「海外の方からはどう見えますか」という質問を受けたのは、日本人の方からが初めてだった。

👽未知みが強いの

　どの国や地域の人と話しても、これまで1度もそんなふうに尋ねられたことは無かった。しかし日本では何度も経験する。この質問が嫌ということではなく、ただ新鮮なのだ。

「外国人・海外育ちだから」違う視点を持っている、コミュニケーション方法が異なる、新しい意見が出るはずなどの誤解と期待をひしひしと感じ、(いやぁそれほどでも……)と、面映ゆくなってしまう。

　集団の中で私だけが「違う属性」と認識されているからだろうか？
　しかし​──多くの人も思うことだろうけど​──日本人だって当たり前に多種多様だ。単一民族だから同じということも無く、経験から各々の思想や価値観を持って暮らしている。
　年代や性別、出身地が違えば常識は異なるし、同級生でも個性はバラバラ、親兄弟でさえそれぞれの世界を持っていて、完全には理解し合えないものだろう。

　きっと皆よく分かっているのに。いつも隣にいる人に聞いても、私に聞いても、答えの幅はさほど変わらないってことを。
　他者は誰だって未知で果てしない。

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🌿𓈒◌両手ぶらり戦法

　私にとって他者は、自然界より怖い。
　どんなに近い関係でも相手の内面は見えないし、何も期待できない。
　これは無責任や諦念と全く対照にある考えで、私は私の狭い了見で、相手を決め付けないようにしたい、理解を途中で諦めたくないと思っている。

　つい、こうかな？こうだろう！などと枠に嵌めて理解・判断したくなるけど、そういうラクな納得へ流れないようにしたいのだ。
　やり取りを重ねても、よく観察しても、断片が見えるだけ。人の実態は水面下の大いなる氷山だ。
　それに誰しも気分もあるし変化もするので、知れた断片を繋ぎ合わせて「こういう考え方のこういう人物だ！」などと分かった気になっても、そんな"理解"の通りに固定されている人はほとんどいない。
　それでも相手を知りたいと思う。完全に分かり合えるわけがない、怖くて長い道のりだけど、好きだから。

　そう、怖い。コミュニケーションは恐ろしいものだ。相手の領分を尊重して侵さず、しかし少しでも心が通じ合えたらと思うから、「慮る」という慎重さを求められる。
　私が人と接する時にリラックスして見えるのは、張り詰めているからだ。未知と対峙して、傾向や対策が分からない状態だから、自ずと何も構えないという構えになる。
　それに、あなたはこういう属性だからこういう価値観じゃないか、そういう人はこう考えるのではなどといった予断を以て人付き合いをしたくない。想定を排した態度の方が回り道を避けられて、相手に余分な負担をかけないと思うから。

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🌷独りよがりの達人

　そういえば初めて恋をした頃は、相手のことを想定なんてちっとも出来なかった。
　声を聞くだけでドキドキして、その人が視界に入って来ると心が跳ねた。それ以上なにも望まなかった。
　分からないことが嫌じゃなかったし、勝手に推測もしなかった。ただ眺めながら、いい笑顔だな〜とかその音楽が好きなんだ〜とか思っていた。

　しかし次第に欲望が湧いてきた。好かれたい、喜ばせたい、気が利いていると思われたい、と。
　そうなってからは自分のことしか見ていなかった。どうすれば関心を惹けるか雑なマニュアルを頼り、どう思われているかばかり気にして、自分の振る舞いによる相手の反応に一喜一憂した。
　こう思ってほしい・こうなってほしいと心の中で相手への要望が止まらなかった。それを得るために絶妙なタイミングで的確な解を叩き出すことに血道を上げていて、まるで太鼓の達人をプレイしているようだった。
　そして都合の良い展開になったら悦に入り、思い通りにならないと動揺した。まさに独り相撲だ。慮るなんて程遠い、不実な態度だった。

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💖初恋の距離

　大人になって自立を学んだ今では、人に好かれたい、誰かに求められたい、私を喜ばせてほしい、私のすることに喜んでほしい……などとは思わない。
　良心において誠心誠意で接して、好いてもらえたら有難いし、そうじゃなくても気にならない。

　人が人生で何を選びどう決めるかに、自分の望みを越境させなくなった。
　歪みや望みを抱くがゆえに、人の言動を私にとって都合が良いか悪いかでジャッジしてしまうこともグンと減った。
　好きな人たちが、自由に人生の稜線を堪能しているのを祝福している。相手のそのままを見ていた初恋の緊張感が、心の中に戻ってきて定着した。

　分からないことは怖いけど、良い畏れだと思う。そのために尊重し合えて、注意深くいられるから。
　分かるはずと思うと、途端に慎重さを失う。思い込みや偏見の入れ物に対象を押し込めてしまわないよう、好奇心を持ち続けて1歩ずつ進んで行きたい。

　今後も「コミュニケーションこわい」と言い続けて、まっさらな気持ちで大好きなコミュニケーションをたくさんとっていこう🍵

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おしまい