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それぞれの「PERFECT DAYS」

2024年、明けましておめでとう、を言う間もなく
石川での地震が起こり、そして羽田での事故…と
波乱の幕開けになってしまい、
何も起こってない私が、なんだか色々な気持ちが
消化できずにいる。

せめてもの…とささやかな募金をしたり、
くらいしか出来ない自分がもどかしいのだけど。

そんな中
気になっていた映画を観てきた。
1つはアキ・カウリスマキ監督の「枯れ葉」
そしてヴィム・ヴェンダース監督の「PERFECT DAYS」
「枯れ葉」はなかなかうまく行かない人生を生きる
中年男女の恋の行方を描いた、カウリスマキらしい作品。
そして「PERFECT DAYS」は
役所広司演じる平山という、東京で公衆トイレの清掃を
している男の話。
どちらも、いわゆるキラキラした、華やかな人たちではない、
ひっそりと、世の片隅に生きる人たちを描いている。

どちらも素晴らしい作品だったが
特に「PERFECT DAYS」にグッときてしまった。

〈以下少しネタバレあり〉


映画は、平山の
朝から夜眠るまでの1日が淡々と描かれていく。

朝、近所の老女の掃く箒の音で目覚め、
開け放した窓から空を見上げる。
そして素早く、身じまいを整え、
玄関に置かれた小銭、携帯、鍵を持って
ドアを開けて空を見上げてそっと微笑む。
そしてアパートの横の自販機で
缶コーヒーを買い、
車のエンジンをかけて、カセットで音楽を
流しながら、仕事場に向かう。
この流れが実に見事。
ああ、こうやって毎日を
過ごしてんだな、というのがわかる。

早朝の東京を走りながらの
カセットテープから流れる
アニマルズの「朝日のあたる家」が
またとてもしっくりくるのだ。

この映画では、
60~70年代の音楽がサブメインの如く流れるのも魅力。
平山もその表情で音楽を
楽しんでるのがわかる。
彼は未だにカセットで音楽を聴く。
そのどこか粗い音にしか
出せない世界がある。


彼の仕事は
東京都の清掃の仕事。
担当する渋谷区の個性的なトイレを
黙々と、丹念に掃除していく。
遅刻グセがあり、
隙あらばサボってばかりの同僚は
(こういう役なら右に出るものはいない、柄本時生)
「どうせすぐ汚れるのに…」とぼやくが
平山はそんなことに関係なく
丹念に便器を磨くのだ。

昨年から毎日トイレ掃除をしてるから
わかるけど
平山のトイレの磨き方は
本当に毎日丁寧に掃除していることがわかる。
終わった後にあの清々しさが
彼のトイレ掃除には漂ってる。

担当のトイレは
どれも個性的で、奇抜。
公園では子供たちが遊び、集い、
迷う子どもに手を差し伸べて
親を探す平山は
何とも言えない
優しさが漂う。

親がやってきて
ひったくるように
子どもを手繰り寄せ、
すぐにウエットティッシュで
手を拭き、目も合わせずに
立ち去る姿を見守る彼に
そっと手を振る子ども。
ここに何も感情をもたせない
演出が光る。

人生って色々な人がいる。
ただ、それだけなのだ。

近所の神社で
昼食の傍ら
彼はフィルムカメラで
木々を撮る。
そっと空を見上げ、
微笑む。
毎日同じ場所、
でも毎日違う表情。
人生も同じようなものかもしれない。

仕事が終わり、
家に戻り、自転車で
銭湯に行き、
まだ日の明るい中
湯船に浸かる平山。

そして
また自転車で
浅草の駅の地下街で
彼はいつもの店で
同じものを頼む。

夜。
彼は布団の中で
読書をしながら
眠気が来ると
電気を消し眠る。

そして
翌朝また同じような日々が来る。

ほぼ全編
同じ繰り返しの日々。
だが同じ日々でも
彼にとっては
毎日が違う日。
セリフがほぼない彼の
ちょっとした表情で
彼が日々をその身体、魂で
感じているのがわかる。

休日は
1週間撮りだめた
フイルムを出し、
写真を丹念に見て
缶に大切に仕舞う。

1週間のご褒美は
近所のスナックでのひと時。
自分に贔屓してくれる
ママ(石川さゆり)の
歌う
「朝日楼」が圧巻。
(ギターはあがた森魚という贅沢さ)

役所広司の底なしの力に静かに圧倒される。
深く人と関わらないようで
でも確実に彼の周りには
色々な人がいて、
そのさりげない
ふれ合いが
彼の日々を
彼が見上げ、
そして写真に撮る
木漏れ陽のように
キラリと
輝く。

そして
後半の
姪のニコとの
再会と
彼女と過ごす
数日の日々の中、

平山の過去や
現在が少しずつ
現れてくる。


そこにも
音楽と本がセットで
そこもまた
心地よさの中に
ひっそりと何か、を潜ませる。

そして
思いがけない
ある出会い。
これは
ぜひ映画を観てほしいシーン。

どんなラブシーンより
どんな別れのシーンより
切なく、甘く、苦く、
そして希望、を感じる

彼の人生は
潔いわけでなく、
ある種の絶望に陥ったことが
あるからこその
今、がある。

映画では
でも
その人生を
深く追い求めることはない。

過去も未来も
まず、
今、があってこそ。

そんなことを
少し、
この映画は
教えてくれる。


最後に。

映画にも流れる
ルー・リードの
「Perfect Days」の歌詞には
表向きは
恋人と一緒に過ごす
ある完璧な1日を
歌ったものだが
その中に
新約聖書の一節が引用されている。

You're going to reap just what you sow
自分の蒔いた種は、すべて刈り取らなくてはいけない


この曲を書いた当時の
ルー・リードは
麻薬と性的嗜好と当時の妻との
関係で揺れていた時期。

サビのあとの
最後に囁くように歌うこの歌詞こそが
平山の胸の内を代弁しているように
思える。















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