見出し画像

ハハとむすめたちと着物

ハハよ…。よくもまあこんなにバランス良く、むすめふたりに着物を準備してくれていたものだと思う。着物の種類、TPOとしての “格” や産地や、とにかく着物について知れば知るほど、手が出せる範囲でそれなりのものを、まんべんなく、いざという時に困らないように、バランス良く揃えてくれていたものだと感心する。例えばこのあいだ(雨が降りそう、どうしよう…)と思い、折り畳んでカバンに入れられる軽い簡便な着物用雨コートを慌てて買ったのだけれど、実家へ帰ったときに改めて箪笥を検分したら、大島紬であつらえた雨コートがちゃんとあった。あるいは、持ち帰った夏着物一式のなかで、長襦袢の半衿だけが袷用の塩瀬だから(あれ…?)と思ってよくよく見てみると、塩瀬の下に、ちゃんと絽の半衿が付いていて(…なるほど、袷の、しかし気温の上がった時期にまずはこのまま着て、単衣になったら半衿を外しなさいってことか…)と、その用意周到さにアッパレと思い、また目頭が熱くなり。得意のリサーチ能力全開にして着物を知るにつれ、ハハが準備してくれていた着物から、いまわたしは、まるでなぞなぞを解くようにして、ハハの意図を汲み取っている。

いもーとにも「着るなら、早いほうがええで」と着てみることを勧めるけれど「ん… ええわ。ねーちゃん、着て…」と言われるから(そうだよね、まあ確かにめんどくさいよね…)と、とりあえず、まずはわたしがふたり分を担当。お茶でも習っているなら別として、着ていくところが無いと言われれば、確かにそのとおりで。”普段着物” と言ったって、洋装デフォルトの生活では ”普段着” ではないわけで、”ちょっとしたパーリー” なんてそうそうあるわけもなく。地元では。

ほんとは、ハハ自身が着たかったんじゃないの?とも思う。ハハの箪笥の中もひと通り目を通したけれど、そもそも着物の数はそれほど多くないし、ハハがそのハハからもらったと思われる地味な古い着物が場所を取っていたりもして、立派な黒留袖以外は(← いもーとの証言によると、チチと共に結婚式の媒酌人をすることもあったから、これはしっかり着ていたらしい)ごく慎ましやかなレパートリーという印象。そんなハハが、こうやって、娘たちのためにと、恐らく半ば言い訳しつつ、あれやこれやと考えて着物を揃えてゆくプロセスは、さぞかし心躍るものだったろうと想像する。自分が着ずとも。面白いことに、わたしより長くハハの近くにいたいもーとも、ここぞという時の訪問着以外は、ハハから、あれがいいかこれがいいかと尋ねられたことが無かったらしく、ほんとにもう、いもーとさえも知らぬ間に、ハハのやりたいように、おそらくはへそくりのなかから、徐々に、いつの間にか、増やされていったわたしたちの着物。

よろしければサポートをお願いします。頂いたサポートは、活動費に使わせて頂きます◎