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埋まらぬ三塁手の穴

広島の三塁手というと、かつては衣笠祥雄・江藤智・新井貴浩など、リーグ内でも屈指の強打者が担ってきたポジションです。

しかし、2007年オフの新井の阪神移籍後に空いた三塁手の穴は、12年経った今でも埋まる気配を見せず、村上宗隆・大山悠輔など他球団の新たな三塁手の台頭の流れとは逆行し、どんどん相対的な穴も大きくなっています。

今季も、ここまで安部友裕と小窪哲也が投手の左右ごとに出場機会を分け合うような形となっていますが、DELTA社のデータによると、ポジション別wRAAは-9.0という数値を叩き出しており、データ上でもその穴は証明されています。

そんな広島の三塁手の穴について、振り返っていくとともに、今後の対策について考察していこうと思います。

1.過去の最多出場者

まず、新井のFA移籍後の2008年から2019年までに、どのような選手が主に起用されていたのかについて整理していこうと思います。

この12年間で三塁手として最多出場を果たしている選手を、年度別に並べたものが表①となります。

100試合以上出場を果たしたのは、2008年のシーボルと2012~2013年の堂林翔太のみと、これといったレギュラーを固めきれていないことがパッと見で分かると思います。

打撃成績を求められがちな三塁手というポジションですが、12年間で二桁本塁打達成者はシーボル・マクレーン・堂林のみで、得点と相関性の高いOPSを見ても、良い打者の一つの基準となる.800を超えている打者は2018年の西川龍馬のみと、打撃面で優位性を見いだせていないのがこの12年間です。

その最も総合的な打力に秀でていた西川も、守備面で足を引っ張る形となり、三塁手失格の烙印を押され、外野手に本格挑戦するなど、中々トータルバランスの取れた選手が出てきていません。

また、他球団のレギュラー格の選手と比較すると、ヤクルトは川端慎吾、巨人は小笠原道大・村田修一・マギー、横浜は村田修一・宮崎敏郎、中日は森野将彦・ルナ、阪神は新井貴浩など、それぞれタイトル獲得経験のあるような打者がズラッと並びますが、広島の場合はこれといった選手が出てきていないことが分かります。

OPSを比較しても、基本的には真ん中から下で、12年間中8年が4~6位に低迷するなど、相対的に見ても打撃の優位性を見いだせていない状況です。

2012年に彗星のごとく現れ、ブレイクした堂林にそのままポジションを担ってもらうことが一番よかったのでしょうが、捻りすぎという一向に改善されない打撃面の課題や周囲の期待を一身に背負う形になった当時のチーム状況から、レギュラーとしてモノにすることが出来なかったのは悔やまれるところです。

2.チームの編成

このように、常に三塁手については課題感のある状況が続いていた中で、チーム編成として三塁手をどう見ていたのかを振り返っていきます。

新井の抜けた当初数年間は、強い課題感を持っていたためか、シーボル・マクレーン・トレーシー・バーデンなど毎年のように新外国人選手を獲得したり、当時主砲であった栗原健太を一塁手から三塁手へ転向させるなど、新井の穴を埋めようという意識が見て取れます。

しかし、どれも不発に終わる中で2011年の秋、当時2年目の堂林がフェニックスリーグで爆発し、翌年の春季キャンプでも野村謙二郎監督の目に留まったことから、前年レギュラー格であったバーデンをチームに残しながらも、堂林を三塁手で一軍の舞台に抜擢することを決め、流れは大きく変わります。

というのも、これ以降外国人選手がレギュラー格としてチームにハマることはなく、元々遊撃手であった選手が三塁手へ転向するような形で起用されるようになったからです。

チームとして、これまでは三塁手にある程度の長距離打者を置きたかったのでしょうが、一塁手と左翼手にエルドレッドやキラといった一発の期待できる外国人を配置し長打力を担保しつつ、丸佳浩・菊池涼介・會澤翼らセンターラインにも長打を期待できる選手の確保に成功したことで、三塁手に必ずしも長打力を求める必要が無くなったのでしょう。

といった点や、堂林がレギュラー定着に至らず、田中広輔の加入+加齢により遊撃手の座をあけ渡さざるを得なくなった梵英心が三塁手へと移る形になってから、元々遊撃手として期待されていた選手は、空いた三塁手へと挑戦する形が出来上がったのもポイントです。

これにより、安部友裕や西川龍馬といった遊撃手として期待された選手が、三塁手へと回ることとなりますが、編成的に三塁手を穴との認識はあったようで、2016年には中日を自由契約となったルナを加入させ、安部がレギュラー格に収まりつつあった2017年にはペーニャを加入させるなど、既存戦力へのケツ叩きの意味合いも込めての補強が行われています。

この両外国人については、以前獲得してきたような一発を期待できるような打者ではなく、コンタクトヒッター寄りの打者だった点を見るに、やはり三塁手には打線の中でバリエーションを持たせるためのコンタクトヒッターを当てはめようとしていたことが察せられます。

そして、直近2年ではとりわけ補強がない状況ですが、安部が2017年を頂点に故障等の理由から劣化気味で、西川も三塁手失格の烙印を押される状況の中、何も補強が無いというのは、主力も抜けていく中で楽観的すぎと言わざるを得ないでしょう。

今季からロッテへと所属チームを変え、本塁打を量産しているレアードが昨オフ市場に残っている中、何も動きがなかったのは疑問符がつくところです。

投手力に課題感を持っており、投手に3枚外国人枠を割きたかった意向から、獲得しないとの判断に至ったのでしょうが…

3.今後の対策

現在のチームは、バティスタ・鈴木誠也というリーグ屈指の大砲を二枚抱えているものの、その他の選手はパワーレスな選手が多く、打線として得点の分散が大きいという課題を抱えています。

5月のように、全体的に好調な選手が揃うと面白いように繋がり、高い得点力をキープすることが出来ますが、現在のように全体的に低調な期間に入ると、そもそも安打すら出なくなり、一振りで得点が入るような長打も少ないため、一気に得点能力が落ちてしまうということです。

この問題は今季に限らず、今後も主力野手のFA宣言やポスティングによる移籍が進んで行くことが予想される中で、長打力のある選手をいかに確保していくかが重要となってきます。

そこで、長打力不足解消のために三塁手というポジションを再び利用すべきなのではないでしょうか。

一塁手と左翼手を務めるバティスタや西川は打線を構成する上で必須の存在となっており、昨年まで丸が務めていた中堅手も、野間峻祥が手中に収めそうな中、三塁手に長打力のある打者を入れてパワーレスを解消する他ないのではないでしょうか。

しかし、現状候補となる選手がいないため、外国人選手を引っ張ってくる他ありません。今季途中、もしくは来年以降の補強に期待したいところです。

将来的には、ドラフト3位ルーキーで長距離砲としての資質を感じさせ、早くも2軍レベルには適応を見せている林晃汰を、三塁手として起用していきたいところです。

しかし、現状林は一塁手としての起用が多く、三塁手としてはあまり起用されていません。(一塁手としては45試合に出場も、三塁手としては6試合の出場)

同じルーキーでは、中神拓都が三塁手として多くの出場機会を得ていますが、三塁守備の動きも悪くない林にも少なくとも同等レベルの出場機会を与えたいところです。

4.まとめ

・過去のレギュラー格の選手
総じて打力が弱く、相対的に位置付けても下位レベル
三塁手として上位の打力を持つ西川も、守備難で失格の烙印を押されるなど、トータルバランスで最適な選手が中々出てきていない
・チーム編成
新井の穴を、長距離打者の補強や中心打者のコンバートで乗り切ろうとしたが、いずれも失敗
田中の加入や、その他のポジションで長打力を発揮する選手が増えたことで、三塁手には打線にバリエーションを持たせるコンタクトヒッター寄りの打者が起用されるようになる
・今後の対策
打線全体のパワーレス化が進む中、三塁手は再び長打力を補完するポジションへ
将来的には、長距離砲としての資質を見せる林晃汰の起用を推し進めたい

以上が本noteのまとめとなります。

チーム状況は年々変化していく中、全盛期の印象に囚われ、その印象だけで編成を行なっていると痛い目に合います。

世の中がそうであるように、一つのチームを取り上げても生々流転であることには変わりありません。

パワーレス化が進んでいく広島打線において、時をめぐって再び三塁手に長打力を求める時が来たのではないでしょうか。

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