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「窓辺の猫」第14回 最高のパートナー

別段、猫にとって最高の飼い主であると自負しているわけではない。拾った猫の命を助けてやったから、その猫にとってここが最高の居場所だと思って欲しいわけではない。
その時命を助けてあげたって、後になってから放置しては意味がない。
「猫様に奉仕することが我が人生の使命である」などの志もない。

ただ、あまりに猫様のわがままがすぎると、私はそれほどダメな飼い主だろうかと疑問だ。私がダメな飼い主なのではなく、我が家の三毛猫が甘えん坊になっただけなのではないか。

5月からだんだんと体調が悪くなり、我が家の三毛猫は8月の初めに大量に鼻血を出した。熱中症かもしれないし、アレルギーかもしれないし、原因はよくわからないが、具合はだんだんと良くなって、最近は再び夕方や深夜に走りまわるようになっている。まだ目やにや鼻水がちょっぴりあるものの寛解と言って良い。

セミという名の我が家の三毛猫が、最高に具合が悪かった時、2週間以上鳴き声を聞かなかった。しかし8月の後半になると今度は一転よく鳴くようになった。

部屋の中をうろちょろしていて、何か要求があるなと「セミちゃん」と、声をかけると、怒ったようにニャーと鳴く。それが「全く気がきかないわね」と、人間を叱るような態度だ。

大抵はかまって欲しいだけだ。ごはんが欲しいような様子を見せるけれど、全部は食べない。いつものごとく、後輩のトンボ猫がケージの前に飛んでくるまで粘って、入れ替わりに立ち去って、ご飯を与えようとするのである。トンボ猫に奪われるから、ケージの中でごはんを食べさせている人間の気遣いなど全く無視している・・・?わけではない。ちゃんとわかっていて、落ち着いて食べられるようになって喜んでもいるのだが、後輩にご飯を譲る快感も捨てがたいのである。

具合がとても悪かったときには、セミ猫だけ特別扱いだった。もともと、先住猫のセミ猫の方を何事においても優先はしていた。
さらに具合が悪くなると、薬を飲ませるために抱っこし、目薬をつけるために抱っこ、目やにや鼻水をこまめに拭いてやり、弱っていて大好きなシャワーもしてあげられないから、もっと大好きなブラッシングをこまめに行い、ペットシートで日々清潔を保てるよう拭いてあげていた。

一方で、トンボ猫はお手入れをされるのを嫌がる。しかし、それほどまでにセミ猫に構うと「なんでそっちばっかり!」と、時折、嫉妬して乱入してくることもあった。セミ猫に噛みつこうとするので、人間はセミ猫を庇うしかない。そうすると、ますます嫉妬心が募り、なんだかしょんぼりしてしまうトンボ猫であった。

しかし、四六時中1匹の猫にかまう生活というのも続かないものだ。2週間の飲み薬が終わると、自ら抱っこされには来ない。セミ猫のことをこちらからわざわざ抱っこしてあげることもなくなった。

すると、セミ猫は人間の周りをうろちょろし始め、前述のように名前を呼ぶと怒ったようにニャーと鳴くようになったのである。

猫にとって良い飼い主というのは、猫の体調管理をよくよく心がけている人間ではない。猫の要求に何でも常日頃から応えられる飼い主が、猫にとっては最高の飼い主だ。

体調が悪かったとき、セミ猫は我慢強く鳴かなかった。何にもしなくても、人間がいつも心配して、出来るだけそばにいてくれた。苦しかったけど、環境に不満はなかった。

元気になって、苦しさは薄くなったが、気づけば最高の環境ではなくなった。部屋を出ていけば、必ずしも別の部屋まで探しに来てくれるとは限らない。目の前でくしゃみしないと、すぐに鼻水を拭いてもらえない。今まですぐにやってもらえたことが、アピールしなければしてもらえないことに気づいたのだ。

自分から人間のそばに擦り寄って、どっかり横たわらなければ撫でてもらえないのだ。

一方で、猫にとって最高の飼い主は放っておいてくれる人でもある。
猫は集団生活を好む動物ではないので、人間に合わせて生活のルールを作っていくのは限界がある。要求があるときに応えてくれる、それが猫にとって人間と暮らす上で、大事なルールなのだ。

つまり"要求がある時"は応えてほしいのだが、人間に何もして欲しくない場合もある。
外の景色を眺めて窓辺で黄昏ているときは、隣に人間がいることを望まない。近づいてみると、何しに来たという感じでキョトンとした顔をされる。

猫が深い眠りに落ちかけた時は、最も触られたくない時で、撫でるとにゃーと不満そうな声で怒られる。

またこうしてnoteの記事を書いたり読んだりしている時は、暇しているくせに無視していると感じるようで、机に乗ってきたり、鳴いて不満を訴えたりする。
趣味の朗読やマクラメ編みをしている時はセミ猫は途中で邪魔したりしないので、スマホに向かっているときは、邪魔していい時だと思っているようだ。

スマホばかり見ている飼い主は怠惰だ。
飼い主失格ですよと猫に言われているような気がする。
一方で、たかがスマホくらいで飼い主失格なんていう猫はわがままだという気もする。

※見出し画像で猫が枕にしている毛布は人間が枕にしたのではなく、猫が自分で丸めて枕にしています。

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