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2020年 広島先発陣を占う

プロ野球選手や野球ファンにとっての元旦とも呼ばれる、各球団キャンプイン日の2/1を過ぎ、待ち焦がれた2020年シーズンがいよいよ幕を開けることとなりました。ここから開幕へ向けて各球団が調整を行っていくわけですが、この時期に各所で行われるのが球団別の戦力分析ではないでしょうか?

セリーグは各球団戦力流出が目立つオフシーズンでしたが、その中でも広島はFA組が誰も権利を行使せずチームに残留したことで、相対的な評価は上がり、2年ぶりのリーグ優勝は十分に狙えるとの評価が多数を占めているように思います。

そんな中、本当に2年ぶりのリーグ王座奪還に向けた戦力は整っているのかについて、セクション別に考察していきたいと思います。まず初めに先発投手事情について、以下にて考察していこうと思います。

1.2019年の先発陣を振り返る

まず最初に、2019年の先発陣は相対的にどのような立ち位置にあったのかについて、確認していきます。

DELTA社によるポジション別得失点を見ると、広島の先発はリーグ4位ながらプラスの値を記録しており、明確な強みとなることもありませんでしたが、逆に弱点となることもありませんでした

もう少し細かく見るために、各球団の先発陣を個別に比較してみましょう。

先発として二桁イニングを消化した投手を対象に、消化イニングごとに1番手~9番手とし、それぞれを比較してみました。投球回とtRA*という指標を用いていますが、色が赤くなるほど優秀な数値で緑に近づくほど悪い数値となっています。

※tRAとは:守備の関与しない与四球・奪三振・被本塁打という3つの項目(FIP)に加え、どのような種類の打球を打たれたかまで投手の責任範囲として、守備から独立した失点率を推定・評価する指標。

ここから分かる広島先発陣の特徴は、
①5番手まで100イニング前後を消化し、tRAも優秀なクオリティーの高さ
②6番手以降の層の薄さ

となるでしょう。

①5番手まで100イニング前後を消化し、tRAも優秀なクオリティーの高さ

大瀬良とジョンソンという左右の両輪は勿論のこと、飛躍を遂げた床田寛樹、実績組の九里亜蓮、野村祐輔というメンバーが揃い、最も消火イニングの少ない野村ですら95.1回と他球団と比較しても優秀なイニングイート力です。

加えて、tRAを見ても4番手の九里や5番手の野村が3点台と、他球団の上位ローテクラスの投球内容を示しており、質量ともに充実の布陣であったことが分かります。

②6番手以降の層の薄さ

5番手までは優秀な先発陣が揃う中で、6番手以降の先発陣には不安が残ります。アドゥワは先発転向1年目でまずまずの成績を収めましたが、それに続く投手が昨年は山口翔しかいませんでした。実績のある薮田和樹や岡田明丈が、不振に陥ったのが響いた形です。

上位5名が優秀なためとも言えますが、年間通してローテ投手が固定されることはほとんどありえませんし、6番手以降の投手の台頭は疲労軽減とともに先発投手陣全体の成績向上には必須でしょう。

以上より、2020年に向けては、実績十分で計算できる5番手までと、未知数で枚数も少ない6番手以降の力の差を埋めることが必要となってくると考えられます。

2.2020年の陣容

2020年の先発陣を展望すると、昨年多く先発を務めた7名に加えて、先発転向を表明している遠藤淳志やドラフト1位ルーキーの森下暢仁が新たに先発枠に加わってくる形になりそうです。先発タイプの新外国人の獲得はなかったものの、2019年に生じた課題に対しては、策が講じられていると言えそうです。

そのような事情や昨年までの実績を踏まえ、2020年の陣容は下記のようになりそうです。

ローテの柱:大瀬良大地 K・ジョンソン
ローテ投手:床田寛樹 九里亜蓮 野村祐輔
ローテ枠争い:アドゥワ誠 山口翔 薮田和樹 遠藤淳志 森下暢仁
キーマン:高橋昴也

2-1.ローテの柱

佐々岡監督から既に開幕投手に指名された大瀬良大地が、2020年も先発ローテの中心となりそうです。昨年はシュート解禁により、体の開きが早くなるフォームとなったことで、得意のカットボールが本来のキレを失い、かつそのカットボールに過度に依存する投球となってしまいました。最終的にエースとして最低限の働きこそ見せましたが、シーズン中盤以降は苦しい投球の続く自身でも満足とは言えないシーズンでした。

今季はストレート、カットボール、スプリットといった様々な球種を満遍なく織り交ぜ、打者を幻惑しながら2年前のような大活躍を期待したいところです。

昨年は最終戦まで最優秀防御率を争い、36歳ながらいまだ力の衰えを感じさせないK・ジョンソンもローテの柱の一人です。シーズン開幕間際のコンディション不良で4月は調整が整わず苦しみましたが、調整が整った5月以降は見事な投球を披露。かつての沢村賞投手がらしさを見せたシーズンだったと言えましょう。

2020年もエース格としての働きが期待されますが、あえて課題を挙げるならコンビを組む捕手のチョイスです。ストライクボールの判定を過度に気にするため、かつてはフレーミングに優れた石原慶幸とコンビを組むケースが定番と化していますが、その石原慶のフレーミングを含めた守備面は打撃面とともに衰えは隠せません。

會澤翼以下にも有望な若手が台頭する中、一軍枠の聖域となりつつありますし、ジョンソンが石原慶以外の捕手とコンビを組む決断をしてもらいたいのが首脳陣の本音でしょう。會澤のフレーミングもかつてよりは向上を見せてますので、バッテリー間の呼吸の問題もあるでしょうが、チームのためにも一つ決断してもらいたいものです‥。

2−2.ローテ投手

昨年大きく飛躍を遂げた床田寛樹も、実績は少なくローテの柱とまではいきませんが、ローテ入りが濃厚な投手の一人です。2017年に受けたTJ手術後、ビルドアップに成功し球威が大きく向上。時には150kmも記録する真っスラ気味のストレートと、スラッターや大きく曲がり落ちるツーシームを織り交ぜ、ゴロを量産する投球を披露しました。

非常に完成度の高い投手ですが、対左打者には課題を残しています。2020年に向けてはチェンジアップの完全習得と対左打者への活用にも取り組んでおり、課題克服に取り組んでいる様子も窺えます。ただ一つ懸念としては、黒田博樹氏に指摘されたような目標設定の低さから見える客観性の薄さでしょうか。昨年残した実績にもっと自信を持って、ローテの柱への成長を期待しています。

実績十分の九里亜蓮野村祐輔も、順調に行けば開幕からローテ入りすることとなるでしょう。九里は球速向上の成功とともに、豊富な球種がより生かせるようになり、先発とリリーフを行ったり来たりという立場から一皮剥けた姿を見せ付けました。

そんな成長を見せた九里に対して、野村は不振での二軍落ちを経験するなど年間を通してローテを守れず、納得のいくとは言えないシーズンとなってしまいました。成績低迷は、急速なNPBの平均球速アップの影響と、本来持っているNPB屈指の投球術が生かしきれていないためという印象です。

2020年に向けて、九里、野村ともに球威向上に向けて取り組む姿勢を見せています。その路線で問題ないと思いますが、九里には年間を通したスタミナの強化野村には自身の最大の武器である投球術を更に磨き上げてもらうことも期待しています。

このゾーンに該当する3名について、床田や九里は年間通してローテに入った経験がなく、野村もここ2年は1年間完走できていないことを考えると、この3投手がローテから欠けた際に短期間でも代替できる存在が重要となってきそうです。

2−3.ローテ枠争い

キャンプからOP戦にかけて、上述のローテ投手の3名が不振に陥ることがなければ、おそらく残された枠は一つとなるでしょう。そこを5名ほどで争うこととなると思いますが、その中でも最も期待を集めるのはドラフト1位ルーキーの森下暢仁で間違いないと思います。

上から投げ下ろすフォームから繰り出される150㎞前後のノビのあるストレートが何よりの持ち味で、カットボール、カーブ、チェンジアップといった変化球の精度の高さも魅力的です。実力値だけで言うと、既にローテクラスレベルのものがありますし、普通にやれば新人王クラスの成績を収めても全く不思議ではありません

ただ一つ懸念点を挙げるとすると、線の細さや投球フォームから見られる、年間を通したスタミナの不透明性でしょうか。プロの環境への適応、ハイレベルな打者との対戦による疲労蓄積は想像以上のものがあるでしょうし、実力は確かでもそれを年間通して出し切れるかは難しいのではと感じます。現エースで新人王を獲得した大瀬良でも、ルーキー時は夏場にガス欠状態となったそうなので、過度な期待は持たず、まずは100イニングの消化と5勝くらいを目標に頑張ってもらいたいものです。

その他にもアドゥワ誠山口翔遠藤淳志の高卒3~4年目の投手たちも有力候補でしょう。独特のムービングファストが武器のアドゥワは、この中では頭一つ実績は抜けていますが、球威の向上と軸となる変化球を作ることが出来れば、もう1ランク上に上がれそうです。

昨年プロ初勝利を挙げた山口は、威力のあるストレートが武器ですが、スラーブやフォークといった変化球に軸がなく、現状ではこれといった特徴のない課題山積の状態です。オフには瞬発力の向上による球速向上を目指しているようで、まずは一軍クラスでも出色の球威を身に付けてもらいたいところです。それが出来れば、開幕ローテ入りも見えてくるでしょう。

昨年はリリーフとして活躍した遠藤は、このオフに千賀滉大や菅野智之も参加し、多くの好投手の飛躍の一因ともなった鴻江スポーツアカデミーに参加するなど、研鑽を積んできたようです。ノビのあるストレートとチェンジアップは威力十分で、線の細さ解消のために増量を行うなど課題解消に向けての取り組みもバッチリです。首脳陣の期待値も高くブレイク候補の一人でしょう。

実績組では、3年前に15勝を挙げ最高勝率のタイトルも獲得した薮田和樹も、ローテ争いに絡んでくるでしょうか。過去2年は球威を失って、ボールを振ってもらえなくなり、苦しい投球が続きましたが、球威を取り戻すようだと面白い存在となりそうです。

ローテ枠争いでは、期待値も考えると森下が一つ抜けており、それを昨年の実績があるアドゥワや遠藤が追うような形となりそうです。ただいずれの投手も、1年間持つかは非常に怪しい部分があるため、ローテ投手のカテゴリーに含まれる3投手も含めてどれだけやり繰りが出来るかがポイントとなりそうです。

2−4.キーマン

開幕ローテ入りは厳しい状況ですが、投手事情が苦しくなる夏場に向けて、戦力として台頭してきそうなのが、高橋昂也です。

2019年にTJ手術を受け、まだリハビリ中という立場ですが、報道によるとビルドアップに成功したようで、写真だけ見ても体格は一回り大きくなったように感じます。2016年のドラフト時にはBIG4と称され、2018年には菅野智之に投げ勝ってプロ初勝利を挙げた素質の持ち主ですから、床田のようにビルドアップによる球威の向上が見られればパワー型左腕として非常に楽しみな存在になるでしょう。

ただ現状はリハビリ中のため、まずは焦らず健康な状態でマウンドに立てるようにしてもらいたいものです。そして、優勝のかかった夏場以降に救世主として颯爽と一軍のマウンドに現れることを期待しています。

3.まとめ

大瀬良やK・ジョンソンを含め、昨年ローテの中核を担った5名中4名は複数年で実績があり、計算が立ちやすいということから、2020年も先発陣については弱みとなることはなさそうです。

むしろ、遠藤や森下といった有望な若手投手次第では、昨年からの上積みも期待でき、他球団と比較して強みと成り得る可能性のある部分と言えると思います。しかしそれは全員が健康な前提ですので、ローテクラスの誰かが長期で欠けるような状況になると一気に苦境に陥ってしまうリスクも孕んでいます。それだけに、若手の台頭が大きなカギを握りそうです。

リーグ3連覇時のように、圧倒的な攻撃力は期待できない中で、先発陣がいかにゲームを壊さないかは非常に重要となってくるでしょうから、昨年以上の働きを見せるかが王座奪還への一つのキーポイントとなるのではないでしょうか?

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