風のきみ

母親になった君は、髪をみじかく切った。

ひさしぶりの君へ会いに、わたしたちは佐渡ヶ島へ向かった。
新幹線とおけさ丸に揺られながら、わたしとアヤは、アンミに再会した瞬間から別れるそのときまでを想像していた。

高校の帰り道、橋を渡るときにいたずらに君の髪を揺らした風。
一緒にねむるとき、となりで感じる君のあたたかいにおい。
大学時代、霧ヶ峰の日光をたっぷりと浴びた、ゆたかでながい髪。
透明感でいっぱいの君の髪は、いつだってわたしの視線を誘う。

最近、わたしの夢にでてくる君も髪がみじかい。
おとなになり、新たないのちを前に四苦八苦しながらも、涙をながし笑いながらこの島にたどりついた君のその輪郭は、やわらかく、いきいきとして、とてもすべらかだった。

かえりの船に乗ったその瞬間、「あぁ、遠い」と実感した。
たちまち、こぼれだしてきたわたしの涙のつぶを、佐渡ヶ島のあいだを吹き抜ける日本海の風が撫でていった。
また電話をすればいいのに。
またメッセージを送ればいいのに。
また写真を送りあえばいいのに。
それなのに。
それなのに。

『友情と、愛情の境い目がわからないの』
10年前に、そう呟いた君の表情をふとおもいだす。
おなじ場所で生きていけることの、なんとむずかしく羨ましいことか。

#美しい髪

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