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司法試験刑法の学説対立問題の対策として最低限学んでおくべき論点


予備試験では今のところ学説対立が正面から問われる問題は出題されていないが、司法試験では学説対立問題というのがたまに出題される。通常の受験生はおそらく判例実務に沿った勉強しかしていないだろうが、試験委員会は嫌がらせ的な感じであえて「判例実務とは違う見解を知っていますか?」という問題を出題するのである。迷惑この上ないが、判例通説と違う見解を理解することは論点の深い理解にもつながるので、刑法を一通り終えて余裕が出てきた人はこの学説対立問題の対策もしておこう。

どの論点が学説対立問題として出題されるかを予測することは難しいが、

1学説が激しく対立している
2判例の立場が不明確

この2つを満たす場合にはかなり出題されやすいという傾向にあるといえるだろう。そこで、この2つの観点から、刑法総論で学説対立問題として出題されそうな論点をいくつかピックアップしてみよう。

1因果関係

まずはおなじみ因果関係である。法的因果関係の判断については、判例実務は危険の現実化で固まっているものの、学説では未だに相当因果関係説が根強いこと、判例がかつては相当因果関係説を採用していたことから、相当因果関係説の理解を問う問題が出題される可能性はある。危険の現実化はほとんどの受験生が処理できると思うが、相当因果関係説については理解が怪しい人が多いと思うので(私もそうだった)、これを機に基本書を読み直してみよう。

2原因において自由な行為

原因において自由な行為の理論については、まさに学説対立問題にうってつけの論点である。ご存じのように、原因行為説と結果行為説が激しく対立しており、さらに判例の立場も明らかになっていないので、2つの条件を見事に満たす。もっとも、判例は結果行為説に親和的と言われているので、厳密な意味で判例の立場が不明確とまではいえない。

3不能犯

もっとも学説対立問題として出題しやすいのが、不能犯である。不能犯については具体的危険説と客観的危険説が激しく対立しており、判例の立場もどっちつかずである。判例は具体的危険説に近いとも、客観的危険説に近いともいわれることがあるが、実態としてはそのどちらでもなく、中間的な立場をとっているといえる。私が出題者なら、不能犯の学説対立問題を間違いなく出題するだろう。判例の立場はともかく、具体的危険説と客観的危険説のそれぞれの処理方法ぐらいはマスターしておこう。

4共犯と身分

判例は65条1項を真正身分犯の連帯的作用、2項を不真正身分犯の個別的作用を定めていると理解しているが、下の図を見ればわかるように、有力な反対説が存在している。しかも、この反対説が少しややこしいので、受験生の理解を問う(=勉強が進んでいない受験生をふるいにかけて落とす)にはうってつけである。短答でも頻出の論点なので、3つの説を全て正確に理解しよう。ついでに、共犯と身分については65条1項の「共犯」の意味についても対立があるので、そちらもセットで抑えておこう。

刑法超簡略テキストより引用

5事後強盗と共犯

厳密には刑法各論の論点なのだが、実質的には共犯と身分、承継的共同正犯といった刑法総論の知識が問われる論点である。事後強盗と共犯については身分犯説と結合犯説が激しく対立しており、学説は結合犯説が優勢である。下級審判例は身分犯説を採用しているが、最高裁の立場は不明確なので、学説対立問題としては非常に出題しやすい。事後強盗と共犯という論点を理解するには、身分犯説と結合犯説の両方の立場を理解しないといけないので、それができていれば学説対立問題が出題されてもそこまで怖くないだろう。

以上、とりあえず思い付いた論点をいくつか挙げてみた。他にも出題しやすい論点はまだまだあるだろうが、全てを対策することは不可能なので、まずはこの5つを完璧にしてから、余裕がある人だけ追加の対策をしてみよう。


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