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小児科医が解説する母乳をやめるタイミング

こんばんは。絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者で、小児科医のしょーたです。

今日は「小児科医が解説する母乳をやめるタイミング」というテーマで短くお話ししたいと思います。

子どもに母乳をあげていると、色々な意見が耳に入ってくると思います。「離乳食を食べられるようになったんだから、母乳をやめなさい」とか、「母乳を早くやめて自律させないとダメよ」とか、そんな意見をあちらこちらから聞くようになるものです。特に人生の先輩である年上の方からそんな風に言われると、「そうなのかしら」なんて焦って授乳をやめようとする親御さんもいるかもしれません。

でも、最初にお伝えしておきますが、何歳までに授乳をやめないといけないという決まりはありません。授乳を続けていたから、自律できずに親に依存的な子どもが育つということもありません。仮に親離れできない子どもが育った場合、それは卒乳のタイミングが原因ではなく、日常生活での子どもへの関わり方に問題があるものです。

ちなみに、世界保健機関(WHO)は2歳ごろまで母乳を続けることを推奨しています。ですから、お子さんが自然に飲まなくなるまで授乳を続けていただいて大丈夫です。

でも逆に、社会的な状況によっては生まれてすぐに母乳をやめないといけない場合もあるでしょう。どうしても保育園に預けないといけない。そんな家庭の状況を無視して、「2歳まで母乳を与えないといけない」なんておすすめもしません。そんな指摘をしても、親御さんをストレスフルにしてしまうだけですよね。

母乳は、栄養としても大切ですが、子どもの精神的な安定を保つという点でも大切です。でも、子どもにとって何よりも大切なものは親御さんの安定した心なのです。これはキレイゴトではなく、本当にそうなんです。

「母乳を飲ませなきゃいけない」とか、「母乳をやめさせないといけない」とか、そういったストレスの中で親御さんの心理的負担が過剰に増えることは避けたいものです。それに、親御さんに過剰なストレスがかかっていると、母乳も出にくくなるものです。育児における過剰なストレスはいいことがありません。

母乳を続ける意義は、栄養や水分摂取の他に、精神的な安らぎがあると言いました。授乳を通して行われる親御さんとお子さんとのスキンシップ。そういった機会を通して、親を安心・安全な存在として感じるようになるわけです。

でも一方で、親子の関わりは授乳の時間帯ばかりではありません。そのほかの色々な生活場面で抱っこをしたり、オムツを交換したりしながら、親子での関わりがあります。その関わり全てが、子どもに影響を及ぼすのです。

幼い頃の親子の温かい関わりが、その後の子どもの心の成長に大きく影響する。そのことを理解しながら、授乳に強いこだわりを持たないでもらいたい。授乳を続けられる親御さんは、親御さんが続けたいだけ授乳を続ければいい。無理に母乳をやめる必要はありません。

でも逆に、母乳をやめざるを得なかったら、それはそれでいい。母乳をやめることに罪悪感を感じないでください。育児には母乳以外にも大切なポイントが山ほどあります。授乳じゃなくても、他での関わりをいっぱい充実させてあげてくれれば大丈夫です。

「こうでなければいけない」なんて窮屈な考えは、親御さんを追い詰めるだけなのです。そんな心の余裕のない中で行われる育児ほど危ないものはありません。気持ちの余裕がある親御さんがお子さんのそばにいられるように、母乳をやめるタイミングについては柔軟な考えを持ってください。

今日は「小児科医が解説する母乳をやめるタイミング」というテーマでお話ししました。

だいじょうぶ。
まあ、なんとかなりますよ。

湯浅正太
小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医。一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて:https://yukurite.jp/)代表理事。イーズファミリークリニック本八幡 院長。作家。著書に『みんなとおなじくできないよ』(日本図書センター)、『ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ』(メジカルビュー社)がある。

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