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メルセデスが好きなんだ(第2話)

Mercedes-Benz 500 SL R107(1982)シルバー
2000年2月16日に購入

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祖母が亡くなり、マッシモに10,000,000リラ(約65万円)を残してくれた。そのお金で株に投資したらなんと、18,000,000リラ(約118万円)に膨れ上がったという。「これで欲しかったスパイダーが買えるかもしれない」マッシモはすぐに情報収集を始めた。

マッシモは16歳の時に目にした自動車雑誌オートカピタルの記事が忘れられなかった。メルセデス500 SL R107、ポルシェ911ガブリオレ、ジャガーXJ 12V、フェラーリ308GTSの比較の企画だった。マッシモの目には軍を抜いてメルセデスR107が光って見えた。いつかこんなクルマに乗ってみたい・・・。

助け合いの精神​、500SL R107がスイスで見つかった

マッシモの周りに中古のメルセデスのセダンを探している友人がいた。たまたまセール中の中古セダンを見つけたのですぐに友人に連絡。その情報で友人は探していたクルマを購入することができた。お返しに、と思ったのだろう「お前が探しているスパイダーをルガーノ(スイス)で見つけたぞ」と今度は彼が情報を教えてくれた。友人がセダンを見にルガーノ(スイス)に行った時、メルセデスのスパイダーを手放したいという話を聞いたという。クルマ仲間の情報網は確実で早い、そしてありがたい。まさに助け合いの精神だ。


​交渉が始まった

早速オーナーに連絡し、ルガーノ(スイス)に行くことにした。
少し早く着いたので街の中心にあるルガーノ湖沿を歩いた。6月にもなるとルガーノ湖の風は温かい。それだけでポジティブな心になった。これから大事な交渉が待っている。そんな感慨にふけっている時、メルセデスのスパイダーが目の前を通り過ぎて行った。「やっぱりあの車はカッコいい」と思わず見惚れてしまった。待ち合わせ場所のマクドナルドにオーナーがクルマと一緒に登場。500 SL R107を前にしてマッシモの心臓は高鳴った。さっき目の前を通り過ぎて行ったのはまさにこのクルマだ。美しい・・・。

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交渉が始まった。残念ながら彼が要求して来た値段はマッシモのバジェットとは大きくかけ離れていた。これでは無理だ、交渉はすぐに止まってしまった。これでマッシモの長年の夢はプツンと消えてしまった。やっぱりR107スパイダーは一生手に入らないクルマだったんだ。

突然の電話​


8ケ月を過ぎた頃、オーナーから突然電話がかかって来た。「覚えているかい?」っと。「勿論ですよ」とマッシモ。あの日に感じた喪失感を忘れるはずがない。「何故、あの時なぜクルマを買わなかったんだい?」「僕のバジェットからほど遠い金額だったので、全く手が出なかったんですよ」「未だ興味あるかい? また見に来ないかい?」と会話が続いた。

勿論、興味はあるに決まっている。でもあの値段では買えるわけはないじゃないか。でもわざわざ連絡をしてくるなんて、まだ売れてなかったのか?

でも何が起きたんだろう?まあ、どういう話になるのかわからないが、取り合えず、往復100キロ、ドライブ気分でルガーノ(スイス)に行ってみよう。

マッシモはルガーノに向かった。

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いつ来てもルガーノ湖の風は気持ちが良い。待ち合わせの場所にMercedes-Benz 500 SL R107に乗って颯爽と現れたオーナー。目にする度に思う、やっぱりR107はカッコいい、憧れのクルマだ。愛読書となったオートカピタルの記事が蘇った。数ヶ月ぶりに会うオーナーは前回同様とても陽気だった。突然の電話がなんの意味だったのか? すぐに聞いてみたかったけれど、お互いに本題に入れず、形だけの会話が長々と続いた。まるで初めて会うお見合いカップルのように。

しばらくして、やっと待ちに待った話題になった。「あの時、どうして買わなかったんだい?」マッシモは前と同じ返事をした。「僕には手が届かない値段だったんですよ」
「そうか、経済的な問題だけで諦めたのかい?」とオーナー。マッシモは「勿論、そうですよ。お金さえあったらすぐに買いましたよ。僕の憧れのクルマですから」
「どういう形で支払いたいのかい?」
「値段さえ折り合いがついたらすぐに支払いますよ」

話はなかなか複雑だった。彼は今、離婚に向かって色々と整理をしているところだと言うのだ。家やクルマを沢山持っているのだろう、財産分与が大変らしい。夫婦間のこと、お金のことは外部の者には全くわからないが、早急にお金が必要なのことは理解した。


マッシモが出せる上限は決まっていた。彼にとっての上限は15,000,000 リラ(97万5000円)。それでも税金(19%)や関税(7%)を払えば最終的にy約20,000,000 (130万円)リラになってしまう。

オーナーは状況が切迫しているのか、この交渉、マッシモに軍配が上がった。じっと待っていただけで、突然、幸運が舞い込み、長年の夢が叶った。8ヶ月前の値段を考えると、夢の中の出来事のように感じた。世の中、不思議なことが起こるもんだ。

感動の瞬間、国境で引き渡し​

そして念願の2月16日、スイスのルガーノからイタリア国境までは約20キロをオーナーが自走で国境まで運んでくれ、そこで業者を通して正式に売買契約を交わした。支払いは既に指定されたスイスの銀行に送金。イタリアまで自走してくれたので、トランポでスイスまで行く費用の手間が省けた。しかも全てリラで行われたので、スイスフランとの換金を考えずにスムーズにことが運んだ。

「人生何がどう変わるかわからない。希望はずっと持ち続けることが重要。願い続けていたら突然幸運がやってくることもあるかもしれないから決して諦めてはいけないんだ」と実感したというマッシモ。

2月20日はマッシモの誕生日、これはきっと天国の祖母からのプレゼントだったのだろう。しかも10,000,000リラが18,000,000リラになった株は、のちに暴落したという。まるでこのクルマを買うために計画されたようにしか思えない。

マッシモは一体どこまで幸運な人なのだろう・・・

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