『低温物理実験技法』:はじめに

この一連のノートは、物性物理学の実験研究の現場で必要な低温実験技術をまとめたものです。ここで低温とは、液体ヘリウムや液体窒素を用いて到達する(日常で使う低温より)非常に低い温度で、物理学の研究活動では頻繁に用いられています。以下にあげた文献やインターネットの情報を私なりに整理したもので、個人的な勉強のついでにアップロードしました。内容をご参考にされる場合は間違いがある可能性を念頭におき、自分できちんと文献をあたるなどして、内容の正確性をよく確認してください。何が起きても私は責任をとれませんので、よろしくお願いします。

便利な自動測定装置が物理研究の現場で一般的になったことにより、液体ヘリウムや液体窒素を用いた低温物理実験のテクニックは現場では不要になりつつあります。私自身も便利な測定装置に囲まれてこれまで研究をやってきました。低温メーカーの営業と話していても、最近は無冷媒型の装置がよく売れ、学生が寒剤を触らなくなっているとも聞きます。

そのなかで一念発起して、低温技術のイロハをきちんと学ぼうと思ったとき、低温物理実験技法の教科書の多くが絶版になっており、中古ですら手に入りづらい状況になっていることに気づきました。また、調べてみると20世紀末に書かれた非常に古い文献が多く、記述も古くなっているものが多いようです。英語版しか手に入らないものもあります。現代は便利な時代だからこそ今一度実験技法をきちんと整理し、新しいことを付け加え、次の時代に残すことも必要かと思い、低温実験技術の勉強ノートをまとめて公開することにしました。

今の時代、実験技術は紙で読むものでなく、実験の最中にスマホやタブレットで簡単に調べられるものであるべきだと思います。そのためにnoteでの公開という形をとりました。

読みやすさのために特に引用番号を文中に示していないこともありますが、文献として以下を参考にしています。また、インターネット上で多くの情報を得ました(URLは可能な限り載せています)。もちろん本ノートの内容に間違いがあれば私の責任です。間違いなどがあれば筆者までお知らせください。

【参考文献】
[1] N H Balshaw "Practical Cryogenics -An Introduction to Laboratory Cryogenics-" 
   Oxfordの低温装置を軸に、実践的な低温実験技術がまとめられている。英語だけど、頑張って読めば勉強になる。

[2] 小林俊一 著『低温技術』(第一版; 東京大学出版会 (1977/05))、小林俊一・大塚洋一 著『低温技術』(第二版; 東京大学出版会 (1987/10))
   今では古本でも手に入らないようだ。このような日本語で書かれた名著が絶版になっているのを知り、本記事を執筆しようと思い立った。

[3] ウクライナ科学アカデミー低温物理工学研究所 (編集), Igor B. Berkutov (原著), 矢山 英樹 (翻訳), イゴーリ ベルクトフ (翻訳)『超低温の実験技術』(九州大学出版会 (2000/10))
   4Heの装置でなく、それより低温(1 K以下)の温度領域の実験手法に関して詳しく書かれた本。

[4] Robert C. Richardson and Eric N. Smith “Experimental techniques in condensed matter physics at low temperatures” (CRC Press; 1版 (1998/3/31))
   現場の実験技術などを複数の著者が各章担当している。内容がやや散らかっている感じもあるので、好き嫌いがわかれるかもしれない。

[5] 田沼静一(編集), 馬宮孝好(編集)『近低温』(共立出版 (1998/12))     
   無冷媒型の冷凍機の原理について詳しい。SQUIDによる磁化測定についても詳しい説明がある。

[6] 田沼静一(編集), 馬宮孝好(編集)『超低温』(共立出版 (1998/10))
   希釈冷凍機を始めとする極低温領域の冷凍機の原理や実験について詳しい。4He自体の実験や、素粒子物理への応用なども記載がある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?