【300字BL】シューズ

ただいま。そう言いながらドアーを開け電気をつける。案の定返事はない。スニーカーを履くときだって靴ベラを使うし、毎回毎回いちいち紐を結ぶ。そういう折り目正しいのが好きなたちなのだ、ぼくは。玄関先で靴を脱ぎ散らかしといて平気な、三日前に出ていった恋人とは大違い。そもそもから、きっと性格が合わなかったのだ、たぶん。でも、ドアーを開けたぼくは、マフラーの端っこを強く握ったまま動けなくなる。からっぽの玄関。

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【300字BL】ミサンドリー

彼は男でしかもゲイなのに、世間一般に流通している男が嫌いだという。あんないやらしくて汚い生き物を、好きになる奴の気がしれないね。なるほど一理あるな、と我が身を省みて思わざるを得ない。それが男の本性なら、おれは一生ひとりでいい。彼は嘯く。おれは首を傾げる。そんならどうしてゲイなのさ、答えたくないなら別にいいけ……、言いかけたおれの唇を、ふいに彼は唇によく似た、けれども決して唇ではないもので塞ぐ。彼は

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【300字BL】ポトフ

おふくろがつくるポトフにははんぺんが入ってた。あいつはそういうと、スープの中でふんぞり返るソーセージにフォークを差し、がぶりと齧りついた。暫く口をもぐもぐさせてから、旨い、と言ったので、おれは一安心する。そうしてようやく尋ねる。はんぺん? おでんにじゃなくてポトフに? そう。へえ。おれは頰杖をついて喪服姿のままのあいつを見つめる。旨いの? まずかった。でも、と、言うと、あいつは一瞬沈黙し、ため息を

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小説『君だけに恋を囁く』公開中!

BL小説、君だけに恋を囁く エブリスタにて公開中です!(休載と表示されておりますが必ず再開致します)

現在、11恋までお読みいただけます。

是非お楽しみください<(_ _)>

捺.

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【300字BL】ノンヴァーバル

言葉を使った運動が苦手だったぼくは、長じて言葉を使わない高校生になった。無口で暗いやつ。そんな評判も気にならない。それは間違いでなく、同時にぼくを傷つける言葉でもなかったからだ。だから、なんでそいつがぼくに告白してきたのかわからない。よりにもよって、おまえのこと好きなんだけど、なんていう豪速球を突然投げられたら、ぼくでなくても返球に困るだろう。ぼくの数秒の沈黙を、そいつは柔らかい拒絶と受け取ったら

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【300字BL】スティル

女の子みたいにマスカラが剝げるわけじゃないのに、あいつはそういうと、丸めた膝のあいだに顔を埋めた。どうして男はかんたんに泣いちゃいけないんだろうな。今が、あいつが五年付き合った恋人と別れたばかりの今こそが、千載一遇のチャンスだ。そう頭のなかで悪魔がささやくのに、おれの腕はあいつをぎゅっと抱きしめて、甘いことばをささやいてやることができない。あいつを抱きしめてもあまりある、女の子よりも長い腕をおれは

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【ラストレター】

いわゆる長馴染みだねと言ったら、きみはひどく困った顔をしたね。頬をゆびで掻きながら、たしかに小学校からの付き合いではあるが、ときみは言い、それから、でも幼馴染みとはなんかちがくないか、と真面目ぶった顔で続けた。きみにとっての幼馴染みは、隣の家に住んでいて、家族同然の付き合いをしていて、面倒見がよく、喧嘩をしては翌日にはコロッと忘れてまた遊びだすような、そういった女の子を意味していたのかもしれない。

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【300字BL】ヘア

あ、白髪。そういうとあいつは、おれの髪に手を伸ばす。反射的に前髪をおさえたおれは、「え、まじ?」「まじまじ」なるほど、あいつが差し出した鏡の中には、一本のやわらかな銀の針が光っている。はー、とおれは大きく息をついた。「老いた……」「まあもう三十路だしな」「おまえもな」「そうだな」頷くあいつはどこか嬉しそうである。おれは口を尖らせる。「なに、そんな人の不幸がおかしい?」「いや?」あいつは首を振るとい

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【300字BL】アメヨコ

チープチープと言われるままにまだ硬そうな桃を買い、木の棒にささった莓を口にいれながら、山積みにされていくチョコレートにも思わず手を伸ばす。ニッポンに行ったらウエノに行ってみたい、とあいつが言ったときは、「それはキョウトの近くなのか?」と反応したおれだったけれども、なるほど、このいかにもアジアな感じはなかなか面白い。買い物終わったらこのケバブショップの前で待ち合わせな。あいつはそう言ったが、アメヨコ

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【300字BL】エクスキューズ

一度でいいから抱いてください。彼の声は震えていた。もちろんいけないことだとはわかっていた。婚約者の弟とセックスをするなんて。事がばれたら婚約者は泣くだろうし、ばれなくてもおれは、罪悪感に苦しめられるだろう。とっさにおれは何か適当なことばをかけて彼を諭そうとした。おれは君のお姉さんを愛しているんだ、とかなんとか。けれどもその瞬間はたと気づいた。彼とセックスをしなければ、おれと彼女は傷つかない。でも、

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