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記憶に残る車中泊ひとり旅

思い出に残る車中泊ひとり旅の記憶を辿ってみた。
さほど期待せずに出かけた車中泊ひとり旅が、楽しい思い出になった理由はいくつかある。
車中泊ひとり旅を想像しながら読んで頂けるとありがたい。


期待していなかったら期待以上になった旅

車中泊旅を始めて二年半ほど経過した春の日、ふと高知に行ってみたいと思った。
旬の初ガツオを食べてみたいと思ったのだ。
定年退職後に車中泊旅を始めて二度四国に渡ったが、まだ一度も高知のカツオを食べたことがない。
三度目の高知だ。

1 旅の準備と期待

いつもと同じ時間に起床した。
そして同じ時間に朝食を済ませ、車を少し移動させて車中泊の準備をする。
何度もやっている準備は慣れたものだ。

車中泊旅もマンネリ化して、うまいカツオを食べること以外期待はしていない。
とにかく旅の目的は旬のカツオを食べることだ。

だが期待していない時ほどいい旅になるものだ。

9時から始めて1時間ほどで準備は完了だ。

予定していた11時にはなっていないがそろそろ出発しようと思う。

兵庫県北部の自宅から目的地の高知市までは7〜8時間掛かる。
高速道路を使えば4時間だが、下道を走るのが私の車旅のルールだ。
定年退職してお金は無くても時間だけには不自由しない理由のルールだ。

一回目の休憩ポイントは兵庫県新宮町のローソンだ。
スマホナビをこのポイントに定めた理由は二つある。

一つは早めの休憩で連続運転時間を長引かせないためだ。
二時間以上運転すると車載ナビから早く休憩するように警告されるが、何より安全運転のためでもある。

もう一つの理由はこの近くにある細い峠道へ誘導されないためだ。
これまで岡山方面にスマホナビを使って何度もこの峠を通ったが、狭くて急なカーブが多く疲れた経験があるからだ。

スマホのグーグルナビは道幅優先でルートを選ぶことはできない。

我が家から目的地までは310Kmで一日のドライブとしてはちょうどいい距離だ。
これまでも下道で色んなところへドライブしたが、結構遠くに感じられ疲労が限界を超えないのが300Km程度だということは経験済みだ。

2 タイムリープを楽しみながら走る一般道

そうは言っても300Kmは近くはない。
ひとりでなければ道中も楽しいだろうが、喋る相手もなく運転しているだけというのは楽しくない。
腰やお尻も痛くなり辛いことの方が多い。

その退屈で長い時間を紛らわすために、音楽やポッドキャストを聴いて過ごす。
使うのは無料のスマホアプリのSpotifyだ。
好んで聴くのは若い頃ラジオで聴いた洋楽だ。
「1960年代代洋楽ヒット」と検索すれば当時の曲を勝手に選曲してくれる。

時に思いもしなかった懐かしい聞き覚えのある曲が流れることがある。
例えばフランス・ギャルやニール・セダカだ。
中学生だったころ深夜にトランジスタラジオから流れてきた音楽だ。

イントロが聴こえたとたんに半世紀前の感情が蘇る。
車内がその頃の空気感に包まれタイムリープできる瞬間だ。

これこそひとり旅の特権だ。
一部の同級生としか共感できない曲目だ。

2号線は車が多く緊張するので音楽を聴く余裕はない。
その意味からも2号線を少ししか走らないルートを選んだ。
赤穂郡上郡町から2号線に出て10Km程度で岡山ブルーラインに入る。
最近は岡山方面に行く時、このルートを好んで使っている。

本州から瀬戸大橋を使って四国に入る。
ここだけは有料道路だ。
倉敷市の児島インターから入って香川県の坂出インターで降りる。

岡山ブルーラインの黒井山グリーンパークで休憩してから徳島県の道の駅大歩危(おおぼけ)までは142Kmだ。
途中香川県のコンビニでコーヒーを買うことにした。
時間は午後4時だ。
昼は新宮町のローソンで買ったおにぎりだけだったので空腹感はあるが、旬のカツオが待ってると思うとここで中途半端に腹を満たすわけにもいかない。

まだ100km以上残っているので3時間も運転しなければ目的地には到着しない。

道の駅大歩危では5分程度の休憩に留めた。
車から降りて背伸びをした程度だ。
深い谷を覗き込むと深い緑色の川が印象的だった。

やっと高知県に入り峠を下って南国市に入った。
曇っているが西の雲は薄く、ちょうどいい具合にフィルターをかけたような夕日だ。
南国市を過ぎ高知市に入るが、それほど大きな街ではないので田舎者の私でも緊張するほど車は多くない。

3 期待していなかった一期一会


ひろめ市場で旬の初ガツオを頂いた

車を止めたのはひろめ市場の二階にある駐車場だ。
以前にもここで車中泊をしたことがあるのでどこに車を止めるのかも決めている。
少し奥まったひろめ市場の排気用の機械がある横だ。

いつも大きな音がしているのでここに駐車する人は少ない。
しかしここは三方が囲われていて外気が入りにくく最も暖かい場所だ。
しかも機械が動いているのはひろめ市場が営業している時間帯だ。
その後は止まるので静かになることを知っている。

どれだけ静かで安くても車中泊にはもう一つの条件をクリアする必要がある。
それがトイレだ。
ここにはそれもある。

一階のひろめ市場は今日も多くのお客様で賑わっている。
座る場所もないほどだ。
ひろめ市場は中央に食事をするテーブルと椅子があり、その周りを取り囲むように店が並んでいる。
お客さんは店を選び、商品を注文しテーブルに運んでもらうシステムだ。

私も一軒の店を選び生カツオと豆腐料理、そして日本酒を注文した。
ちょうどその店の近くのテーブルから数人が食事を終えて立っているのが見えた。
そのテーブルにはまだ食事中の、私より少し年上に見えるご夫婦がいらした。
「相席させて頂いてもよろしいですか」と声をかけた。
「どうぞ」と笑顔で返事を頂き、店の人にここで食べると合図をした。

ここに来るまではカツオのたたきを食べようと思っていたが、生カツオを見て気が変わったがこれで良かったのかは分からない。
「どちらにしてもカツオには変わりないだろう」と思っていたら料理が運ばれてきた。
厚切りのカツオにあら塩が掛けてあり、空腹な私にはうまくないはずがなかった。

立て続けに二枚食べてみたが、旬の初ガツオは美味かった。

向かい側に座られている岡山県から来られた70代のご夫婦は、私よりちょうど10歳ほど年上で、こうして夫婦で旅行するのが楽しみなのだと話された。
10年前は結構海外旅行にも行ったが、今は長時間飛行機に乗る自信がないから国内旅行をしているとのことだった。

分かる気がした。
段々と海外旅行するほどの気力がなくなっていると思い当たるところがあるからだ。

定年退職後に海外旅行をするなら早いにこしたことはなさそうだ。
その後は岡山県の話や子育てが終わった話などをして盛り上がった。
私も普段飲まない酒のお蔭で饒舌になった。

この一期一会こそ一人旅の最も大切にしたい経験だと思いながらこの時間を楽しんだ。

4 街中の有料駐車場で車中泊

この駐車場で車中泊をするのは二度目だ。
今は春だが前回は真冬だった。

一度車に戻ってベッドの準備をした。
助手席のシートは最初から一番前にスライドさせているので、背もたれを前方に倒すだけだ。

酔い冷ましに少し散歩をすることにした。
高知城の堀伝いに高知城を一周すれば約2Kmだ。
30分もかからないから酔い冷ましにはちょうどいい距離だ。
春の夜風が気持ちいい。

今夜は暖かいので冬用の寝袋はチャックを締めずに寝ることにした。
念のため毛布一枚を寝袋に入れ、寝袋はサイドを開けたまま寝た。
歳をとると夜中にトイレに行く回数が増えるので車中泊でも寝袋は結構厄介だ。
たまにチャックが寝袋の布を噛んだ時などイライラすることもある。

ここのように都市部の有料駐車場にトイレがあるのも珍しい。
たまに深夜に車が出る音で目が覚めるがそれも仕方ない。
それでも道の駅以上にゆっくり休むことができたのは日本酒のお蔭だろう。

朝早く目覚めたので今度は高知城内をウォーキングした。
知らない街での朝のウォーキングは気持ちいい。

毎日家の周辺をウォーキングしているが、代わり映えしない風景に飽きているところだ。
車中泊した近辺を歩くことで、その街の空気感や土地勘を体感することができ記憶に深く残せる。

ひろめ市場駐車場は18時から翌朝8時までの最大料金が300円だ。
ひろめ市場で2000円以上使えば駐車料金が1時間割引になるので、17時に入庫しても300円だ。
ウォーキングから帰っても時間には充分余裕があった。
これからまた8時間かけて兵庫県北部の自宅に帰る。

5 四国の秘境で最高の日帰り温泉

駐車場を出て高知市内を走っても通勤時間前だからか車は少ない。
高知市内を出ればのどかな田舎道だ。
四国を下道で縦断する。

今日は途中で温泉に寄って帰る予定だ。
取りあえず道の駅大歩危(おおぼけ)で休憩し付近の温泉を検索した。
この辺りは徳島県になるが、愛媛や高知との県境付近だ。
四国の秘境でもある。

検索にヒットした中から選んだのはホテル祖谷温泉だ。
小さいながらも一泊50,000円前後するレビュー評価の高い高級宿だ。
ケーブルカーに乗って谷底の露天風呂まで降りていくことでも有名だ。
7時半から18時まで日帰り入浴ができる。

道の駅大歩危から(15Km)25分かかるが、その道中も秘境そのものだ。
到着して露天風呂に降りるケーブルカーの方を見ると多くの人が待っていた。
この露天風呂の日帰り料金は大人1900円と他と比べ高額だ。
それだけの価値はあるということだろうが、人が多そうなので今回は諦めてホテル内にある展望風呂に入ることにした。

展望風呂の入浴料は700円だ。
フロントで入浴料を払い展望風呂に向かった。
四つ星ホテルだけあってホテル内の雰囲気はお洒落で清掃も行き届いている。
脱衣場も綺麗だ。

浴室に入ると私ひとりだった。
湯舟と新緑の山々が一体になっていてその眺望は素晴らしい。
紅葉時期にも来たくなる温泉だ。
ケーブルカーで降りる露天風呂もいいだろうが、この展望風呂も悪くない。
長湯をしていると外国からのお客さんが二人入って来た。
この景色を1時間程度ひとり占め出来ただけで最高の気分だった。

6 香川のグルメ

車中泊旅では普段長湯はしない。

体力を消耗して眠くなるからだ。
しかしホテル祖谷温泉はそれも忘れさせてくれるほど素晴らしかった。

私が車中泊旅で温泉を探す場合は温泉地の日帰り入浴できるホテルを優先する。

ホテルの日帰り入浴は日帰り温泉に比べ少し高めだが、時間帯によっては入浴客も少なくゆっくり入ることができる。
それに比べ日帰り温泉は地元のお客さんが多く、混んでいる時間帯が多い。

温泉に入って腹が減ったが、どうせなら香川県に入ってから讃岐うどんでも食べて帰ろうと思った。
これまでも四国に来た時は必ずと言っていいほど讃岐うどんを食べた。
讃岐うどんと言っても店によって工夫が凝らされていて、どこも同じという訳ではない。

途中で検索すると「手打ちうどん つよ志」という小さな店がヒットした。
香川県丸亀市のちょうど帰りのルート上だ。

狭い店内には数組のお客さんがいたが満席ではない。
丸亀市でも何度か讃岐うどんを食べたが、地元の人のうどんを食べるスピードは尋常じゃないと感じていた。

たまたま時間に余裕がない人を見ていたのかも知れないが、どう見ても噛んでいるというより飲んでいるといった感じだ。
腰が強い手打ちうどんだから、少しずつ口に入れて噛んでいると時間がかかるのは分からなくもない。

腹が減っていたので注文にも迷った。
この店は席について注文するのではなく、店に入った時にトッピングを取りながらうどんを注文するシステムだった。
後ろから来たお客さんに「お先にどうぞ」と言って順番を譲った。
この店に来る客は、店に入る前から注文するものを決めているに違いない。
それほど誰もが注文しながらスムーズに前に進んでいく。
かけうどん、ひやかけ、ぶっかけ、釜揚げうどんなど説明を聞いて注文したいところだが地元客の影響を受けてぶっかけを注文した。
そしてうまそうな天ぷらを取って席に着いた。

私より後から来た客が先に出ていくところを見ると「やはり噛んでいないな」と思った。

高知のひろめ市場で旬のカツオを食べ、徳島の秘境祖谷温泉に浸かり、香川の讃岐うどんを食べたのだからたった二日間の車中泊ひとり旅と言えどいい旅になった。

ここから家までは200kmだ。
一般道なので5時間はかかるだろう。
もう帰るだけで寄り道の予定はないが、来た時と同じようにドライブを楽しもうと思う。

半世紀前にタイムリープしたくて「70年代洋楽」とスマホに入力した。

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