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ナショナル・エディション日本語版 ノクターン ホ長調 作品62の2, “いわゆるハーフ・ペダル”の箇所について

この箇所についてはカミンスキ先生と細かくお話ししています。私はこの曲が身体の中に入っており、30年以上ナショナル・エディションでショパンの作品と向き合い、吸収し自分のものにし、各国のステージで長年ショパンとともに、またこの作品とともに生きてきました。

コロン ( : )には意味があるはず

ある方から2022年9月8日に、ハーフペダル(の箇所)は誤りとのお声をいただきました。

ポーランド語版では濁りを避けるべきところの下に プウペダウ(ハーフ・ペダル)と書かれ、文字の始まりが“ハーフ“の始まりであると私は思い、ポーランド語版と英語版では e1 のあたりから始まるが日本語版では左側過ぎると指摘していました。ただ、コロンには意味があるはずで、しかしコロンの後で初めてペダルを浅くするのは遅過ぎるため、おかしいなとずっと気になっていました。

濁るのはもっと前

カミンスキ先生と話し、表示はコロンの後でハーフで踏み替えるという理解であると。2度の濁りを避けるためにはペダルを浅くするしかありません。そのため私は(踏み替えマークではなく)文字のあたりが浅いペダルだという “必然的な誤解“ をしていたことになります。ピアニストの実際として、このペダル踏み替えマークの位置で初めてペダルを浅くする(つまり2,3拍目は浅くなく4拍目は浅い)というのはあり得ない。”いわゆるハーフ・ペダル“ の目的は濁らせないこと、澄んだハーモニーを長く保つことです。濁るのは何より導音→主音となる短2度(dis1-e1)、次いで a1-gis2 の短2度です。その後は cis2-h1 の長2度があり、ペダル踏み替えマーク後も e2-fis2-gis2 と長2度の連続。音域が高くなるほど濁りにくくなり、ハーフにしなくてもそれほど問題にはならない。これらはその方がおっしゃる「かなり踏み込んだ解釈」などではなく、事実です。

記号を見るだけではいけない

響きがあってこそのペダル、耳を働かせ、コントロールできていてこそのペダルです。記号を読むだけでなく、響きを読んでいなければ意味がない。表層では困る。楽譜は演奏者のためのものです。ショパンの芸術を再現するために楽譜を使うのです。

濁りを避けたいところは2拍目後半から3拍目にかけて。その後に踏み替えてハーフでは遅過ぎる。このことについてもカミンスキ先生と話しています。踏み替えマークを置くのであれば、短2度のあるところです。

ショパンが聴きたかった音像

元来ショパンはこう書いていたのですから(dis1-e1 で踏み替え):

そしてこちらは、指で保つ方法によりペダル踏み替えの位置を遅らせ、バスの響きをより長く保つことができます(a1-gis1 で踏み替え):

そしてさらに長くバスの響きを聴いていたいと、その可能性を示しています。

しかし h1 になる前に濁るところがある。濁らせないためには、h1 になる前にかなりペダルを浅くしていなければ無理です。マークなしで浅く使うか、あるいは踏み替えマークを置くならもっと左にあるべきなのです。

ハーフ・ペダルの指示がなくても浅くする

単に Ped. とマークがあるだけでも(つまり踏み替えマークをとくに示さなくても)、ピアニストは常に自分の耳を頼りにペダルの深さを絶えず繊細にコントロールしながら弾いています。ハーフ・ペダルと書いていなくてもハーフになっている(浅くペダルを使っている)ことは多い:

そのため、いわゆる”ハーフ・ペダル“として踏み替え位置を表示するのであれば現在の位置より左であるべきで、この場合は ”不完全“ であると書きました。

命がけで弾いたことがありますか

このノクターンに限らず、ショパンの芸術を各国のステージで全身全霊で聴衆の皆様と共有してきたピアニストとして、ショパンのペダルは極めて重要でかつ繊細な事柄であり、その本質と具体的なコントロール法をつかまなければいけないことは骨身に染みています。倍音の広がり方、響きの減衰、その楽器の特性をその場で把握し、確実に自分の耳と身体でコントロールするしかない。譜例が不完全であることは弾いてみればわかります。ですから見る人が混乱しないよう、文字の始まる位置をポーランド語版/英語版と同じ e1 あたりに直せばよく、そうすれば まずおかしなことにはなりません。



Będę wdzięczna za wsparcie! いただいたサポートはリハビリに、そして演奏活動復帰および再レコーディング準備のために。