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広島の交流戦低迷の要因を探る

先日Twitterにて気になること、分析してほしいことを募集したところ、交流戦についてのお題を複数頂きました。
その他お題を頂いた方も含めて、改めてご協力ありがとうございました。

個人的にも、前々からなぜここまで交流戦を苦手にしているのか、解き明かしてみたいという思いもあったので、本noteでは交流戦をテーマとしたいと思います。

1.得失点状況から苦戦の要因を探る

連続最下位が続いてることや、過去の戦績からも広島が交流戦を苦手としていることは明白ですが、その要因は投打のどちらにあるのでしょうか?
ここでは2019年からの3年を対象とし、まずは得失点状況を確認していきましょう。

得点は12位→11位→12位と推移、失点も10位→12位→12位とかなりの低空飛行で推移していることが分かります。
どちらかが課題ということではなく、投打ともに大きな課題を抱える、非常に厳しい状況に陥っているということです。

2.なぜパリーグ投手陣を打ち崩せないのか?

過去3年の交流戦の得点推移は毎年ほぼ最下位と、パリーグ投手陣相手に非常に苦戦している様子が窺えます。
しかし、レギュラーシーズンでは、4位(19年)→3位(21年)→2位(22年)とそれなりに得点を奪えているところを見ると、交流戦に限って打線が機能していないと言えそうです。
3年も同じような状況が続いていると、何かしらの確固たる要因がありそうですが、それはいったい何なのでしょうか?

※同年度内のセリーグと交流戦で比較し、高い方は赤、低い方は青としている

広島のリーグ戦と交流戦の各種スタッツを比較してみました。

どのスタッツも基本的に交流戦で低くなってしまっていますが、
その中でとりわけ目立つのが、ISOの低さではないでしょうか。
過去3年はいずれもリーグ戦より低く、22年に至っては初本塁打が出たのが16試合目ということもあり、.053と信じられないような低水準です。
.210台にとどまるような打率の低さも気になるところですが、それ以上に長打を出せなかったことが、得点力不足に拍車をかけた要因でしょう。

また、ここ2年目立つのが、三振多くて四球は少なくBB/Kが0.2台に沈んでいるアプローチの部分です。
実際に試合を見てても、パリーグの投手のパワーに完全に押し込まれている印象で、長打力不足の部分も相まって力負けと言う他ありません。

では、なぜ交流戦になると長打を出せず、パリーグの投手相手に力負けしてしまっているのでしょうか?
主に投球の軸となるストレートに焦点を当てて、その原因を考えていきたいと思います。

※同年度内のセリーグと交流戦で比較し、高い方は赤、低い方は青としている

まず、リーグ戦と交流戦の球種別のwOBAとISOを比較してみました。
多くの球種でどちらもリーグ戦の方が優れた数値をなっていますが、21年と22年どちらも顕著な低下傾向にあるのが、ストレートとフォークやチェンジアップといった落ち球になります。
パワーピッチや縦の変化に対応しきれていないということでしょう。

パワーピッチという点に関して、リーグ戦時と交流戦時でストレートの球速帯に変化はあるのでしょうか?
交流戦時の方がスピードが速ければ、単純に対応するのも難しくなると考えられます。

151㎞以上、146㎞~150㎞、141㎞~145㎞、136㎞~140㎞、131㎞~135㎞、130㎞以下の6つの球速帯に分けて、投球割合を算出してみました。
すると、非常に面白いことに151㎞以上、146㎞~150㎞の高速帯に関しては、交流戦時の方が割合が大きいことが分かります。
平均球速では21年だとリーグ戦144.1㎞、交流戦145.2㎞と1㎞差が生じていますが、22年はリーグ戦145.1㎞、交流戦145.3㎞と明確な差は見られません
22年がそうであるように、平均球速では分からない差がこのように生じているのです。
球速が上がるほど打ちづらく、打球に角度を付けるのも難しくなることを考えると、ストレートに対して長打を出せていないのはこの辺りが主要因と考えられそうです。

※同年度内のセリーグと交流戦で比較し、高い方は赤、低い方は青としている

実際に広島がその球速帯別にどのような打撃成績を残しているのか、まとまてみました。
そうすると、案外151㎞以上のかなり速い部類にあるストレートに対しては、wOBAやISOではリーグ戦以上の数値を残せています。
しかし、その一つ下の146㎞~150㎞あたりの最も投球割合の多い球速帯に対しては、wOBAとISOともに大幅低下しており、ここで非常に苦労しているようです。
GO/AOを見ても、スピードの上がった球速帯でゴロアウトが増えており、打球を上げられていないことも長打が減少している一因でしょう。

セリーグの投手と同じスピードでも球質の違い、対戦経験やデータ量の不足といった様々な要因が考えられますが、ここであまりはっきりしたことは言えません。
しかし、セリーグよりも球速帯の上がるストレートにしっかり対応出来なければ、来季も同じことを繰り返してしまうのではないでしょうか。
セリーグ対戦時でも同じような球速分布に近付けば、対応も変わってくるかもしれませんが…

落ち球への対応も、このストレートの球速分布が上がったことによって、対応が難しくなったと考えられます。

というのも、このようにストレートの球速帯が上がると落ち球で空振りを取りやすくなるというデータがあるからです。
実際、広島の落ち球への対応はどうだったのでしょうか?
wOBAやISOは既に確認しましたが、その他のデータで掘り下げてみましょう。

※同年度内のセリーグと交流戦で比較し、高い方は赤、低い方は青としている

リーグ戦と交流戦に分けた各種成績を比較してみると、どちらの年も投球割合は増加、21年はコンタクト率に8.4%の低下が見られ、球速帯が上がったことで空振りも増えていることが分かります。
ただ、22年はボール球スイング率こそ増していますが、コンタクト率はほぼ横ばいで大きな変化は見られないのは意外なところです。
しかし、どちらの年もゴロアウトは増加し、wOBAcon(コンタクトした打球に対するwOBA)でも大幅な低下が見られることから、コンタクトは出来ても質が伴ったものではありませんでした。

球速分布が上がったストレートに差し込まれ、ストレートが速いことで更に威力を増して、投球割合も増えた落ち球にも対応出来ず、コンタクトの質が落ちて長打が出なくなったのです。

3.なぜ失点が重なるのか?

先述の通り、得点同様に失点も過去3年の交流戦では最底辺レベルに沈んでしまっています。
なぜ失点が重なってしまっているのかを分析するために、まずは過去3年の各種投手関連スタッツを振り返ってみましょう。

※同年度内のセリーグと交流戦で比較し、高い方は赤、低い方は青としている

19年の成績を見ると、K-BB%はリーグ戦時より優れているものの、DERが交流戦期間中最下位を記録しているように、インプレー打球をアウトに出来ていなかったことが失点増に繋がってそうです。
失点と自責点が13点も乖離していることからも、守備の乱れに足を引っ張られていたことが窺えます。
加えてHR/9がシーズンと比べると高くなっており、被本塁打は3球団並んでワーストの23本に次ぐ21本と、被長打の多さも失点増に繋がったのでしょう。

21年はK-BB%が6.5%にとどまっており、単純に支配力のなさが結果に結び付いてしまっていると言えそうです。
この時期はコロナ禍に見舞われており、森下暢仁や九里亜蓮といった主力の先発が離脱し、矢崎拓也やネバラスカスといったリプレイスメントレベル以下の投手が稼働せざるを得ない状況に陥ってしまいました。
頭数不足とそれに伴う技量不足が、この年の失点増の大きな要因でしょう。

22年は前年と異なりK-BB%こそ12.7%と悪くないですが、その中でも目立つのがHR/9から見える被本塁打の多さです。
20被本塁打はNPBワーストとなっており、とりわけ森下とアンダーソンで5本ずつ被弾するなど、先発陣の被弾が目立ちました。
加えてDERもワースト2位の数値を記録しており、19年同様インプレー打球をアウトに出来ていない状況にありました。

このように年度ごとに失点が増えた主要因は異なっていますが、19年と22年に共通している被本塁打の多さやDERの低さは、何かしらキーになりそうなように思います。

手元に詳細なデータがあるのが21年と22年のため、ここでは2022年のデータをベースに被本塁打の多さやDERの低さを掘り下げることで、失点増の要因を掘り下げていきます。

※同年度内のセリーグと交流戦で比較し、高い方は赤、低い方は青としている

球種別の投球割合、被本塁打、wOBAconをまとめてみました。
被本塁打はストレートやシュートといった速球系が多く、被本塁打の7割がこれに該当します。
wOBAconを見ても、速球系の球種はセリーグ対戦時と比べても捉えられている傾向にあるため、投球割合もやや増えている速球系の球種が何かしらのキーになってそうです。

※カウント別の同項目を比較し、高い方は赤、低い方は青としている

ストライクカウント別に成績を更にブレイクダウンしてみると、1ストライク時に速球系の投球割合が多くなり10被本塁打、かつwOBAconも極端に高い数値となってしまっています。

※同年度内のセリーグと交流戦で比較し、高い方は赤、低い方は青としている

また、速球系かつ1ストライク時に絞ってセリーグ対戦時と比較すると、1ストライク時は1-1以外の3シチュエーションで速球系の投球割合が上昇していることが分かります。
かつ真ん中付近の甘めゾーン(Heat%)への投球が、xPV/100セリーグ比でマイナスの状況で増加しており、甘めに入る傾向もあった分速球系が効果的に働かなかったのでしょう。
一方で交流戦時の方が基本的にスイング率自体は低く、1スイングあたりの期待値を上げたようなスイングに投球割合の上昇や制球の甘さも加わって、被長打が増えてしまったのかもしれません。
ただ、Heatに該当する投球ばかり一発長打にされたわけではなく、そこよりは厳しいゾーンのボールでも4本塁打許していることから、これだけが要因とは言い切れない点は考慮しなければいけません。

また、本塁打を許した投手に目を向けると、森下、アンダーソン、遠藤といったバリューを出せるストレートの持ち主が、計13被本塁打を許していることも気になるところです。
ちょうど状態が下降曲線に入ったところで、交流戦を迎えてしまった可能性もあるように思います。

※同年度内のセリーグと交流戦で比較し、高い方は赤、低い方は青としている

実際にxPV/100で各球種のバリューを比較してみると、ストレートやシュートの速球系に加えて、フォークやチェンジアップといった落ち球もリーグ戦時よりマイナスとなっています。
このようにストレートでバリューを出せない状況にあることで、落ちる系のボールも活きてこない悪循環に陥ってしまっていたと言えそうです。
打者はストレートに負けて、投手はストレートが武器となっていない状況にあったのです。
ただ、現状18試合分のデータしかないので、もっとデータが蓄積した状態で検証する必要もあるという点は、考慮しないといけません

最後にDERの低さについても触れておきます。
低くなる要因として考えられるのは、投手がハードヒットされる当たりが増える、野手の動きが悪く普段なら取れる打球が抜けていくといった点になるでしょう。

まず、投手がハードヒットされる当たりが増えるについては、リーグ戦と交流戦のHard%を比べてみると分かるところです。

※同年度内のセリーグと交流戦で比較し、高い方は赤、低い方は青としている

19年と21年は交流戦の方が高くなっていますが、22年は交流戦の方が低い数値となっています。
一貫した傾向はなく、ここがDER低下の主要因とは考えづらいところです。

続いて、野手の動きが悪く普段なら取れる打球が抜けていくについては、交流戦期間のUZRが如何ほどだったのかで考えていきたいと思います。

※UZR/1000は当該シーズンにおけるチームUZRを参照

19年と22年の交流戦期間に10試合以上出場した選手のUZRをまとめてみました。
19年ほとんどの選手がマイナスを記録、22年は二遊間コンビの菊池涼介、小園海斗はプラスを記録していますが、マクブルームを筆頭に大きなマイナスを記録している選手も多く、主要メンバーの総計では-7.3と苦しい数値となっています。
スケールの近い当該シーズントータルのUZR/1000で比較しても、そのマイナス幅の大きさがよく分かるかと思います。
ということから、野手の動きの部分がマイナスに働いていた側面が強そうです。

開幕から2か月という時期的なところや、仙台や札幌への移動といった長距離移動によって、ちょうど野手の疲労が溜まってくる時期ということもあるのでしょう。

4.まとめ

直近の交流戦での苦戦は、投打ともにストレート等の速球系のボールが重要になってそうなことが分かりました。
また、失点の増加については野手の守備に足を引っ張られている側面もありそうです。
交流戦で善戦した15年~17年を振り返ると、純粋にNPB内でも有数の戦力を有していたこともありますが、野手はストレートを確実に潰す能力、投手はNPB内トップ3に入るスピード能力を持っていたことを考えると、そこまでズレていないのかなと思います。

ですので、来年の交流戦は投打ともにストレート等の速球系のボールに注目して見てみると面白いのかもしれません。

また、本文中でも振れていますがデータ量がまだまだ不足しているので、更にデータを加えたところで今後再検証してみたいと思います。

データ参照


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