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3年前の夢の日々を生きている。

私が日勤ではないときは、だいだい夫が出勤するのを見送ることになる。

「じゃ、いってくるわ」

そういって、いつものように彼が玄関の扉を閉める音を聞いてから、その日はたまたま室内に干していた洗濯物を取り込もうと寝室のカーテンを開けた。

そしたら、外の通りの家と家の隙間から、見慣れた青いジャケット(もとは私のやつ)を着て、迷彩柄のバックパック(もとは私のやつ)を背負った人が、オレンジの自転車に乗ってしゅーっと通り過ぎるのが見えた。

あ、このタイミングでここから外を見たら、彼があの道を通る姿がちょうど見えるんだ・・・。

今の家で夫と一緒に暮らし始めて3ヶ月ほど。またひとつ、この家の秘密を見つけてしまった気がして、なんだか嬉しくなった。

それ以来、朝早く起きて見送る気が全然ないとき以外は、夫の「行ってきます」を聞いた2分後くらいに、窓の外をちらっと見るようになった。

見たからどうというわけではないけど、私の知らないところで元気に生活している(?)夫の姿を確認して、うんうん、がんばってねって密かにエールを送るのが、自分だけのちょっとした楽しみになっていた。

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ある日、夫が家にいるときにふとそのことを思い出したので、本人に言ってみた。

「ねぇ、いってきまーすってドア閉めてから、2分くらいしてここから外見てるとね、自転車で走る姿が一瞬見えるねん。あっ通ったーって、実はたまに見てるねん」

すると夫も窓から外を確認し、

「あ、ほんまや。角曲がったあのへんから、うちの家が見えるねんな。知らんかったわ」

そんな話をして、今日。

私は夜勤、彼は遅番だったので、一緒に家でお昼ご飯を食べて、あわただしく出勤していく彼を見送った。

いいお天気だったので、いつもは家の中から窓越しに見ているけど、今日はベランダに出ていつもの家と家の隙間を眺めていると、

いつものオレンジの自転車の人が、通り過ぎる瞬間にこっちを見て手を振っているのが見えた。

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少し前までは、自分だけの秘密の楽しみだったのに、相手と共有したことで、なんだか2人のささやかな楽しみみたいになって、余計に嬉しくなった。

スマホの小さい画面の中じゃなくて、手が触れられる3次元での日常生活で、こんな風に2人でちょっと楽しめる瞬間が持てるなんて。

年に4回くらいしか会えない遠距離だった3年前から考えると、夢のような話だ。

胃の幽門部から両手を吐き出したくなるほど欲しくてたまらなかった、あの頃のどうしても叶わなかった夢の中を、今生きてるんだなぁ、と改めて実感し、大げさじゃなくて本当に、心から今の生活に感謝の気持ちでいっぱいになった。

だからきっと、今心に描いている夢のような生活も、あと3年くらいしたら当たり前の日常になっているんだろうなと本気で思う。

よかった。

今日も夜勤がんばります。






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