『低温物理実験技法』§9.接着剤

§9-1. はんだ
 回路配線用のヤニ入りはんだは、加熱によりヤニが炭化し金属にこびりつき全くつかなくなることがある[2]。ヤニなしのはんだをステンレススチール用のフラックスと一緒に使うほうがよい。なお、その場合はフラックスを熱湯で後からよく洗浄する必要がある。

 近くに試料があったり、周りの他のはんだが溶ける恐れがある場合は、低融点はんだを使う。ウッドメタル(融点70℃)やInなどがある。ステンレス用のフラックスを水で薄めて用いるとよくつく。

 セラソルザというはんだがあり、小型の超音波はんだごてと一緒に市販されている。ガラスや石英などの絶縁体、Siなどの半導体、金属などによくつく。通常のはんだが拡散結合(合金化)によって接合されるのに対し、セラソルザはその成分に酸素と結合しやすい金属を含んでおり、その金属が材料表面の酸化膜と結合し接合される

§9―2. 接着剤
 一般用の接着剤のほとんどは低温で剥離するので使えない。アラルダイトやセメダインは低温でひび割れして使えないがガラス繊維のリボンに練りこんで固めると良い構造材として使用できる。

 GE7031ワニスは、フェノール系のワニスで熱伝導がかなり良いため、試料や温度計を貼り付けたり、銅線の熱アンカーをとったりするのに多用される。シンナー(トルエン+エタノールを1:1)に溶けるので取り外しが容易である。なお、最近含有成分が毒劇物指定されたため、国内で買いづらくなった。日本製のワニスもあるようだが、熱伝導率などのその性質はあまり調べられていないようであり、低温測定ではGE7031ワニスが経験的に用いられている。

 スタイキャスト2850GTはあらゆる接着に使え、熱膨張係数が金属に近いため熱サイクルにも強い。低温部での銅線の気密端子が作れる。一度固化した2850GTを取り除くためには、フォルマル被覆をはがすための薬品であるデペントが使える。なお、固体の充填物が入っているため、固化後の工作ができない。また、充填物が正体不明で磁性が出たりすることがあることから成型材としてはスタイキャスト1266の方がよい。

 スタイキャスト1266も、低温で強度があり、温度の急変にも強い。硬化してからの加工性もよいため、成型でき便利である。OHPフィルムにくっつかないようで、丸い構造も簡単に作ることができる。

 アピエゾンNグリースは真空用グリースであり接着剤ではないが、低温で固化するので、試料の固定に使うとよい熱接触が得られる。いろいろな種類があり、室温領域などでは M が用いられることが多い

 フィクソガムも試料の固定用接着剤として利用でき、海外(ドイツ?)ではよく使われていようである。グリースはべたつくため実験後に試料から完全に取り除くことが難しいが、取り外しが容易であるという利点が好まれるようだ。

§9-3.導電ペースト(銀ペーストほか)
 多くの導電ペーストが知られており、試料への配線や固定に使われている。研究室によって異なる種類のペーストが使われている。以下にいくつかの例をあげる。

 ドータイトは、安価な銀ペーストであり、銀の含有量が異なる複数の種類がある。室温ですぐに硬化する。

 Dupont 4922は、もっとも汎用性の高い室温硬化銀ペーストとして知られる。酸化物の研究ではよく使われるようだ。接着力は弱く固定にはあまり適さないようである。

 その他、SEM用の銀ペーストなども含めると室温硬化型だけでも多くの銀ペーストがあるようである。接着力なども物によるようである。

 Epotek H20Eは、AとBを混ぜて加熱し硬化するタイプ(加熱硬化型)の接着剤である。酸化物に対しても電気的接触がとりやすく、また固まると強固であるため試料の固定にも使える。

 金ペーストは、銀でなく金を主成分として含んでおり高価ではあるが、材料によっては電気的接触がとりやすい。室温で硬化するものと加熱するものがある。また、Ptペーストは融点が高いことから高温下での試料の配線や固定に使われることがある。

 カーボンペーストは、導電性は銀ペーストより劣るものの、銀ペーストが適さない物質試料(たとえば有機物系で銀との化学反応が疑われるような場合)に適した導電性ペーストであると言われる。

§9-4.インジウムシールとそのやり方
 インジウムシールは、溝かフランジの周囲に用いられる[1]。直径1 mmのインジウム線を用いる。インジウム線は、とても柔らかいのでつぶすことで接着できる。

 まず、くっつける部分の溝をきれいに掃除する。古いインジウム線は取り除く。シリコングリースを予め塗っておいて後からインジウム線を取り除きやすいように工夫する人もいるが、必ずしも必要でない。

 インジウム線をつけたい場所に一周取り付けたら、ボルトで真空パーツを取り付けていく。まずは二か所を指で仮止めし、その後すべてのボルトをとりつけてスパナでしめていく。あまりつよく締める必要はない。50 mm以上の直径の場合には一時間程度放置する時間を設けたほうがよい。インジウムが動き、さらに強く締められることが多い。

 一度くっついたフランジ同士は、はがすのが大変である。通常は、jacking screw(ねじジャッキ)がついており、穴にねじをいれることでフランジを押してはがすことができる。はがれたフランジが落ちないように注意する。そのようなjacking screwがない場合は、細い刃を挿入することではがす。

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