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世界の端っこの取り留めもない日常の話

建物を出たらなるべく早くヘッドホンを取り出して急いで装着する。頭はまだボーッとするが手が毎日の動作を覚えていて素早く動いてくれるので助かる。早くユニゾンを聞かないとこのまま心が死んでしまう。とりあえず曲は何でも良い。手早く再生を押す。朝聞いていた続きでいい、とにかく早く!

今あった現実とこれからの不安と全部が消えるように。音量を上げる。
PACAOの配信の世界に潜り込んでいた昨夜から今の今までの、全ての感覚と感情が消えるように。音量をあげる。
それでもふと、さっきまでの怒りや憎しみや悲しさが甦ってくる。また音量を上げる。

音に集中しろ。
ビタッと決まるフレーズ。ギターリフに絡んでゆくバスドラ。パシッと左手が止めたシンバル。

想像する。想い描く。この格好よすぎるバンドサウンドの中に、今自分がいるかのように。ワープするんだ。

とんでもないフレーズを弾きながら不敵に笑う斎藤くん。身体中に音楽を漲らせて踊る田淵くん。

そして…ドラムとゲームが大好きで人の怖さと醜さと寂しさを知っていてそれでも人を愛そうとしている慈愛に満ちた男の子が嬉しそうに叩くドラム。

見える。私のカッコいい推しバンドが見える。大丈夫。世界は美しい。強い正義がここにある。私はここにいるんだ。大丈夫だ。心が息を吹き返す。大丈夫。まだ死んでない。

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