り得る波動関数は の2つある。ここで、N_+とN_-は係数である。この波動関数を用いてエネルギー期待値を

        • 『物性物理学1』§2:物質の構造

          (1)結晶の構造~周期性と並進対称性~ 格子は周期的なのであった。 それぞれの格子点をベクトルで表すと、二次元のときは 3次元のときは と書ける。a_1, a_2, a_3ベクトルを基本並進ベクトルと呼ぶ。n_1, n_2, n_3は整数である。上図に二次元の例を示す。格子点は周期的に並んでいるので、基本並進ベクトルの重ね合わせで書くことができる。重要なこととして、基本並進ベクトルのとり方は一意ではない。一番使いやすい(対称性がよい)とり方をするのが普通である。 も

        教科書を翻訳した話

        マガジン

        • 『物性物理学1』
          5本
        • 『凝縮系物理学(磁性の基礎)』
          6本
        • 『力学』
          9本
        • 『低温物理実験技法』
          14本

        記事

          『物性物理学1』§1:自由電子モデルの効用と限界

          (1)古典論(粒子)にもとづくモデル(電気伝導) 1896(1897?)年にJ. J. Thomsonによって電子が発見された数年後の1900年に、Paul Drudeによって、「電子がどう流れるのか?」についてDrude理論が提案された。 金属を考えて、電場E(電流I)をかける。前述の通り、物質中では原子核が周期的に並んでおり、自由電子が(電場と反対方向に)格子と衝突しながら進む。 格子との衝突の平均の時間間隔をτとおく。時刻t+dtにおける運動量pについて、 と書

          『物性物理学1』§1:自由電子モデルの効用と限界

          『物性物理学1』§0:はじめに

          この一連のノートは、『物性物理学1』の講義補助資料です。あくまで補助ですので、あしからず。 参考文献としては、 [1]『The Oxford Solid State Basics』(Steven H. Simon) [2]『物性物理学』(永田一清) [3]『物性論』(黒沢達美) あたりを参考にしている。有名どころは、 [A] 『固体物理の基礎』(アシュクロフト-マーミン) [B]『固体物理学入門』(キッテル) [C]『固体物理学―21世紀物質科学の基礎 』(イ

          『物性物理学1』§0:はじめに

          『凝縮系物理学』§5:磁気異方性

          §5.1 強い磁石の条件 現在のところ世界最強の永久磁石は、ネオジム磁石Nd2Fe14Bである。1gで鉄1kgを持ち上げることができる。プリウスのモーター部にも使用されており、あまり見えるところにはないかもしれないが、実社会に欠かせない磁石である。 永久磁石に必要な化合物特性は ①大きな磁化があること ②大きな結晶磁気異方性があること ③高い磁気転移温度(>>室温)であること である。強い磁石という意味で大きな磁化は直感的に理解しやすく、磁気転移温度が室温より高い

          『凝縮系物理学』§5:磁気異方性

          『凝縮系物理学』§4:絶縁体における磁気秩序

          §4.1 フェライトはなぜ磁性をもつのか? 前節では、電気伝導を有する金属の磁性について考えた。この節では、酸化物などの絶縁体化合物を対象にする。 3d磁性金属を含む化合物絶縁体は多くあり、NiO、CoO、FeO、MnO(すべてNaCl型)や、KNiF3、KCoF3、MnF2など酸素を含まないものもある。これらは反強磁性の絶縁体になる。 反強磁性になりやすい理由を考える。例として、Fe酸化物(フェライト)を考えると、結晶中ではFe-O-FeとFeイオンとOイオンが(交互

          『凝縮系物理学』§4:絶縁体における磁気秩序

          『凝縮系物理学』§3:金属における磁気秩序

          §3.1 磁性を示すのはなぜか? 磁性を示すのは、原子の磁気モーメント同士の間にそろえようとする相互作用があるからである。この「そろえようとする相互作用」を交換相互作用と呼ぶ。 基礎となる電子のハミルトニアンは、運動エネルギー(電子の運動)+ポテンシャルエネルギー(クーロン相互作用)である。クーロン相互作用は電子と電子が反発しあう力で、電気の話であり、直接は磁気モーメントと関係なさそうに見える。これらの項が磁気モーメントとどう関係するかをまず理解する必要がある。 一番簡

          『凝縮系物理学』§3:金属における磁気秩序

          『凝縮系物理学』§2.角運動量と磁気モーメント

          §2-1.磁化の担い手は何か? 結晶は原子が周期的に配列して出来ており、磁化は個々の原子の磁気双極子モーメントμ_iの総和として書かれる。 磁化Mがある(=強(フェリ)磁性)ということは、①μ_iがゼロでないことと②足してゼロでないことの両方が必要である。①について、磁場ゼロでμ_i=0であるときは閉殻原子に相当し、反磁性が主になる。μ_iはあるが足してゼロになる場合は、常磁性、反強磁性、らせん磁性が候補となる。 原子の磁気モーメントμ_iは、①原子核の磁気モーメントと

          『凝縮系物理学』§2.角運動量と磁気モーメント

          『凝縮系物理学』§1.磁性の基礎

          §1-1.電磁気学と磁性 電磁気学では、電気と磁気に関する法則を学んだ。磁気を感じる典型例は磁石である。磁石はN極とS極の対を基本構造とすることはよく知られている。磁性の目標の一つは、「なぜ物質は磁石になるのか?をミクロに説明したい」ということである。この目標の達成を本授業の主な目標とする。 一つの棒磁石を考え、周囲の磁力線を考える。磁力線はN極から出て、S極へと入る。 マクスウェル方程式より より となる。つまり、磁石の端面で磁化の空間変化があるために磁場が発生す

          『凝縮系物理学』§1.磁性の基礎

          『凝縮系物理学』§0:はじめに

          この一連のノートは、講義の補助資料として作成したものです。自分の担当である「磁性の基礎」をテーマにして概説しています。あくまで補助なので、あまり期待しないでください。内容については以下の教科書を参考にしましたが、内容の誤りについては当然私の責任です。 [1] 伴野 雄三『磁性』:個人的に読みやすいと思って気に入っている。 [2] 宮崎 照宣・土浦 宏紀『スピントロニクスの基礎』:磁性についての内容はスピントロニクスに関係するものだけで限定的だが、基本的なところがわかりやす

          『凝縮系物理学』§0:はじめに

          力学§8:解析力学

          §8.1 仮想仕事の原理 解析力学は、ニュートンの3法則とは異なる原理で運動を解析し、運動に対するもっと広い視点を養うことを目指す。(これから習う物理につながっていく。) つり合いの状態では合力がゼロ であり、つり合った状態で仮想的に 動かすことを考える。(つり合っているのでひとりでに動くことはないから、仮想的である。)このときの仮想仕事について が成り立つ。なぜならばF=0であったからである。これを仮想仕事の原理と呼ぶ。 仮想仕事の原理は、以下の例のように、拘束

          力学§8:解析力学

          力学§7:剛体

          §7.1 剛体の運動 剛体とは、大きさはあるが変形しない物体である。これまでの質点系の運動に関する知識をベースに剛体の運動を解析する。 剛体の内部のそれぞれの位置は、位置ベクトルrで指定できる。すなわち、大雑把には、剛体は多質点系 r_A, r_B, r_C, ...の集まり(ただし微小体積分の広がりをもつ)と思うことができる。このことを基礎とし、多質点系での議論における全質点の和Σを積分∫に置き換えることで剛体の運動の記述を行う。 まず、結論から述べると、剛体の運動は

          力学§7:剛体

          力学§6:2体問題

          §6.1 重心運動と相対運動 2つの質点(質量m_1, 位置ベクトルr_1 および 質量m_2, 位置ベクトルr_2)を考える。内力(相互作用)について、 が成り立つ。2つの質点に対する運動方程式は、 であるので(F_1とF_2は外力)、両式を足すと が得られる。ここで、重心 を定義すると、運動方程式は と書き直せる。全質量M=m_1 + m_2 である。従って、重心に全質量があると考え、外力の総和がはたらいていると考えればよい。 次に、今度は2つの質点の運動方

          力学§6:2体問題

          力学§5:運動する座標系

          前節までは原点を固定し、座標系が時間変化しない場合を考えた。この節では座標系が固定されない場合の取り扱いを考える。 §5.1 ガリレイ変換 座標系が等速直線運動する場合をガリレイ変換と呼ぶ。 上の図のように、点Pの位置を2つの座標系で表すと、 となる。ここで、変換後の座標系の原点O'は、一定速度Vで元の座標系から見て運動することを使って式変形した。加速度は、時間に対して二階微分をとるので、定数項および速度に比例する項は消えて、どちらの座標系でも同じになる。つまり、運動

          力学§5:運動する座標系