議案第66号「緊急事態に関する国会審議を求める意見書」についての反対討論


議案第66号「緊急事態に関する国会審議を求める意見書」反対討論2022930

 

私は、日本共産党目黒区議団を代表して、議案第66号「緊急事態に関する国会審議を求める意見書」について反対の立場から討論を行います。

 本案は新型コロナウイルス感染症が長期に渡って、全国各地で大きな被害をもたらし、9割の中小企業の経営に深刻な影響が発生したこと、また医療従事者や病床の不足を解決できず、医療崩壊の危機を招くことになり、想定されなかった事態が発生したこと、東日本大震災では道路をふさぐ震災がれきの撤去が遅れたため、支援物資の輸送にも遅れが生じたこと、被災地方自治体の機能停止したことを理由に、緊急時における憲法のあり方について、建設的かつ広範囲な議論を促進すること、国民的議論を喚起するように求めているものです。

  もともと緊急事態条項の創設は、故安倍元首相が憲法9条への自衛隊明記とともに、改憲の柱にしてきたもので、政府に権力を集中し、基本的人権の侵害、三権分立の否定、憲法の停止、独裁への道をひらく危険があるとして憲法学者や弁護士会からも批判されてきました。

この意見書は新型コロナウイルスの感染拡大や自然災害を持ち出して改憲を進めるものであり、容認できません。新型コロナウイルス感染症や自然災害への対応はすでに法整備がされています。

  新型コロナウイルス感染症への対応は憲法に問題があるのではなく、感染症対策を縮小してきたことに問題があります。

 新型コロナウイルス感染症が発生する前の2010年6月10日、厚生労働省の新型インフルエンザ対策総括会議の報告書には、①PCR検査体制の強化、②国立感染症研究所、検疫所、保健所の組織や人員の大幅強化の必要性、③米国CDC等を参考にした組織強化の提言を受けていたにも関わらず、対策をとらずに無視し続けました。政府は行革の名のもと、全国の保健所数を45%削減してきたこと、感染症において国家の中枢を担う国立感染症研究所が公務員の人員削減の対象になっていること、退職者が出ても新規採用を行わなかったことなど、感染症に係る組織の弱体化、予算の大幅削減によるもので、中央に権力を集中してこなかったことが原因ではありません。

  自然災害についても法体系に基づいて、国がもっと財政支援を行うべき問題です。災害対策の問題は、憲法にあるのではなく、国民の生命・財産を本当に大事にする政治の不足にあることは明白です。現行法においても、災害対策基本法や災害救助法で、内閣の緊急政令の制定権や知事の強制権が定められており、物資の買い占めの規制や施設の強制利用など、例外的な権利制限を認めています。憲法上も、人権の制約原理として「公共の福祉」による制約が可能とされ、緊急時の例外的な人権制限を法律上明記することは可能です。
災害対策の最も重要な教訓、鉄則は「事前の準備のないことはできない」ということです。「権力の集中」は無益で、「危機」に便乗した乱用のおそれが大きいとされてきているのです。よって緊急事態条項は必要ありません。

 憲法の「緊急事態条項」が乱用され、人権を侵害し、言論抑圧につながる危険は、世界の歴史からも明らかです。第2次世界大戦前のドイツでは、ワイマール憲法48条の「大統領非常権限」が乱発された結果、ナチス・ヒトラーの独裁政権に道を開きました。日本でも明治憲法下の1923年の関東大震災の際、戦時に軍隊に権限を集中する戒厳令の一部を緊急勅令によって施行した結果、朝鮮半島から日本に移り住んでいた人々への虐殺といった事件が引き起こされました。戦後制定された日本国憲法で「緊急事態条項」を設けなかったのは、こうした痛苦(つうく)の経験を踏まえたものです。

 

日本国憲法を制定する、ときの内閣が作成した指摘のなかに「明治憲法においては、緊急勅令は行政当局者にとつては極めて便利に出来ており、それだけ、濫用され易く、議会及び国民の意志を無視して国政がおこなわれる危険が多分にあつた。すなはち、法律案として議会に提出すれば否決される、と予想された場合に、緊急勅令として、政府の独断で事を運ぶような事例も、しばしば見受けられたのである。新憲法は臨時の必要が起れば必ずその都度、国会の臨時会を召集し、又は参議院の緊急集会を求めて、立憲的に、万事を措置する方針をとっているのである。」という説明があり、緊急事態条項を憲法上むしろ積極的に設けなかったということです。

 私たちはこうした歴史の教訓に学び、立憲主義や三権分立、そして人権を

尊重する現行憲法体系の下で、国民の命や暮らしを守る政治の実現をはかることこそ、重要であると強調したいと思います。

 以上の理由から本意見書に反対を表明しまして、討論を終わります。

 

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