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BL?小説「Tと美少年と白髪混じりの教官、模写と私」

海の近くのとある学校に視察に向かった私はその日、ほとんど黒と言った方が良い、濃紺のスーツを着ていた。
上にはウールの黒いコートを羽織っている。開けたままにしていた前のボタンをとじながら歩く。朝刊の予報の通り、今日は風が強く、冷えるらしい。


職務上の必要から連れてきた係の後輩のKもまた、同じような格好をしていた。


背格好も似ているので、我々は遠目にみれば、似たような男二人にみえるだろう。
勤め先界隈ならば、おそらく周囲に埋没する二人組だと思う。しかし、この出張先はいつもとは違う。都内でないというばかりではない。
最寄り駅で下車したのは、我々二人だけだった。降り立ったホームは閑散としていた。


大きな建物といえば、これから訪問する大学や、その系列校といえる学校(制度上はそれを認めていないが)しかないような場所では、異質な二人にみえるかもしれない。
舗装されてから随分時間の経った、ひび割れだらけのアスファルトの道を歩くと、すれ違う何人かの農夫や漁夫らの視線を感じるようになる。


この辺りは随分ですね、とKが言う。何が随分だ、と私は返す。随分は随分ですよ、とKは、答えになっていないようなことを言う。

これ程、駅から学校まで歩かされるとは思っていなかった、とか、あんまりにも田舎道だ、というようなことを言いたいのだろうと私は思う。


たまには会社(と、我々はいつも職場をそう呼ぶ)のスケール感から離れるのも良い、と私は言う。

背広の内ポケットからバットを出し、歩きながら吸おうとする、が、箱を握ったその感触で、列車内で最後の一本を吸ってしまったことを思い出した。Kに貰い煙草をしようかとも思ったが、座席で私がその最後の一本を吸っている最中、いま僕は倹約していまして、と話していたことを思い出し、やめにした。


かえって霞みますよ、目の前が、とKが言い、あんまりうまくないぞと私は冗談を返す。学校まで駅から徒歩30分、バスはなし、というのは承知していたが、登り坂がこれ程多い土地とは思わなかった。


やっとのことで学校に到着し、約束の場所(教官室)に向かい、電話で事前に時間の連絡をしておいたTを待つ。教官室前の廊下は、窓から少しすきま風が入るらしく、寒い。Tはまだ教官室にいるはずである。校舎の入口で、守衛室への挨拶前に脱いでしまっていたコートを手に、Kと共に少し待つことになる。


約束の時間まで、Kを、窓際から少しでも離し、部屋側に立たせ、私は窓側に居ることにした。Kを、やや私的と云って良い仕事に連れてきてしまった事への、私なりの購いだった。


しかし寒い。廊下で待つことにしたのを少し後悔している。特に二の腕が冷えるように感じて、胸の前で交差させた手でそれをさすりながら、Tが出てくるのを待つ。


私の動きを見ていたKが、そんなに寒いですか。と笑いながら私に尋ねた。


いや、どうもこの窓の方からだけ風が入るらしい、と、校舎そのものに気を遣うような返答を、咄嗟にしてしまった。多分、私はTの立場というか、ありていにいえば、地位、というか、この学校の教員としてのTというか、とにかくそれを、無意識に庇っているらしい。


Tは約束の時間通り教官室から出てきた。相変わらず図体の大きな男だった。


T!と私はつい嬉しくて大声をあげてしまう、私もTも、懐かしい友人との再開を喜ぶ、あの、やや大げさな手振りと笑顔をして、

今回の視察を取り付けてくれた感謝と、仕事上のとりあえずのやりとり、それから、自分の後輩であるKと、その仕事の紹介をして、教官室に招き入れられた。


と、思ったが、Tは私たちを直接教官室に入れるのではなく、内輪の移動経路を兼ねた資料室のようなところを通すことにしたようだった。これは後になって説明されたが、教官室のドアから直接Tの机に向かうよりも近道だったかららしい。

ともあれ、暖房のきいた室内であることに間違いはない。


こちらは暖かいですね、とつい私は言ってしまう。Tは、うん、と笑う。廊下で待たせてしまったね、悪かった、というような話をしながら通ろうとする。


年次の変わり目だからか、業務上の整理の時期なのか、資料運搬などで忙しくしているらしく、なんだか人口密度が異様に高い。スーツの教官、作業着姿の教官や、作業者(おそらくTの教え子たる大学生)、それに混じり、ぽつぽつと、セーラーカラーの制服姿の、少年、と言った方が良いくらいの年齢の男の子達が、机の上に立位で何か一斉に書き取りのようなことをしていた。


私が人の間をすり抜けて通ろうとすると、スーツを着た者のうち一人が、かつての仕事で関わったことがある、白髪混じりの教官だった。向こうでこちらに気付かれ、これはこれは、と頭を下げた。こちらも慌てて頭を下げる。


これは、狭苦しいところをお通しして申し訳ない、というような話をされ、

いえ、お忙しい中、申し訳ないことを…と私は頭を再度下げ、


Tとは学校が同じでして、今回の視察についても、つい、甘えて無理を言ってしまい…昔から、公私ともに世話になってるものですから、

などと、Tとの再会の喜びからくる気の緩みもあり、つい、いきなりあけすけに話してしまう。


Kが、今回は、私、の方でしょう、といつもの調子で茶々を入れる。私は一応、少しKの腕を肘で小突き、睨むふりをする。が、つい内輪の気安さで笑顔が出てしまう。私は咳払いをし、

とにかく、今回のことは、どうか、いわゆる立場のようなものは抜きで、ざっくばらんに…、と私は教官に伝えた。

ええ、とはいえ、そう心掛けずとも、否応なしに、そうなってしまいそうで…

と、目線を部屋の中に巡らせ、


なにしろ、こんな所帯ですから、


と、白髪混じりの教官は応えられた。

作業着を着た、清々しい丸刈りの青年から、彼の抱えた箱の置き場を尋ねられた教官は、キャビネットの上に置いておくように指示し、そのために、彼に倉庫から梯子を持ってくるように命じた。そして私に、騒々しくて申し訳ない、と頭を下げた。私は、こちらこそ申し訳ないことです、と、やはり頭を下げる。


彼らは、と、私は、セーラー服の少年たちの方を見て切り出し、

士官候補生ということですか。と続けた。


いえ、彼らは、更にその候補生と言いますか、と答え、

応募に年齢が足りていません、と、その後、志願制度のことをざっくりと説明された。この敷地の隣にあり、実質的な付属校にあたる、別の学校の生徒とのことであった。


すると志望者ですか、と私が問うと、ええ、との返答だった。


彼らの制服は体のラインを拾うようなものではない。にも関わらず、全員が一様に、一目でそれとわかる引き締まった足をしている。靴がよく磨かれて、爪先が黒く輝いている。一人ひとりの身体がそれぞれ、矢をつがえ、大きく撓らせた弓の様だった。


私は、その少年たちのうち、近くにいた一人に、どうにか声をかけられないか、直に意見がきけないものか、と、少し近づこうとしてみる。


が、おそらく彼らのほうでも、この、滅多にないであろう来訪者(私とKは、冒頭で少し触れたが、見た目については月給取りとしてはステレオタイプの部類だと思う。この学校においては異質、という意味だ)に緊張しており、そして性格的に、愛嬌というか、サービス精神を発現させるというようなこともしないらしい。


こちらの視線に気付かせようとする。が、どうにも、少年の刈り上げのうなじや耳、首や頤を、じっと見つめているような調子になってしまって、いけない。私は観念して、少年が、緑と黒の鉛筆をこまめに動かして何かかいている、その手元の紙面を見る。


と、その少年や、他の少年も、同じように、机の上の戦艦の模型のデッサン、というのか、スケッチをしているのに気がついた。


戦艦ですか、と私は先だっての教官に尋ねた。

ええ、じきに彼らが乗るものです、と教官は答えた。


彼らのスケッチ対象への集中は、或いは前述したような、少年らしい、来客に対する緊張などではなく、将来の仕事への熱心さのあらわれかもしれなかった。


やはり、観察と模倣はその構造を把握するための最短の手法らしい。

私は、いずれ乗船させる艦の外観をデッサンさせるという、その的確かつ効果的な指導法に非常に感心し、しばらく腕を組んで、右手で顎をさすりながら、じっと彼らを眺めていた。


そろそろ行きませんか、とKが私に言った。

Tは、ああ、と言い、

どうにも狭くて悪かったね、と続けながら、教官室へ繋がる扉のノブに手をかけた。




夢で私は、私 でした。寒いのは布団からはみ出ていたからでしょう。BLっぽいなーと思う私のものの見方(文字通り、見つめ方が恋のそれでした)だったので、記載しておきます。「」が面倒で…すみませんぬ 眠くなつてきた 夢の文字おこしを夢小説とは呼ばないのですかね また詳細書くかもです





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