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やりくはアポロとマーブルチョコ、どっちが好き?

「かったるいなぁ」

春の教室は午後の授業が始まった。窓際から外を眺めると、池があって水車が回っている。カタン、カタンと規則正しい音。

「なんで、水車なんてあるんだよ」

こんなに暖かい場所で聞こえる水車の音。眠たくなってきた。

「一也、一也」

後ろの席の純が背中をつついてくる。払い除けても尚一層、つつく。

うるさいなあと思いながら、後ろを振り返ると

「今日、俺の家来る?」

そんなことなら後で話してもいいのにと思いながら、曖昧に頷く。

「姉ちゃんの友達も来るって言ってたけど、問題ないよな?」

純の姉の愛も小さい時からの幼馴染。だんだん、一緒に遊ばなくはなっていたけど、今でも、呼び捨てではしゃげる仲だ。

「うん…ねむっ…」

最後の方はやっとで答えた。今は眠気と戦うことの方が重要。

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放課後、純に話を聞くと、愛の友達は地元の短大生。ほとんどが地元民8割の中で珍しい2割に入り、その中でも1人ぐらいしかいないんじゃないかという東京から来たんだと言う。

「愛の友達だから、まあ、ビックリするような人ではないと思うけどね」

純は姉のことを「姉ちゃん」と言ったり「愛」と言ったり、コロコロ変わる。でも、弟2人の俺としては、姉ちゃんと言える存在が羨ましい。

「愛ちゃんの友達だろ?突拍子もない人確定なのは間違いないじゃん」

愛ちゃんは昔から正義感が強くて、曲がったことが大嫌い。例えて言うなら、ワンピースのルフィみたいで、俺が年上の男の子にいじめられた時など、ほうきを持って加勢に来た。

大きくなってからは流石にそんなことはなくなったけど、挨拶をきちんとしなかったり、場をぶち壊すようなことを平気で言うような人には容赦なく、注意する。

そんな彼女の友達なんだから、変な人のわけがない。しかし実際に会った時、その気持ちはあっという間に打ち砕かれた。

「ねえねえ!名前は?」

挨拶ぐらいしたらいいんじゃないかと思う間もなく、名前を聞かれた。

「矢陸です」

ボソボソ言うと

「やりく⁉️変わった名前だね〜。名字?名前?どっち?」

名字ですと返そうすると

「きっと、ご先祖様が大陸で武運を上げたんだろうねー。あ、でも名前だったら、なんで?」

だから、今、話そうとしてただろ?ちょっと、イラッとした。

「名字です」

やっとのことで返すと

「じゃあじゃあ、やりくはアポロとマーブルチョコどっちが好き?」

すでに呼び捨てかよ。しかもなんだよ、その質問。答えないとダメなのか?頭の中にアポロとマーブルチョコを思い浮かべながら、彼女を見た。

あ、名前聞いてないじゃん。

ふと気づく。こういう時って、相手の名前を聞いたら、自分も名乗るもんじゃないの?かなり、イラッとした。

答えを期待しているキラッキラの二つの目。まあ、名前は後でもいいかと

「マーブルかな」

とりあえず、答える。

「おー!やりくはいい人だよ!アポロって答える人でいい人に会ったことがない!」

なんなんだ。偏見バリバリ過ぎて、逆に言葉が出てこない。

「良かったねー、やりく。いい人で」

これ以上、楽しいことはないって顔して、彼女は満足そうに深くうなずいた。

ありさとの初対面。これが全ての始まりだった。


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