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銀歯が取れるひと

私ではない。夫の話である。

夫はよく歯の詰め物(以下銀歯)が取れる。
数年前、愛車の点検で代車を1日借りたので
山口県に行こう!と出発した。
その日はお昼ごはんに
大好きなバリそばを食べて
大好きな道の駅、ソレーネ周南でお買い物をして
帰ろうという計画であった。

さてお昼。
キラキラしたスープと香ばしい揚げ麺の香り、
たっぷりと乗る野菜。
目にも心にも美しいバリそばが目の前に運ばれ、
美味し過ぎるわぁ、と私が嬉しげに食べている横で
夫の銀歯は取れた。

「あ」
「なに」
「銀歯取れた」

バリそばの名誉のために言っておくが、
バリそばは名前が硬そうなだけで
そこまで硬い麺ではない。
スープがかかっているので
むしろふやけると柔らかいくらいだ。

さて、銀歯が自分の歯から取れた夫は
分かりやすくひゅーんと弱っていった。
当然ながら、
バリそばを食べるのもとってもゆっくりに
なっている。
しかも彼の頭の中はバリそばではなく
かかりつけ歯科から遠い県外で
この取れた歯を入れるには
どうしたらいいのかということで
いっぱいである。

かかりつけ歯科までは車で2時間以上はかかる。
広島市内のディーラーに代車を戻して
それから自宅に帰るのでさらに時間はかかるだろう。
夫はたとえアクシデントがあっても
知らない所には行きたくないタイプなので
今いる山口市で歯科に飛び込むという選択肢はない。

「いつもの歯科空いとらん」

しょんぼりしながら夫が言う。
ネットで調べたようだ。
土曜日の歯科は患者が多いのでそれはしょうがない。電話してもちょっと今日は無理だとのこと。
それでは、と私も何軒か自宅近くで
土曜日の午後に空いている歯科を探す。
ウチの街は土曜日の午後は早くに閉まる所が
多いのだ。

結果、自宅近くの歯科が見つかり、
なんとか予約も取れたので
代車を返却して診察時間内に行くことができた。
(もちろんソレーネ周南はすっ飛ばされた)
銀歯もそのまま入り、
気力が復活した夫は無事に美味しく夕食が取れた。

さてその1年後、
「何か歯がおかしい」と
定期検診で夫は訴えた。
「大丈夫なように見えるけどなー」と
かかりつけ歯科医に言われつつ、
カチカチと歯を触られていたら、
そこで見事に銀歯が取れた。
以前にも取れた銀歯だった。
大丈夫だと言った歯科医の立場はなかったが、
幸いにすぐ対応してもらえたので
夫の気力はそこまで落ちなかった。

そして本日。
夫の銀歯はまた取れた。
歯磨きの最中だったか、
「歯が取れたーーー」と
叫びながら、銀歯を持って、
ティッシュに包んで
チャック付きの小さなポリ袋に入れていた。

銀歯が取れた夫は
また分かりやすくひゅーんと弱っていった。
ひと回り小さくなったかのようで、
なぜか歩くのもゆっくりになっていた。
まるで銀歯にパワーの源のなにかが仕込まれているのかと思うくらいだ。
これがウイークポイントというヤツか。

多分今日は歯のことで頭がいっぱいで
仕事はろくにできないであろうことが
容易に想像できた。

それにしても夫は本当によく銀歯が取れる。
歯は良く磨いている。
ちなみにかかりつけ歯科は私と同じところなので
歯科医の腕ではなく、夫の歯の質や噛み合わせに
問題があるのかもしれない。

ということで、
どうか無事に銀歯が入って
夫の気力が戻りますように。



【追記】無事に銀歯入りました!

(了)




























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