見出し画像

怪談が好き 番外編

怪談とは少し線引きが違うような気もするが、やはりこの方の緻密な文体と、取材力、知識には感動する。

京極夏彦先生 百鬼夜行シリーズ

「この世には不思議なことなどは何もないのだよ。」
の決め台詞で有名なシリーズ。先生のデビュー作「姑獲鳥(うぶめ)の夏」から始まる百鬼夜行シリーズ。妖怪を題材にしながら、妖怪そのものは登場しない。

ただし、このシリーズの登場人物には明らかに「不思議」な人物がいて、その人物の設定こそが「姑獲鳥の夏」でのミスリーディングとなる。

しかし、主人公の「京極堂」こと「中禅寺夏彦」をまず紹介すべきだろう。

彼の経歴はこの段階では「憑き物落としを生業とする神主」兼「古書店の店主」である。「憑き物落とし」を行う立場でありながら、妖怪などの存在に対しては本人の言葉を聞く限りでは否定的である。
回りくどい表現をするのは、その言動と行動が必ずしも一致しているように見えないためである。
しかし、「言葉」を介する「呪」に関してはその効力を認識し、その「呪」を解くために「憑き物落とし」と称して、さまざまな問題解決に臨む。
つまりは、初見では分かりにくいのだが、この物語は一種の「推理小説」なのである。

ただし、犯人や犯罪が明確に推理されると言うわけではなく、むしろ、その動機に対しての考察が主体となることが多い。
「who done it」ではなく、「why done it」を目的にしていると考えてよい。

しかし、その動機ゆえに、物語は「奇怪」な状況に向かっていく。

そして、作品が続いていくうちに、中禅寺夏彦の過去も明らかになっていく。(別に決して犯罪人だったとか言う話ではない。しかし、深刻かつ特殊な状況下にあった。)

そして、「不思議なことは何一つない」と断言する中禅寺の一学年上に存在する不思議な能力の持ち主「榎木津礼二郎」。

超絶美麗な容姿に破綻した性格、また理解しがたい格闘センスで他の追随を許さないキャラなのだが、その真骨頂は「相手の過去の記憶を視覚を通じて共有する。」という理解しがたい能力である。

人気がありすぎて、スピンオフも出ているくらいのキャラなのだが、この能力のため、「姑獲鳥の夏」でミスリーディングが起こる。
オリジナルの文章で読んでよし、また、美麗な志水アキ氏のマンガで読んでよしの内容だ。原作は630ページを超す大作なのだが、マンガでは非常にコンパクトにまとまっているが、その世界観はオリジナルを踏襲して、再現性も高い。
個人的には双方読むことをおすすめしたいが、オリジナルの角川版が見当たらないのがさびしい。

画像1

表紙は荒井良さんとおっしゃる作者の「妖怪張り子」だそうだ。

ちなみにシリーズを通してページ数が多いのが特徴で、またそのぶ厚い文庫本自体も角川の戦略となっているように見える。

今回は「姑獲鳥の夏」のみで紹介が終わったが、いずれシリーズの他の作品も紹介したい。

個人的に好きなのは「魍魎の匣」だろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?