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小説『衝撃の片想い』シンプル版【第三話】③

【未来の戦争】

――松本涼子、二十歳。
アイドル歌手。
友哉と出会ったのは十二歳の時。
父親が、出版社の編集者で作家、佐々木友哉の担当。
十四歳の時に、学校の虐めに苦しみ拒食症、失語症になった涼子を、

友哉がそつなく助けた――

十六歳の時に、父親の承諾を得て友哉の恋人となる。
友哉はその頃、妻の律子とは離婚の話をしていた。
だが、高校二年生になった春。
涼子の前から佐々木友哉は消えた。

涼子は机の上に無造作に置いてある彼の著作をじっと見ていた。
――殺しそこねた。だけど離婚はしたのか。だったら、結婚してやるか。夜明けのコーヒーに毎日ヒ素を入れてやるよ。
涼子はベッドの中に入り、
「どこにいるの?あなた…」
と呟いた。

「寒気がした」
友哉が窓の外をチラリと見た。
「え? 暖房入れるの?」
「いや、よくある」
「悪寒戦慄?」
「違うよ。どこかの女が何か企んでる。かわいいイタズラだ」
「はあ……モテる男は不思議ちゃんですね」
ゆう子が首を傾げるが、友哉は笑わない。
「トキが言う、僕らの時代の小説では日本はどうなってるんだ」
「小説……。えっと、トキさんの時代では日本の北海道は気候の変化で住めなくなったらしいけど、トキさんの敵が活動拠点にしているから放置しているらしい」
「敵?」
「あなたにもいっぱいいる敵。背筋が震える女ばかり」
「ゆう子との会話は笑えないが面白い」
「ありがとう。沖縄より南西のほとんどがトキさんが統治していて、中国はどこかの戦争でなくなっていて放射能に汚染されているらしい。欧米はロボットとの百年戦争でほぼ壊滅」
「南米やアフリカ、ロシアは」
「ロシアも寒くて住めなくなって、ロシア人は世界に散らばったらしい。南米はトキさんの国の技術を頼って生活してるって。アフリカはロボットくんたちの国になっていたから、今は誰もいない」
「人類滅亡寸前だな」
「セックスできなくなって、ガーナラって薬を開発したくらいだから、当然ですよ。おまけにロボットくんと戦争してるんだもん。まあ、予想通りの未来ですね。そうそう、トキさんの世界、片耳だけの女ばかりってどういうことだろうね」
「片耳ばかり?」
「うん。そう言ってた。しかも切られたっぽいの。両耳がある女が価値が高いらしいの」
「片耳がないってことは戦争犯罪者じゃないかな。女が戦争をしていたんだろ。その戦争に参加してなかった女は耳が残っているとか」
「怖い」
「本当に未来の時代なら、文化も慣習も違うだろうし、理解できないことはあるさ。タイムマシンを開発しているのか。ワームホールを見つけた?」
「そういうことはAZに書いてない。教えるのはタイムパラドックスを生むんじゃないの」
「なるほど。君と俺との出会いがすでにタイムパラドックスを生んでるかもしれないけどね。ところで、トキから治療は光センサーって聞いたけど、君の話と何か違う」
友哉は、トキから『リングが緑に光る、その光が脳を刺激し、病気を治療する』と聞いていた。
「ううん。光センサーも正しい。よう光とガーナラと両方だね。そのリングを使って、リングの光だけの治療と体内にあるガーナラを使った治療、またはその両方での治療。脳を光で刺激するだけで治せる病気がほとんどだけど、ケガなどを治すにはガーナラが、友哉さんのリングを通して、患者の皮膚から体内に侵入していくらしい。友哉さんが、自分の体内にあるガーナラを使って誰かの命を救えば、その人間は病気になる前よりも若々しくなるらしいけど、友哉さんが死ぬそうよ」
「死ぬ……」
「うん。気をつけてね」
「軽いな」
「そんなことない。無理しないで」
ゆう子が目を少し潤ませたが、女優の芝居にも見えた。
「なんで俺には禁止薬物の強烈なガーナラなんだ?」
「友哉さんのケガが重くて骨を治療する弱いガーナラは使えなくて、たぶん、最強のガーナラを使って完治させたんだと思う。戦闘用ガーナラって通称があるらしいです」
「戦闘用…」
少しばかり体をのけぞらせてしまう。
「他にも近視や胃腸障害も治ってるでしょ。友哉さんの今の体は医者がうらやむほど健康診断でパーフェクトだと思うよ。だだ血圧は異常に高くて、市販の血圧計でMAX。病院に行ったら強制的に入院させられる」
「血管が強化されてるんだったか」
「何もかも強い」
「目はよくなった。精力は強くなったし、筋肉は一時的に強くなる。夢のようだが、地獄も付録でついてきたか」
「わたしのこと?」
「そうなのか?」
「お喋り地獄みたいに思ってない?」
「思ってる。地獄はゆう子じゃない。副作用のことだよ」
ゆう子が、「えへへ」と声に出して笑った。
「友哉さんの体にその最強のガーナラが投与されていて、それが友哉さんのリングを通して、誰かの病気を治すの。つまりリングの中に薬があるんじゃないのね。その時に友哉さんの体の中からガーナラが出てしまうから、激しく疲労するんだ。だけど、女を抱くと、血流が上がって、残っていたガーナラが体の中に巡り、体力も戻るってことです」
「女を抱いている時には筋肉はそんなに硬くなってないよ」
「そりゃあ、そうよ。ケンカしてるわけじゃないんだから」
「光を使っての治療も少し疲れる」
「光の治療はガーナラを使わないけど、それを使用するためのスイッチや強弱の調整を友哉さんの脳で指示しているからストレスで疲れるらしい。友哉さんがハードディスクで、リングがソフトなのかな。ハードは酷使するとすぐ死ぬからね」
「死ぬ、死ぬって言うな」
「え?」
友哉が怒ったのを見て、ゆう子がだらしなかった足を揃えた。それを見て、友哉は毒気を抜かれて、怒るのをやめる。
行儀が悪いのではなく、わざと見せているのか、と。
彼女なりのアピールなのだろうが、どこかかわいいと思った。
「あんまり死ぬって言わないでくれよ。俺が死んだら一番困るのは君だろ。あの世で待ち合わせしたいのか。ディズニーシーもないぞ」
と笑って言うと、ゆう子はほっとした顔になり、「そんなに言ってた?ごめんなさい」と息を吐きだしながら言う。そして、
「友哉さんって何度かもう怒ったところを見たけど、すぐに鎮まるから、怒りはお芝居なのね」
と分析してきた。
「そんなことはないよ。切れてるだけさ」
「ううん。きっと、そろそろ怒ろうかなって考えてるんだ」
「俺のそんな映像も見たの?」
「うん」
ゆう子は少しはにかんだ。まるで初恋をしている少女だった。
「女に気を遣いすぎ。映画に出てくるような美人スパイに撃たれそう」
「プラズマ電磁シールドとかでプロテクトするのに、美人スパイに殺されるわけないよ」
「友哉さんが美人スパイに見惚れていたら美人スパイの殺意を感じないから、プロテクトしないかも知れません。あ、すぐ近くにいる人も守れますね。もちろん、疲れますけど」
「近くの人も?」
「プラズマのバリアをリングが届く範囲で近くの人に転送してるの。…ん?」
「どうした?」
ゆう子が目を皿のようにしてAZを読んでいる。
「マリーってリングの名前じゃないんだ。『マリーの光が仲介して、最後の力は傍にいる人に与える』」
「検索しなよ」
「出ない。友哉様が使用したら出るって」
そう教えると、友哉が不敵に笑った。
「なに?」
「舐めてんのか、そのデバイス。わかりやすいな。例えば俺と君が爆発に巻き込まれた時に、最後に君を守って俺が死ぬようになっているんだ。または君じゃなくても、俺が愛している女とかね」
「そ、そんな自己犠牲?」
「守るのは近くにいる人間で女に限らないと思うけど、マリーの正体が分からないとなんとも言えないな」
「うん。このAZ、タイマーがかかっているから」
「新しい情報が時間が経つと出てくる?」
「うん。友哉さんのことで言うと、ワルシャワでは出てこなかった情報が出てきた。例えば…」
「た、例えば?」
友哉が息を飲む。
「横浜のマンションの住所」
「……」
くだらなくて肩を落としてしまった。
「成田に行くまでに教えると、わたしが友哉さんのマンションに行っちゃうと、トキさんが思ったのかな」
「それが正解。さすが、未来の世界のトップ」
「くそ。あの結婚詐欺師のような笑顔のお兄さんに、わたしの性格を見抜かれてるとは」
ゆう子が、初めてトキの悪口を言ったのを聞いて、友哉が声を出して笑った。
「彼は人の目は見ずに考え事ばかりしていた。人を騙す人間はあらかじめ言葉を用意していて、自信たっぷりに相手の目を見て話すんだ。あれはいい奴だ」
――本当に未来の人間なのか?
友哉が部屋の中にある観葉植物に目を向けて、ゆう子には気づかれないように首を傾げた。
「タイムマシンは造れないと思う」
唐突に言う。観葉植物を見ていたから、
「時間の話で思い出したの? わたしもそう思う。だって、トキさんがくれた様々な技術。この時代にあるものや今から作ろうと研究しているものを進歩させたのばかり。プラズマの壁なら実際にこの時代にもあるらしいし、だけど、友哉さんをオブラートのように包む技術はない。つまり、トキさんの時代ではそこまで進歩させたってことだけ。でもタイムマシンはこの時代でほとんど想像の域を脱していない。旧ソビエトとかで試験的にやったら、皆発狂したとか言われてるから、もしかしたら…」
「……」
「脳を使っているのかなって」
ゆう子が、友哉の頭を見て言った。
「脳? 脳の力で飛んでくるのか」
「うん。だって、AZもそのリングも何もかも、脳がどうこう、そればかり。友哉さんのメンタルの話も多いし、ストレスをとても気にしている。この時代で解明できていない脳の使われていない部分をなんらかの技術と合わせて、タイムトラベルしてくるの」
「そうかもしれないな。俺は中学の時に天才少年って言われていたし」
茶化して言うと、
「知ってるよ。今でもでしょ。大山田監督が言ってた。ただし、監督がそう思ったんじゃなくて、友哉さんの担当編集者の男性がそう言ったって」
「編集者は作家を持ち上げないとな。その編集者が誰なのかはAZには出ないのか」
ゆう子が、「うーん」と喉を鳴らしながらAZの画面にタッチした。友哉が緊張した。
「出ない。これもアンロックか。なーんか怪しいなあ」
「また、住所レベルだよ、きっと」
友哉は、ほっとした表情を見せないように笑った。
――ガーナラ、ガーナラ…。なんか違和感があるな。違う名称じゃないか
首を傾げてしまう。ゆう子が覗き込むように、友哉を見た。
「ガーナラって書いてある?」
「え?うん」
「いろんな違和感や疑問があって、背中がムズムズする」
「名称?他には?」
「RDってやつの赤い光線。熱を感じない」
「冷却…。あ、撃った瞬間?」
「そう。あれはこの時代にはない、とんでもない技術かもしれない」
ゆう子が頷いた。
「ガラスは割らずにテロリストは殺したもんね」
「いろいろ試せれば分かるかも知れない。その辺の壁や家具を撃っていいか?」
「ダメダメ。賃貸だよ」
ゆう子が思わず身を乗りだし、友哉の右手を押さえた。
体が触れあい、ゆう子がキスをしようとした。
友哉がそれを淡白に受けた。
「愛してないな」
ゆう子が口を尖らせた。
「信じてるから安心してほしい」
「うん」
ゆう子は優しく微笑み、友哉の肩にもたれかかった。

……続く。

普段は自己啓発をやっていますが、小説、写真が死ぬほど好きです。サポートしていただいたら、どんどん撮影でき、書けます。また、イラストなどの絵も好きなので、表紙に使うクリエイターの方も積極的にサポートしていきます。よろしくお願いします。