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DU缶物語07「ありがとうのその言葉」


Ⅰ.ここはグリーンタウン


ここはのどかな田舎町「グリーンタウン」。
住人が100人にも満たないこの町で、
ブタのピグとヒツジのメリーは育ちました。
ピグは陽気な性格で、
楽しい事があるとすぐに踊り出してしまう
町一番のダンサー。
メリーは生まれながら何でも器用にこなせる天才肌。
しかし引っ込み思案な性格で、
いつもピグの影に隠れています。

季節は秋。
町総出のお祭り「生誕祭」まで、
あと1ヶ月に迫ったある日。
ピグとメリーは、町外れの丘に来ていました。

「ピグ、今年の生誕祭は何か考えてるの?」
「もちろん、とびっきりのアイデアがあるよ!」

この生誕祭は、この街の創設者
「ウシのモウ」の生誕を祝うお祭りで、
彼が亡くなった後、毎年盛大に行われています。
ピグもメリーも、小さい時にお世話になった
大恩人でした。


Ⅱ.ウシのモウ


ウシのモウは西の村から山をいくつも越え、
この土地に1人で移り住みました。
綺麗な川と豊かな自然に囲まれたこの町は、
農作物がよく育ち、
次第に多くの人がここに集まりました。
モウは全ての人を受け入れて、自分が耕した畑を、
来る人来る人に惜しみなく譲りました。
人々は感謝をし、みんなモウが大好きでした。

そんなモウが亡くなって今年で10年目。
町の大人たちは、
「今までにない大きなお祭りにしよう」
と計画しています。

「飾り付けはどうする?」
「料理はこれでいいか?」
「踊りは何を?」

町はみんな大忙し。


Ⅲ.記念碑


そんな大人たちの様子を見ていたピグは
邪魔にならいように。
そして自分たちなりの
感謝の仕方が出来ないかと考え、
一つのアイデアを思いつきました。

「町を一望できるこの丘に、記念碑を作るんだ。
 協力してくれないか?」
「それは素敵ね、ピグ。喜んで!」

素敵な素敵な記念碑を作ろう。
天国のモウにも見てもらえるように、
大きな大きな記念碑を作ろう。

そんなピグの提案で
早速2人は近くの岩場へ
岩を探しに行きました。


Ⅳ.ブタのピグ


ーキミのダンスは世界一じゃー
ー何言ってんだ、大げさだよ!ー

石碑を作ると言いだしてから
ピグは毎日、両手で持てるくらいの
大きさの岩を集めていました。

「ねぇピグ。石碑を作るには大きい岩が必要だよ?」

疑問を持ちながら
ピグと一緒にメリーも岩探しに付き合います。

「へへっ、これが必要なのさ」

ピグが得意げにメリーにウインクすると、
今度は岩場からあの丘まで
木の棒を順々に並べて行きます。
何十本も何百本も、
均等になるように木を並べます。

「メリーは木の間に岩を置いて行ってくれ」

並べた木と木の間の、
それぞれ右端、左端に岩を置くように
ピグは指示をしました。

岩と木を何日もかけて並べて行きます。
丘に石碑を作ると言ったのに、
なぜこんな道端に木を置いているのか、
メリーにはさっぱりでした。



「これで線路の完成だ!」

2人でせっせと並べた木と岩に木の板をおくと、
あら不思議。
簡単なトロッコ列車が出来上がりました。

これは、重たい物を運ぶために編み出された
昔ながらの知恵だったのです。

「これでいよいよ大きな岩を運べるよ!」
「ピグ凄い!」

(子供の頃に、モウが教えてくれた
アイデアなんだけどね…)


Ⅴ.ヒツジのメリー


ーメリー、畑はこうやって耕すんじゃよー
ーメリー、魚はこうやって獲るんじゃよー
ーメリー、電気はこうやって作るんじゃよー
ーメリー、人にはこうやって接するんじゃよー



大きな岩を丘に運び、
何段にも重ねてやっと形になって来た頃。
突然メリーが来なくなってしまいました。

1人石碑作りの帰り道、
ピグは心配になりメリーの家を訪ねます。

「メリー、大丈夫かい?
キミが何も言わずに来ないなんて珍しい」

ピグは心当たりがありませんでしたが、
実は数日前、こんな事がありました。


ーねぇピグ。いつもリードしてくれてごめんねー
ー気にしないでくれよ。
 僕はいつだって楽しいから!ー
ーねぇピグ。
 なんで今年はダンスの準備してないの?ー
ー石碑のアイデアを思いついちゃったからね。
 やりたい事は今やらないと!ー
ーねぇピグ。ひょっとして……ー
ーメリー、見てみて!いい感じに組めたよ!ー
ー………、うん!ー


ピグにとっては何気ない会話でしたが、
メリーにとっては
精一杯勇気を振り絞った会話でした。

メリーにとってピグはかけがえのない存在。
ピグのためなら何でもできる。
メリーはピグが大好きでした。

昨年の生誕祭の出来事。
当日熱を出してしまったピグの代役で、
メリーはダンスイベントに参加しました。
しかしメリーは極度の引っ込み思案。
ピグ以外の人に見つめられると、
石像のように固まって動けなくなってしまいます。
昨年も『大好きなピグのため』と
気合を入れてチャレンジしましたが、やはり駄目。
大事なイベントで固まってしまったのです。


Ⅵ.丘の上で


2人はまた丘の上にやってきました。
ずっと俯いていたメリーが
重い口を開きます。

「今回ピグが大好きなダンスに参加しないのは、
私のせい?」

そんなメリーの質問に
ピグは優しい目を向け答えます。

「そんな事ないさ、今年のダンスは
全員で踊る事になったんだ」

去年の生誕祭の後、
誰かが欠けても大丈夫なように、
大人たちはアイデアを練りました。

結果、各イベントは可能な限り
全員で回すことになったのです。


「ならピグは今年も踊れるの?」
「もちろん」

メリーは安堵しました。
ずっと心配だった胸のつっかえが、
スッと降りて行きます。

「去年はごめんね」

もう一度謝るメリーに
ピグは大袈裟な咳払いをして、
思いもかけない言葉を投げかけます。

「こら、メリー。
 そういう時は『ありがとう』と言うんじゃ」

ちょっと腰を屈めて絞り出すような声で
ピグが喋ります。
何がしたいのか、メリーにはすぐにわかりました。

「すぐ自分を責めてしまうのが
 メリーの悪い部分じゃ。
 『ごめんね』じゃなく『ありがとう』と
 言うてみな。
 言った自分も、言われた方も、
 みんな前向きになれる不思議な言葉じゃ」

ー『ごめんね』じゃなく、『ありがとう』ー

それはいつも彼に言われていた言葉でした。


Ⅶ.後悔


ー何言ってんだ、大げさだよ!ー

あぁ、どうして僕は
あの時素直に言えなかったんだろう。
いよいよ明日は生誕祭当日。

出来上がった石碑を前に、
ピグは1人佇んでいました。

あの日、モウが息を引き取る直前。
モウはピグに『ダンスを見せてくれ』と
お願いをしました。

モウとピグの最後の時間。

踊り終わったピグに、
モウは最大限の賛辞を送ります。

ーキミのダンスは世界一じゃー

そう言われたピグは、
照れ臭さとモウの命があと少しと言う寂しさで
モウに対して冷たい態度を取ってしまいました。

今でも後悔しています。
何で自分は最後にお礼を言えなかったのか。

何であんな態度をとってしまったのか。


先日メリーにかけた言葉を思い出します。

ー『ごめんね』じゃなく、『ありがとう』ー

「全く、出来てないのは僕の方なのにな」

そういいピグは石碑の隅に何かを残し、
明日のために村へと戻りました。


Ⅷ.そして


「さぁ踊りの時間だ!みんな広場に集合してくれ」
賑やかの音楽とともに、
町中に町長の呼びかけが響きます。

今日は待ちに待った生誕祭。
この町を作った、偉大なモウの讃えるお祭り。

楽しそうにみんなの中心で踊るブタの少年の横には、
震えながら精一杯踊りを頑張る少女の姿が。

お祭りは賑わい、みんなそれぞれの想いを乗せて、
大事な時間は過ぎて行きます。


音が消え、明かりが消え、人々が寝静まった頃、
綺麗な月の光が、あの石碑を照らします。

石碑の隅に書かれていた小さな文字。

ーありがとうー



明日からまた、
この町は新たな日常を迎えます。

小さな小さな田舎町の、
小さな小さな物語。



おしまい


あとがき

陽気で楽しいピグと内気なメリーの物語。
いかがだったでしょうか?
「ありがとうをきちんと伝えることの大切さ」を伝えられたらと思い、
このシナリオを書きました。

このシナリオはyoutube「ユメひろびろ」で公開予定の、
オリジナルシナリオ「DU缶」第7弾となります。
「ユメひろびろ」では、オリジナルシナリオの他にも、
世界の童話の読み聞かせなど、幅広く活動予定。
是非応援してもらえたら嬉しいです。

それではご覧いただきありがとうございました。
また次回の記事もよろしくお願いします( ´ ▽ ` )ノ


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