「窓辺の猫」第四十四回 噛みつかない三毛猫
猫に優しくしていますか?
私は飼い主なのに猫に優しくされています。
人間が特別優しくなくても、飼い猫が優しいのはもともとの性格なのでしょうか。
私の育て方が良かったのだと自画自賛する気持ちにはなれません。私が優しくて親切で遠慮深い人間なわけがないからです。
我が家の三毛猫は噛みつきません。
嫌なことをされても噛みつかないのです。
目薬をされても抱っこされても、体を洗われても、鳴き声を上げる事はありますが、やわやわと手に歯を立てても顎に力を入れて噛み付く事はありません。嫌なんだよとアピールするだけで、なるべく爪を立てないようにしていきます。逃げ出す時に、爪が引っかかる事が以前にはよくありました。最近は爪を切っていたかなと錯覚するくらいにセミ猫の爪が当たることがなくなりました。
これは人間だけでなく、同居の猫に対しても同様で、甘噛みをしても噛みつかないのです。最近はしつこく絡んでくるトンボ猫に猫パンチする時でさえ、爪で怪我をさせないように気をつけているようです。もちろん絶対に本気で噛んでこない先輩のことを後輩猫はちっとも恐れません。ますます頭に乗るようになりました。
我が家のセミ猫様は、家族に対して思いやり深く遠慮深い猫様です。
窓越しに外から家の中を覗いてくる野良猫には唸って怒り狂いますから、家族以外には容赦がないようです。番犬ならぬ番猫のつもりで、見知らぬ猫を追い払っているわけではないでしょう。それならば、見知らぬ人間にも警戒しても欲しいものです。
セミ猫は、人間に対して子猫の時からとても愛想の良い猫でした。そもそも、人間に近づいてきて抱っこされるような猫でなければ、拾ってはいないのです。我が家は、外暮らしの猫たちの通り道にされていて、かつてより多くの猫が通り過ぎてきましたが、警戒心なく、人間に登ってきたのはセミ猫だけでした。
そして、子猫ながら、他の猫たちと喧嘩ばかりして、3回も傷を負ってしまったのを見たのも初めてです。もしかしたら他の猫たちは怪我をしたら、人間の前には姿を表さなかったのかもしれません。
しかし、セミ猫は弱った姿を人間に見せる猫なのです。
セミ猫は、それほど四六時中人間にくっついてはいません。他の猫たちがどうか分かりませんが、少なくとも後輩猫よりは人間をつけ回したりはしません。
しかし、私が怒り狂ってふて寝していると、必ずかまってアピールで癒して来ます。こちらは苛立っているのでうっとうしくもあるのですが、とにかく私が反応を示すまで、髪の毛にじゃれついたり、足の間に寝てみたりするのです。
猫は激しい感情が嫌いです。猫はキレやすいからこそ、穏やかでいられる時を大事にします。
「キレるのは私の仕事だよ」と思っているわけではないでしょうが、以前は荒ぶってるいる私を遠巻きにしていた後輩猫も最近では、私が1人でいると、セミ猫先輩に学んで必ず近づいてくるようになりました。そして私に寄り添っている先輩猫に遠慮しているのか、あるいは、触らぬ神に祟りなしと思っているのか、慰め役を先輩猫に任せるのです。
熟睡しないトンボ猫と違って、セミ猫足の上に寝ると何時間でも動きません。足がしびれるのは、足を開いて間に落とせばすみますが、くっつかれた部分が熱を持ってまるで火傷したかのように錯覚します。
冬でも、数時間以上猫を抱えているのは、抱えている部分だけ暑苦しいのです。春を過ぎれば、いささか以上ありがた迷惑です。
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